都心で建築とアートを愉しめる場所、それは皇居。
皇居の中でも東御苑(ひがしぎょえん)と呼ばれるエリアは旧江戸城の本丸や二の丸のあったところで、巨大だった江戸城の石垣や天守台などが遺り世界中から観光客が集まる観光スポットでもある場所です。
そしてその東御苑の一角には「皇居三の丸尚蔵館」という博物館があり、主に皇室・皇族から寄贈された収蔵品を展示する展覧会が頻繁に開催されています。
PR皇居東御苑
東御苑は入園料が無料、最寄り駅である地下鉄大手町駅、竹橋駅から徒歩数分、東京駅からでも歩いて10分ちょっとのアクセスの良い場所なので、東京の観光名所としてとにかく人気です。
英語では「Imperial Palace East Garden」。今どき本物の Imperial Palaceなんて世界でもここくらいのもの。インバウンドのお客さんからすれば有り難みのある名前なので最近では特に人気のようです。
休園日は毎週月曜日と金曜日、それと年末年始です。特に金曜日が休園というのは見落としがちなので注意しましょう。また開門は常に午前9時ですが閉門は季節によって前後するのでこれも注意です。
さらに入園にあたっては荷物チェックがあります。バッグの中を皇宮警察の警察官が覗くだけの簡単なものですが、それでも大荷物だったりすると大変なのでできるだけ軽装がおすすめです。
桃華楽堂
東御苑には江戸時代の天守跡とか百人番所など江戸城時代の遺構が多くありますが、現代になって新たに建てられた建築物もあります。
▲天守台(江戸城天守跡)の向かいに建つ八角形をした特徴的な建築が「桃華楽堂(とうかがくどう)」。
昭和天皇の后である香淳皇后の60歳、還暦を祝って建設された音楽ホールです。
収容人員は200名という小規模なものですがその形状やモザイク壁画もあって東御苑の中で特別な存在感を放っています。
▲設計は日本にいち早くアントニ・ガウディを紹介した建築家の今井兼次。早稲田大学の図書館(現在は会津八一記念博物館)や演劇博物館、戦後だと安曇野の禄山美術館などで知られる建築家で教育者です。そう言われると何となくガウディ風にも思えてきます。
屋根の上にちょこんと見えるのはおそらく昭和天皇像と香淳皇后像。他にも様々な装飾が施されています。
また外壁には極楽で音楽を奏でる天女がいたりして平等院の極楽楽団からの繋がりも感じさせられます。
百人番所
他にも将軍家の居城だったことを思い知らされっる巨大建築があったりします。
▲「百人番所」。要するに警備の者たちが詰め、二の丸、三の丸へと向かう者を検分していた建物です。
東御苑内には他にも「大番所」、「同心番所」と3つの番所が残っている(正確には再建)のですが、その中でも百人番所がずば抜けて大きいです。
▲百人番所の隣の植木です。百人番所を模したかのように刈り込まれています。これ、ずっと昔からこうなんです。
天下の江戸城跡にして現在は皇居の一部というこの場所で長年続くこの剪定。単に洒落でやってみましたというレベルではなく、植木の流派の技法だとか、何代目かの将軍以来の伝統だとか何らかの理由がありそうです。
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江戸城趾
そして江戸城としての巨大な遺構は忘れてはいけません。
▲東御苑の北の端、北桔橋門近くにあるのが「天守台」。
かつてはこの石垣の上に江戸城の天守がそびえていたのですが18世紀中頃の江戸の大火で焼失後、再建されることはありませんでした。
▲これは本丸の石垣。
その巨大さと精緻さには圧倒されます。
▲二の丸から本丸へ上がる「汐見坂」。
名前の通り、かつてはここから海が見えたのだそうです。
海といっても当時は日比谷公園の辺りまでが海だったので、背後を海で防御していたのでしょう。
▲江戸城であまりに有名な「松の大廊下」の跡。
赤穂浪士で有名な、浅野内匠頭が吉良上野介に斬りかかった場所がこの辺りです。
なぜか、インバウンドのお客さんにも人気です。
このように不思議な現代建築から歴史の舞台となった建物跡地など、建築好き、歴史好きなら一度は訪れてみたいのが皇居東御苑です。
入園方法や注意点
皇居東御苑の入園料は無料です。
休園日は月曜日と金曜日。それと大晦日から1月3日にかけても休園です。毎年1月2日には皇居で一般参賀が行われるので、皇宮警察も東御苑にまでは手が回らないのでしょう。
開門は常に午前9時ですが閉門は季節によって前後します。たいていの場合開門前から入園待ちの行列が出来ていますが、手荷物検査自体はたいして時間がかからないので行列の進みは早いです。多少行列が長くても思った以上に早く入園できるはずです。
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三の丸尚蔵館
皇居のアート部門を担うのがここ「皇居三の丸尚蔵館(こうきょ・さんのまる・しょうぞうかん)」です。
昭和天皇が崩御した後、后である香淳皇后と長子の平成天皇から寄贈された美術品を保存、研究、公開するための施設として1993年(平成5年)に開館しました。
古くからある施設のようで歴史としては30年ほどの、皇居内では新しい施設です。
▲建物自体も2023年に新館に建て替えられています。最初の建物は主に収蔵を目的としたもので、小さい展示室があるだけでしたが、新しい三の丸尚蔵館は展示スペースも広く取られています。
また写真の背景に工事現場が見えますが、それは2026年竣工予定の「第II期棟」です。
2026年に全面リニューアルが完了すれば展示スペースもさらに広くなるでしょうし、なんとカフェも併設されるそうです。
所蔵する作品は皇室に代々伝わって来た品々や、皇室・皇族から寄贈されたプライベートに収集してきた美術品や工芸品、民間から皇室に献上された美術品・工芸品(要するに帰属がよく分からない品)など。
国宝も多くありますし、美術的にも歴史的にも貴重な文書や作品が揃っていて、日本の歴史の一部と言っても過言ではありません。
今回は「公家の書-古筆・絵巻・古文書」展と「皇室の美術振興-日本近代の絵画・彫刻・工芸」展という2つの展覧会が開催され、内覧会の様子をレポートします。
なお三の丸尚蔵館の展示室は原則として写真撮影可能です。本記事では特別に許可を得て撮影、掲載しています。
《公家の書-古筆・絵巻・古文書/皇室の美術振興-日本近代の絵画・彫刻・工芸》展
今回訪問した際は長い名称の展覧会が開催されていましたが、これは実質的には2つの展覧会です。
ただある人物の存在により2つの展覧会がリンクしているという構成でした。
公家の書
2024年時点での三の丸尚蔵には2つの展示室があり、展示室1で開催されているのが《公家の書-古筆・絵巻・古文書》展。
▲サブタイトルにあるように奈良・平安時代からの公家たちが遺してきた古文書、絵巻、古筆などの書物を展示しています。
中身は歴史的書物であったり、美術品としての書であったりバラエティに富んでいます。
▲平安時代の有名な歌人の歌を集めた冊子の一部。
歌自体は清少納言の曽祖父にあたる清原深養父(きよはらのふかやぶ)のものですが、紀貫之の書と伝えられているものです。
▲こちらは国宝の「春日権現験記絵」。
鎌倉時代の絵巻物で、歴史的にも美術品としても価値が高いものです。
2004年から長い時間をかけて修復作業が行われていた作品です。
▲これも国宝「金沢万葉集」。
金沢の前田家に伝来していたことから「金沢万葉集」と呼ばれる藤原定信の書によるものです。
展示室1にはこの金沢万葉集(手前)と春日権現験記絵(奥)の2点の国宝が展示されています。
▲藤原定家による記文で推敲途中のものです。
新古今和歌集や小倉百人一首を撰歌し、源氏物語を写本し、自身は日記文学として「明月記」を書き残し、そして書の大家でもあった、平安末期から鎌倉時代にかけて日本最高の知識人だった藤原定家(ふじわら・さだいえ/ていか)の人間臭い一面を垣間見ることのできる書です。
一見地味な展覧会ですが国宝はあるし、教科書級の作者がどんどん出てくるある意味では華やかな展覧会です。
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皇室の芸術振興
もう一つの展覧会は《皇室の芸術振興》。
明治から昭和にかけて日本国内で開催された博覧会や展覧会に出品され、皇室が伝統文化の継承、芸術の視能のために買い上げた作品が展示されています。
▲日本画家、村瀬玉田(むらせ・ぎょくでん)の《俊成卿(しゅんぜいきょう)》。
平安・鎌倉時代の公家で歌人の藤原俊成(としなり/しゅんぜい)、90歳の祝宴の場を描いた作品。
両脇を支えるのは息子の成家と定家。そう「公家の書」展にも出品されていた藤原定家です。
もちろん定家の書は鎌倉時代のものですし、この絵は700年後に想像で描かれたものですが、藤原定家をキーワードに2つの展覧会が繋がることには驚きました。
▲これは七宝焼き作家として名高い並河靖之の「七宝舞楽図花瓶」。
明治初期に制作された超絶技巧な七宝焼で、並河靖之の代表作としても知られる一品です。
▲展示室2の一方の壁には皇室が買い上げ三の丸尚蔵館に寄贈した日本画が。そして向かいの壁には同じように日本人が描いた洋画が展示されています。
▲展示室2の中央には陶磁器など工芸作品が展示されています。
▲2024年10月29日開幕で会期は12月22日まで。
今の三の丸尚蔵館は展示室が2つだけですが、2026年に新館が完成するとさらに展示室も拡充されるでしょうし、古代からの由緒ある作品を多く所蔵するだけに、今後の三の丸尚蔵館での展覧会に期待が膨らみます。
鑑賞のポイント
実は皇居三の丸尚蔵館での展覧会は毎回密かな人気を集めています。
メディアで派手に取り上げられることも少ないので口コミでじわじわと話題になり、会期後半になると大混雑になるのだそうです。展示室自体がそれほど広くなく、同時入場者数が多くなるとゆっくり鑑賞できない状態になることも少なくないそうです。
せっかく訪問してもゆっくり鑑賞できないのはもったいないので、会期のなるべく早い時期に訪問したいです。また1日の間でも後半の方が空いてくるそうです。金・土は20時まで開いていますからそうした時間帯を狙うのも良いかもしれません。
さらにディープに鑑賞したいなら「展示室 de 作品解説」や「特別鑑賞会」といったイベントに参加するのも良いと思います。
「展示室 de 作品解説」は展覧会担当の研究員が展示作品から数点をピックアップし、展示室内で20分程度の解説をするというものです。開催日は「公家の書」が12月6日(金)、「皇室の美術振興」が11月8日(金)と12月13日(金)。いずれも午後6時35分からで、参加申し込みは不要、イベントの参加費も無料(入館チケットは必要)です。
もう一つの「特別鑑賞会」は研究員による解説付き特別鑑賞会(1時間)というもので、開催日は11月29日(金)の午後6時から。参加費は入館チケット込みで5,000円ですが展覧会図録も付いてきます。この特別鑑賞会チケットは窓口や電話での販売は行われずオンラインでの販売だけになります。詳しくは三の丸尚蔵館のこちらのページからどうぞ。
開催情報
名称:公家の書-古筆・絵巻・古文書/皇室の美術振興-日本近代の絵画・彫刻・工芸
会期:2024年10月29日(火)〜12月22日(日)
前期:10月29日〜11月24日、後期:11月26日〜12月22日
開館時間:9:30〜17:00 金曜・土曜は20:00まで夜間開館
休館日:月曜日。ただし11月4日は開館し翌火曜日休館
入館料:一般 1,000円、大学生 500円、高校生以下・満70歳以上は無料
予約:オンライン(e-tix)による日時指定推奨。予約優先制。
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基本情報
皇居東御苑
開園時間:9:00〜 季節によって16時〜18時で変動 休園日:月曜日、金曜日、12月28日〜翌年1月3日、その他 住所:東京都千代田区千代田1-1 MAP アクセス:地下鉄大手町駅(C13a出口)から徒歩5分、二重橋駅から徒歩10分、JR東京駅から徒歩15分 |
皇居三の丸尚蔵館
開館時間:9:30〜 17:30 休館日:月曜日、年末年始、天皇誕生日、展示替期間 入館料:一般 1,000円、大学生 500円、高校生以下、70歳以上 無料 予約:予約優先制、オンラインで日時指定推奨 住所:東京都千代田区千代田1-8 MAP アクセス:地下鉄大手町駅(C13a出口)から徒歩5分、二重橋駅から徒歩10分、JR東京駅から徒歩15分 |