京王新線初台駅直結の「東京オペラシティアートギャラリー」で前衛芸術家の松谷武判(まつたに・たけさだ)の回顧展《松谷武判 TAKESADA MATSUTANI》が開催されています。
50年近く前にフランス政府留学生として渡仏し爾来パリに在住し制作活動を続ける松谷武判の全貌を200点以上の作品で振り返る、日本国内では初めてとなる大規模な展覧会です。
数年前にはポンピドゥー・センターで回顧展が開催されるなどフランスのみならず国際的な評価も高まっている作家ですし、具体美術の当時を知る作家が少なくなってきた今、日本国内でその全貌を掴むことができる展覧会が開催されるのはとても貴重な機会です。
また開幕前日の内覧会には松谷武判ご本人が登場し、最新作を描くというパフォーマンスも行われました。
60年以上の活動を振り返る回顧展でありながら、現役バリバリの新作も見ることができるのです。
▲会期は2024年10月3日(木)から12月17日(火)まで。
秋のアートシーズンに伝説的なアーティストの見ごたえのある展覧会。ということで、会期が進めば混雑必至。比較的空いているであろう10月中に訪問しておきたい展覧会です。
PR松谷武判
松谷武判(まつたに・たけさだ)は1937年(昭和12年)生まれですから今年2024年で87歳。現在はパリに在住し制作拠点としています。
関西で結成された若手前衛芸術家の団体「具体美術協会」のメンバーとしても知られているアーティストです。しかし「具体」が解散する前に渡仏し、60年代から70年代にかけては主に版画家として活躍していました。
「具体」から出発して60年以上、長い創作活動の末に今はどのような境地に至っているのか。戦後の日本の前衛芸術の流れを確認する意味でとても興味深い展覧会です。
▲展覧会の最初の部分。作品数にして10点。
「具体」以前の極初期の作品です。「具体」に参加したのが1963年ですからそれ以前。すでに前衛的な作品を手掛けているのでその後「具体」に参加するのは必然だったのでしょう。
▲そのすぐ後からは「具体」の時代。
松谷武判の代名詞とも言えるボンドを使ったレリーフ状の作品が多いです。
「具体」の時代といってもほんの数年。でもその後の長い長い創作活動の最初のピークなのかもしれません。
渡仏後の松谷武判
フランス政府の給費留学生として渡仏したのは1966年。松谷武判29歳の時です。
▲渡仏後は版画工房に入門しています。というのは当時の現代アートでは版画が最前線だったから。「誰もやっていないことをやる」という「具体」にポリシーに従えば当然の選択だったのかもしれません。
この写真の版画は1967年から1968年にかけて。
つまりサマー・オブ・ラブな1967年とサイケデリックな1968年です。
まだ世界の最先端だったパリでレジデントとしてサマー・オブ・ラブを体験したのですから影響を受けないはずがないですよね。これらの版画にもそこはかとなく1967年の匂いがします。
▲これは1970年にシルクスクリーンの版画工房に移ってからの作品。
当然シルクスクリーン作品です。
技法と時代が結び付いたのか、明るくカラフルな作品です。
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黒の世界
1970年代も後半になると紙と鉛筆によるドローイングを手掛けるようになります。
▲黒のストロークで画面を塗り込めるという手法。
さらに原点でもあるボンドの造形とドローイングを組み合わせた作品なども登場します。
▲後ろの壁には幅が10m以上もある「流れ−6」。
真ん中の床に置かれたのは「黒円」。
前者が1982年、後者は2005年。20年以上も隔たりがある作品ですがまるで兄弟姉妹作のよう。
▲奥の壁からかかっているのは「流れ−大谷−93」。
合板に綿布をかぶせ、そこにボンドと鉛筆のドローイングという集大成みたいな作品です。
日本ではなかなな全貌を掴むことができなった松谷武判ですが、こうして70年代以降の何でもありな作品群を見ると、ヨーロッパを始め国際的な評価が高いのも頷けます。
歳を重ねるにつれより自由に、より大胆に。そして作品からは溢れんばかりの生命力。アーティストとしてはもちろん人としてその生き方に憧れてしまいます。
松谷武判の紙作品
東京オペラオペラシティ アートギャラリーでの通常の展覧会はオペラシティ3階のギャラリー1とギャラリー2を使って開催されるのですが、《松谷武判 TAKESADA MATSUTANI》展では階段を上がった4階ギャラリー3でも展示が行われています。
忘れずに4階のギャラリー3も見てください。
▲ギャラリー3で展示されているのは主に紙作品。
10代から「具体」に参加するまでの作品、具体時代のコンセプトドローイング、スケッチブックなどです。
またこの写真の作品はギャラリー2からはみ出してしまった紙作品です。
あと階段前とギャラリー3の奥のスペースでは映像作品が上映されています。特に奥のスペースでは鮮明な画像で個展用の作品を制作する松谷武判の姿を見ることができて貴重です。
「具体」と抽象の小径
4階ギャラリー3に続くギャラリー4では《抽象の小径》と題したコレクション展が開催されています。
《松谷武判 TAKESADA MATSUTANI》展の入場券で入れます。
▲今回は「具体美術協会」メンバーだった松谷武判の展覧会に合わせ、同じく「具体」のメンバーだった白髪一雄(しらが・かずお)の作品が多く展示されています。
同じ美術団体に属しながら、”人と違うことをやる” というアチチュードだけが共通項なのだということが分かります。
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松谷武判の新作パフォーマンス
メディア内覧会では松谷武判ご本人によるパフォーマンスが行われました。
▲アシスタントが持った布にえいや!と一筆。
撮影チームが収録していたので、たぶんこのパフォーマンス映像は会期中もどこかで上映されると思います。
またこのパフォーマンスで描いた新作も会期中この場所に展示され続けるのではないでしょうか。
パフォーマンスの映像はこのInstagramのリールでたっぷり見ることができます。
かっこいい登場の様子からぜひ動画で堪能してください▼
松谷武判展の鑑賞時間の目安
映像はギャラリー3でプロジェクター投影と階段前のモニターで流れています。
出品点数は主なもので100点ちょっと。
最低1時間は必須ですがせっかく訪問するなら2時間くらいくらいかけて、作品も映像もじっくり堪能することを推奨します。
写真撮影について
基本的にすべて写真撮影可能です。でも動画撮影は禁止です。
また映像作品については写真も動画も撮影禁止です。
当然ながら三脚、自撮り棒、フラッシュは禁止です。また作品の上からの撮影、他の鑑賞者の顔が入った構図での撮影も禁止です。
なお本記事ではメディア内覧会で特別な許可を得て撮影、掲載しています。
図録とグッズ
会場出口のところにあるgallery 5にて展覧会図録とグッズが販売されています。
▲が、すいません図録は制作が間に合っていません。
予約申し込みだけができるようです。
手前の黄色い表紙は「Takesada Matsutani」という1958年から2019年までのほぼ全ての松谷武判作品を収録したものです。
▲他にも具体美術協会に関する書籍、草間彌生などと並ぶ日本を代表する前衛芸術家の田中敦子の本などが置かれています。
今回の展覧会を機にもう一度具体美術協会をおさらいしてみるのもよいでしょう。
基本情報
松谷武判 TAKESADA MATSUTANI
会期:2024年10月3日(木) – 12月17日(火) 時間:11:00 – 19:00 休館日:月曜日 入館料:一般 1,600円、大・高生 1,000円、中学生以下無料 会場:東京オペラシティ アートギャラリー 住所:新宿区西新宿3丁目20−2 MAP アクセス:京王新線 初台駅東口下車 徒歩約5分 |