静岡県浜松市にある秋野不矩美術館は、地元(天竜市)出身の日本画家秋野不矩/あきのふくの個人美術館で、あの藤森照信が設計を手がけた藤森建築らしいほっこりする美術館です。開館20周年に建てられた茶室「望矩楼/ぼうくろう」もこれまた魅力的です。
日本画家 秋野不矩
現在の浜松市、旧天竜市(2005年に浜松市に編入)出身の名誉市民であり、91歳で文化勲章受賞の日本画家です。自身の美術館を建設するにあたり各地の建築を見て回った秋野不矩の目に止まったのが、藤森照信の処女作で藤森の出身地長野県茅野市にある神長官守矢史料館(1991年竣工)です。
秋野不矩が気に入った藤森照信設計の神長官守矢史料館は明治初期まで諏訪大社上社の神長官を務めた守矢家の貴重な史料を収蔵する史料館▼
秋野不矩の推薦により藤森照信が秋野不矩美術館の設計を手がけることになりました。藤森照信にとって初の公共建築でした。
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尾根の上の美術館
下から坂を登っていくと山の尾根に迫り出すようにして建っている美術館が見えてきます。この建設地に関しては、計画段階で秋野不矩さんご本人の希望と建築家の藤森照信で意見の相違があったそうです。▼
尾根に建設したい秋野不矩さんと山の下の谷に建設したい藤森照信さん、どちらも譲歩しなかったために計画が遅れるほどだったとか。
しかし、結局秋野不矩さんの尾根に建設することに、藤森さんが合意して、現在の美術館が完成しました。
秋野不矩さんは、尾根に建設することが決まってからは、設計に関して、藤森照信さんに全てを任せ、完成するまで一切の口出しをしなかったそうです。
テラスからの眺望は気持ちいい▼
藤森照信初期建築
現在では、日本だけでなく世界各地に数々の茶室の設計をはじめとして、ねむの木こども美術館どんぐりや、モザイクタイルミュージアムなど手がけた美術館も少なくはありません。
しかし、この秋野不矩美術館は処女作の神長官守矢史料館の後、自邸タンポポハウスと縄文建築集団として一緒に活動した故赤瀬川原平邸であるニラハウスの次に手がけた建築なので、藤森照信がまだ建築も手がける建築史家だった頃のものです。
現在は、数々の藤森照信建築を目にすることができるので、とっても「らしい建築」だと思いますが、当時はとても斬新で話題になりました。
美術館の建築に関しては動画を参照ください。▼
屋根は諏訪産の鉄平石を葺きで、風格のある黒い木の部分は地元天竜産の杉板です。
外壁は近づいてみるとこんな感じです。この荒々しい壁面の仕上げは藁を混入した着色モルタルです。
壁からニョキっと出ている雨樋も一見これなんだ?となる不思議形状をしているので、見逃さないようにしてください。▼
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靴を脱ぐ美術館
外観は見ての通り、よく「ジブリ」と形容されますが、それもわからなくはない世界観を醸し出しています。しかし、館内も負けず劣らずの凝り具合です。
まず、天井と壁は真っ白のわら入り漆喰です。これがすごい!▼
▼このざっくりと削り取られたような木の柱は縄文建築集団によるもの。
まだ赤瀬川原平存命の頃なので、建設にはかなり赤瀬川原平も参加したようです。そんなこと知ったらトマソンを探したくなりますよね。当然、ありませんけれど。
板張りのゾーンからは靴を脱いで入ります。これは藤森照信の「画伯の絵の汚れのなさと土足は合わない」という考えからです。
コロナ前は美術館に入る時に靴を脱ぎ、板張りのゾーンからは靴下も脱いで素足になって展示室に入るという設定でしたが、現在は板張りのところまで靴で入れるように変更されています。
展示室は撮影禁止なので、残念ながら写真はありませんが、真っ白な空間で、まずは床がゴザの長い通路状の展示室です。
さらに進んで一番奥の展示室は、床が大理石で天井にトップライトのある広々空間で、瞑想したくなるような神秘的な空気が漂っています。
この美術館は、中も外もインドに足繁く通ってたくさんの絵画を描いた秋野不矩美術館らしいしつらえでした。
大理石の感覚を裸足で直に感じたら気持ちよさそうです。冬は床暖房になっているそうなので、それはそれで心地良さそうですね。
茶室 望矩楼
美術館の外には、開館20周年を記念して建設された茶室「望矩楼/ぼうくろう」があります。独特の形状と不思議なマチエールで覆われています。
この不思議なマチエールの正体は、地元の小中学生が手で曲げた銅板です。その不規則な手業の集積が、他で目にすることのない独創的な雰囲気に厚みを増しています。
なんか兜のような、虫のような、いろんなものに見えますね。
下の道からからではなく、茶室の真下まで行って見学することは可能ですが、茶室の中に入ることはできません。じっくり外から観察しましょう。
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階段
実は、美術館にはこんな外階段があります。
トマソンではありませんが、正面の入り口以外からしか館内に入館することはできないので、この階段を使う理由はありません。
というかほとんどの人はここまで行かないので、この階段の存在すら気づいていないでしょう。機能はしてませんが、美しい階段です。▼
美術館基本情報
9:30-17:00 月休(祝日の場合翌日休)、年末年始、展示替期間休
静岡県浜松市天竜区二俣町二俣130 MAP
アクセス:東海道本線磐田駅から山東行きバスにて二俣仲町下車徒歩約7分、遠州鉄道西鹿島駅から山東行きバスにて二俣仲町下車徒歩約7分
駐車場有
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あわせて行きたい本田宗一郎記念館
秋野不矩美術館のすぐ近くに同じく地元出身の自動車の「ホンダ」創業者である本田宗一郎の記念館、本田宗一郎ものづくり伝承館があります。
車好き、バイク好きの人は立ち寄ってみてはいかがでしょうか。
建物は登録有形文化財として文化庁登録されている元二俣町役場だった建築です。入場無料ですよ。
本田宗一郎ものづくり伝承館 10:00~16:30 月火休
静岡県浜松市天竜区二俣町二俣1112 MAP
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