六本木西公園のすぐそばにある1964年竣工のモダニズム建築をご存知でしょうか。前川國男建築設計事務所のOBで事務所在籍中は前川の代表作の一つ東京文化会館などを担当した建築家の大高正人設計の鉄筋コンクリート造、地下3階・地上6階建てのビル「全日本海員組合本部会館」です。
この貴重なモダニズム建築が、取り壊しをするか否かで長い間揺れていたのはあまり知られていないかもしれません。しかし、このほど解体をせず竣工時に近い状態に改修工事を施して存続されることが決定しました。
大高正人の師である前川國男設計の丸の内のオフィスビル東京海上日動ビルは、多くの反対の声があったにもかかわらず2022年から解体工事が始まりました。そんな悲しいニュースが流れる中で、この大高正人設計の全日本海員組合本部会館存続のニュースは、嬉しい一報です。
このブログでは、その工事の様子をこれから工事終了まで定点観測していきたいと思います。
PR全日本海員組合本部会館
全日本海員組合とは、日本の海事関連産業で働く人々でつくる日本で唯一の産業別労働組合です。ここには、その組合の本部機能があり、通称海員ビルと言われています。実際、ビルの塔屋には「海員ビル」と掲げられていました。
実は、この建築の存在を知ったのは偶然で、西麻布からミッドタウンへ向かう時に使う通り沿いに建っているのですが、幾度もビルの前を通っていましたが、ある時ふと気づいたのです。このビルなんだかとってもイカしているじゃないかと。
そこで、すぐに誰が設計したのかを調べたところ大高正人が設計したした60年代の建築であることがわかりました。
大高正人
大高正人は、前川國男建築設計事務所出身で、千葉県文化会館で日本建築学会賞受賞し、坂出人工土地、千葉県立中央図書館、市営基町高層アパート・県営長寿園アパートがDOCOMOMOに選出されています。
また、黒川紀章、菊竹清訓、槇文彦、粟津潔、川添登らと共に1960年に戦後の日本で最初の建築思想であり建築運動であったメタボリズム・グループを結成しています。
そんな大高正人が前川國男建築設計事務所から独立して自身の大高建築設計事務所を設立したのが1962年なので、1964年竣工の全日本海員組合本部会館は、独立してすぐの仕事だったことがわかります。
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解体か改修か
これまで海員ビルは、会員によって大切に使われてきました。しかし、年月の経過と共に老朽化や耐震問題で、築40年を過ぎた頃から建て替えの話が浮上します。しかし、新しく建て替えるとなると、現状の延床面積よりも大幅に床面積が減ってしまうことがわかり、結論は先送りとされてきました。
そんな折、2016年に国立近現代建築資料館で開催された「社会と建築を結ぶ–大髙正人の仕事」展の開催により、現存する貴重な大髙正人建築として海員ビルが取り上げられました。
そして、海員ビルで大高雅人に関するシンポジウムが行われ、海員組合もこのビルの価値と改修工事によって存続の可能性があることを知るわけです。その翌年には、海員ビルも大高正人建築3つ目のDOCOMOMOに選ばれます。
その後、大高建築設計事務所OBの野沢正光が担当して改修工事がなされることが決まりました。
展覧会の開催は、建築や建築家を再評価し、その価値や偉業を多くの人に知らしめる事ができる、有意義な機会である事が証明されたとても重要な出来事です。
2023年1月改修工事スタート
改修工事は2023年1月から約2年間かけて行われます。
施工は竹中工務店、改修工事の設計は大高建築設計事務所OBの野沢正光です。
2023年3月下旬
▲どんどんファサードが囲われ建物が見えなくなってきていますが、まだちょっとだけ見えています。
▲北側がすっかり囲われていますが頭隠して尻隠さず? 南側にあたる六本木通り側からは今まで通りの海員組合ビルが見えています。
(首都高の向こう側の学校の校舎みたいなビルが海員組合ビルです)
こちら側から見ると改修工事をしているようには見えません。北側、南側に分けて工事をするのか、それとも南側もこれから囲われていくのでしょうか。
(トラックが走る六本木通りのこちら側の空き地は麻布警察署跡地です)
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2023年3月中旬
▲ファサードがどんどん囲われ、全体を見られるのはもう今のうちしかありません。
▲見えているのは西側のここだけ。ここも囲われたら本格的に改修工事がスタート。しばしのお別れです。
2023年3月
▲ファサードの一部が囲われていました。
▲塔屋の解体をするようなので、瓦礫の動線でしょうか。
2023年1月
▲2023年1月仮囲いに覆われて工事がスタートしました。
▲頻繁に工事車両の出入りがあります。足場が組まれて外観が見えなくなる日も近そうです。
▲六本木通り側からの様子です。塔屋には足場が組まれていて見えなくなっています。
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これから、工事が終了するまで定点観測を続ける予定です。
定期的に様子をアップしていきますのでよろしくお願いします。
工事が終了して再生した海員ビルの姿が見られる日が今からとても楽しみです。
大高正人が担当した東京文化会館▼
基本情報
全日本海員組合本部会館
港区六本木7丁目15−26 MAP |