軽井沢の駅近くにある脇田美術館は、洋画家脇田和の作品を所蔵・展示する私立の個人美術館です。軽井沢駅から徒歩で訪問できる便利な場所に位置しながらも、大きな中庭があり、木々のざわめきや鳥の囀りを耳にすることができる自然豊かな環境です。
また美術館の敷地は元々脇田和のアトリエ山荘だった場所で、その建築は脇田和と親交のあった吉村順三の設計です。ですから、脇田美術館は建築とアートを同時に巡れる建築好き、アート好き、そしてその両方が好きな人にとって必見の美術館なのです。
PR脇田和とは
簡単に脇田和についてまとめてみます。アート好き、美術館好きなら一度はその作品を目にしているはずです。
なぜなら脇田作品は、東京国立近代美術館をはじめ、区内にアトリエを構えていた世田谷美術館など多くの公立美術館に所蔵されているからです。
脇田和は1908年東京生まれ。現在の港区高樹町(現在の住所表記では南青山)の出身です。なんと!結構なご近所さんだったんですねぇ。2005年に97歳で逝去しました。
ドイツへ
脇田和は、青山学院に通っていましたが、実姉の配偶者が仕事でドイツに派遣されることになり、一緒にドイツに渡ります。脇田和15歳の時です。ドイツのベルリン国立美術学校で学び22歳で帰国します。
帰国後、その温かみのある画風から共通点を感じることのできる猪熊弦一郎や小磯良平らと1936年に新制作派協会(現在の新制作協会)を結成します。
吉村順三とのつながり
この新制作協会は、発足後に彫刻部が加わり、戦後になって建築部も新設されます。その建築部には、丹下健三、谷口吉郎、前川國男らと共にアトリエ山荘を設計した吉村順三も名を連ねていました。2人の親交は新制作協会がきっかけだったようですね。
脇田和は、東京藝術大学の教授を退官した1970年に、ここ軽井沢のアトリエ山荘に拠点を移します。そして、1991年に自身の設計による脇田美術館が開館します。
脇田と鳥
脇田和が描く作品には鳥がたくさん出てきます。その出会いは脇田が肋膜を患ったときでした。絵を描くこともままならない病床に、新制作協会の友人の彫刻家山本常一から一羽の鳥を貰います。
病床で出会った1羽の鳥は、絶望の渕にいた若き画家の心を癒してくれました。それから脇田にとって鳥は生涯に渡って描き続ける大切なモチーフとなったのです。
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脇田美術館
美術館には、軽井沢に制作の拠点を移した1970年代から晩年までの作品を中心に油彩、素描、コラージュ作品が所蔵され、毎年そのテーマに沿った作品が展示されています。
美術館は毎年だいたい6月末頃から11月末頃まで開館しています。
2022年は、以下日程で展覧会が開催されています。
「鳥の詩 脇田和展 むかえる鳥、おくる鳥」
2022年6月25日(土)~11月21日(月)(会期終了)
会期中無休(展示替え・イベント等の臨時休館日を除く)10:00~17:00(7/1~9/15〜18:00)
この展覧会を拝見しましたが、残念ながら撮影禁止のため展示室の写真は一切ありません。残念!
脇田美術館について1分半でわかる動画をどうぞ▼
美術館建築
脇田美術館は、脇田自身が設計し、鹿島建設が施工しています。美術館は、元々あったアトリエ山荘と重なりながら、中庭を囲むように配置されています。
内部の撮影ができないので文章で全て伝えるには限界がありますが、入り口で入場チケットを購入したら、まずは2階の展示室へ向かいます。
この2階へ上がる階段がとっても美しい。緩やかにカーブを描く階段は、踏面も蹴上も大理石でなんとも贅沢で美しかった。記録できないのでしっかり記憶してきました。
2階へ上がると、そこは広々とした大きな展示室で、大型の脇田作品の他にグランドピアノや次男で彫刻家だった故脇田愛二郎の立体作品(セゾン現代美術館の庭園にも金属の立体があります)や、中央の大型のテーブルには脇田美術館の模型が展示されています。
全面大理石の贅沢な大空間にはパーテションや壁などは一切なく、真ん中にゆったりとしたソファがあります。そのソファに身を委ね、しばし脇田ワールドへトリップです。作家自身で設計した美術館ですから、当然ながら作品と空間の融合が素晴らしい。
大型展示室から細い通路を通って展示室2へ。この通路には脇田和が世界中で集めた、まるで乙女のような可愛らしい小物が陳列されています。どれもこれも脇田作品の世界観に通底するほのぼのとした、そして少しとぼけた可愛さがあるものばかりです。
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展示室2はコンパクトながらも落ち着ける空間に脇田作品が飾られています。
展示室2を鑑賞して、階下へ降りるとミュージアムショップです。ミュージアムショップから、垂直庭園の先駆者パトリック・ブランよりもだいぶ前に作られたであろうグリーンウォールの通路▲を通り、最初に入ってきたエントランスホールへ戻ります。
このように美術館は、ぐるっと回遊できるように配置されています。
戻ってきたエントランスの展示室には、美術館のクライマックスである壁一面の巨大な壁画がお出迎え。
オレンジやベージュ系を基調とした巨大な壁画「吾が絵の頭文字」は、陶板で生きる喜び、自然との共生がのびのびと描かれています。(多分)
最後に、しばし時を忘れて巨大陶板壁画と向き合います。
ミュージアムカフェ
ミュージアムショップはミュージアムカフェも兼ねています。
現在カフェはコロナの影響で中庭のテラスの席のみでの利用に限られています。
こんな素敵な中庭ですから、現在は利用できない展示室内の席よりも、吉村順三設計のモダニズム住宅を愛でながら過ごすカフェタイムの方が有意義です。
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アトリエ山荘
吉村順三が設計したアトリエ山荘は、1970年に竣工した鉄筋コンクリート造一部木造2階建、鉄板葺、面積171㎡の建築です。
中庭を囲むようにくの字形の長細い建物で、一階はピロティ。主要な居室は全て二階に配置されています。
東棟はリビングや寝室等の居住スペースで、中庭側に大きな開口が設けられています。
西棟は矩形平面の脇田和のアトリエと書斎です。窓からその雰囲気を垣間見ることができます。
美術館と重なるように建っていますが全く別棟でつながってはいません。
見ての通り吉村順三の作風が如実に表れたモダニズム住宅の傑作です。
2021年2月に国の登録有形文化財に指定されました。
現在も脇田和の長男である脇田美術館館長が軽井沢滞在の際には使用しているそうです。
通常は中には入れませんが、時折建築見学会が開催されています。入ってみたい!
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オススメする理由
最大の理由は、建築とアート、この2つを巡ることができる美術館であること。そもそも美術館の存在そのものが建築とアートなわけですが、ここは美術館でありながら、建築家吉村順三の日本の伝統とモダニズムの融合が形になった住宅建築が見られます。
更に、良質なアート作品を鑑賞できるのは、美術館ですから当然ですが、作家が自身の作品を展示するにふさわしい空間を自ら設計している美術館であることです。(まれに建築家と個人美術館の個人が不仲という不幸なパターンもあります。詳細はこちらで)
美術館に訪れる人にどういう空間で、どのように過ごしてほしいかという作家の想いが形になった最高に幸せで貴重な美術館です。
写真は撮れないけれど、空間に身を置くだけで心の底から満足できる美術館なので、軽井沢に来たら絶対訪れてほしい場所です。
基本情報
脇田美術館
10:00~17:00(7/1~9/15〜18:00)冬季休館 入場料:一般1,000円、大高生600円、中学生以下無料 長野県北佐久郡軽井沢町旧道1570−4 MAP 軽井沢駅北口徒歩約10分 駐車場有 |
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