松濤は渋谷駅から徒歩15分から20分ほどの場所にある渋谷区の超高級住宅街です。松濤の建築の代表と言えばこのブログでも何度も取り上げている白井晟一設計の渋谷区立松濤美術館が最も有名です。
そんな松濤美術館から徒歩5分圏内、同じ松濤2丁目には、実はいくつも個性あふれる建築があるのです。松濤美術館を訪問したら、周りもちょっとばかり散策することをお勧めします。
実は松濤には、あの日本のアントニオ・ガウディと呼ばれる梵寿綱がまだ本名で活動していた60年代の建築や用途のない建築紀尾井清堂の内藤廣の第一号建築など有名建築家の貴重な若かりし頃の建物があります。
また近くの公園には国立競技場の隈研吾がてがけた公衆トイレなど、貴重且つ見応えありの建築巡りです。
PRシャンボール松濤 梵寿綱
設計:梵寿綱 竣工:1969年
渋谷区松濤2丁目14 MAP
白井晟一設計の渋谷区立松濤美術館のすぐお隣に建つヴィンテージマンションは、なんとあの早稲田にあるドラード和世陀や西麻布のエスペランザビルなど、ド級な装飾でお馴染みの超個性的な建築家梵寿綱先生(なぜか先生呼びしたくなる)によるものです。
梵寿綱先生が梵寿綱を名乗り始めたのは1974年なので、1969年竣工のシャンボール松濤は、梵寿綱が梵寿綱になる前の、ある意味とても貴重な田中俊郎時代の建築なのです。
装飾の控えめな建築も作っていたんですね。
白亜のマンションは、個性的なバルコニーがファサードを飾ります。▲
そして、バルコニーのアールと呼応するかのような植栽の刈り込み方!!
キ、キノコ? 異彩を放つ植栽ですが、物凄い可愛い。これはかなりメンテナンスを徹底している証拠ですね。
お隣の松濤美術館には毎年数回通っているのですが、その度に気になるんですよねぇ。建物も植栽も。
エントランスは文化村通りではなく松濤美術館との並びで、少し階段を登った場所にあります。▲エントランス上部のバルコニーの円弧は、文化村通り側がかまぼこ型ですが、こちらはほぼ半円です。
向かい合うのは、白いスタッコ壁と青い瓦で統一されたデザインの株式会社秀和が建設し販売した秀和レジデンスシリーズの秀和松濤レジデンスです。シャンボール越しに見る秀和レジデンスってヴィンテージマンションマニア垂涎の光景です。
このシャンボールシリーズも実は秀和同様に他にもたくさんあって、株式会社大蔵屋が手がけたマンションのシリーズです。
シャンボールシリーズの古いものは、主にレンガの外装が多いのですが、松濤とシャンボール目黒第2だけは白くて装飾的なマンションです。
でもどうやら、シャンボール目黒第二は梵寿綱(田中俊郎)設計ではないようです。でも、結構似てるんですよねぇ。お花のレリーフとか。1972年竣工なので、シャンボール松濤のデザインを踏襲して別の方が設計したのかもしれませんね。
外壁は全面的に花型の型押しが施されています。これがなかなか可愛いのです。
田中さん時代の建築はまだまだ控えめな装飾だったようですが、ちゃんと乙女心は健在です。
実は梵寿綱マンション、なんとお隣の松濤美術館のブリッジからも見えちゃうんです。
え、邪魔!って思ってしまうんですが、松濤美術館がここに建つ10年以上前からシャンボール松濤はあるので、邪魔って思ったのはシャンボール松濤の方なのかもしれません。
この光景、邪魔!とかネガティブに捉えずに、絶対相容れない2人だと思いますが、白井晟一と梵寿綱のコラボが見られると思うとちょっと楽しくなる!
梵寿綱70年代の建築▼
梵寿綱80年代の建築▼
梵寿綱90年代の建築
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コルテ松濤 設計組織adh
設計:設計組織adh(木下庸子+渡辺真理)竣工:1989年
渋谷区松濤2丁目15−1 MAP
松濤美術館の真前に建つマンションは、内井昭蔵建築設計事務所出身の木下庸子と磯崎新事務所出身の渡辺真理夫妻の設計事務所、設計組織adhによる設計です。
ガラスブロックが印象的なマンションです。▲
エントランスに向かうスロープの手すりの意匠が大胆なデザインです。
夫妻の師匠である内井正蔵ぽさとか磯崎新のニュアンス感じますでしょうか?
ギャラリー TOM 内藤廣
設計:内藤廣 竣工:1984年
渋谷区松濤2丁目11−1 MAP
アーティストの村山知義の息子である村山亜土氏とその妻治江夫妻が、視覚障害者だった長男の「ぼくたち盲人もロダンを見る権利がある」という言葉をきっかけにして、1984年に設立した「手で見るギャラリーTOM/トム」というコンセプトで始まった私設美術館です。
設計は紀尾井清堂などを手掛ける内藤廣で、なんとここは内藤建築の記念すべき第1号なのです。
建物は鉄筋コンクリートで、その上に蛇腹状の鉄骨の梁が斜めにかかっています。
窓が一切ないコンクリートの箱のような建物に見えますが、▲門をくぐって階段を登ると中庭テラスがあって、外観からは想像できない開放的な空間が広がります。
90年代から松濤美術館とセットでよく訪問していました。当初は「手で見るギャラリーTOM」という名前だったのですが、いつ頃からか、普通の「ギャラリーTOM」に名称が変わりました。
現在は、おそらく視覚障害者の方のみが作品に触ることができるのだと思います。
Tomというのは、創設者の村山亜土の父でアーティストの村山知義のサインからの引用です。ロゴマークもそのサインを元にデザインされています。▲
入り口は階段を登った2階です。エントランス前にはテラススペースがあります。▲
そのテラススペースをデザインしたのは彫刻家の脇田愛次郎です。
内部は広々空間です。これは2018年に行われた安田侃+柚木沙弥郎展の時の写真です。▲
この写真は上部の展示スペース。梁と梁の間は窓ガラスになっているので、自然光が上から入りとても明るい展示室です。
吹き抜け部分を上部から見下ろしたところです。コンパクトですが、開放的な私立美術館です。
大きな公立美術館もいいけれど、今はなき原美術館とか、このくらいの規模の美術館も個人的にはとても好きです。
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鍋島松濤公園トイレ 隈研吾
設計:隈研吾 竣工:2021年
渋谷区松濤2丁目10 MAP
日本財団が渋谷区の公共トイレを改修するTHE TOKYO TOILETプロジェクトの一つで、隈研吾設計の「森のコミチ」です。
遠目から見ると、トイレとは思えません。▲
ランダムな角度の耳付きの杉板ルーバーに覆われた5つの小屋で構成されています。
不規則なルーバーのため、公園の緑と馴染んでいます。▲
昨年6月に竣工し、ちょうど1年後の再訪となりました。木がいい感じに経年変化してきています。▲今後もどんな風に変化していくのか、松濤美術館訪問の折には見にきたいと思います。
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松濤美術館 白井晟一
設計:白井晟一 竣工:1980年 開館:1981年
渋谷区松濤2丁目14−14 MAP
2021年に開館40周年を記念して、設計者の白井晟一をフィーチャーした展覧会が2部構成で開催されました。
エントランスを飾るオニキスの天井は白井晟一設計のもう一つの美術館、芹沢銈介美術館でも見られます。▼
白井晟一はインテリアにもこだわりました。現在コロナのため座れませんが、展示室のソファなど家具や調度品の多くは開館時からのものです。
ELVホールの鏡は各階でデザインが異なります。3階は楕円形の鏡です。これも白井セレクトです。▲
現在、松濤美術館で開催中の展覧会
2022年6月18日(土)~2022年8月14日(日) 前期後期で一部展示替えあり
月休 10:00-18:00 土日祝と最終週は日時予約制
展示室内は撮影禁止のため写真はありませんが、明治から大正、昭和と多くの図案を制作した津田青楓の展覧会です。美術と工芸とデザインの中庸をいく津田の図案の世界は時に愛らしく、時にとても美しい。
▲技法は木版画が多いので、今観ると立派な美術作品ですが、当時は「図案」でした。芸大のデザイン科も開設当初は図案科でした。ですから、デザインなのかというと、それもちょっと違うような。
何にもカテゴライズできない津田青楓の図案の世界は広く深いのです。
白井晟一の展覧会及び美術館建築については下記ブログを参照ください。▼
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ナチュラルエリプス
設計:遠藤政樹 池田昌弘 竣工:2002年
渋谷区円山町7−1 MAP
2003年グッドデザイン賞受賞の建築です。当初は2世帯住宅として設計されましたが、現在は一棟貸しのホテルです。
外観は真っ白な卵型で、中には中央の螺旋階段が地階から4階を繋いでいます。最上部は窪んでいて屋上スペースになっています。
しかし、しかし、なんと外壁塗装のためこんな状態でした。塗装工事が終わってきれいになったら再訪したいと思います。▲
美しく再生するのが楽しみですね。▲
再訪してきました!▼(2022.9月19追記)
なんと!なぜか青いロープでぐるぐる巻になっています。▲
これは、先日原宿のStand Byを赤いロープで緊縛するパフォーマンスを行った緊縛師でロープアーティストのHajime Kinokoによる緊縛アートでした。
夜の様子です。▲ますます怪しい。
上記のナチュラルエリプスだけは円山町ですが、それ以外は全て松濤2丁目にあるので、全てが徒歩5分圏内です。
松濤美術館で展覧会を鑑賞したら周辺の建築巡りはいかがでしょうか。
松濤建築マップ