2023年11月から東京の世田谷美術館で開催される「倉俣史朗のデザインー記憶のなかの小宇宙」展は実に30年ぶりとなる東京での倉俣史朗展になります。(世田谷美術館での展覧会は終了しました。)
倉俣史朗(くらまたしろう)は20世紀を代表するデザイナーと言っても決して大袈裟ではないでしょう。たとえ倉俣の名前は知らなくても、もしかしたら通称《オバQ》こと照明のK-SERIESや倉俣史朗がデザインした数々の名作家具の中でも最も有名な椅子《ミス・ブランチ》をどこかで目にしたことがあるかもしれません。
また、高松次郎や三宅一生など著名なアーティスト、デザイナーとの協働も少なくありません。特にイッセイミヤケの店舗をはじめとするショップのインテリアデザインはデザイン史に残るような伝説的な仕事が多くあります。(”ありました。” と過去形の方が正しいかもしれません)
香港のM+ミュージアムに新橋のお寿司屋さん「きよ友」が、そっくりそのままコレクションされ話題になったのは記憶に新しいところです。しかし、残念ながら「きよ友」のようなレアなケースをのぞき、現存する倉俣史朗が手がけた空間はごくわずかです。
現存する貴重な空間のひとつ静岡県のバー「CoMbLe コンブレ」は、クラマタデザイン事務所出身スタッフによる改修の手が入っているものの、ほぼ竣工時の状態で現在も営業を続けていらっしゃいます。
赤坂のお寿司屋さん「梅の木」は、残念ながらつい最近閉業してしまいました。
また、公立美術館での個展は2013年の埼玉県立近代美術館での「浮遊するデザイン 倉俣史朗とともに」以来10年ぶりです。あれから、そんなに経つのですね。
このブログでは倉俣史朗のプロフィールと、代表作ミス・ブランチや照明「ランプ/K-series(オバQ)」などについてどこよりも詳しく紹介します。
さらに世田谷美術館での展覧会を見に行く前に知っておきたい情報、いつでもみられる倉俣史朗デザイン、倉俣史朗を取り上げるテレビ番組情報など、今後も追記しながら書いていきたいと思います。
スポンサーリンク倉俣史朗のデザイン
倉俣史朗の仕事の多くは、既成概念から解放され、夢の境地に誘われるかのようなデザインです。柔らかなカーブが描かれた引き出しの家具や、透明な硝子の椅子は虚実の境界をぼんやりと漂わせ、どこか幻想的です。
倉俣はインテリアデザインや家具など素晴らしいデザインを数多く世に送り出しました。
1960年代半ばから様々な店舗の内装を手掛けますが、そうした店舗には高松次郎や田中信太郎、横尾忠則など美術家やデザイナーとのコラボレーションも少なくありません。
アーティストとデザイナーのコラボレーションは今では決して珍しくはありませんが、当時としては非常に革新的でした。
その活動は世界中で注目され、1981年にはミラノのデザイン集団「メンフィス」に加わるなど、国際的にも成功を収めました。
その後も倉俣史朗はオリジナリティあふれる独創的なデザインを生み出します。
最も有名なのは、透明なアクリルの椅子にバラの花が浮遊する不朽の名作「ミス ブランチ」でしょう。映画でも知られるテネシー・ウィリアムズの戯曲「欲望という名の電車」のヒロインの名前が由来です。
倉俣はデザインで重力を打ち消し、浮遊することで自由を表現していたのかもしれません。
倉俣史朗のプロフィール
倉俣史朗(1934年~1991年)東京都文京区本郷出身
東京都立工芸高等学校卒業後、桑沢デザイン研究所のリビングデザイン科を1956年に卒業。
三愛宣伝課、松屋インテリアデザイン室で経験を積んだ後、1965年にクラマタデザイン事務所を設立します。
亡くなったのは突然で1991年のことです。闘病していたわけではなく本当にいきなり帰らぬ人となりました。
死因は急性心不全、享年56歳です。
この訃報はデザイン界だけでなく、倉俣史朗を尊敬し敬愛する世界中の人々に凄まじいショックを与えました。
倉俣史朗の代表作ミス・ブランチ
倉俣のデザインで最も有名な《ミス・ブランチ》。今回の展覧会でもメインビジュアルになっています。
アクリルの中に無数のバラが浮遊する美しい椅子です。
世界にたった56脚しか存在しないこの椅子のバラは、倉俣史朗がひとつひとつの造花のバラの位置を決めているので、バラのレイアウトで言うと56脚全部が異なります。
ですから、全てが1点ものと言ってもいいのです。
同じ左側の側面を写した埼玉県立近代美術館(上)でのMiss Blanche/ミス・ブランチと高島屋史料館TOKYO(下)での写真を見比べてみると一目瞭然。
バラの置き方が全然違うのがわかります。
今回は、巡回先のひとつ富山県美術館所蔵のミスブランチが展示されるので、ここに写真を掲載した2つのどちらでもない、また別のバラの配置のミス・ブランチが見られるはずです。
そして、さらにさらに今回は複数のミス・ブランチを同時に見られそうです!楽しみです!←3脚のミス・ブランチが見られます!
ちなみに高島屋史料館Tokyoで出展されたミス・ブランチは当時クラマタデザイン事務所所蔵だったので、もしかしたら一番倉俣史朗のお気に入りであり、一番倉俣史朗本人が座ったミス・ブランチかもしれませんね。
アクリルはとっても重量があって重いのですが、実はこの椅子、脚の部分が座面のアクリルに空いている穴に刺さっているだけなんです。
アクリルと脚は接着されていないので、分解可能なのです。
初めて脚がすぽっと抜けるのを目の前で見た時は驚きました。
今回の展覧会では作品に手を触れてはいけないはずなので、試してみたりしないでくださいね。
そもそも大人一人では持ち上げられないくらいアクリルは重いのですが。
倉俣史朗の照明オバQ
倉俣史朗デザインの小物で一番有名なのは、照明K-シリーズこと通称《オバQ》ではないでしょうか。
この照明は現在もヤマギワで生産・販売されているので、自宅で倉俣デザインを楽しむことができる貴重な一品です。
オバQも初期の頃の一つ一つ手作りのものと、現在の大量生産品とではその形状が全く異なります。
▲商品化されている大量生産品は、布ドレープを表現しているアクリルの部分が型でできているので、全て同一のデザインです。
しかし、初期のオバQは倉俣史朗自ら工場へ出向きひとつひとつ、そのドレープのデザインを作っていたのです。ですから、1個1個ドレープのデザインが異なります。
1976年発行の作品集「倉俣史朗の仕事」の表紙を飾るのは、初代オバQです。シルエットが全然違うのがわかります。
この頃はまだ「ランプ」というタイトルでした。(写真の書籍は全て絶版しています)
▲左ページが置き型のもの、そして右が壁掛け型のものです。当時は壁掛けタイプもあったんですね。
今回展覧会に出品されるオバQも大量生産品ではない、70年代に制作された貴重なものが見られます。
そして、ミス・ブランチ同様に複数のオバQが見られのです。
現在のオバQのシルエットとの違いを実際に目で見て確かめてみてください。
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倉俣史朗 記憶のなかの小宇宙
まず、美術館内に入って最初に出迎えてくれるのは、座れる《How High the Moon》です。
館内に展示されているものは座るどころか触ることも禁止ですが、この《How High the Moon》は復刻版なので座ってOKです。
展示は、最初に自然光の入る大空間からスタートします。
ここの展示室には、太陽光を浴びても大丈夫な家具類が配置されています。アクリル系のものはUVに当たると劣化しますので、この展示室には展示されていません。
砧公園の緑を背景に倉俣史朗の代表作の一つである《How High the Moon》や《スターピース》のテーブルなどが並びます。
写真撮影について
この自然光の入る最初の展示室だけが写真撮影が可能です。他の展示室は残念ながら撮影禁止です。
展覧会はプロローグから始まり、1章から4章まで、そしてエピローグで終わります。
この展覧会では、純然たる時系列で倉俣史朗の仕事を見ることができるので、倉俣史朗を初めて知る人にはもちろんのこと、よーく知ってる人でも、どのような流れで倉俣史朗のデザインが移り変わっていくのかを知ることができる展示構成です。
▲第1章 視覚より少し奥へ1965-1968 、第2章 引き出しのなか 1969-1975
壁面の奥に見える額装作品は、リリカラから当時出ていた倉俣史朗デザインの引き出しの壁紙です。その右隣には透明のワゴン《プラスチックのワゴン》(1968年)と透明の洋服ダンス《プラスチックの洋服ダンス》(1968年)です。
どちらも2008年に再制作されたものですが、60年代にこの家具がどんなに斬新で鮮烈だったかは想像に難くありません。
また、この展示室では、階段が印象的な山荘Tの図面など、当時の貴重な資料も展示されています。
▲《オバQ》の大小、そして《光の椅子》、《光のテーブル》。
左側のオバQ(大)は、現在でもヤマギワにて購入可能な型のものです。
床の設置面が一様でドレープも規則的です。しかし、オバQの小は倉俣史朗自ら工場に行ってドレープを作った大変貴重なものなので、ドレープが自然で不規則です。そのあたりに注目してみてください。
▲第3章 引力と無重力 1976-1987
《硝子の椅子》が2脚も!
西麻布にある最近は杉本博司御用達の三保谷硝子が制作したガラスの椅子です。
ガラスを接着するフォトボンドが開発されたことにより実現した椅子です。
ヨゼフ・ホフマンへのオマージュVol.2の点灯について
通常の展示では椅子の豆電球は消灯しています。
▲毎週末、時間限定で点灯するだけです。しかし、点灯している動画が常時流れているので、安心してください。
もし光っているところを見られたらラッキー!です。
点灯が時間限定であるのには理由があります。
それは、電球が切れてしまうと、もう当時の電球が入手不可のため、光らせる事ができなくなるからです。
この椅子を所蔵している武蔵野美術大学は、点灯時間を綿密に計算して保管しているそうです。
<ヨゼフ・ホフマンへのオマージュVol.2点灯予定>
12/10(日)、12/16(土)、12/24(日)、2024年1/6(土)、1/14(日)、1/20(土)、1/28(日)
13:00と16:00 に15分間
▲第4章 かろやかな音色1988-1991
ここで注目すべきは3脚のミス・ブランチです。
巡回先である富山県美術館所蔵のもの、倉俣史朗のアーカイブをまとめて所蔵することになったアーティゾン美術館所蔵のもの、生前倉俣史朗が御用達だった施工会社イシマル所蔵のものの3脚です。
どうせなら大阪の中之島美術館、埼玉県立美術館、武蔵野美術大学からも借りてくれば6脚のミス・ブランチが見られたのに!と思ってしまったのは欲が出過ぎですね。また、展示室だけで満足して帰宅してはいけません。
世田谷美術館担当学芸員さんによる解説動画。
とても簡潔に倉俣史朗の家具の魅力を伝えています。▼
倉俣史朗が語る貴重映像
ミュージアムショップの奥で生前の倉俣さんが語る貴重映像が流れています。
1989年11/9収録 国立装飾美術学校(パリ)21分
倉俣さんの肉声を聞くことができる映像がループで流れています。必見!
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「倉俣史朗のデザイン―記憶のなかの小宇宙」ミュージアムグッズ
そして今回はなんと!これまで商品化することのなかったポストカードをはじめとした様々なミュージアムグッズが購入できます!
全てクラマタデザイン事務所公認の倉俣史朗オリジナルミュージアムグッズです。
ではミュージアムグッズを一挙にご紹介します。
▲展覧会図録は3300円。これは買いです!私は熟読してから展覧会を再訪予定です。
▲ミス・ブランチとスターピース模様の箱入り京飴1296円
▲スターピースのハンカチ。硬いテラゾーが柔らかいハンカチになっていいるというギャップ萌えグッズです。即購入しました!
▲なんと和三盆の落雁まで!
▲ミス・ブランチのポーチも!1980円。中に何を入れようか!?
▲3種類ある一筆箋
▲クリアファイルの数々。
▲卓上カレンダーは当然2024年のものです。マスキングテープも種類豊富にあります。
▲ノートとブロックメモはどちらも770円。
引き出しの家具のブロックメモは、中身も引き出し同様に大きさがグラデショーンになっています。
▲キーホールダーとマスキングテープ。
まさか、ミス・ブランチや倉俣史朗の家具がマスキングテープになる日が来るとは!
▲アクリルのマグネットと缶バッジ。
▲スターピース模様のTシャツ。
▲なんと倉俣さんご本人の似顔絵Tシャツまで!
▲エコバックは3種類。
▲ポストカードもたくさん種類があります。
代表的な作品のポストカードは切り抜きになっています。
何を買ったらいいか迷うグッズがたくさんありました!
横向きになってるけれど、ガラスの椅子までカードに!
本来は、没後30年の時に開催予定だった個展ですが、コロナにより延期されようやく開催となりました。そして、2013年の埼玉県立美術館の展覧会以来10年ぶりに倉俣史朗の仕事の数々をまとめて見ることができて本当に感無量です。
倉俣史朗特集の雑誌
いつでも見られる倉俣史朗デザイン
残念ながら倉俣史朗の内装デザインの仕事は、現存する空間がかなり限られています。
しかし、そんな中で東京でいつでも見られる倉俣史朗のデザインを紹介します。
六本木のブリヂストンの関連会社アクシスが運営するAXISのテラスの階段のデザインは倉俣史朗です。
本当に美しいですね。惚れ惚れします。上からも美しいですが、真横からも下からもどこから見ても美しいです。
また、同じくブリヂストン財団が運営する京橋のアーティゾン美術館には倉俣史朗の貴重な椅子の数々が見られるばかりか、座ることもできちゃうんです!
盟友田中信太郎さんの作品と一緒に展示されています。
アーティゾン美術館にある《ガラスのベンチ》は、1986年に当時のブリヂストン本社ショールームのために倉俣史朗がデザインしたものです。ですから、ここでしかみられないとっても貴重な椅子なのです。
アーティゾン美術館について▼
展覧会を鑑賞する前に予習をするなら▼
世田谷美術館会期終了
世田谷美術館での倉俣史朗展は57日間の会期で4万3千人以上の来場者だったとか!没して尚、人気の倉俣史朗のデザインが、普遍的な物であることがこの状況でよくわかります。次回巡回は富山県美術館です。
富山では展覧会図録の表紙の色がブルーになるとか、ミスブランチを撮影可能するとかいろいろ噂を耳にしています。
レクチャー
富山県美術館でもセミナーが開催予定です。
講師:近藤康夫(インテリアデザイナー)、野田雄一(ガラス工芸作家)
2024年3月7日 富山美術館3階ホール 15時〜16時半
事前申し込み、先着順 申し込み専用フォーム
世田谷美術館の講演会は終了しました。▼
「倉俣史朗のデザイン―記憶のなかの小宇宙」展関連イベントとして講演会「今、倉俣史朗を振り返る」が開催されます。
クラマタデザイン事務所出身でインテリアデザイナーの近藤康夫が知られざる倉俣史朗について語ります。必聴です!
2023年12月3日(日) 午後3時~午後4時30分
先着140名 ※当日午後2時より講堂前にて整理券配布、参加無料
巡回予定
世田谷美術館の後は富山と京都を巡回します。
富山県美術館 会期:2024年2月17日(土)~2024年4月7日(日)
京都国立近代美術館 会期:2024年6月11日(火)~2024年8月18日(日)
TV番組情報 アンコール放送決定!
NHK日曜美術館で倉俣史朗特集です!
アンコール放送決定!
放送日:2024年3月3日(日)9:00〜 再放送3月10日(日)20:00〜
放送日:2023年12月10日(日)9:00〜 再放送12月17日(日)20:00〜(終了しました)
いろいろ見逃せません!
基本情報
倉俣史朗のデザインー記憶のなかの小宇宙
10:00~18:00 月休、12/29~1/3、1/8開館し1/9日(火)休館 倉俣史朗展チケット:一般 1,200円/65歳以上 1,000円/大高生 800円/中小生 500円 「日時指定券」販売中 世田谷美術館 東京都世田谷区砧公園1−2 MAP アクセス:世田谷美術館までのアクセスはこちらから |