渋谷と原宿のちょうど中間地点でNHK放送センターや代々木公園、国立代々木競技場の近くにある北谷稲荷神社(きたやいなりじんじゃ)はあのスカイハウスでお馴染みの著名建築家菊竹清訓の設計なんです。
黒川紀章らとともに「メタボリズム」を提唱したことで知られている偉大な建築家菊竹清訓が晩年に設計した神社とはどんなものなのでしょうか。
北谷稲荷神社
山手線の線路沿いのファイヤー通りから1本入った場所で桑沢学園の近くにあります。
ちょっと分かりにくい場所なので、原宿と渋谷の中間地点とはいえ、ここに神社があることはあまり知られていません。
しかも設計が菊竹清訓だということはもっと知られていないかもしれません。
北谷稲荷神社の創立は文明(1469年から1487年)以前と言われており、詳しいことはわかっていません。
現在の社殿は1997年に完成しました。
鳥居
北谷稲荷神社には、2カ所からアクセスできるのですが、鳥居のある入り口と鳥居のない北川の入り口があります。
初めて訪れるなら鳥居のある方から入った方が、本殿の見え方が全然違うのでちょっと遠回りになってもファイヤー通りからアクセスしましょう。
鳥居のデザインも菊竹清訓なのだろうなと思わせるデザインです。このフォルム絶対そうですよね。
神社の竣工と同時に創建されたものなのでおそらく菊竹デザインで間違いなさそうです。
そして、鳥居の額束正面に円形、背面に半月形の浮彫りが施されています。
これは、日象・月象を刻み付けた類い稀なる構えに因み、これを日月鳥居(じつげつとりい)と称するそうです。美しいですね。
そして、この鳥居にある円形と半月形は、この神社の至る所に登場します。
ちょっと見えづらいけれど裏面の半月が確認できます。
そして、この写真でわかるように神社は周囲よりも高い位置にあるので、その姿は階段を登らないと見えません。
これがあまり知られていない所以の一つです。
社殿
鳥居をくぐり、階段を登ると想像以上の空間が広がっていました。そして、参道のごとく訪れる人を誘うように地面に日月の模様である円形が施されています。
隣のビルと隣接しており、社務所はこのビルの中にあります。
この隣の渋谷第七共同ビルも菊竹清訓建築設計事務所の設計です。
訪問時には御神前に北谷稲荷神社では初の取り組みという茅の輪が設けられていました。
もちろん茅の輪くぐりをして参拝しました。
▲カーブしたカラーステンレスの屋根が特徴の神社とは思えないモダンな佇まいです。
屋根の真ん中が切りかかれており、扁額がすっぽり嵌め込まれています。
正面はガラスで紋様が描かれていますが、これは神社ではよくある白い紙垂(しで)をあしらったデザインです。
横から見ると屋根は流れるような曲線を描いてせり上がっています。
これは流造から来ているデザインで、流造は神明造から発展した神社の様式です。
正面のガラスから側面になるとコンクリート打放しになっています。
長くうねるような屋根が庇となっておりその下に賽銭箱や本坪鈴があります。
▲逆サイドの側面にある青い鉄扉には日月鳥居をイメージさせる月模様があってかわいい。
末社と手水舎
末社は二つありました。
土師家天満宮(はじけてんまんぐう)と宇田川出世弁財天(うだがわしゅっせべんざいてん)です。
▲土師家天満宮は麻疹及び疱瘡病が完治する末社で、その読み方から土師家をハシカと読み換えて麻疹の恢復を願う者があったとの説があるらしいです。面白い。
▲麻疹ではありませんが、コロナも流行病なので参拝しておきました。
▲こちらは宇田川出世弁財天
手水舎はシンプルな作りですが、カランが真っ赤でおしゃれですね。カクダイのセンサー水栓でした。
外観
月模様の青い鉄扉の横にもう一つの入り口があります。
▲この入り口には鳥居がありません。すぐ横には隣のオフィスビルのエントランスがあります。
▲階段の始まりも日月をイメージする円形のデザインです。ここから入ると社殿の横に着きます。
▲ぐるっと回るとこんな感じで、空間の先には隣のオフィスビルの窓が見えていました。
ここの間口も社殿の壁面同様に紙垂をデザイン化したものと思われます。
北谷稲荷神社は、紙垂型に開いたこの空間の上に浮いているように設置されていたんです。
これはある意味スカイハウスですね。
そして、この真上からは丹下健三の代々木競技場がよく見えます。
▲菊竹建築から眺める丹下建築です。
菊竹清訓
北谷稲荷神社の設計は菊竹清訓で竣工は1997年です。ですから菊竹清訓69歳の建築です。
菊竹清訓はこのブログでも取り上げた軽井沢のセゾン現代美術館(当時は軽井沢高輪美術館)や、宍道湖に面する風光明媚な島根県立美術館や同じく島根県にある私立の田部美術館など数多くの建築を手がけた日本代表する建築家の1人です。
中でも有名なのは、自邸として設計した文京区のスカイハウスです。スカイハウスは1辺10mの正方形の居住スペースを、各辺の真ん中にある4本の鉄筋コンクリートの壁柱で、地上から5m持ち上げたまるで浮いているような構造を持った特徴的なデザインの住宅です。
また、菊竹事務所出身者にはプリツカー賞受賞建築家の伊東豊雄(1965~69年在籍)や内井昭蔵(1958~67年在籍)、長谷川逸子(1964~68年在籍)、仙田満(1964~68年在籍)、富永譲(1967~72年在籍)、内藤廣氏(1979~81年在籍)など錚々たる顔ぶれです。
これで、この建築を設計した菊竹清訓の偉大さが少しお分かりいただけましたでしょうか。
基本情報
北谷稲荷神社
渋谷区神南1丁目4−1 MAP アクセス:JR渋谷駅、原宿駅から徒歩約10分 |