紀尾井町にできたコンクリートとガラスで囲われたインパクトのある建物「一般社団法人倫理研究所の紀尾井清堂」は、実は目的も機能もない建築です。この不思議な建築物の見学会に参加して中に入ることができましたので紹介します。(建築見学会は終了しました)
現在は、2023年3月まで「奇跡の一本松の根展」を開催中です。(会期終了しました)
用途未定の現代のパンテオン
この建物が竣工したのは2020年12月、年が明けて2021年1月に早速見学に行ってみました。もちろん、その時は見学会ではないので、外観のみ。建物の周りをグルグル廻って終わりだったのですが、それだけでも非常に印象的な建築でした。
それから季節は変わり紀尾井清堂の見学会を開催するというのを聞いて早速参加してみました。そもそも今年の1月には、まだ紀尾井清堂という名前もなく、個人的には「紀尾井町の倫理研究所の新しい建物」と呼んでいました。
この建物は施主である倫理研究所から「思ったように造ってください。機能はそれにあわせてあとから考えますから」という異例の依頼によって設計されたことは、もはや有名な話です。
設計を担当したのは、倫理研究所の富士高原研修所も手掛けた内藤廣です。こんなとんでもないリクエストって建築家に対する絶大な信頼がなければ成立しません。よっぽど富士高原研修所がよかったということでしょうね。いつか是非この目で見てみたいものです。
施主からは一つだけ「縄文について考えて欲しい」と言われたそうです。そこで内藤廣が導き出した答えは、「パンテオンのような常識に縛られない魂を揺さぶられるようなもの」でした。
確かに見学して、魂揺さぶられました。
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外観は硬質なコンクリートとガラスですが、内部は一転して木で覆われています。▼
紀尾井清堂の様子
紀尾井清堂の様子は是非動画を参照ください。▼
外観
ガラススクリーン
巨大なコンクリートのキューブを覆っているのは、ガラスです。この建物がコンクリートの塊なのに、新鮮ですっきりと透明感があるのは、このガラスの効果が大きいです。
このガラス、ガラスとガラスの間に隙間があるのです。なぜかと言うと、方立てではなくて、上から支持材を突き出して、DPGでガラスを留めているからなのです。
2020年1月の紀尾井清堂▼
一階ピロティ
多角柱
紀尾井清堂は、ガラスに覆われた巨大なコンクリートキューブが宙に浮いているような建物です。実際には、浮いているのではなく、宙に浮いているように見えるのですが、その秘密は1階のピロティにあります。
4階層分のコンクリートキューブを支えるのは4本のコンクリートの柱です。この柱は、下部は四角形ですが、上部に行くにつれ捻れるようにして六角形になっています。
特殊タイル
このめちゃくちゃ存在感のある4本の柱がある1階ピロティ空間でもうひとつ目を惹くのは、床と壁に貼られたランダムな形、色のタイルです。今まで目にしたことのない、まるでクリムトの絵画の文様のような、とても深い色味。このタイルは外構に続いていて、勝手に外観を見学した時から気になっていました。
これは何かと言うと、石州瓦を焼く時の焼成窯で棚板として使われている素材で、通常は一定期間使用したら廃棄するものだそうです。なるほど、それで釉薬の付着具合や形状がまちまちなわけです。
しかし、この施工はめちゃくちゃ大変だったでしょうね。普通のタイル貼り職人さんでではなく、より技術の高い石を扱う職人さんに施工をしてもらったそうです。
施工の技術があったとしても形も色もバラバラですから、構成は全部立ち会って綿密な指示をしたらしいです。
ここまで来るとモザイク画の域です。▼
PR清堂内部
トップライト
内部の2階から5階までの大吹き抜け空間も凄いのですが、最初に目を惹くのは、その吹き抜けの天井にある杉板型枠打放しコンクリートによる駆体トップライトです。この型枠の制作も物凄い技術です。底辺は四角形ですが、上に行くつれてなだらかに円形になるのです。木目模様と上部からの自然光の効果で吸い込まれるような感覚に陥ります。
このトップライトは開閉するのですが、ゆっくり開閉する時に光が遮られる、あるいは光が差し込む様子は思わず祈りたくなるような神々しさです。(↑開閉の様子は動画を参照ください)
確かに現代のパンテオン的な荘厳さ!▼
階段天国
この清堂に何があるかといえば、神々しいトップライトとそして、階段です。階段はキューブの外のコンクリートとガラススクリーンの間にも設置されていて、中も外も回遊できるようになっています。
勝手に外観を見学に来た時に、この階段を上り下りできる日が来るとは夢にも思いませんでしたので、清堂内に入ってすぐさま外階段に行ってしまいました。
ガラスに覆われた空間のこの階段からの眺めの良いこと。
外部でもない内部でもない中間領域に設置された象徴的な階段▼
建築とアートの境界
機能のないもの、それはすなわちアートです。今や建築家と美術家の境界線は曖昧になっていて、美術家が建築を手掛けたり、その逆も然りです。
しかし、先日の石上純也のKAIT広場と今回の紀尾井清堂を見学して、職業的な境界線だけでなく、建築そのものが機能を持たないアートのような存在になり得ると言うことを実感せざる得ません。
今後もこのような建築が増えていくのでしょうか。それは理解ある施主が、また現れるかどうかにかかってきますね。
グッゲンハイムビルバオがそうであったように、今や建築だけでも相当な訴求力があることが実証されています。
グッゲンハイムには現代美術という魅力的なソフトがありますが、紀尾井清堂は、更に上をいっていて全くソフトがありません。今後、建築というハードだけでも十分に説得力のあるものができることの証明となる先駆的な存在です。
今、見学するには
内藤事務所主催の建築見学会は終了しましたが現在、紀尾井清堂では「奇跡の一本松の根」展を2023年3月9日まで開催中です。(会期終了)もちろん内部に入れますので、建築の見学も可能です。
「奇跡の一本松の根」展の詳細は▼
紀尾井清堂でも見られる意図していなかった美しい現象については▼
建築見学会の様子
(建築見学会は終了しました)
建築見学会では、最初に受付を済ませると紙スリッパと紀尾井清堂のリーフレットがもらえます。1階には清堂の模型、写真パネル、図面集、などの資料展示があるので鑑賞しながらスタート時間を待ちます。
開始時間になったら内藤事務所スタッフの方から簡単な説明を聞いて清堂に移動します。清堂内の扉の前で配布されたスリッパに履き替えます。荷物は1階ピロティの指示された置き場所に置いておくことができます。(貴重品除く)
清堂内では、各々自由に見学します。見学中内藤事務所のスタッフの方もいらっしゃるので、質問等も受け付けているようです。私は見学に必死でしたので、特にスタッフの方に声をかけることはありませんでした。見学会は写真・動画の撮影可能です。
1階ピロティに50分の記録映像がループで流れいます。清堂を1時間きっちり見学してピロティに戻ったら、当然ながら次の回の見学者がすでに集まっていました。
50分の記録映像は残って鑑賞OKだったので、残って全部鑑賞ました。これは絶対に見たほうがいいです。見学が最後の回だった場合は、残って映像鑑賞できるのか不明なので、今後も見学会があるのなら13時あるいは14時からの見学会を予約したほうが安心だと思います。
PR建築見学会予約について
(建築見学会は終了しました)
紀尾井清堂の見学は、2021年10月から6日間、1日に3回(13時〜14時〜15時〜)で1回あたり定員30名で開催されました。予約はすぐに埋まってしまったようです。主催は内藤廣建築設計事務所です。
今後もこのような見学会を定期的に開催するのかどうかなどの詳細はわかりませんが、2021年は新日程での追加開催はもうないと思います。
今後見学会が開催されるかどうかについては、内藤廣建築設計事務所のHPやTwitterを常にチェックすることをお勧めします。
基本情報
一般社団法人 倫理研究所 紀尾井清堂
千代田区紀尾井町3 MAP
最寄駅:東京メトロ赤坂見附駅D出口徒歩6分、永田町駅徒歩8分、麹町駅徒歩4分
赤坂見附駅から弁慶橋を渡って紀尾井町通りを登ります。登りきったところの特徴的な建物が紀尾井清堂です。
紀尾井清堂のすぐ近くの村野藤吾建築情報。紀尾井清堂に行ったら合わせて見学がお勧めです。▼
石上純也のKAIT広場はこちらを参照ください。▼
細部まで丁寧に突き詰められた素晴らしい建築でしたよね。記事にあるように、トップライトと階段が特に印象的でした。ちなみに写真を拝見すると、多分同じ日の同じ時間に見学しています。とても良い見学会でした。
ウェブサイトの方も楽しみにしております。
コメントありがとうございます。中に入れる事になるとは思ってなかったのでとても興奮してしまいました。noteとHP拝読しました。偶然にも同じ日同じ時間ですね!あの虹の出方で確信しました。こちらこそ今後ともよろしくお願いします。