六本木ヒルズ森タワーの最上階に位置するので東京で最も高所にある現代美術の企画展を開催する「森美術館」で、今もフェミニズムの視点から再評価されたり初期の作品に注目が集まっている女性彫刻家のルイーズ・ブルジョワの国内では27年ぶりとなる大規模個展《ルイーズ・ブルジョワ展:地獄から帰ってきたところ 言っとくけど、素晴らしかったわ》が開催されています。
なんと長いタイトルでしょうか。これはルイーズ・ブルジョワが自身の人生の一部を捉えてブラックユーモアを含んで紹介した言葉。一言では説明できない多様な面を持つブルジョワらしいタイトルです。
またルイーズ・ブルジョワは六本木ヒルズ66プラザに設置されている巨大な蜘蛛の彫刻《ママン》の作者です。作品の名前や作者は知らないけど六本木ヒルズでの待ち合わせ場所として「デッカイ蜘蛛」を利用している方も多いでしょう。
▲20世紀を代表するアーティストとして世界中に多くのファンを持つルイーズ・ブルジョワは、作品はもちろんですがその生き方も含めた人間ブルジョワのファンも多く、実際開幕初日から多くのファンが訪れていました。
この展覧会ではブルジョワの初期のドローイングからよく知られる作品まで100点以上が展示されています。
PR《ルイーズ・ブルジョワ展》の展覧会構成
展覧会は「第1章 私を見捨てないで」「第2章 地獄から帰ってきたところ」「第3章 青空の修復」の3章構成で、各章の間に「コラム」という小特集が配置され初期の作品を紹介しています。
▲ルイーズ・ブルジョワ展のフロアガイドです。
それでは、各章毎にいくつか作品をピックアップしてご紹介します。
「私を見捨てないで」
家父長主義的な父親と病弱で若くして亡くなった母親という家庭環境から、父親や母親に対する複雑な感情を持ちながら生きていたルイーズ・ブルジョワ。
そのため見捨てられることへの恐怖を抱えながら生きていくことになったので「私を見捨てないで(Do Not Abandon Me)」。
▲中央にルイーズ・ブルジョワの作品が展示され、周囲の壁3面にはブルジョワの言葉を使用した映像作品が投影されています。
映像作品は生前のブルジョワとも親交のあったアメリカのコンセプチュアル・アーティスト、ジェニー・ホルツァーによる新作。本展のために制作されたものなので日本語訳された文章もあります。
▲ブルジョワを代表するモチーフである蜘蛛。「ママン」もそうですし、極初期のドローイングからして蜘蛛です。
母親の象徴であり、卵を抱える姿にも母性を見出したのでしょう。
この写真の作品は「かまえる蜘蛛」。ママンほどではありませんが巨大な彫刻です。また背景には1978年のインスタレーション「対決」で上演されたパフォーマンスの記録映像が投影されています。
この映像は主演のスーザン・クーパーの熱演とルイーズ・ブルジョワの言葉が強く印象に残るものです。
▲文筆家としての顔もあるブルジョワの有名なフレーズ「私の眼差しで彼の瞳をとらえた(I Held His Eyes WIthin My Gaze)」。
▲有名な「ヒステリーのアーチ」。
開幕初日は生憎の天候で外は曇っていました。
天気の良い日や夜間に見るとまた印象が変わりそうです。ルイーズ・ブルジョワ展もまた何度も足を運ぶことになると思うので、いろいろなシチュエーションで見てみたいと思います。
▲近くで見ることこのように仰け反ってアーチを描いていることが分かります。
ちなみに頭部はありません。
PR地獄から帰ってきたところ
第2章のタイトルは「地獄から帰ってきたところ」。
自身の環境や精神状態を ”地獄” と呼び、そこからサバイブしてきたことを表しています。
▲「罪人2番」
牢獄のように周囲を囲まれた空間、壁に向かって置かれた椅子。
その時の鬱々とした精神状態をこれほどまでに的確に表現したものは見たことがありません。
▲こちらは「メルシー・マーシー(感謝・慈悲)」。
地獄から生還したところでこのようなポジティブな言葉が出てくると救われたような気になります。
言い忘れましたけどルイーズ・ブルジョワはフランス出身なのでフランス語が普通に出てきます。28歳の時にロバート・ゴールドウォーターとの結婚を機にニューヨークに移住し、1957年にアメリカの市民権を得ていますからそれ以降はアメリカ人(フランス系アメリカ人)です。
▲これは本展のタイトルでもある「地獄から帰ってきたところ 言っとくけど、素晴らしかったわ」(I have been to hell and back. And let me tell you, it was wonderful) と刺繍されたハンカチ。亡くなった夫ロバート・ゴールドウォーターが使っていたハンカチだそうです。
ちなみに作品のとしてのタイトルは「無題(地獄から帰ってきたところ)」です。
戦争、死別、うつ病、孤独など逆境ばかりだった自身の人生を表すかのように日記に書かれていた言葉だそうです。
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青空の修復
第3章は「青空の修復」。
すべてを超越して自身の過去とその思い出を残すために作品を制作していた晩年のブルジョワの作品です。
▲これも有名な「雲と洞窟」。
日本語だと雲(くも)と蜘蛛(くも)が同音ですが、これは雲の方。
▲これは「蜘蛛」。
彫刻プラスインスタレーションな作品。
▲その「蜘蛛」の近くにさりげなく展示されている1947年制作の「蜘蛛」というドローイング。
最初の頃はこんなに可愛かった!
▲「トピアリーIV」。
女性、植物、障害など生を実感させる作品です。
「年表」
作品としてはここまでなのですが、最後にルイーズ・ブルジョワの生誕から本展までの100年以上の歴史をまとめた年表が展示されています。
なかなか興味深い内容なので読み込んでみてください。
▲そこにさりげなく置かれたゲランのフレグランス「シャリマー」の香水瓶。
小説「失われた時を求めて」の主人公が紅茶とマドレーヌの香りから幼少時代の記憶を蘇らせたように、ブルジョワも香水の香りから自身の過去の記憶を蘇らせそれを作品としてこの世に定着させていたのかも。そんな想像をしてしまいます。
”地獄” としか言いようのない過去があったとしても、最後にはそれらも克服・超越し、地獄も含んだ自身の生をアート作品という形で永遠に残すことができたブルジョワ。生きることの意味を強く考えさせられる展覧会です。
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ミュージアムグッズ
これまでの森美術館のミュージアムショップは改装するみたいで、今回はいつもと違ったレイアウトでショップが開設されていました。
▲展覧会の会場出口に平積みされていた展覧会図録は 3,740円(税込み)です。
表紙カバーが2種類ありますが中身も価格も同じです。
▲表紙カバーに「トピアリーIV」が使われているものは会場限定での販売です。
▲蜘蛛なんだけどケースがめちゃくちゃカワイイ「ママン ミルクアーモンド」。
税込み2,160円です。
▲「I Held His Eyes WIthin My Gaze(私の眼差しで彼の瞳をとらえた)」というフレーズが入ったクッションカバー。
それに蜘蛛とブルジョワの写真入りのトートバッグ。
▲メンズファッションブランドのSOPH.もコレクションを発表。
Tシャツには「I have been to hell and back. And let me tell you, it was wonderful(地獄から帰ってきたところ 言っとくけど、素晴らしかったわ)」と入っています。これが一番カッコいいかなぁ。20,900円(税込)ですけど。
他にもフライトジャケットやフード付きパーカーなどがあるようです。
▲ミュージアムショップやMAMスクリーンを抜け、インフォメのところに戻ってくると眼の前にこれです。
満面の笑みを浮かべ蜘蛛の脚を掴むルイーズ・ブルジョワ。
炎や氷のような人生をくぐり抜け行き着いた先にこの笑顔です。展覧会を見た直後ですから思わず目に涙が浮かんでしまうほどに嬉しいブルジョワの笑顔です。
写真撮影について
一部の作品をのぞき写真・動画ともに撮影可能です。写真・動画撮影できない作品には禁止マークが付いています。
また動画の撮影は1分以内に限りOK。
フラッシュ、三脚、自撮り棒は使用不可です。
また性的モチーフの作品も多いです。撮影はできてもSNSなどに上げると削除されたりアカウントが凍結されたりする可能性も否定できないので注意しましょう。
鑑賞時間について
動画はどれも短いので普通に鑑賞すれば1時間くらいで見られると思います。
ただルイーズ・ブルジョワの言葉を噛み締めたり、作品の背景に思いを寄せながら見ていたりするとあっという間に2時間コースでしょう。
じっくり見ようと思ったら最低2時間は取っておきたいです。
ママン
せっかく六本木ヒルズでルイーズ・ブルジョワの展覧会を見るのですから、66広場の「ママン」も忘れずに見ておきましょう。
▲定番の待ち合わせ場所なので特に説明は不要だと思いますが、ルイーズ・ブルジョワ展を見てから改めてママンを見ると、あぁ卵はそういう意味だったのかとか思うこと多数。
展覧会後にもう一度見るのがおすすめです。
基本情報
ルイーズ・ブルジョワ展:地獄から帰ってきたところ 言っとくけど、素晴らしかったわ 会期:2024年9月24日(水) ~ 2025年1月19(日) 会期中無休開館時間:10:00~22:00 ※火曜日は17:00まで チケット料金:オンラインで購入すると()の料金 予約:事前予約制(日時指定券)オンライン購入 会場:森美術館(六本木ヒルズ森タワー53階) 住所: 東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー アクセス: |