八ヶ岳の山麓、原村の豊かな森の中にひっそりと佇む八ヶ岳美術館を久しぶりに訪れました。
八ヶ岳美術館は、長野県原村にある全国的にも珍しい村立の美術館です。
美術館建築は、村野藤吾の設計で外観も連続するドームが独創的ですが、内部空間の天井のエレガントなドレープが美しい名建築です。

八ヶ岳美術館の建築
美術館建築は日本を代表する建築家・村野藤吾氏による設計で、1980年に開館しました。
丸い屋根を持つ独特のフォルムは、周囲の自然とやさしく調和しています。

村野藤吾は、人工的な直線や角を極力避け、丸みを帯びた壁や屋根を多用し、訪れる人が無意識のうちに安心感を覚えるような空間を生み出しました。

屋根は複数のドームが連なる構造で、内部にはやわらかな自然光が降り注ぎ、展示品を優しく包み込みます。
村野藤吾はカラ松と共存するように美術館を配置したそうです。

連続ドームのドームとドームの間にある雨樋の形状も村野藤吾らしい。
八ヶ岳美術館の天井のドレープ
特筆すべきは、展示室の天井に施された「ドレープ」の意匠です。
布をゆったりと垂らした波打つ曲線が天井いっぱいに広がっています。
初訪問の時は思わず「わぁ」と声が出てしまいました。

光が布の優雅な曲面を伝って柔らかく反射します。
この形状は単なる装飾ではなく、音の響きを和らげ、空間全体に温かみのある落ち着いた雰囲気をもたらす役割まであるのです。
村野藤吾は、このドレープ天井によって「森の中で木漏れ日を見上げるような感覚」を建物内部に再現しようとしたともいわれています。

館内には、模型やスケッチ、図面だけでなく建設中の様子や、開館後1988年に天井のレースカーテンの張り替え工事をした記録写真など、美術館建築についての常設展示コーナーがあります。
八ヶ岳美術館の展覧会
美術館は、地元出身の彫刻家・清水多嘉示氏から寄贈された彫刻・絵画を収蔵・展示するために誕生しました。
館内には清水氏の作品のほか、原村周辺で出土した縄文土器や石器などの歴史資料も展示され、芸術と郷土の歴史を同時に感じることができます。
さらに、常設展に加えて企画展も開催しており、村野藤吾展を開催したこともあります。見に行くことができなかったのが残念です。
展示室は天井が高く、壁面がゆるやかにカーブしており、作品と鑑賞者が落ち着いて向き合える空間となっています。

八ヶ岳美術館の立地
高原の澄んだ空気と四季折々の景色は、この美術館を訪れる大きな魅力のひとつです。
春は新緑、夏は深い緑の木陰、秋は鮮やかな紅葉、冬は雪景色と、どの季節も建物の表情が変わり、訪れるたびに新しい発見があります。
駐車場から美術館へ続くカラマツ林の小道を歩けば、森の香りと光の移ろいが心を解きほぐしてくれます。

展示鑑賞だけでなく、建築や自然を含めた時間そのものをお楽しめる「森の中の美術館」です。
基本情報
八ヶ岳美術館(原村歴史民俗資料館)
9:00~17:00 年末年始、展示替え期間休館 大人(高校生以上):510円 / 小人(小中学生):250円 長野県諏訪郡原村17217-1611 MAP アクセス:JR中央本線/富士見駅下車→タクシー15分、その他公共交通機関 駐車場有 |