石山修武の観音寺を紹介した早稲田建築巡り1に続いて2は、石山修武同様すぐ近くの早稲田大学理工学部建築学科出身の奇才、梵寿綱/ぼん・じゅこう設計1983年竣工のドラード和世陀/わせだです。
梵寿綱/ぼん・じゅこう
この名前は本名ではなく設計事務所を開く時に考えたもので、梵は、ヒンドゥー教の奥義書『ウパニシャッド』の「梵我一如(ぼんがいちにょ)」という思想から梵の字を、さらに、養父の戒名から寿綱をとって掛け合わせたものです。本名はなんとも平凡な「田中さん」っていうのが安心しますね。
1934年生まれで現在87歳になられる田中さんは、1956年に早稲田大学理工学部建築学科を卒業、1962年にミース・ファン・デル・ローエに憧れ、シカゴのイリノイ工科大学で学びたいと渡米します。しかし、実際にはシカゴ芸術大学で絵画・彫刻・工芸などを学び、生涯の伴侶となる奥様ともここで巡り合ったそうです。
イリノイ工科大学に行くつもりがなぜシカゴ芸術大学になったのか謎ですが、1番の驚きは、ミースに憧れていたということです。
シカゴ芸術大学ではなくて、予定通りイリノイ工科大学に行っていたら、きっと梵寿綱の一連の建築はなかったでしょうね。
PR日本のガウディ
ガウディと言うと最近だと”三田のガウディ”と言われているセルフビルドで自宅を作っている岡啓輔さんを想起します。しかし、梵寿綱は“日本のガウディ”ですからね。
岡啓輔さんがガウディと言われている意味合いと梵寿綱がガウディと呼ばれる意味合いはちょっと違うので岡啓輔さんについては以下記事を参照ください。▼
ほぼ完成!三田のガウディこと岡啓輔さんの蟻鱒鳶ルを再び訪ねてみた(追記21.11月と22.12月と23.1月、24.11月)
外観
みてください!この外観。日本の数あるキテレツ建築の中でも群を抜く過剰な装飾!そこに間とか引き算とかは一切なく、目に見える場所全てに装飾が施されています。そうです。やり切っているのです。
これが1983年竣工、梵寿綱49歳の時の物件です。▼
若かりし頃の田中さんこと梵寿綱が憧れたミース・ファン・デル・ローエが提唱したのはご存知の通り「Less is more.」(少ないことは、豊かなこと)です。
それがいつどうして、このような「More is more.」になったのでしょうか。
ここは、もともと6階建ての集合住宅をつくることだけが決まっていて、いびつな五角形をした敷地だったため、予算も含めて合理的に考えた結果、梁と柱で構成する直線型より、壁式構造を利用したカーブが合うのでこの形になりました。ですから感覚的な曲線ではなくて、予算、構造を鑑みた上での曲線的なわけです。
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装飾の数々
外壁
外壁の装飾は全て梵寿綱と芸術家の奥様の手による夫婦コラボレーション作品です。外壁から飛び出ているアルミ彫刻だけは別の作家の手によるもの。
モザイクというのか、レリーフというのか、カテゴライズ不可能な装飾です。▼
顔面レリーフと水玉、ストライプにいきなり魚、みんなこれは陶のようですね。▼
こちらは、トルソーに女性が描かれています。色彩は伊万里調ですね。この絵柄の作者が奥様なんでしょうか。上の写真の顔面レリーフとこの絵が同じ作者とは思えませんね。▼
ちょっとタッチが宇野亜喜良風に見えなくもない絵が描かれた陶のパネル▼
水玉模様のモザイク▼
エントランス
エントランスの様々な装飾は、梵寿綱夫妻ではなく、14人くらいのアーティストが手掛けたそうです。床の大理石モザイクは当時イタリアで修行していた上哲男の作です。これまた入り口の足元も外観に負けていませんね。▼
ロビーにある手の彫刻は竹田光幸の作品です。これ、なんと椅子なんです。怖くて座れなかったけれど。壁にも模様が描かれていますし、天井も窓もステンドグラスになっています。全く「Less」が見当たらないてんこ盛り空間です。▼
エントランスの扉のアイアンワークは、おそらくバルコニーの装飾と同じ作家ではない気がします。ちょっとモチーフの趣違いますよね。天井にぶら下がるガラスのフルーツがすごく可愛い。これもきっとガラス作家の作品なのでしょう。▼
これはレリーフではなくて、郵便受けです。鍛金で表現された干支なんですね。使い勝手は絶対悪いけれど、この建物ならこうなりますよね。
ヘビの部屋なんて絶対なんも入らない!ウサギの部屋のポストは簡単に盗まれそう。各々受け口のサイズに差がありすぎて笑ってしまいました。
しかしですよ、竣工してからすでに40年近く経っているにもかかわらず、このポストが現在も使われ続けているという事実が素晴らしいではありませんか!
当然といえば当然ですが、”機能より装飾”というこの建築のコンセプトを十二分に理解した方々が借りているいるわけですね。▼
装飾はクラフトワーク
ここまでみてきてお気づきの方もいるでしょう。ドラード和世陀の装飾はアートというよりも、実は工芸の仕事の大集合!だったんです。陶芸、彫金、鍛金、モザイク、ステンドグラス、ガラス工芸、木工芸などなどの伝統的な技法を全部観ることができます。
きちんとした手仕事の工芸の集合体だからこそ、すでに38年経過した現在でも色褪せることないのだと思います。
書籍で見る梵寿綱
梵寿綱の作品やその背景についてはこれらの書籍も参考にどうぞ。
意外と知られていない他の梵寿綱建築についてはこちら▼
基本情報
ドラード和世陀
新宿区早稲田鶴巻町517−1 MAP
最寄駅:東京メトロ東西線早稲田駅徒歩3分、都電荒川線早稲田駅徒歩約7分
村上春樹ライブラリーについてはこちらを参照ください。
早稲田に行くならこちらの建築見学もおすすめです。▼
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