私が香港のM+(エムプラス)を訪れた最大の理由は、日本のデザイナー倉俣史朗(くらまたしろう)が内装デザインを手がけた新橋の寿司屋「きよ友(きよとも)」と倉俣史朗コレクションを見る為です。
「きよ友」がまだ新橋にあった頃からその存在は知っていましたが、すでに寿司屋としては閉店しており、日本で内部を見ることはかないませんでした。
それが、香港にできる新しい美術館にコレクションされたと聞いたのは、「きよ友」の解体前、2014年に関係者によるお別れ会が開かれた時だったと思います。(参加してませんが)
というわけで日本では見られなかった倉俣史朗の伝説の寿司屋、海を渡った「きよ友」を香港まで見に行ってきました!
このブログでは、きよ友とM+で見られる倉俣史朗作品について、そのデザインについての評論や解説ではなく、個人の感想とわざわざ日本から訪れるなら、その前に知っておきたい情報をまとめました。
スポンサーリンクM+の「きよ友」
「きよ友」は1988年11月に倉俣史朗のデザインで新橋にて開店したおすし屋さんです。
2004年に閉店後、10年間人の目に触れることなく保存されていました。
保存していたのはイギリスの出版社ファイドンの元社長です。
当初は再び寿司屋をオープンするつもりだったそうですが、一度も店舗として復活することはありませんでした。
2014年に保管されていた「きよ友」を丸ごとM+がコレクションすることとなり、当時の施工を担当した施工会社イシマルによる移設プロジェクトが始まったのです。
修復しつつ解体されて、香港に渡った「きよ友」をそっくりそのまま移設する時、厳しい規制のかかったコロナ禍と重なり、それはそれは大変だったと聞いています。
日本から渡った職人さん達は、ホテルと美術館の往復だけで、全く街に出られなかったとか。その苦労話は涙ものです。
この移設が寸分狂わず成功したのは、イシマルの当時の施工を手がけた職人さん達あってのことです。
コロナ禍に行われた移設の裏話を耳に挟みつつ、M+に到着して最初に向かったのは「きよ友」です。
きよ友はM+のどこにある?
M+の展示室は主に2階です。「きよ友」があるのも2階です。2階は全面的に有料のエリアでチケットがないと入れません。
2階のEAST GALLERIESに「きよ友」はあります。
この展示室は「Things, Spaces, Interactions/Design and architecture from Asia and beyond」と展示室前に書かれていました。
EAST GALLERIESと言っても7つの展示室で構成されているので、いきなり「きよ友」があるわけではありません。
緩く区切られた7つの展示室の6番目、要するに後半にあります。
M+のきよ友の中に入れる?
「きよ友」は暖簾をくぐって、1mちょっとしか入ることはできません。
柵があってそこから内部を眺めるという鑑賞になります。
椅子に座ったりできたらいいのですが、残念ながらほぼ内部には入れないと言っていいでしょう。
また、私の訪問時は人がいなかったので、並ぶことはありませんでしたが、行列用のベルトポールパーティションが用意されていました。
そこにあったパネルには「同時に中に入れるのは3人まで」そして、「30秒」という衝撃の言葉が!
日本からわざわざ訪れて30秒しか見られなかったら泣きます。
どうしても再度見たければ並び直せばいいのでしょうが、急かされるのは嫌ですよね。
私は平日の午前中の訪問だったので、特に列もなく、中に居たいだけ居ることができました。←ここ重要
「きよ友」専用の監視スタッフがいて、誰かが入ろうとすると私に出るように声を掛けてくれて、その人が出たらまた入ってずっと中に居る、というのを繰り返しました。
せっかく見るなら平日に訪れることをお勧めします。←ここも重要
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M+きよ友の記録映像
「きよ友」横の壁には、関係者によるインタビューや移設の記録映像がループで流れています。
すでに亡くなっている三保谷硝子の三保谷さんやクラマタデザイン事務所出身のデザイナー五十嵐久枝さんの言葉はきよ友のお別れ会の時のものだと思います。
また、施工を担当した職人さんのインタビューも見ることができます。
M+関係者と磯崎新以外は当然ですが、日本語で話しているので内容は理解しやすいです。
実はこの映像Youtubeでも見ることができます。
ですから訪問する前に見ていくことが可能です。
私は事前に見ていましたけれど現地でもしっかり鑑賞しました。
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M+の倉俣史朗コレクション
M+にコレクションされている倉俣史朗の作品は「きよ友」だけではありません。
倉俣史朗デザインの家具や照明もコレクションされており「きよ友」と同じ空間に展示されています。
ミスブランチとオバQ
倉俣史朗といえば外せないのは「Miss Blanche/ミスブランチ」です。
M+にもちゃんと1脚コレクションされていました。
ミスブランチと共に同じ展示台にあったのは、現在も購入可能な照明の「ランプ」こと「オバQ」です。
他に、フラワーベースの「Ephemera/エフェメラ」や「5本針の時計」、サイドテーブルの「Placebo」などが並びます。
M+は現在、複数の倉俣史朗コレクションを所蔵していますので、展示内容は今後変更される可能性があります。
また、今後も倉俣史朗コレクションを増強させるという話もあるので、この展示室もどんどん充実していくかもしれません。
▲「引き出しの家具」はかなり年季が入ったものでした。
世田谷美術館の「倉俣史朗 記憶のなかの小宇宙」に出品されているのは1990年代に制作されたものでしたが、こちらは1967年当時のもののようです。
M+の倉俣史朗「きよ友」を見て
自身も多くの倉俣史朗コレクションをお持ちで、国立のデザインミュージアム創設を訴えつつも実現することなく、昨年この世を去った三宅一生さんはM+についてどう感じてらっしゃたでしょうか。
また、「インテリアデザインは、消えてなくなるからいい」と言っていた倉俣史朗は、「きよ友」が美術館の、しかも海外の美術館のコレクションとなり、香港に移設・保管されていることをどう思っているのでしょうか。
やっぱり、倉俣史朗のデザインの価値をきちんと評価し、保存すべきは日本だったのではなかろうかと思わずにはいられません。
浮世絵以来の日本文化の海外流失と捉えても違和感がないとさえ思えます。
そもそも2004年に「きよ友」が閉店し、その後、店を保管していたのは日本人ではなくイギリス人でした。そう考えるとすでに2004年から倉俣史朗の大事な仕事は海外に渡っていたと言えるのかもしれません。
香港のM+で倉俣史朗を初めて知る日本人も少なからずいるでしょう。
M+で美術館の作品として「きよ友」を鑑賞し、これは由々しき事態なのではないだろうかと感じました。
そうならないようにこれから我々がどうしたらいいのか、どうあるべきなのかを考えるいい機会、いい出来事だと捉えたいですね。
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基本情報
M+
月曜休館 チケット:一般 HKD 1200、学生・7〜11歳・60歳以上は HKD 60 West Kowloon Cultural District, 38 Museum Drive, Kowloon, Hong Kong MAP |