2回に分けて紹介している都内建築巡り<白金台>の2回目は内田祥三設計の旧公衆衛生院で、現在は港区立郷土歴史館の入るゆかしの杜という区の複合施設です。
旧公衆衛生院
ここは、1938年(昭和13年)に、アメリカロックフェラー財団の支援のもと、日本の保健衛生に関する調査と研究のために国が設立した機関「公衆衛生院」のために建設されたものです。2002年に国立保健医療科学院と統廃合され、埼玉県和光市に移転するまで公衆衛生院として使用されていました。
内田祥三設計
設計は内田祥三(うちだよしかず)で、旧公衆衛生院の他に、隣接する東京大学医科学研究所(旧伝染病研究所)や東京大学本郷キャンパス内の安田講堂を岸田日出刀と共同設計しています。岸田日出刀同様に東京大学建築学科の教授でもあり東大総長も務めました。
また、内田祥三の自宅は笄町(現西麻布)にあり、自宅から見える公衆衛生院の姿を本人はとても気に入っていたとか。
この話は驚きました。まず、内田祥三さんがご近所さんだったこと。そしてもっと驚いたのは笄町(西麻布)からこの建物が見えたっていう事実です。
資料に笄町の自宅の写真がありましたが確かに相当な豪邸ではありますが、3階建てのようです。笄町の3階から白金台のこの建物が見えた時代があったんですね。それだけその頃は視線を遮る高い建物が周りに全くなかったってことですよね。内田祥三が見ていた笄町からの眺めを見てみたいものです。
内田ゴシック
構造は鉄骨・鉄筋コンクリート造、スクラッチタイルで覆われたゴシック調で、連続アーチなどの特徴的な外観は「内田ゴシック」と呼ばれています。隣に建つ東京大学医科学研究所と対になって建てられました。
内田祥三がスクラッチタイルを多用したのは、タイルの色ムラや施工の不揃いも、スクラッチタイル表面の凹凸による陰影で気にならず、むしろ面白いと評していたくらいです。
つまり内田祥三がスクラッチタイルを採用したのは、施工のしやすさはもちろんのこと、精度の低さを感じさせないという合理的な考えがあったからです。
PR建物見学
開館時間内であれば、誰でも自由に見学が可能です。エントランスで建物見学ですと言うと「建物見学のご案内」と言うリーフレットがもらえます。そのようなリーフレットを制作・配布しているくらいですから、港区としてはこの建物の見学を積極的に行なっているわけです。
港区立郷土歴史館の常設展を鑑賞するには観覧料が必要ですが、建物見学をメインにするであれば、常設展は鑑賞しなくても良いと思います。
ちなみに常設展の内容は、港区の自然・歴史・文化についての展示です。初訪問の際は観覧料を払って鑑賞しましたが、度々行ってもおそらく内容はあまり変わらないと思うので、それ以降は鑑賞していません。
中央ホール
建物内部の一番の見所は、2階までの吹き抜けの中央ホールです。建設当時の姿がよく保存されていて見ていて時空を超える感覚です。床や壁に石材が贅沢に使われていてとっても高級感があります。
近年、これだけ贅沢に石をつかった内装の建築は残念ながらそう多くはありません。
PR旧講堂
次に圧巻な空間は4階にある旧講堂です。340席ある講堂は階段状で上からも下からもよく見渡せます。椅子のクッションと天井板以外は、全て建設当時のままのものです。
正面の両サイドにある円形のレリーフは1938年(昭和13年)に設置された彫刻家新海竹蔵制作の「羊」と「葦鷺」です。内井祥三建築に設置されている新海竹蔵作品は、他にもあって東京大学総合図書館や東京大学医学部付属病院などにレリーフが設置されています。
現在は、珍しいことではなくなった建築とアートの協働を、この時代に何度も同じ彫刻家と組んで手がけていたということに驚きました。
入り口から教壇側を見下ろすの図▼
照明器具も建設当時のものです。
教壇側から入り口を見上げの図▼
PR旧院長室
3階にある旧院長室は、この建物の中でもっとも手の込んだしつらえになっています。それはそうですよね。公衆衛生院のトップの部屋ですから。現在は完全に見学のためのスペースになっていて、入り口付近から中をのぞいて見学します。部屋の中までは入れません。
当時高級材であったベニヤ材がふんだんに張られているほか、床は寄木細工という凝りようです。当時の職人技術の高さを見ることができます。
PR旧食堂
旧食堂だったスペースは、現在もカフェになっていて、誰でも利用することができます。この建物で唯一、泰山タイルが腰壁に貼られています。
泰山タイルとは京都の近代美術工芸と言われる非常に美しいタイルのことで大正から昭和にかけて泰山作陶所の池田泰山が制作したタイルのことを言います。
写真の通路の両脇にイートインのスペースがあります。▼
アーチ
内田ゴシックの特徴の一つである尖頭アーチではないですが、正面エントランスの連続するアーチのデザインです。このアーチ越しからみる風景もまた美しいのです。▼
春にはアーチ越しの満開の桜を見ることができます。しかし、実はこの桜、公衆衛生院の敷地ではなく、お隣の東大医科学研究所付属病院の敷地の桜なんです。どこに植っていようと美しいものは美しいからいいのです。▼
中央の水盤周りのツツジが咲き始めた4月末も綺麗です。▼
でも、やっぱり桜の季節が一番かなぁ。桜は短期間なのでかなり狙っていきたいところです。▼
内田ゴシックの特徴の一つ、尖頭アーチがここにはないと書きましたが、実はちゃんとあるんです。裏というか横に。白金台駅方面から歩いて来ると先にこの尖頭アーチを目にすることになります。チェックを忘れないように。▼
名建築は世の中に数多くありますが、この建物ほど気軽に内部まで見学できるのはなかなかありません。また、内田祥三設計の内田ゴシックの多くは東京大学の建物であり、コロナ禍の現在は、学外の人が気軽に入校することが難しくなっています。
ここは、白金台の駅からも近いし、中にカフェまであって、内田ゴシックに浸るのであればここが一番おすすめです。
PR基本情報
9:00-17:00 (土曜〜20:00)常設展観覧料 大人300円、小中高100円
港区白金台4-6-2 ゆかしの杜内 MAP
アクセス:東京メトロ南北線・都営地下鉄三田線白金台駅2番出口徒歩1分
白金台建築巡り1も合わせて参照ください。▼
白金台に行くなら紅葉散歩も一緒にいかがでしょうか。▼
https://www.artarchi-japan.jp/2021/12/shirokane-meguro-momiji-sanpo.html