長く暑かった夏もようやく終わり、やっと過ごしやすい季節になってきました。この時期は芸術の秋とも称されたりして、多くの展覧会やアートイベントが開催されるアートシーズンです。
どの展覧会が良いかなぁと思っているうちに世間はホリデーシーズンに突入し、紅葉だクリスマスだイルミネーションだと浮足立って来るので、実はゆっくりアート巡りができる時間はあまり長くはありません。
多くの展覧会は9月下旬から10月に開幕しますから、建築とアートを巡るでは10月中に展覧会巡りをするのをおすすめします。11月に入ってしまうとメディアで取り上げられた展覧会が激混みになったり、SNSなどでジワリと人気になった展覧会にインスタグラマーが殺到したりします。ゆっくりアートを味わいたいならアートシーズンの初めに、遅くとも文化の日連休中に見ておきたいです。
そこで建築とアートを巡るではこの秋に訪問しておきたい、東京都内で開催されている展覧会を紹介します。
PR<森美術館>
開催中の展覧会
《ルイーズ・ブルジョワ展:地獄から帰ってきたところ 言っとくけど、素晴らしかったわ》 ←超オススメ
この秋、大きな話題になっているのが森美術館で開催されているフランス系アメリカ人アーティスト、ルイーズ・ブルジョワの大規模個展です。
ルイーズ・ブルジョワは六本木ヒルズ66プラザに設置されている巨大な蜘蛛の彫刻《ママン》の作者でもあるので、その名前は知らなくとも作品は多くの人の目に触れているはずです。
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20世紀を代表するアーティストとして世界中に多くのファンを持つルイーズ・ブルジョワは、作品はもちろんですがその生き方も含めた人間ブルジョワのファンも多く、実際開幕初日から多くのファンが訪れていました。
そのうち見に行けば良いと思っているとあっという間に六本木イルミネーションの季節になり美術館の混雑も激しくなるので、少しでも気になるなら早めに訪問しておきたい展覧会です。
《ルイーズ・ブルジョワ展》の詳細はこちら▼
基本情報
森美術館
展覧会名:《ルイーズ・ブルジョワ展:地獄から帰ってきたところ 言っとくけど、素晴らしかったわ》 会期:2024年9月24日(水)〜2025年1月19日(日) 会期中無休 料金:平日 一般 2,000円 |
<国立新美術館>
開催中の展覧会
《田名網敬一 記憶の冒険》 ←超オススメ
世界的に再評価が進んでいる日本の現代アートの巨人、田名網敬一(たなあみ・けいいち)の大規模個展です。その開幕を見届けるかのように亡くなった田名網敬一さんの追悼展にもなってしまいました。
60年代にはサイケ、ポップアートを取り入れた商業デザインなど、その後は雑誌のアートディレクターとして活躍する傍ら欧米の最先端の文化潮流を咀嚼し活躍してきた方です。
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▲アニメーション表現や実験映画の制作など、様々なジャンルで表現してきたアーティストですが、その根底に幼い時期に体験した戦争の影が見え隠れする骨太な精神も特徴です。
現代に活躍する多くのアーティストが影響を受けた田名網敬一の回顧展、とにかく作品数も膨大ですし、一つ一つの作品がまた濃密なので、半日くらいかけてじっくり鑑賞したい展覧会です。
会期も残りわずかになっていて、11月に入れば大混雑は必至。少しでも早い時期に訪問しておきましょう。
《田名網敬一 記憶の冒険》の詳細はこちら▼
基本情報
国立新美術館
展覧会名:《田名網敬一 記憶の冒険》 会期:2024年8月7日(水)〜11月11日(月) 料金:平日 一般 2,200円、大学生 1,400円、高校生 1,000円 |
<東京国立近代美術館>
開催中の展覧会
《ハニワと土偶の近代》 ←オススメ
古墳時代のハニワ(埴輪)と縄文時代の土偶の展覧会? それがなぜ近代美術館で?
展覧会のタイトルを見て誰もが抱く疑問です。
しかしそんな疑問も実際にこの展覧会に足を運び、展示されている作品を見ればすごく納得!
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▲近代になってその価値や意味が再発見されたハニワや土偶が、近現代の日本美術に与えた影響、さらには現代のポップカルチャーにまで続く日本の歴史や文化を振り返るという内容なのです。
実際に展示されているハニワは2点だけ、土偶に至っては展示すらされていない展覧会ですが、たしかにハニワや土偶が近現代のアートの中に存在することを認識させられる斬新な展覧会です。逆に近代美術館のイメージと展覧会のタイトルが違いすぎて、展覧会の内容が認知されていない今のうちが訪問のチャンスです。
また《ハニワと土偶の近代》出品作家の中には東京国立近代美術館の常設展《MOMATコレクション展》でも作品が展示されている作家がいますので忘れずに常設展も。さらに《フェミニズムと映像表現》というタイムリーな企画展も開催されています。
《ハニワと土偶の近代》、コレクション展とフェミニズム展の詳細はこちら▼
基本情報
東京国立近代美術館
展覧会名:《ハニワと土偶の近代》 会期:2024年10月1日(火)〜12月22日(日) 料金:平日 一般 1,800円、大学生 1,200円、高校生 700円 |
<国立西洋美術館>
開催中の展覧会
《モネ 睡蓮のとき》 ←オススメ
日本でも非常に人気の高いフランス印象派の巨匠クロード・モネの晩年の作品に焦点を当てた展覧会です。
パリの「マルモッタン・モネ美術館」から50点もの作品が来日し、展覧会のすべてがモネの作品です。よくあるモネ展では実際にはモネ以外の印象派の作品も多数並ぶことが多いですが、本展は正真正銘モネだけの展覧会。
さらに、モネというより絵画史にも残る「睡蓮」シリーズが20点も並ぶ豪華版です。
▲白眉はこの楕円形の部屋。大型の「睡蓮」が壁にいくつも展示され、周囲が睡蓮の囲まれたような感覚に陥ります。
最近流行りの ”イマーシブ” な没入体験を得られる空間です。しかもこの部屋だけは写真撮影が可能。
あちこで怪異されているイマーシブ展で印象派やモネを鑑賞して今ひとつピンと来なかった方にぴったり。なぜならここなら本物のモネ作品で没入体験を得られるのですから。
来年2月までの長い会期ですが開幕初日から入場待ち行列ができるほどの混雑になっています。早め早めの訪問がおすすめです。
《モネ 睡蓮のとき》展の詳細はこちら▼
基本情報
国立西洋美術館
展覧会名:《モネ 睡蓮のとき》 会期:2024年10月5日(土)〜2025年2月11日(火・祝) 料金:一般 2,300円、大学生 1,400円、高校生 1,000円 |
<東京都庭園美術館>
開催中の展覧会
庭園美術館は、その旧朝香宮邸の建築そのものが現存する世界一美しいアールデコ建築と言われる美術品であるという、他に類を見ない美術館です。
初めて訪れる方はもちろんのこと、何度も通っている私も毎年楽しみにしているのが建物自体を作品と見立てて開催される「建物公開」。庭園美術館ならではの展覧会です
2024年のテーマは「照明」。庭園美術館の見どころの一つでもある「照明」に焦点を当てた展覧会です。
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▲職人の技の限りを尽くした照明。
そしてテーブルの上には当時のようにディナーの用意がされています。
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▲これは庭園美術館のアイコニック的存在でもある「チェーンペンダント照明」。
《建物公開2024 あかり、ともるとき》について▼
奥に日本庭園と茶室もあるので忘れずに!
庭園も魅力▼
紅葉も綺麗▼
基本情報
東京都庭園美術館
展覧会名:《建物公開2024 あかり、ともるとき》 会期:2024年9月14日(土) – 11月10日(日) 料金:一般 1,000円、大学生 800円、中高生・65歳以上 500円 |
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<東京都現代美術館>
開催中の展覧会
江東区の東京都現代美術館で開催されているのは高橋龍太郎コレクション展。
日本の現代美術コレクターとして知られる氏が所蔵する3,500点に及び作品から、選りすぐりの100点余りを展示するというもの。公立美術館の中でも大規模なMOT東京都現代美術館を個人のコレクションで埋め尽くすという前代未聞の展覧会です。
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▲草間彌生、横尾忠則、村上隆に奈良美智や大竹伸朗といった日本の現代アートのスーパースターから鈴木ヒラクや金氏徹平など21世紀のアップカマーまで。日本の現代美術を俯瞰したいなら見逃せない展覧会です。
この高橋龍太郎コレクション展も残り会期が僅かになったうえに、NHKの番組「日曜美術館 アートシーン」で特別編が放映されたこともありこれからさらに混雑に激しくなりそうです。早めの訪問を。
《高橋龍太郎コレクション》展詳細▼
同時開催の《開発好明 ART IS LIVE ―ひとり民主主義へようこそ》展▼
《MOTコレクション展》も併せて鑑賞できますが、そのボリュームは普通の企画展ぐらいあります。
高橋龍太郎展、開発好明展、MOTコレクション展の3つを見れば軽く半日コースです。
基本情報
東京都現代美術館
展覧会名:《日本現代美術私観:高橋龍太郎コレクション》 会期:2024年8月3日(土) – 11月10日(日) 料金:一般 2,100円、大学・専門・65歳以上 1,350円、中高生 840円 |
<東京都写真美術館>
開催中の展覧会
恵比寿ガーデンプレイス内の東京都写真美術館ではアメリカ人で写真家集団、マグナム・フォトの正会員でもあるフォトグラファー、アレクッス・ソスの個展《部屋についての部屋(A Room of Rooms)》が開催されています。
30年に及びソスの活動を単に回顧するのでなく、屋内で撮影された写真をメインに出品し「部屋」をテーマにソスの作品を捉え直すという独自の視点からの展覧会です。
▲日常のアメリカを捉えたロバート・フランク、陽光の影に垣間見えるアメリカの闇を映すデヴィッド・リンチなどの系譜に繋がるアレック・ソスの写真です。ポートレートの片隅に置かれた小道具が語る主人公の人生、普通の日々をおくるクィア(Queer)な人々のなど、写真を読み解く醍醐味が味わえます。
またいわいとしお(岩井俊雄)の《光と動きの100かいだてのいえ》展も開催中です。
これは子どもも楽しめる愉快な展覧会なのですが11月3日までの会期なのです。アレック・ソスと併せて見るのがおすすめです。
《部屋についての部屋》展と《光と動きの100かいだてのいえ》展の詳細▼
基本情報
東京都写真美術館
展覧会名:《アレック・ソス 部屋についての部屋》 会期:2024年10月10日(木) – 2025年1月19日(日) 料金:一般 800円、学生 640円、中高・64歳以上 400円 |
<東京オペラオペラシティ アートギャラリー>
開催中の展覧会
《松谷武判 TAKESADA MATSUTANI》←オススメ
初台の東京オペラオペラシティ アートギャラリーでは具体美術協会のメンバーだった松谷武判(まつたに・たけさだ)の回顧展が開催されています。
大阪で結成された美術家の団体「具体美術協会」のメンバーだった松谷武判が渡仏しパリを制作拠点としたのは半世紀近く前。そのため日本での知名度はあまり高くありませんが、フランスではポンピドゥー・センターで個展が開催されたりするなど国際的な評価が高い作家です。
また具体の流れを汲む作家ということで、そちらの視点からも再注目されています。
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▲具体のメンバーとして活動していた期間はそれほど長くないので、展示されている具体期の作品はあまり多くなく、渡仏後の作品が中心です。
秋のアートシーズンに伝説的なアーティストの見ごたえのある展覧会。ということで、会期が進めば混雑必至。比較的空いているであろう時期に訪問しておきたい展覧会。
▲開幕前の内覧会では松谷武判本人が登場し最新作を制作するパフォーマンスを披露しています。
ここで描かれた作品も会場で展示されているはずです。
また4Fのギャラリー4では具体美術協会の他のメンバーの作品も展示されていますからお見逃しなく。
《松谷武判 TAKESADA MATSUTANI》展の詳細▼
基本情報
東京オペラオペラシティ アートギャラリー
展覧会名:《松谷武判 TAKESADA MATSUTANI》 会期:2024年10月3日(木) – 12月17日(火) 料金:一般 1,600円、大・高生 1,000円 |
<銀座メゾンエルメスフォーラム>
開催中の展覧会
《内藤礼 生まれておいで 生きておいで》←超オススメ
9月まで上野の東京国立博物館で開催されていた内藤礼の個展《生まれておいで 生きておいで》。同名の展覧会が銀座メゾンエルメスフォーラムで開催されています。
銀座と上野の二つの会場は作品によって繋がる構成をとっていました。でも東京国立博物館の展覧会が閉幕しても、メゾンエルメスでの展覧会単独で愉しむことができます。
▲会場内は撮影禁止なので会場風景など直接紹介することはできませんが、この写真のようにいつもの内藤礼の儚い作品が銀座という土地のガラス張り空間で、緊張感を持って展示されています。
しかも展示されている作品はなんと125点!
既に混雑してる展覧会ですが内藤礼の世界にゆっくり浸り鑑賞の時を過ごしたいなら、少しでも早めに訪問しておくのが良いでしょう。11月に入ってからでは遅いです。
《内藤礼 生まれておいで 生きておいで》展の詳細▼
基本情報
銀座メゾンエルメス フォーラム
展覧会名:《内藤礼 生まれておいで 生きておいで》 会期:2024年9月7日(土) – 2025年1月13日(月・休) 料金:無料 |
<シャネル・ネクサス・ホール>
開催中の展覧会
《日常の最魔術化》←オススメ
銀座のシャネル・ネクサス・ホール(CHANEL NEXUS HALL)では、新たな展覧会シリーズがスタートし、その第一弾として《日常の最魔術化 (Everyday Enchantment)》展が開催されています。
金沢21世紀美術館の館長、長谷川祐子のディレクションのもと2人の若手がキュレーションし、それぞれフランス、日本、アメリカを拠点に活動するビアンカ・ボンディ、小林椋、丹羽海子の3名のアーティストがフィーチャーされています。
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▲生活の中で見慣れた道具や植物を魔術のように変容させ、独自の世界や物語を紡ぎ出しているアーティストです。
写真の背景はビアンカ・ボンディのタペストリーで、一つ一つが実際の生命圏を創り出しているかのよう。
手前は塩水が入った盆で、会期中に少しづつ塩が析出し結晶が出来上がる(はず)。
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手前の人形のようなオブジェは植物を素材にした丹羽海子の作品。
同じような作品が会場のあちらこちらに隠れているので探してみてみましょう。
シャネル・ネクサス・ホールが新しい生命の庭園に生まれ変わったような展覧会です。
基本情報
シャネル・ネクサス・ホール
展覧会名:《日常の最魔術化》 会期:2024年10月19日(土) – 12月8日(日) 料金:無料 |
<プラダ青山店>
開催中の展覧会
《LIZZIE FITCH/RYAN TRECARTIN:IT WAIVES BACK》←オススメ
青山みゆき通りのプラダ青山店ではアメリカのアセンズ(有名なジョージアのアセンズではなく、オハイオ州のアセンズ)に拠点を置くリジー・フィッチとライアン・トレカーティンの日本初となる個展《LIZZIE FITCH/RYAN TRECARTIN:IT WAIVES BACK》展が開催されています。
▲会場となるプラダ青山店6Fのフロアの半分近くを使って展示されている人型の彫刻作品。
ジェンダーだったり人種だったりをカリカチュア的に表現した作品群。もしかしたらユートピア的世界を表現しているのかもしれません。
また新作映像も2本上映されています。
この写真の奥に映っているのは「Waives Back(Whether Line)」という作品。
フィッチとトレカーティンが所有するオハイオの敷地とそこの常設セットを使い、実写とアニメ、(AIによる?)生成映像などを組み合わせた映像です。
もう一本は「TITLE WAIVE」というもの。こちらは性的に刺激が強い部分があるので未成年連れの方は注意してください。
▲本展のキービジュアルにも使われている「Mug Off」という彫刻作品。
後ろに見えるのはオハイオの常設セットを模した建物です。
なんと、プラダのフロア内に建物を作ってしまったのです。映像作品の1本が建物内のモニターで、もう1本が外壁のモニターで上映されています。米中西部らしい素朴だけど闇を抱えていそうな建物が青山にあるというのはなんともシュールです。
いつものプラダの展覧会らしくエッジの立ったものですが、今回はほぼ実物大のセット模型を持ち込むという大技にびっくりです。びっしり作品が詰め込まれているので人が多いとゆっくり見ることも、写真を撮ることも難しいです。話題になる前に訪問しておきたい展覧会です。
基本情報
プラダ青山店
展覧会名:《LIZZIE FITCH/RYAN TRECARTIN:IT WAIVES BACK》 会期:2024年10月24日(木) – 2025年1月13日(月) 料金:無料 |
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