静岡市の登呂遺跡の土呂公園内に位置する白井晟一最晩年の美術館建築「静岡市芹沢銈介美術館 石水館」に行ってきました。
白井晟一の美術館
建築家白井晟一が生涯設計した美術館は、たった2館だけです。そのうちの一つが静岡市芹沢銈介美術館です。もう一つは私自身30年以上通い続ける渋谷区立松濤美術館です。都内ということもあり松濤美術館には足繁く通っていますが、静岡市芹沢銈介美術館は今回初訪問でした。
この芹沢銈介美術館と松濤美術館は、設計竣工時期もほぼ同時期だったため、たくさんの共通点があります。運営に連携はありませんが建築的には姉妹館です。
ただ、同じ公立美術館ではありますが、大きく違うのは芹沢銈介美術館はその館名にもある通り染色家の芹沢銈介が寄贈した本人の作品と収集した膨大な数のコレクションを保管展示する個人美術館であることです。
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石水館
芹沢銈介美術館でありながら、この建築には「石水館」という名前がつけられています。命名は白井晟一によるものです。その名の通り、石と水による美術館です。
弥生時代の登呂遺跡のある土呂公園の一角にある美術館のため、白井晟一は登呂遺跡と親和性の高い建物にするために、1階建ての平家建築としました。そこは地下2階、地上2階の4階層からなる都会の狭小美術館松濤美術館とは全く違う構成です。
美術館建築について是非動画も参照してください。▼
紅雲石
外観に使われているこの石、「紅雲石/こううんせき」と呼んでいますが、この名称も白井晟一が命名したものです。
少し赤みがかった温かみのある石で、松濤美術館ではファサード全面に使われています。芹沢銈介美術館では、外装だけでなく、仕上げを変えて内装にも使われています。
噴水
門を抜けて美術館へのアプローチの途中に噴水が設置されています。また、噴水の手前右側には滝のように石の壁に水が落ちています。「石水館」の水の部分はアプローチに集約されています。
松濤美術館は館内に入ってからブリッジの下に噴水があり、入館者は上から覗き込むような形になりますが、芹沢銈介美術館では、アイレベルに噴水と滝があり、心地よい水の音をBGMに館内へと誘われる仕組みです。▼
照明
美術館の外部に設置されている照明は、松濤美術館やNOAビルでも似たデザインのものが設置されています。この照明のデザインも白井晟一によるものだと思われます。
松濤やNOAビルでは無色透明のガラスですが、こちらはガラスに赤みがかった色がついています。点灯したところを見て観たかったけれど、時間的に無理だったので諦めました。残念。▼
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家具
下の写真は美術館の特別室です。壁は松濤の2階の特別展示室サロンミューゼと同様にベルベットです。置いてあるソファも松濤と同じデ・セデ社の革張りソファです。写真はありませんが、館内にはバルセロナチェアもあってこれも松濤と同様です。
2館共通の同じ家具が置いてありますが、色が違います。ソファもバルセロナチェアも松濤は黒でこちらは白です。不特定多数の人が訪問する場所で、白の革張りは大胆な選択ですね。ソファにもバルセロナチェアにも布の専用カバーが付けられていて革の手触りを確かめることはできませんでした。
調べてみるとこのソファカバーは、コロナ以前から汚れ防止のために付けられていたようです。また、中央の椅子が間引かれていますが、実際は3人掛けのソファです。▼
特別室
松濤には一般には公開されていない秘められた空間「茶室」があり、開館40周年記念の展覧会「白井晟一入門第2部」で完成から40年の時を経て、2022年に初めて公開されました。白井晟一はこの場所をとても気に入っていて美術館に来ると一番に茶室へ行って寛いでいたという話です。
この松濤の茶室に相当する場所がこちらではこの特別室ではないでしょうか。和室ではありませんが、梅が植えられた小さな坪庭を眺めながら、ソファに身を委ねると立ち上がるのが嫌になってしまうくらい落ち着きます。もしかしたら、この美術館訪問の際は、ここへ真っ先に来ていたんではないかなぁ。
芹沢銈介との確執
白井晟一と芹沢銈介には確執があり、この美術館の竣工式には芹沢が欠席し、開館式には白井が欠席したという事実が伝えられています。どちらも恐ろしく高い審美眼を持ち、何かを創造する上でとんでもないこだわりがあったでしょうから、協働するのは難しかったのかもしれません。
ましてや、芹沢銈介は大原美術館の工芸館・東洋館の内外装をデザインしていますし、白井晟一は民芸運動に批判的だったわけですから無理もありません。
私も中に入ってみて納得しました。松濤美術館がそうであるように芹沢銈介美術館も全くニュートラルな空間ではなく、天井には木とオニキスが貼られ、柱の上部には石彫で鳥がデザインされていたり、室内にもかかわらず、小さな噴水があって(水は休止されていました)その上部はオニキスが貼られ、縁の石には親和銀行でも観られる英文字が刻まれていたり….と。
空間に立体的な彫刻を展示するならいいけれど、壁面を使って何かを展示するには、あまりにもあまりにも主張が強すぎる空間でした。それが白井晟一らしいと言ってしまえばそうなのですが、芹沢銈介が建物への落胆を語っていたというのもわかる気がします。
設計段階から二人は不和だったということなので、不和だったからこうなったのか、こうなったから余計に不和に拍車がかかってしまったのか、今となってはわかりませんが、関係が改善されていたらもう少し違った空間になっただろうとは感じました。
染色家の作品とコレクションを所蔵する個人美術館としては思うところもありますが、白井晟一好きにとっては高揚する場所であることは間違いありません。
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注意点
美術館内は特別室とロビーの展覧会パネルをのぞいてずべて撮影禁止です。
また、この美術館収蔵庫(写真左)は紅雲石を使用しているものの、1990年に増築されたもので、白井晟一設計ではありません。▼
現在展覧会「ジャパンブルー 藍のある暮らし」が2022年3月21日まで開催中です。
美術館基本情報
9:00-16:30 月曜、祝日の翌日、展示替期間休館
入館料:一般420円 / 高校生・大学生260円 / 小学生・中学生100円
登呂博物館との共通券:一般580円 / 高校生・大学生360円 / 小学生・中学生120円
静岡県静岡市駿河区登呂5丁目10−5 MAP
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