軽井沢にあるセゾン現代美術館は、広大な森の中に贅沢に配置されたイサムノグチや安田侃など有名作家の屋外彫刻を、ゆっくり散策しながら鑑賞する回遊式庭園と菊竹清訓設計の自然光が入る開放的な建築で構成された都会にはない、自然と共生する美術館です。
主に20世紀前半の現代美術の充実したコレクションを鑑賞できる常設展示と、シーズンごとに新進気鋭の現代アートの展覧会を開催している企画展を同時に楽しむことできます。
PR森の中の美術館
美術館の入口から、コールテン鋼による彫刻的な造形が施され、到着してすぐに普通の美術館じゃないなと感じるはずです。
このエントランスのコールテン鋼の正体は、主に金属を使った作品を制作する彫刻家 故若林奮によるものです。▲
若林奮は、入口だけでなくセゾン現代美術館の庭園の全体プランを手掛けています。
これ▲美術館敷地内の様子です。
この森の中へ入っていくとやがて、菊竹清訓設計の美術館が姿を表します。
ただ、美術館へ辿り着くまでには、坂道を下り、その先には小川が流れていて、若林奮デザインのコールテン鋼の橋を渡り、▲
さらに坂を上っていくとようやく美術館に到着です。
いつも美術館までの自然豊かな導入ですっかりノックアウトされてしまうのです。この導入の様子で都会にはない美術館だということがお分かりいただけたと思います。
セゾン現代美術館の豊かな自然とアートの夏と冬の様子など動画を参照ください。
西武/セゾン文化
ここへ来ると、かつてのセゾングループの隆盛を思い起こさずにはいられません。西武美術館、リブロ、アールヴィヴァン、WAVE、シネセゾンなどなどアート、書籍、音楽、映画などセゾングループの文化戦略はそれはそれは刺激的で、多くの人々に多大な影響を与えました。かくいう私もどっぷりと影響を受けた1人でです。
ただ、残念なことにあれだけの勢いで世の中を席巻したセゾングループですが、バブル崩壊後に牙城が崩れ、21世紀の到来と共にグループは崩壊し、先にあげた西武美術館もリブロもアールヴィヴァンもWAVEもシネセゾンもみんななくなってしまいました。
そんな中、セゾン現代美術館だけは、西武美術館のDNAを継承しそのレガシーを引き継ぐ唯一の存在です。
西武/セゾン文化に憧れ、影響を受けた者としては、この静かで広大な美術館を訪れる度に懐かしい気持ちと共に盛者必衰を目の当たりにした時代の流れを感じずにはいられません。
なお施設の改修工、庭園の整備のため、2023年11月から2026年4月頃までの予定で長期休館です。
PR高輪美術館
セゾン現代美術館の前身は、1962年に開館した高輪美術館です。高輪美術館は、一代で西武グループを巨大グループに築き上げた故堤康次郎の集めた絵画、仏像彫刻、蒔絵、東洋古陶磁等を保存・展示する美術館でした。
高輪美術館は、1981年に軽井沢に移転します。その際に、それまでの日本の伝統美術を紹介する美術館から、現代美術を扱う美術館へシフトする決断をしたのは、セゾングループの創業者にして、詩人・小説家 辻井喬として知られる堤康次郎の息子故堤清二です。
高輪美術館は、軽井沢に移転後ちょうど10周年の1991年に現在の”セゾン現代美術館”に改称しています。
西武美術館
堤清二は、父堤康次郎亡き後、西武グループの中の西武百貨店を引き継ぎ、1975年西武百貨店池袋店の中に西武美術館(1989年にセゾン美術館に改称)を開館します。
この美術館もまた足繁く通った場所の一つです。高校時代、初めて荒川修作の作品を観たのも西武美術館でした。西武美術館があった頃はまずまずな頻度で池袋へ出かけましたが、今は全くと言っていいほど無縁な街になってしまいました。
西武美術館(セゾン美術館)は、1975年から25年間にわたり、約260本の展覧会を開催し、1999年2月に閉館しました。
現在、セゾン現代美術館のコレクションの多くは西武美術館時代のものです。
コレクションの常設展示
セゾン現代美術館のコレクションは国内外のアーティストの作品約800点から成ります。いつ行っても観られる常設の作品とそうでない作品があります。
そのコレクションはマン・レイ、カンディンスキー、クレーなどの近代美術から、ジャスパー・ジョーンズ、ジャクソン・ポロック、フォンタナ、ロスコ、サム・フランシスそして、荒川修作や李禹煥などなど良質な作品の数々です。
常設展は撮影禁止のため残念ながら写真はありません。
アンゼルム・キーファー
常設作品のアンゼルム・キーファーの鉛でできた14台のベッドが並ぶ「革命の女たち」は、中に入ることはできませんが、展示室全体が丸ごと一つの作品です。
セゾン現代美術館のコレクションの中でも見応えがあるバリバリの現代美術作品の一つです。
ジャン・ティンゲリー「地獄の首都No.1」
いくつかあるいつ行っても鑑賞できる作品の中で、巨大で面白いのは、ジャン・ティンゲリーの「地獄の首都No.1」1984年です。
この作品は、高さが3m超え、横幅は7m越えの壁のような大作なので見過ごす心配はありません。それは、一瞬ガラクタの塊のようでもあります。
この作品の最大の特徴は動くことです。仕掛けられた数々のガラクタ達が電動モーターによって巨大な演奏装置に変わるのです。ですが、常に動いているわけではなく、演奏時間が設定されています。
時間 10:30/11:30/12:30/13:30/14:30/15:30 各回5分ほど
特に演奏が始まるときにアナウンスがあるわけでもなく、館内にいる警備員さんが時間になると作品の前までやってきて、無言でスイッチをオンするだけです。そして5分ほど経過したら、また無言でスイッチをオフにするという極めてさりげないパフォーマンスです。
せっかくなのでこの時間にはティンゲリー作品の前にいくようにしましょう。作品の前にはベンチが置かれているので座って鑑賞できます。
作品の場所は2階で、順路としては最後の方です。
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企画展
セゾン現代美術館では、毎年1-2回の企画展を開催しています。企画展は主に同時代の作家によるグループ展が多い印象です。
過去の展覧会の様子はこちらを参照ください。
▲2023年10月9日までの展覧会は「荒川修作+マドリン・ギンズ《意味のメカニズム》 全作品127点一挙公開 少し遠くへ行ってみよう」
回遊式庭園
美術館でアート鑑賞を堪能したら、広大な庭の散策です。回遊式の庭園のあちこちに彫刻が点在しています。
若林奮だけでなく、イサムノグチや安田侃、井上武吉、脇田愛次郎、山本正道、アルマンなどなど。彫刻作品の数々が、自然の中に溶け込むように点在しています。
小川のせせらぎを聴きながら、軽井沢の自然を満喫します。
広大な庭園にベンチなどはないので、ひたすら歩き続けるしかないのですが、とても気持ちいいので足が弾みます。
現代美術との出会いの場
セゾン現代美術館が、個人的に思い入れが強い理由は、西武/セゾン文化に強い影響を受けたからというのも大いにあるのですが、1991年にここで開催された「境界線の美術」という展覧会でコンセプチャルアートの核心に触れた思いがあるからです。
現代美術との初めての出会いは、高校時代に初訪問した品川の原美術館でしたが、それは現代美術という世界の扉の前に立ったという体験でした。
ですから、その頃は意味もわからずただただ観ていただけだったのですが、「境界線の美術」でようやく理解できたような気がしたのをとても鮮烈に覚えています。
言うなれば固く閉じていた現代美術の扉が開いた瞬間でした。(今もどこまで理解しているのかは怪しいところですが)
現代美術との出会いの場である原美術館は、残念ながらなくなってしまいましたが、現代美術の扉が開いた場所であるセゾン現代美術館には、ずっと存続してもらいたいと切に切に願っています。
過去の思い出を抱きつつ未来永劫の存続を願って今夏も足を運んだ美術館です。
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幻想的な里池
最後に紹介したいのは、幻想的な美しい泉です。
セゾン現代術館には30台分駐車場があります。その駐車場の後ろにとても美しい里池という池があります。
とっても美しく、静かで神秘的な場所です。
セゾン現代美術館に訪れるときの私のもう一つの楽しみがこの里池です。
さっさと車に乗って帰ってしまわずにこの池の幻想的な美しさを是非堪能してください。必見です。
▲駐車場のすぐ背後にこんなに美しい風景が!
基本情報
セゾン現代美術館
木休(祝日は開館)、展示替期間、8月は無休 入館料:一般1500円 、大高生1000円、中小生500円 長野県北佐久郡軽井沢町長倉芹ヶ沢2140 MAP アクセス:JR北陸新幹線軽井沢駅、しなの鉄道中軽井沢駅より草津温泉行バス軽井沢千ヶ滝温泉入口下車徒歩7分、中軽井沢駅よりタクシー約10分 駐車場あり |
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