今年開館40周年を迎える目黒・白金台にある旧朝香宮邸の邸宅をそのまま美術館にした東京都庭園美術館で開催されている展覧会「装飾の庭 朝香宮邸のアール・デコと庭園芸術」を一足先に鑑賞してきました。
これまでに30回くらいは訪問してきている超リピーターですが、それでもまだ訪れるたびに発見があるのが庭園美術館です。
その魅力はその美しいアール・デコの美術館建築を筆頭に、広々とした庭園、日本庭園の美しい池に面した茶室、テラス席が気持ちいいミュージアムカフェCAFE TEIEN、杉本博司設計監修の新館など枚挙にいとまがありません。とにかく何度訪れても毎回満足度の高い美術館です。
そんな美術館建築が丸ごと所蔵作品という唯一無二の空間で鑑賞する40周年記念展は、この秋見逃せない展覧会のひとつ。
また、開館40周年記念ということで様々なイベントが企画されています!

展覧会概要
1933年、東京白金の御料地の一部に朝香宮邸(現・東京都庭園美術館)が竣工しました。今から90年前のことです。
邸宅の敷地は約一万坪で、芝生、日本庭園、盆栽・花卉園があっただけでなく鶴や孔雀などの動物たちが庭を闊歩していたそうです。
アール・デコ建築様式の邸内の壁には各居室ごとに自然の風景が描かれ、室内にいながら自然の中にいる雰囲気が演出されています。

これら豪華な装飾画はフランスの装飾芸術家アンリ・ラパンにより制作されました。さらにアンリ・ラパンは朝香宮邸の主要な居室の室内設計も手掛けています。
美術館の建築や装飾は、1925年のアール・デコ博覧会で「庭園芸術」が独立した分野として注目され、庭園デザインに多大な影響を与えたことと無関係ではありません。
今回の展覧会では、フランスの近代庭園の動向を紹介し、古典主義、エキゾティシズム、キュビスム要素を取り入れた庭園デザインに焦点を当ています。
庭園美術館の建築や装飾を紐解く絵画、彫刻、工芸、版画、写真、文献資料など約120点の作品をアンリ・ラパンらが手がけたアール・デコ建築空間で鑑賞することができるのが庭園美術館のポイントです。
更に東京都庭園美術館では、目に映るものすべてが、芸術作品という類まれなる経験をすることができる唯一無二の美術館なのです。

庭園芸術
20世紀初頭、フランスでは従来のイギリス風景式庭園に対抗し、新しい庭園のデザインと理念が模索されました。
アンドレ&ポール・ヴェラ兄弟は、1910年代にその中心的な役割を果たし、1925年のアール・デコ博覧会では「庭園」が装飾芸術の一分野として注目されました。
その際に実験的で独創的な「庭園」が登場し、その後庭園デザインに大きな影響を与えました。

▲今回の庭園美術館はいつもと違って、庭園がよく見えるように大客室のカーテンがすべて開いていました。
この開放感!こんな風景が見られるのも建築を主体とした展覧会だからこそです。
アンリ・ラパン
東京都庭園美術館を語る上で絶対に外せないのがアンリ・ラパンの存在です。
アンリ・ラパンはフランスの装飾芸術家で、朝香宮邸での室内装飾プロジェクトにおいて大変重要な役割を果たしました。

彼はルネ・ラリック、レイモン・シュブ、マックス・アングランと協力し、邸内の壁に庭園風景を自ら描いています。

今回の展覧会では、アンリ・ラパンの装飾壁画が詳しく紹介されています。
いつも何気なく見ていた見慣れた壁画を今回はじっくりと観察してみました。
それは、室内にいながらして庭園で過ごしているようなリラックスした気持ちにさせる風景が広がっていることに気づきます。
他にアンリ・ラパンの著述やブラジルの邸宅計画、朝香宮邸の装飾プランの成立過程と背景など興味深い展示が盛りだくさんです。
ウィンターガーデン
普段は非公開のウィンターガーデンですが今回の展覧会では特別に公開されています。
これまで年に1度の限定公開期間に3回ほどウィンター・ガーデンに入っていますが、今回のウィンターガーデンはいつもと様子が違いました。
まず、マルセルブロイヤーの家具です。いつもはキャンティレバーのダイニングチェアD40が2脚とローテーブルだけです。

しかし、今回はS35も登場していました。これ、私おそらく初見です。
また家具だけではありません。今回はフェイクグリーンが置かれていて、ウィンターガーデンらしい演出がなされていました。
なぜ、本物の植栽ではなくフェイクなんだろう?と思ったのですが、庭園美術館の建築は国指定の重要文化財です。
本物の植栽を置くことで起こりうる虫の問題、水やりによる水漏れ問題などのリスクを回避するためなのではないでしょうか。
ウインターガーデンの床の秘密
また、ここの床の市松模様は実はものすごい超絶技巧です。今はこんな風に目地なしで貼ってくれる職人さんは皆無だと思います。

更に!ここの床には秘密があるんです。腰壁の市松模様は大理石なのですが、床は人造大理石なんです。
2階のベランダの床も同じ市松模様ですが、ここは大理石です。ではなぜウィンターガーデンの床だけ人造大理石なのでしょうか。
予算?重量?いろいろ考えましたが、どちらも多分違います。ここは温室の役割でしたので、植栽に水やりをする場所です。
天然の大理石は実は水には弱い性質があります。ですから、ここの床だけ人造大理石にしたのだと思います。その証拠に室内に入って右奥に排水溝が設置されています。
ということはここは、水が流れるようにできているのです。(あくまで個人的な推測です)この排水溝の意匠も見逃さずにみてください!
庭園美術館の窓
今回の展覧会は庭園と朝香宮邸そのものを見せる展覧会です。
ですから、いつもは展示されている作品保護の為にカーテンが閉められていることが多いのですが、今回は主要な空間のカーテンが開いています。

アンリ・ラパンデザインの白磁の香水塔がある次室(つぎのま)のカーテンも開いています。
また、床のモザイクもとっても美しいのですが、動線になっている部分にはカバーがかけられていてモザイク全体は鑑賞できないようになっています。
カバーの部分に広がるモザイクの模様を想像しながら歩くのも良いですね。

カーテンが開いているので、外からも香水塔がよく見えます。

▲灯が漏れる旧朝香宮邸も風情があっていい雰囲気です。
写真撮影について
今回の展覧会は写真撮影が可能です。動画の撮影、フラッシュ、三脚、自撮り棒、望遠レンズはNGです。
また、一部撮影禁止の作品があります。
庭園美術館プロジェクションマッピング
今春のイベントでは庭園美術館の建物にプロジェクションマッピングされましたが、今回はなんとシンボルツリーである芝庭の中央にあるムクノキにプロジェクションマッピングを行います。
10月20日ー11月19日 16時から18時 参加費無料 事前申込不要(庭園・あるいは展覧会チケットが必要な場合があります)
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基本情報
装飾の庭 朝香宮邸のアール・デコと庭園芸術
10:00 – 18:00 11/17(金)、18(土)、24(金)、25(土)、12/1(金)、2(土)20:00まで夜間開館 月休(10/9(月)は開館)、10/10(火)休 入館料:一般1400円、大学生(専修・各種専門学校含む)1120円、中高生・65歳以上700円 第3水曜日(シルバーデー)は65歳以上無料 2023年10月1日(日)は開館40周年を記念して入館料無料 東京都庭園美術館 港区白金台5-21-9 MAP アクセス:JR山手線「目黒駅」東口/東急目黒線「目黒駅」正面口より徒歩7分、都営三田線・東京メトロ南北線「白金台駅」1番出口より徒歩6分 |