日本には153の国の駐日大使館があります。特に港区にその大半が集中していて、さらにその港区内でも麻布エリアはちょっと歩いているだけでさまざまな国の大小の大使館を目にすることになります。
大使館の規模はその国の経済状況や日本との関係を如実に現していて大変興味深く、その建物や様子を見るだけでも興味深い存在です。と同時に大使館というとガードが堅く近寄り難いイメージがあります。
大使館や領事館は、英語しか通じないのではないかとか、亡命者が逃げ込むとか、ビザの発行関連など庶民にとっては親しみがあるというよりは縁遠い存在で、簡単に入ることのできない場所だと感じている方が多いでしょう。実際簡単に入ることはできません。
そんな、ガードの堅い数多くの大使館の中でも、実は内部に入ることができる大使館がいくつかあるのです。
今回は、イベントや展覧会などで私が実際に内部を訪問したことのある大使館の特集です。
PRカナダ大使館
カナダが国として建国されたのは1867年。実は明治維新とさして変わらない頃です。本当の意味で独立国となったのは1931年(昭和6年)で、意外と新しい国です。
そのため1929年に設置された駐日カナダ大使館は、カナダとしては3つ目の在外公館。太平洋を挟んでの大きな貿易相手でもある日本を重視していたからなのでしょう。
どこにある?
現在のカナダ大使館の場所は青山一丁目の駅からも近い青山通り沿い。隣は高橋是清翁記念公園、向かいは赤坂御所というロケーションです。
公園の緑も多く、近隣には草月流の総本山である草月会館やドイツ文化会館などもある文化的なエリアです。
どんな建物?
青山通りを青山一丁目駅から赤坂見附の方に歩いていくと目に入る大きなコンクリート作りの建物。特に斜めにスラントした壁が特徴的です。
設計は日系カナダ人の建築家レイモンド・モリヤマが手がけています。
実はカナダ大使館のビルはオフィスビルも兼ねていて、普通の日本企業のオフィスも入居しています。その意味では建物自体は大使館とは関係ない日本人も出入りしています。
▲カナダ大使館のビルの1階でセキュリティチェックを受けた後はエスカレーターで一気に4階へ上がります。そこから先がカナダ大使館のエリアになっています。
どんな展覧会が見られる?
カナダ大使館では館内の公共施設を公開していて、誰でも自由に見学することができます。
カナダ・ガーデン
4階でエスカレーターを下りてまず目に入るのがカナダ・ガーデン。
▲カナダの広大な国土を模した庭園に彫刻作品が展示され、その眺望も相まってなんとも贅沢な空間です。
▲赤坂御所の緑、近代的な草月会館のビルを借景にしています。
▲海と波を表現したような彫刻作品も。
高円宮記念ギャラリー
カナダ・ガーデンやエントランスホールの後はエレベーターで地下2階へ。
▲カナダへの留学経験もあり日本とカナダとの友好に尽力した高円宮を記念したギャラリーがあって、ここでは絵画や写真などカナダ人アーティストの展覧会をほぼ常時開催しています。
高円宮記念ギャラリーでの展覧会でカナダ大使館を訪れたことがある方も多いのではないでしょうか。
また、広い地下2階のエレベーターホールにもカナダ人アーティストの作品が展示されています。
オスカー・ピーターソン・シアター
カナダのトロント出身のジャズ・ピアニスト、オスカー・ピーターソンの名を冠した「オスカー・ピーターソン・シアター」も地下2階です。
▲この劇場では映画の上映、音楽のライブなども行われるので、ここも足を運んだ方が多そうな場所です。
それにしても、大使館内にギャラリーや劇場があるというのはすごいです。
E・H・ノーマン図書館
地下2階にはもう一つ、E・H・ノーマン図書館という図書館があって、ここも自由に見学可能です。
セキリュティの高さは?
館内は誰でも自由に見学できて、特に予約も必要ありません(シアターでのイベントは席数が限られるので事前申込が必要です)。
訪問に際して必要なものは政府発行の写真付き身分証明書。つまり運転免許証やパスポート、マイナンバーカードです。
1階で書類のチェックと荷物のチェックそれとボディチェックが行われ、問題なければエスカレーターで4階のエントランスへ上がり、あとは自由行動です。大使館ですのでさすがに立ち入り禁止区域へ立ち入らないような配慮は必要です。
基本情報
駐日カナダ大使館
見学可能日時:平日 10:00 − 16:00 |
チェコ共和国大使館
東欧の大国、チェコ共和国の大使館は広尾の日赤通り沿い。
1989年のビロード革命以前はチェコスロバキア社会主義共和国の大使館でしたが、1993年にチェコ共和国とスロバキア共和国に別れ、チェコ共和国が大使館を引き継いでいます。
実はチェコ大使館には簡単には入れませんが併設する「チェコセンター東京」のギャラリーで展覧会が開催され、誰でも見学可能になっています。
どこにある?
日赤通りといっても明治通り側の端の方で、近隣の人かタクシーくらいしか通らない閑静な住宅街です。
広尾の駅から徒歩10分弱。意外と交通の便が良い場所です。
どんな建物?
「駐日チェコ共和国大使館の建物は、建築家のイジー・ロウダ氏およびイヴァン・スカーラ氏が、クヴィーズ氏とコトルボヴァー氏との協力により設計した案に基づき、1975年から1977年にかけて建てられました。
チェコスロヴァキアで栄えたブリュッセル様式の名残が感じられる、ブルータリズム形式の建築となっています。」
(チェコ共和国大使館HPより抜粋)
▲日本でチェコの建築と言えば、1948年から1973年まで日本に在住し日本の近代建築を築いたチェコ人建築家アントニン・レーモンドがまず頭に浮かびます。
今でもそのDNAは株式会社レーモンド設計事務所として脈々と受け継がれています。チェコ共和国大使館の設計にはレーモンド事務所も協力をしています。
▲日赤通りから向かって左がチェコ大使館、右がチェコセンターです。
▲チェコ(Czech)の頭文字 ”C” を象った意匠があちこち使われているオシャレな建築です。
どんな展覧会が見られる?
チェコの現代アート、デザイン、大衆文化など様々な展覧会が開催されています。
なかなか触れることのできないチェコ文化を知る機会でもあるので私たちは頻繁に訪問しています。チェコの初代大統領のヴァーツラフ・ハヴェルは戯曲家としても高名で、そんな人物が大統領になるくらいの文化大国ですから。
セキリュティの高さは?
チェコセンターは大使館ではないのでセキュリティといえばオートロックだけです。
身分証明書の提示、ボディチェックなどはありません。
ドアホンで(日本語で)見学の旨を申し出れば入館できます。勝手にエントランスホールから地下のギャラリーへ下りて問題ありません。
またエントランスホールにはセルフのコーヒーコーナーもあって、コーヒーを飲みながら用意されているチェコ関連の書籍や資料を閲覧できます。
大使館過去のチェコセンターの展覧会記事▼
基本情報
駐日チェコ共和国大使館・チェコセンター
見学可能日時:平日 10:00 − 19:00 |
ブラジル大使館
南米の大国、ブラジル大使館は通常は入館できませんが、時おり展覧会などが開催され、その際はほぼ誰でも自由に鑑賞可能です。
どこにある?
ブラジル大使館の場所は北青山。キラー通り(外苑西通り)からちょっと入った場所です。近隣にはオシャレなカフェやブティックなどもある、キラー通りらしいオシャレな雰囲気のエリアです。
どんな建物?
大きく円弧を描くモダンな建物はブラジルの建築家ルイ・オオタケの手によるもの。
▲オレンジの壁とブルーのエントランスがサッカーブラジル代表のユニフォームみたいで良いアクセントになっている建物ですが、本来オレンジの壁にはいつもブラジル人アーティストによる壁画が描かれていて、これも見どころのひとつです。
設計者のルイ・オオタケは日系ブラジル人建築家。母親は日本からブラジルに移住してアーティストとして活躍したトミエ・オオタケ(大竹富江)、彼女の作品も館内に展示されています。
▲2023年の壁画はブラジルの女性壁画家でビジュアルアーティストであるハンナ・ルカテッリ(Hanna Licatelli)の作品です。渋谷のマークシティの橋脚にも作品が描かれているので、似た作品を知らずに目にしているかも。
▲館内のエントランスホール。
この窓ガラスに描かれているのは日系ブラジル人アーティスト、大岩オスカールの作品です。外から見ても楽しめる作品ですから、通りかかったときにでもじっくり見てみてください。
▲展覧会が開催されるのは大使館地下のスペース。
大きな部屋が2つあって、「マナブ・マベ 文化の広場」と「オオタケ・トミエ スペース」。どちらも日系ブラジル人アーティストの名前を冠していて、実際に作品も展示されています。
どんな展覧会が見られる?
最近ではフランス出身でブラジルで建築家、デザイナーとして活躍し、オスカー・ニーマイヤーにも比肩する作品を残したリナ・ボ・バルディの展覧会が開催されていました。
やはりブラジル文化を紹介する展覧会が多いようですが、開催回数としてはあまり多くないようです。
セキリュティの高さは?
入り口には警備室もあり普段は厳しくチェックしているようですが、展覧会開催時は警備室で鑑賞の旨を伝えれば入館できます。
身分証明書の提示、ボディチェックなどはありません。
過去のブラジル大使館の展覧会記事▼
基本情報
駐日ブラジル大使館
見学可能日時:展覧会による |
アメリカ合衆国大使館
赤坂・溜池のアメリカ大使館はセキュリティ的にはここで紹介した大使館の中ではダントツで厳しいです。
ビザの面接などで訪れたことがある人は分かると思いますが、非常に厳重かつ厳格なチェックを経て入館します。
また周辺の日本の警察による警備も厳しく、建物に向かってちょっとカメラを向けただけで警官が飛んできて制止されるくらいです。
パーティーやビザなどで入館しても撮影禁止、公式カメラマンに撮影してもらったとしてSNS等インターネットでの公開は不可なので、誰でも入れるアメリカ大使公邸とアメリカ大使館職員宿舎を紹介します。
どこにある?
アメリカ大使館は六本木通りの溜池交差点近く。
周囲はオフィス街でインターシティAIR、赤坂ツインタワー(改築中)、オークラ東京など高層ビルが立ち並んでいます。
そして大使公邸は大使館と隣接しています。
▲またアメリカ大使館職員宿舎は六本木2丁目、赤坂氷川神社前の広大な敷地です。
写真中央に写っている白くて四角いレゴブロックみたいな建物とその周辺一帯が大使館職員宿舎です。
どんな建物?
アメリカ大使館職員宿舎はアメリカの建築家ハリー・ウィーズ設計によるもの。
▲近くで見るとランダムに配置されたかのような窓などかなり前衛的な造形だということが分かります。
なお、これは以前撮影撮影したもの。現在は敷地内は撮影禁止になっています。
▲高層部の他に低層の建物もあって、こちらはアメリカのどこかの街並みみたいです。
もちろん敷地内では自動車は右側通行です。
大使館職員宿舎
大使館職員宿舎に入れるのは通常なら年に2回。春のガレージセール、秋のフレンドシップデーです。
ただ米大統領の来日など大使館が忙しい時期は開催をキャンセルすることがあります。
フレンドシップデーはパンデミックの影響もあって何年も開催されていませんし、2023年の春のガレージセールはG7があったためか開催未定になっています。
ガレージセールの場合は先着順の申込で入場は無料。フレンドシップデーの場合は有料のチケットを購入しての入場になります。
ガレージセールはアメリカのガレージセールそのままで異動で日本を離れる職員が不用品を出店していたり、子どもたちが手作りのお菓子を売っていたりする楽しいイベンです。
フレンドシップデーはパレードが行われたり屋台が出たりで、まさに日米友好のイベント。どちらも機会があったら参加してみてください。
アメリカ大使公邸
大使公邸の方は港区が毎年春に実施する「大使館めぐりスタンプラリー」の際、大使公邸に入れるイベントがあるのでこちらも参加してみると良いでしょう。
ただしこちらも内部での撮影は禁止です。そのため一枚も写真はありませんが、1931年に竣工した大使公邸の設計はH・ビュレン・マゴニーグルとアントニン・レーモンドです。レーモンドは庭園設計にも携わっています。
中央に大きな庭園を配し、庭園には噴水があります。2001年には在外資産として、米国国務省の重要文化財として登録されています。
▲アメリカ大使公邸見学の際に胸に貼る大使館見学者シール
セキリュティの高さは?
アメリカ大使館への入館は身分証明書の提示、ボディチェックがあります。携帯電話は1台だけ持ち込み可能。パソコンや大きなバッグ、ドリンクも含む食料品の持ち込みは禁止です。飛行機の保安検査より厳しいと思ってください。
大使館職員宿舎のイベントの際は身分証明書と持ち物検査それと簡単なボディチェックがあります。これは飛行機の保安検査と同レベルかそれよりちょっと緩いくらいです。
ただいずれにしてもその時の世界情勢にも左右されるので、イベントの注意事項や大使館からの指示に従ってください。
過去のアメリカ大使館関係のイベント情報▼
基本情報
駐日アメリカ合衆国大使館
アメリカ合衆国大使館職員宿舎 港区六本木2丁目1−1 MAP 入場可能日:春のガレージセール、秋のフレンドシップデー (ともに開催は不定期) |