開業時、新高輪プリンスホテルという名前だった現在のグランドプリンスホテル新高輪は、建築家村野藤吾の手がけた数多くの建築の中でも、晩年の代表作の一つと言える傑作です。
このブログでもこれまでに箱根のザ・プリンス箱根芦ノ湖や京都にある村野藤吾の没後に竣工したザ・プリンス京都宝ヶ池など村野藤吾のプリンスホテルを取り上げてきました。
今回は、箱根と京都のプリンスホテルのちょうど間に竣工したグランドプリンホテル新高輪をレポートします。
箱根より京都よりも近くにあるのに最後の紹介になってしまいました。
グランドプリンスホテル新高輪に泊まってみた動画▼
PR新高輪プリンスホテル
グランドプリンスホテル新高輪は1982年4月25日に「新高輪プリンスホテル」として開業しました。
村野藤吾が手がけた3つのプリンスホテルの中の二番目のホテルで、村野藤吾が91歳の時に竣工しました。
新高輪プリンスホテルと言えば、まるで竜宮城かと錯覚してしまいそうな、有機的な天井にびっしりと貼られたアコヤガイが美しい飛天の間が一番有名であり、一番の見どころなのですが、訪れた際は残念ながら飛天の間を見ることは叶いませんでした。
ですから今回は、国際館パミールなどを中心に書きたいと思います。
繰り返されるバルコニー
新高輪プリンスホテル(グランドプリンスホテル新高輪)の特徴として筆頭にあげられるのが、客室棟のバルコニーでしょう。
円形のバルコニーが整然と並ぶ姿は、遠目から見てもすぐにプリンスホテルだとわかるこのホテルのアイコン的なデザインです。
村野建築で円形のバルコニーは、ザ・プリンス箱根芦ノ湖でもみられますが、箱根は躯体自体がサークル型をしているため、バルコニーの円形がここまで目立ちません。▲
こちらは、躯体はよくある四角いビルなので、そこに連なる夥しい数の円形バルコニーがとっても際立っています。
よくみると、バルコニーのサークルには細かいレース編みのような繊細な装飾が施されており、とっても可愛らしいのです。▲
また、バルコニーの床の裏にも装飾がありますね。
下の階の人にとっては、裏じゃなくて天井ですから、こういう細かいところにもきちんと心配りがされていてさすがです。
村野藤吾の乙女心が爆発しています。
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国際館パミール
宿泊棟に対して直角に位置するパミール館は、大規模な学会、会議や式典、イベント、宴会、パーティーなどさまざまなイベントに対応する宴会場棟です。
同名の宴会場棟が札幌プリンスホテルにもありますが、札幌は村野藤吾の設計ではありません。
ちなみにパミールというのは、中央アジアのパミール高原に由来します。
現在は、新型コロナウィルスにより大部分が使用されていない状況のためひっそりと静まりかえっています。▲
車寄せの大空間の庇部分には村野藤吾らしい波のような花びらのような曲線の装飾が施されています。▲
天井部分の楕円の連続模様といい、躯体の角アールといいどこを切り取っても優雅な印象です。
しかし、曲線で構成された中にもエントランスの上部は、天井の曲線と対照的な鋭角な三角形のアーチになっており曲線と直線の対比が効いたデザインです。
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パミール内部
内部に入ってみましょう。
エントランス外部の緩やかで柔らかい印象から、三角のアーチをくぐって内部に入ると華やかな中にも少しシャープでピリッとした印象を受ける空間になっています。
しかし、2階の手すりなど村野藤吾らしい優雅なディティールももちろんそここに散りばめられています。
村野藤吾の窓
村野藤吾のインテリアの特徴の一つに、目黒区総合庁舎でも見られた低く設定された窓があります。
ここにもありました!
低い窓の外には日本庭園の美しい緑が見えています。
まるで変形キャンバスに描かれた絵画のようです。
迫り上がった窓の角アールがアクセントです。
ここの窓は全て長方形で構成されています。
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渡り廊下
飛天の間の方へ行く渡り廊下のデザインも目黒区総合庁舎を彷彿とさせる凝った意匠が施されています。
円形に繰り抜かれた照明も目黒区総合庁舎のエントランスにあるモザイクの見せ方に近しいデザイン。▲
渡り廊下ではありませんが長い長い通路の天井の折り上げ方は、ザ・プリンス箱根芦ノ湖でも見られたデザインです。▲
アコヤガイ
飛天の間の天井が見られなかったのは残念ですが、エレベーターにもアコヤガイが!
ザ・プリンス京都宝ヶ池のエレベーターデザインは、地の色がモスグリーンで貝が2つ横並びになっている模様でしたが、こちらはまるで貝が梅の花のように並べられています。地の色もほんのりと梅の花を感じる抑えたほんのりとピンク系です▲
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照明
村野藤吾のホテル建築の特徴に照明のデザインがあります。
ちょっと一筋縄ではいかないデザインが不思議でかわいい。
エントランスの照明。これはなんの花でしょうか。
まだ咲ききってないお花のような丸い膨らみが可愛いです。▲
トイレ前の目隠し壁の上部にも可愛らしい花のデザインの照明が。
こちらはエントランスのお花照明に比べると花開いていますね。▲
花びらが幾重にも折り重なる様が美しく、とってもゴージャスな花型の照明▲
間接照明とやっぱりお花型のシーリングライト▲
コロナ前はさまざまなパーティーやイベントがいくついくつも同時に開催されとっても華やいだ場所だったのに、コロナ禍の閑散とした様子は悲しいですね。
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外構
村野藤吾らしさは、内装や建築だけではありません。
外構にも目を凝らして見学したいもの。
これは外交ではなく宿泊棟そのものですが、巻き貝のようなうねりのような、はたまたカラーのお花のような不思議な形をしています。▲
ここだけ切り取ると、これがホテルの建築の一部には見えませんね。
村野藤吾の換気塔と言えば梅田の換気塔が有名です。その梅田の換気塔を彷彿とさせるこの堂々とした佇まい▲
私も随分前ですが大阪出張の際にわざわざ梅田へ見に行きました。▲
この造形美!換気塔とは思えません。
厄介者とされがちな設備をこんなにも美しく見せられるのは、村野藤吾ならではです。
花びらのようなデザインの通気口▲
この見慣れた屋外照明も、こんな風に花束みたいににデザインすることでなんだか愛らしい姿に。▲
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やっぱり村野藤吾はいいですね。
晩年の建築には迷いがないというか、潔いというか、やりきっている感が随所に見て取れます。
もちろん、建築には必ず予算と納期という避けられない壁が立ちはだかるものなので、村野藤吾が担当したと言えども、何かしら譲歩したり、諦めたりしているはずなのですが。
目黒区総合庁舎の建築の裏テーマは「乗り物」ではないかという説がありますが、グランドプリンスホテル新高輪の裏テーマは「花」なのではないでしょうか。
随所に、お花の造形美を感じました。
そんなことを考えながら見学するのも建築巡りの楽しいところです。
グランドプリンスホテル新高輪は、今年でちょうど40周年です。
40年経っても色褪せない建築美を堪能することができました。
かなり近い場所ではありますが、いつか宿泊したいなと思います。→泊まりました!記事はこちら
基本情報
グランドプリンスホテル新高輪(旧 新高輪プリンスホテル)
東京都港区高輪3丁目13 MAP アクセス:新幹線・JR線・京急線 品川駅(高輪口)徒歩約5分、都営地下鉄浅草線 高輪台駅徒歩約3分 土日祝は品川駅から無料シャトルバスあり |
高級ホテルと思われがちがなプリンスホテルですが、世界的に見れば庶民レベルのホテルチェーンです。
宿泊料もそれほど高くないので、一度宿泊してみて村野藤吾のバルコニーを目の当たりにするのはどうでしょう▼
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