六本木ヒルズ森タワーの最上階に位置し、東京で最も高所にある現代美術の企画展を開催する森美術館が今年で開館20周年を迎えます。ということは六本木ヒルズも20周年ということになります。
森美術館開館20周年を記念展「ワールド・クラスルーム:現代アートの国語・算数・理科・社会」が開催されたので早速見てきました。
今回の展覧会は、出展作品の半数以上が森美術館のコレクション作品で構成されています。
現代美術に特化した森美術館がこれまでにどんな作品を収集して生きたのか、20年の軌跡でもあるコレクションを鑑賞することで現代美術の20年を俯瞰することと同義とも言えるでしょう。
会期中何度か足を運んで随時追記したいと思います。
PR展覧会構成
展覧会は「国語」、「社会」、「哲学」、「算数」、「理科」、「音楽」、「体育」、「総合」の8つのセクションで構成されています。
出展アーティストの数はなんと!50組を超え、通常別企画の展覧会を行なっているMAMコレクションとMAMプロジェクト、そしてMAMスクリーンのエリアも含めて、総面積1,800㎡を超える展示スペースで展開されています。
まさに20周年記念にふさわしい内容になっています。
個人的にはついこの前、六本木ヒルズ・森美術館10周年記念展の「LOVE展:アートにみる愛のかたち―シャガールから草間彌生、初音ミクまで」までを見た気がしたのですが、あれからもう10年経過したんですね。早い!
それでは、各セクション事にいくつか作品をピックアップしてご紹介します。
国語
展覧会の冒頭はジョセフ・コスースからスタートです。
コスースの作品は1965年制作の「1 つと 3 つのシャベル」です。写真撮影不可なので画像はありませんが、国語を象徴するような言葉を用いたコンセプチャルアートです。
言葉を使った作品を制作しており、コンセプチャルアートを代表するアーティストです。個人的にはとても懐かしい作品です。
▲国語のセクションでよかった作品は、ミヤギフトシの映像作品「オーシャン・ビュー・リゾート」です。
この作品は、ミヤギフトシの代表作「American Boyfriend」の一つです。この作品では、アメリカと日本、戦前と戦後、セクシャリティ、沖縄という場所など作家自身のアイデンティも含めて、様々なテーマがとても美しい映像と共に静かに語られます。
所要時間は19分25秒です。会期内に再訪してじっくり見直す予定です。
社会
世界各地の歴史、政治、地理、経済、ジェンダー、人種、民族など、現代美術の題材として一番取り上げられているテーマをたくさん含みます。
ですから、このセクションが一番作品数もアーティスト数も多いです。
社会の冒頭はヨーゼフ・ボイスです。
ボイスが来日した時に東京芸大で講義をした時の黒板です。この時の映像はボイス展が開催されると度々上映されますので観ている方も多いでしょう。
ボイス作品も写真撮影不可のため画像はありません。
他には森村泰昌の「双子」1989年と「モデルヌ・オランピア」 2018年という作品も並んで展示されています。
(センシティブな絵なので撮影可能ですが写真はありません)
「肖像(双子)」と、その約30年後に制作された「モデルヌ・オランピア2018」は、共にマネの代表作「オランピア」(1863)をテーマとした写真作品です。30年の時を経て同じ題材の作品を並べて見られる貴重な機会です。
有名な絵画に作家自身が入りこみ、歴史の中の人種や男性性、女性性などの問題を孕んだ森村作品は、現代美術を紐解く時に避けては通れない作家の1人です。
▲アイ・ウェイウェイ(艾未未) 「漢時代の壷を落とす」1995/2009 年
”漢時代の壺” や ”コカ・コーラの壺” が何の暗喩なのかは誰でも分かりますが、この作品では、よりによって”漢時代の壺”の方を作家自身が壊しているのです。命をかけて芸術活動を行う決意が伝わる作品です。
写真はないのですが、藤井光の映像作品「帝国の教育制度」2016年も興味深いので再訪してきちんと観たいと思います。所要時間は21分です。
▲田村友一郎「見えざる手」はインスタレーションです。
日本の失われた20年、30年の原点ではないかと言われる1985年の「プラザ合意」をテーマにした作品です。
作品の構成要素として映像も使われています。映像の所要時間は21分49秒です。
ちなみに一番右はDAIGOのお祖父さん竹下登元首相ですね。
▲ジャカルタ・ウェイステッド・ アーティスト「グラフィック・エクスチェンジ」2015年です。ミュージシャンやデザイナーなど4人で構成されたアーティストコレクティブです。
この作品は、ジャカルタで古い看板を譲り受け、新しい看板の制作を請け負うプロジェクトを可視化したインスタレーションです。どこか懐かしい看板が並ぶ壁の横では、その様子を捉えた記録映像も見られます。
森美術館では、サンシャワー展で展開された大型インスタレーションです。
▲イー・イラン「TIKAR/MEJA(マット/テーブル)」 2022年は、色とりどりの可愛らしいマレーシアの織物が展示されています。織られているモチーフは全てテーブルです。テーブルは、植民地支配以前にマレーシアにはなかったものです。
そのような史実を知るとこの可愛いカラーリングの織物を見る目が途端に変わります。
侵略と征服、それによって人々の生活がどのように変化していったのか、いや変化させられたのかを考えざるを得ません。
この問題提起こそが現代アートの力とも言えるでしょう。
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哲学
哲学というと難解だと構えてしまいがちですが、アート作品を通じて哲学を考えてみると、案外すんなり入っていけるかも!?
▲ツァイ・チャウエイ(蔡佳葳)「豆腐にお経」2005年 映像作品2分
お経を隈なくというと日本人は耳なし芳一を連想しますが、この作品は真っ白で柔らかな豆腐にお経を書いています。
ツァイ・チャウエイは、豆腐だけでなく蓮の葉やマッシュルームなど様々なものにお経を書く作品を制作しています。やがて腐敗していく食物にお経を書くことで、形あるものが腐敗していくさま、ひいては生と死を暗示させるという作品です。うーん、確かに哲学的。
このセクションには、お馴染みの日本人アーティストの作品も展示されています。
▲作品のイメージ的に数学かな!?と思いますが、そのコンセプトは確かに哲学です。
展示されているのは「Innumerable Life/Buddha CCI -01」2018年です。
東京都現代美術館の常設作品よりも数字が小さく全体的にコンパクトですが、その作品のもつ力は変わりません。
▲李禹煥の作品「対話」2017年です。ついこの前、国立新美術館で鑑賞したばかりです。
▲8月に再訪したら作品の周りは通行禁止になっていました。
▲哲学の最後を飾るのは、奈良美智の「Miss Moonlight」2020年
現在、大阪IRのあおもり犬無断使用問題で揺れている奈良美智の安定の平面作品です。
目を閉じている少女の絵の前に立つだけで精神の安定が図れるってすごい力です。
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算数
算数には、杉本博司の美しい数理模型とその写真です。
▲手前の「数理模型022 回転楕円面を覆う一般化されたヘリコイド 曲面」は杉本博司2023年の新作です。
とにかく美しい!学生時代に杉本博司の数理模型シリーズに出会っていたら数学嫌いが克服されたかも!?
杉本博司の巨大な数理模型が見られる▼
▲笹本晃「ドー・ナッツ・ダイアグラム」2018年 映像 20分1秒
集合の関係性を示すベン図の重なりのところにドーナツが浮いている映像作品です。
笹本作品は、他にもパフォーマンスを記録した映像作品「ストレンジアトラクターズ」32分22秒や木炭によるドローイング「ストレンジアトラクターズ―図」が展示されています。
二つの映像作品とドローイング作品で、包括的に笹本晃の世界観を知ることが出来ます。
理科
理科からは2人の日本人女性アーティストの作品を紹介します。
▲宮永愛子の作品「Root of Steps」2023年は、いつものナフタリンの作品です。
この作品のモチーフは靴です。この靴を履いていたのは、皆六本木にまつわる人々が履いていたものです。
時間の経過によって刻々と変わる宮永作品の変化を再訪して確認したいと思います。
▲8月に再訪したらだいぶ変化していました。スニーカーの底の部分のナフタリンが消滅して穴が開いています。
今後もこの作品の変化を見守りたいと思います。
今宮永愛子作品が見られる展覧会▼
▲変化を見せる平面作品は、田島美加の「アール・ダムーブルモン(アラベケ)」と「アール・ダムーブルモン(カレナ・マイヒバ)」2021年です。
美しいカラーグラデーションを見せる平面作品2点は、 技法に蓄光性の顔料が含まれているので、展示室が暗くなると光を放ち、時間の経過と共にゆっくりと闇に同化していきます。
そして、再び室内が明るくなると、美しいカラーグラデーションが姿を現します。それを繰り返す作品です。
▲展示室が明るい時
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総合
最後ではなのですが、森美術館の通常の展示室の最後を飾るのは、ヤン・ヘギュの大型インスタレーションです。
ヤン・へギュ
「ソニック・ハイブリッド──デュアル・エナジー」2023年です。大きな立体には全面に無数の鈴が付けられています。
立体作品は可動するようですが、今回はその様子を見ることはできませんでした。
▲展示室丸ごとインスタレーション作品なのですが、これは「ソニック・ハイブリッド 一移り住む、 オオタケにならって」というタイトルの作品です。
このオオタケというのは、京都出身でブラジルに渡った大竹富江 (1913- 2015) の大型抽象彫刻を再構成しています。ここで、大竹富江って?と思いますよね。
▲意外にも森美術館の近く、六本木一丁目駅前アークヒルズ仙石山森タワーの前に大竹富江の作品が設置されていて、誰でもいつでも見ることができます。
▲そして、さらに!駐日ブラジル大使館内にはオオタケトミエスペースという場所があります。ここは展覧会が開催されているなど、特別な時しか入ることはできません。ちなみに駐日ブラジル大使館の建築は、オオタケトミエの息子ルイ・オオタケの設計です。
ブラジル大使館について▼
おすすめ作品!
最後にこの展覧会で一番のおすすめ作品をご紹介します。
総合で出品されているヤコブ・キルケゴールのサウンドインスタレーションです。
通常は、MAMコレクションを展示しているミュージアムショップの向かいの展示室で見ることができます。
▲ヤコブ・キルケゴール「永遠の雲」2023年です。
このインスタレーションは、クラウドのデータを保管するデータセンターのサーバーを 録音した音声と、 自然の雲の映像の組み合わせです。
この作品は、クラウドと現実の雲、クラウドと情報が集積する都市というダブルミーニングになっています。
▲幻想的で美しい作品です。六本木の夜景と相まってポエティックな空間になっていました。
夜の訪問だったため、初見はこのような状態でした。
▲昼間に再訪してみました。本当の雲と重なって見えるのかな?と思ったのですが、日中は窓のロールスクリーンが下げられ、東京の風景は窓の下部しか見えないようになっていました。
この作品を昼見るか、夜見るか、判断の参考にしてみてください。
音楽・体育
音楽と体育は、なんと映像です。
いつも映像を上映しているMAMスクリーンの部屋で前期と後期で別のラインナップが上映されます。
▲前期(4月19日─7月4日)
▲後期(7月5日─9月24日)
50組以上の作品を鑑賞指定更に映像作品はなかなか集中力的にも時間的にも厳しいです。
そんな人のために音楽と体育の映像作品の一部は、会期中オンラインで鑑賞することができます。
その視聴方法についてはMAMスクリーンで確認してください。
PRミュージアムグッズ
今回は、展覧会初日から図録が販売されていました。
▲展覧会図録 3,960円とポストカード一枚165円
▲奈良美智のグッズが充実しています。
▲奈良美智グッズ色々
▲宮島達男と李禹煥グッズ
▲李禹煥グッズと新素材研究所の書籍そして、杉本博司の傘「放電場」です。この傘ちょっと欲しい。
写真撮影について
一部作品をのぞき写真・動画ともに撮影可能です。
動画の撮影は1分以内です。
フラッシュ、三脚、自撮り棒は使用不可です。詳細が知りたい方はこちらを参照ください。
六本木ヒルズで今見られる展覧会▼
六本木ヒルズ展望台東京シティビュー▼
俯瞰で建築巡り▼
学生無料イベント!
なんと!8月8日は学生が無料の特別イベント「Students’ Free Night supported by 清水建設」を開催します。
なんと、この時間は学生以外は入館することができません。学生だけの貸切イベントです。
夏休みに無料で良質な現代美術作品に触れるいい機会です。
学生さんは参加しましょう!
尚、参加には事前予約が必要です。
2023年8月8日(火)18:00~20:00(受付開始 17:50、最終入館 19:30)
対象:中学生、高校生、専門学校生、大学生、大学院生
定員:300名(要予約、先着順)
申込期間2023年7月13日(木)~ 8月7日(月)
基本情報
森美術館開館20周年記念展 2023.4.19(水)~ 9.24(日) 会期中無休 10:00~22:00 火17:00まで ※ただし5.2(火)、8.15(火)は22:00まで 入場料 *カッコ内は専用オンラインサイトで購入した場合の料金 [平日]、一般 2,000円(1,800円)、学生(高校・大学生)1,400円(1,300円)、子供(4歳~中学生)800円(700円) [土・日・休日]、一般 2,200円(2,000円)、学生(高校・大学生)1,500円(1,400円)、子供(4歳~中学生)900円(800円)、シニア(65歳以上)1,900円(1,700円) 港区六本木6丁目10−1 六本木ヒルズ森タワー 53階 MAP アクセス:東京メトロ日比谷線六本木駅1C出口徒歩3分、都営地下鉄大江戸線六本木駅3出口徒歩6分、都営地下鉄大江戸線麻布十番駅7出口徒歩9分、東京メトロ南北線麻布十番駅4出口徒歩12分、東京メトロ千代田線乃木坂駅5出口徒歩10分 |