香港の西九龍文化区(ウエストカオルーン/West Kowloon Cultural District)、ビクトリア・ハーバーのウォーターフロントに2021年にオープンしたアジア最大級の美術館M+(エムプラス)に行ってきました。
M+の特徴は、アジア初の世界的なヴィジュアル・カルチャー美術館であること。そのコレクションは、香港、中国本土、アジア各地を中心に世界中のビジュアルアート、デザイン・建築、映像分野を網羅しています。
そして、美術館建築を手掛けたのは、あの表参道にあるプラダ青山のHerzog & de Meuron(ヘルツォーク&ド・ムーロン/HdM)とTFP Farrellsの共同設計、構造はArupというグローバルチームです。
このブログでは、香港の新しい巨大な美術館M+の魅力を何回かに分けてレポートします。
第1回目はその巨大な建築について。
M+は規模の大きさはもちろんのこと、何もかもが巨大でした。
PR香港のM+ができるまで
M+が位置する西九龍文化地区(West Kowloon Cultural District、WKCD)は、香港の九龍半島の南西端に位置する40ヘクタールの埋立地に建設された文化地区です。
この埋立地を文化地区とする計画は、1997年に香港がイギリスから中国に返還された直後の翌年1998年に香港政府によって発表されています。ですから、構想発表から20年以上経過しているのです。
具体的な計画が始まったのは、計画の発表から更に10年後の2008年です。
香港国際空港を手がけたフォスター&パートナーズによる緑豊かな開発を目指す基本計画をもとに進行しました。
このエリアには、ヴィクトリア湾を望むアートパークや2022年にオープンした香港故宮文化博物館、戯曲センターなどが建設・開館しており、M+の隣にはリリック・シアターが絶賛建設中(UNスタジオが設計)です。
文化地区計画の中で最も大きなプロジェクトが、アート、デザイン、建築、映像など、20世紀以降のビジュアルカルチャーに特化した美術館M+です。
M+のコンペは2013年に行われ、コンペに勝利したヘルツォーク&ド・ムーロン(スイス)のほか、スノヘッタ(ノルウェー)、レンゾ・ピアノ(イタリア)、そして日本からは、SANAA、坂茂、伊東豊雄らが参加しました。
結果はご存じのとおり、ヘルツォーク&ド・ムーロンの案(TFP Farrellsとの協働設計で構造はArup/アラップ)となりました。建築家が誰になっても、私は「きよ友」が移設・所蔵されれば訪問したはずです。
香港のM+の建築
外観と一口に言っても、総床面積65,000平方メートル、17,000平方メートルの展示スペースに33のギャラリーという大規模美術館です。その周囲をただひたすら一回りするだけだって立派なウォーキングになるくらい大きいです。
水平と垂直によって構成された美術館は横から見ると巨大な逆Tの字型をしています。M+の美術館スペースは主に水平スペースである地下2階から2階までの4フロアです。
上階の垂直部分は、主にリサーチセンター、オフィス、メンバー用ラウンジなどになっています。
また、この細長い垂直部分は、超巨大なスクリーンになっていて、対岸からもその映像を見ることができます。実に香港らしいファサードの建築です。
HdMは特定のスタイルを持たない建築家ですが、今回はどんな建築なのでしょうか。
水平垂直で構成された特徴的な外観を覆っているのは、深いグリーンのセラミック(焼きもの)のタイルです。当然ですが、特注品です。
形状はまるで竹のよう。HdMの「アジアではセラミックは屋根瓦などにあるように伝統的なマテリアル」と言うことでセラミックタイルになったのだそうですが、実際にこのセラミックを製造したのは中国ではなく、アジアでもなくイタリアなんだそうです。
未だに香港では街中の建設現場の足場に竹が使われているのを目にしながらM+まで来たので、青々とした竹に覆われた美術館のようにも見えて実に香港らしいなぁと思いました。
この深いグリーンのセラミックは、内部空間にも印象的に使われていて、内部と外部の繋がりを生んでいます。
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香港M+の巨大スクリーン
香港と言えば夜景です。その夜景にアートで参入がM+の巨大スクリーンです。
建物のファサード全面がスクリーンそのものと言う、あるようでなかった全く新しい美術館です。
このスクリーン真下に行ってみるとわかるのですが、本当に巨大です。
その大きさは110m x 66mでだいたいサッカーコート一面分だとか!
とにかく巨大なスクリーンですから、近くで見るよりもある程度距離があった方が見やすいかも。
ビクトリアハーバーのナイトクルーズの船からもよく見えました。
▲ビクトリアピークに登って見下ろしてもとてもよく見えました。
周囲の他のビルも相当煌びやかなライトアップをしていますが、M+はライトアップではなく、映像上映ですから、一線を画します。
背後に見えるのは香港で一番高いビル、100階にSKY100という展望台があるICC(International Commerce Centr)です。
香港M+の巨大照明
M+は何もかもが規格外なのですが、ポイントとして目を惹くのが大きな照明です。外部空間だけでなく内部にもこの照明は使われています。
形状そのものは決して新しいデザインと言う訳ではありませんが、そのスケールがこれまでにない大きさで斬新!
マチエールのある半透明の傘が香港の夜店を彷彿とさせ印象的です。
館内の床壁天井が全て木の空間には一列に並んだ照明が。実はトイレへ向かう動線なのですが、正面の窓の外の景色を含めてすごく素敵な空間でした。
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香港M+の地下トンネル
内部に入って驚くのは、その広さです。当然、外観から想像はしていたものの、とんでもなく広い。
と言うのも中央にとんでもなく大きな吹き抜け空間があって3層分が見渡せるので、余計に大きく感じます。
この吹き抜けから見える大きな段差は、1980年代に建設された埋立地の下を通る高速鉄道とメトロのトンネルの形状です。
というわけで、建築家を決定する国際コンペでは、計画地に埋まっていた巨大トンネルの存在がポイントだったわけです。
埋まっていたトンネルの様子はM+のHPにも出ています。
そもそもHdMは一つのデザインスタイルを突き詰める建築家ではなく、その場所その場所に合わせたデザインをするのが特徴でもあるので、埋まっていた地下トンネルを生かしたこの場所ならではのデザインの美術館ができたというわけです。
香港M+巨大トラス
M+の巨大空間を支えているのはメガトラスです。
地下のトンネルに負荷をかけず全体に荷重を分散させるために設置された、高強度の巨大なトラス構造により柱のない巨大空間が生まれました。
▲螺旋階段周りのメガトラスもデザインの一部のようにかっこいい。
香港M+の階段
美しい美術館には、美しい階段がある。
これ定説です。ありましたよ!M+にもうっとりするような美しい階段が。
まずは、なんといっても白くてエロティックなフォルムの螺旋階段です。
2階から3階へ続く階段ですが、3階までは行けないようになっていました。
せっかくの美しい螺旋階段を登り切れないのはちょっと残念。
▲天井の照明のラインと階段の蹴上の照明のラインが呼応して、見たことのないシャープで美しくてかっこいい空間でした。
(語彙力が奪われるくらい完璧な空間でした)
M+の美しい階段はこの螺旋階段だけではありません。
▲1階(グランドフロア)の半屋外にあるのはグランドステアです。
この階段のダイナミックさと美しいビクトリアハーバーのビューは、ため息しか出ません。
カップルが何組もウェデイングフォトを撮影していました。絶景ですからいい写真が撮れるでしょう。
M+は、まだまだ書ききれないくらいすごい美術館です。
建築を見るだけでも半日かかるのにコレクションも膨大ときてるから大変です。
M+のブログ記事はまだまだ続きます。
M+その2は、香港M+へ来た目的、倉俣史朗の「きよ友」です。▼
M+その3は、香港M+ への行き方やチケットの購入方法です。▼
M+その4フロアガイド▼
香港故宮文化博物館▼
HdM設計の歴史とアートが融合した大館▼
香港で泊まりたいホテル▼
香港カフェ特集
基本情報
M+
月曜休館 チケット:一般 HKD 120、学生・7〜11歳・60歳以上は HKD 60 West Kowloon Cultural District, 38 Museum Drive, Kowloon, Hong Kong MAP |