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今だからこそみておきたい 軽井沢 リヒター・ラウム 特別企画展「ゲルハルト・リヒター 《ビルケナウ》(フォト・バージョン)」


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20237月に軽井沢にオープンしたゲルハルト・リヒター作品の常設スペース「リヒター・ラウム/Richter Raum」が開館1周年を記念した特別企画「ゲルハルト・リヒター 《ビルケナウ》(フォト・ヴァージョン)」展を開催しています。

“Richter Raum” Wako Works of Art, Photo by 建築とアートを巡る

リヒターの集大成とも言える作品「ビルケナウ」を2024年の今、もう一度という特別企画展です。

この作品が日本で初公開されたのは2022年に竹橋の東京国立近代美術館で開催された《ゲルハルト・リヒター展》のとき。

今回はそのフォト・バージョンということになりますが、《ゲルハルト・リヒター展》を見逃した方やもう一度見てその意味を考えたい方はぜひ軽井沢のリヒターラウムまで足を運んでみてはいかがでしょうか。

会期は2024年1031()まで、料金は一般 1,200円で事前予約が必要です。
(当初の9月28日から10月31日まで会期が延長になりました)


リヒター・ラウム

会場となるリヒター・ラウムは六本木のピラミデにギャラリースペースを持つ「ワコウ・ワークス・オブ・アート」が運営する、リヒターの作品だけを常設展示するスペースで、20237月にオープンしたばかり。

ケルンのアトリエ・リヒターにそっくりな空間でリヒターの作品を心ゆくまで堪能することができる特別な部屋というような意味です。

“Richter Raum” Wako Works of Art, Photo by 建築とアートを巡る

この建築はリヒターのアトリエ(アトリエ・リヒター/Atelier Richter)を約2/3に縮小し、部屋の構成や内装、窓の大きさやデザインをほぼ忠実に模して建設されています。

施設内には展示室が2室、そして中庭は「ストリップ・スカルプチャー・カルイザワ」という、軽井沢の地のために制作されたリヒター初めての屋外彫刻作品が展示されています。

リヒター・ラウムの情報についてはこちらの記事をどうぞ。

ゲルハルト・リヒター ビルケナウ(フォト・バージョン)

ビルケナウとはナチスが最終処理と称してユダヤ人を強制的に集め収容した「アウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所」が存在した村の名前。

その強制収容所で労務に徴用された囚人、ゾンダーコマンドの中にはカメラや筆記具などで収容所内の様子を命がけで記録する者もいて、その残された記録の中にはナチスがユダヤ人の遺体をゾンダーコマンドに焼却処理させる写真などもあります。

BIRKENAU(Photo Version), Gerhard Richter, 2015/2020, Photo by 建築とアートを巡る

▲2014年、リヒターはアレックスと呼ばれるゾンダーコマンドが隠し撮りした4枚の写真をもとに「ビルケナウ」を制作します。

写真の上に絵の具を塗り重ねた作品で、2022年に東京国立近代美術館の《ゲルハルト・リヒター展》で日本初公開されたのがその作品です。

そしてリヒターは「ビルケナウ」を原寸大で写真撮影してデジタル化し、それを「ビルケナウ(フォト・バージョン)」としました。

今回リヒター・ラウムでの《ゲルハルト・リヒター ビルケナウ(フォト・バージョン)》展ではその名の通り、「ビルケナウ」の写真プリントバージョンが展示されています。フォト・バージョンは他にはドイツ連邦議会議事堂やポーランド・アウシュビッツの「ビルケナウ・パヴィリオン」などにも展示されていて、軽井沢のは6バージョン目です。

このRaum-2には「ビルケナウ(フォト・バージョン)」と向かい合う形で「グレイ・ミラー(グレイの鏡)」が展示されていますし、アレックスが残した収容所内の写真のプリントも展示されています。

東京国立近代美術館では作品と作品の間が広めにとられていましたが、リヒターラウムではわずかな隙間しかとられていません。

また、向かいあうグレイミラーも1点のみなので、東京国立近代美術館の時と見え方が全然違います。

何より違うのは、美術館空間と違って、リヒターラウムではグレイミラーを挟んだ2ヶ所の窓から自然光が入り、木の葉が風にそよぐ様子が絵画のように切り取られています。

自然光で本当の「ビルケナウ(フォト・バージョン)」の色彩を、そしてリヒターの目に映るものと同じ状態の「ビルケナウ(フォト・バージョン)」を目にすることができる展覧会と言えるでしょう。

“Richter Raum”, Photo by 建築とアートを巡る

▲Raum-4には《ゲルハルト・リヒター ビルケナウ(フォト・バージョン)》展の続きが。

同じ手法で制作されたものなど関連性のある作品が並びます。

ZAUN(Fence), Gerhard Richter, 2010, Photo by 建築とアートを巡る

受付のあるRaum-1からRaum-4へ続くCorridor(回廊)にも同展の作品が展示されています。

これは「フェンス(ZAUN)」という写真作品。

リヒターが自宅近くを散歩中に撮ったらしい何気ないスナップ写真で、写っているのも普通の景色。

ですが強制収容所を思わせるフェンスでもありガザの分離壁を連想するものでもあり、世界の分断を象徴するようでもあり。この場で「ビルケナウ」と一緒に見ることで様々なことが思い起こされて、これを普通の写真として見ることができなくなってしまいます。

本展はウクライナ、ガザ、そして私たちが知らないだけで他の場所でも続いているだろう究極の暴力に対して「ビルケナウ」をもう一度、今度はリヒター・ラウムで見せたいというワコウ・ワークス・オブ・アートの思いにリヒターが応えて急遽実現した展覧会です。

ナチスの暴力やジェノサイドが唯一無二のものではなく繰り返される可能性もあることは昨今のニュースを見れば明らか。それだけに「ビルケナウ」は鑑賞者各々がそうした暴力を繰り返さないための道筋や行動を考えるきっかけとなることでしょう。

BIRKENAU, Gerhard Richter, 2014, 東京国立近代美術館  Photo by 建築とアートを巡る

こちらは2022年、東京国立近代美術館で日本初公開された「ビルケナウ」。

リヒター・ラウムのフォト・バージョンと同一サイズです。

東京国立近代美術館や豊田市美術館の「ゲルハルト・リヒター展」を見逃した方は言うまでもなく、片方あるいは両方見たけれど、アトリエ・リヒターと同じ空間でもう一度向かい合いたい方に強くお勧めしたい展覧会です。


ストリップ・スカルプチャー・カルイザワ

リヒター・ラウムの中庭の「ストリップ・スカルプチャー・カルイザワ(Strip Sculpture Karuizawa)

“Richter Raum” Wako Works of Art, “Strip Sculpture Karuizawa”, 2023, Photo by 建築とアートを巡る

この作品はリヒター・ラウムのためのリヒターの作品で、ここでしかみることのできない唯一無二の超大型彫刻作品で高さは5mもあります。

STRIP 8枚がガラスでカバーされ十字型に設置されています

“Strip Sculpture Karuizawa”, 2023, Photo by 建築とアートを巡る

オープンした昨年に比べると周囲の樹木が成長していました。今後も訪れるたびにその表情を変えるのだと思います。

ビルケナウ(フォト・バージョン)展について

《ゲルハルト・リヒター ビルケナウ(フォト・バージョン)》展の会期は2024525()から928()まで。

入館料は一般が1,200円、大学生が800円、中高生以下は無料です。また中学生未満の方は入場できません。

夏の軽井沢のハイシーズンと重なることもあって開館日はやや不規則なのため、予約ページから開館日を確認するのが確実です。

また入館枠も以前は1時間刻みでしたが今回は30分刻みです

鑑賞時間の目安

屋外作品含めて大小19点の作品が展示されています。

キャプションなどはありません。ただひたすらに作品鑑賞をする空間です。(ハンドアウトあり)

予約枠は30分刻みなのでその枠内に入館する必要があり、最大滞在時間は予約枠開始時刻から1時間。つまり鑑賞時間も最大1時間ということになります。特に自動車で訪問した場合は次の予約の方との兼ね合いもあって長居が難しい場合もあるそうです。

撮影について

本展は原則撮影可能です。常設の屋外作品も同様です。

ただしゾンダーコマンドによって撮影された写真4点だけは東京国立近代美術館のリヒター展同様に撮影禁止です。

リヒター・ラウムの予約

リヒター・ラウムは完全予約制で1ヶ月前から予約可能です。

事前にWeb予約をしてから訪問しましょう。

予約には徒歩と車とアクセス方法別の予約枠があります。遠方から車での訪問を計画している場合は特に早めの予約をおすすめします。

リヒター・ラウムの場所

軽井沢の旧中山道、旧軽井沢と中軽井沢を結ぶ通称離山通り沿いにあります。

“Richter Raum” Photo by Wako Works of Art

道路沿いに出ているこの控えめな看板が目印です。車で行く場合は見落とさないよう注意が必要です。

軽井沢駅から徒歩で向かった場合、こんな感じで見えてきます。

リヒター・ラウムの行き方

リヒターラウムは、軽井沢駅から徒歩で約20分くらいです。

季節の良い時期なら歩いて行っても気持ちいいかもしれません。

軽井沢駅からタクシーだと約6分ほど到着できます。

車の場合は旧軽井沢と国道18号離山交差点を結ぶ通称離山通り沿い。離山交差点から500mほど旧軽方面に行った場所です。逆に旧軽井沢側からの場合は六本辻のラウンドアバウトから1kmほど中軽井沢方面へ行ったところです。

リヒター・ラウムの駐車場

リヒター・ラウムは駐車場があり、駐車場に車を停めて見学するためには「車での訪問予約」をする必要があります。

駐車場予約枠は少ないので早めに予約をとっておきたいところです。

リヒター・ラウム訪問済みの方も再訪したくなる特別展。

リヒターの企画展というだけでなく、様々な諍いが今なお続く2024年に「ビルケナウ」を見る。リヒターが描いてくれた人間の負い目とその意味を考えさせられる展覧会です。

リヒター、現代アート好きにとどまらず、多くの人に見てもらいたい展覧会です。

念の為付記しておくと、ユダヤ人に対するジェノサイドを題材にしているからといってリヒターや主催者はシオニズムに与するものではありません。ワコウ・ワークス・オブ・アートはつい先日もヘンク・フィシュがキュレートする展覧会「私が死ななければならないのなら、あなたは必ず生きなくてはならない(If I must die,you must live)」を開催しガザを含むパレスチナ出身の詩人や画家の作品を紹介していますが決して反シオニズムに与するものでもありません。

政治的に分断を煽るような風潮が強い昨今ですが、リヒターの思いを受け止め政治的にもニュートラルに作品を受容してもらいたいです。

基本情報

特別企画展 ゲルハルト・リヒター ビルケナウ(フォト・バージョン)

会期:2024年5月25日(土) – 10月31日(木)

開館日:木、金、土、日曜日

時間枠:
午前は10:30, 11:00, 11:30
午後は13:30, 14:00, 14:30, 15:00, 15:30
各30分枠

予約:事前予約制 webから要予約 (徒歩か車か指定して予約)

入館料:一般 1,200円、大学生 800円、中高生無料(中学生未満入場不可)

リヒター・ラウム

住所:長野県軽井沢町軽井沢1323-1475 MAP

アクセス:
軽井沢駅から徒歩約22分。
軽井沢駅から西武観光バスでトンボの湯行乗車または町内循環バス内回り乗車、泉の里バス停下車徒歩約2分
軽井沢駅からタクシーで約6分
自家用車の場合は旧中山道、離山通り沿い、レジーナリゾート旧軽井沢の向かい側


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