え!?コレ刺繍なの?!と思わず二度見してしまう青山悟の個展が自身の出身地であり現在も在住している目黒区美術館で開幕したので早速鑑賞してきました。
これまで、青山悟の作品は様々な場所で何度も目にしているのですが、もしかしたら美術館での個展は初見かも!と思ったらやっぱり初でした。
あの絵画かと思って近づいていってよくみたら、絵の具ではなく糸の集積だった!という経験をこれまでに何度もしています。
そんな青山作品をまとめて観られるなんて嬉しい!ということで展覧会の開催を楽しみにしていました。

青山悟
1973年生まれの東京都目黒区出身のアーティストです。ロンドン・ゴールドスミスカレッジのテキスタイル学科を卒業しています。
工業用ミシンを駆使して制作される青山悟の作品は、精巧な刺繍の奥に風刺とユーモアを内包しており、刺繍作品を通じて人と機械の関係や近代化以降の労働について問いかけます。

さらに、機械が人間の生活や労働に及ぼす影響を表現し、美しいだけでなく社会的なメッセージが込められているのです。
工業用ミシンを巧みに操り生み出される繊細な作品は、手工芸や装飾を超えて、現代社会における人間と技術の関係性を問い直すきっかけを与えてくれます。
また、今回の展覧会で知ったのですが、祖父は青山龍水という洋画家で、展覧会には祖父の作品展示もあって、祖父と孫による時空を超えたコラボレーションを見ることができます。

展覧会構成
展覧会は1階、2階と2フロアに渡ります。
1階のワークショップ室には実際に青山悟が使用している工業用ミシンが置かれており、広いワークショップの一角が、まるでアーティストのアトリエを訪問したかのような設になっています。また、目黒区内の小学校にてアーティストが行ったワークショップで制作した地元の小学生の作品も2点展示されています。

主な展示会場は2階です。出品作品総数は70点。展示室ABCと3つの展示室を繋ぐアトリウムにも作品展示があります。また、2階へ上る階段の踊り場にも作品がありますので忘れずに!
70点の作品の中から気になった作品をいくつかピックアップしてレポートします。

About Painting
名画と言われる誰もが知っている超有名画家(モネ、マティス、マグリット、モランディ、クリムト、ウォーホル、河原温などなど)の作品を刺繍で表現し、そこに青山悟による見解が書かれています。さらに、壁一面を使って縦軸には急進的ー保守的、横軸には個人的ー社会的のチャートが作られていて、各作品が配置されています。
超有名画家の名画は2015年制作の作品ですが、今回の展覧会で新たな作品が加えられました。追加された絵画は日本人作家の作品でいずれも目黒区美術館の所蔵です。

▲1点だけ目黒区美術館所蔵の作品ではないものがあります。それは祖父青山龍水の作品です。

▲刺繍で再現された作品の横には青山悟によるテキストが添えられています。
特に名画に添えられたテキストは、ユーモアがあって読んでいてとても楽しいです。
展覧会では時に非常に難解なテキストが掲示してあって、途中で読むのをやめてしまうなんてこともよくありますが、この作品のテキストは、非常に痛快でわかりやすく、何より面白いので苦になることなく全部読みました。
また、刺繍で再現された名画もサイズは非常に小さいのですが、糸の密度が高いせいか少し立体的になっており、本物とは別の新たなテクスチャーが生み出され、サイズ的にも所有したくなる作品です。
Everyday Art Market
コロナによるパンデミックで当たり前の日常(everyday)が非日常となった時に青山悟が取り組んだプロジェクトが、「日常」的に日々新作を制作して、それをオンラインで販売する「Everyday Art Market」です。
購入しやすいように小品が中心となっています。このシリーズの作品は銀座蔦屋書店でも目にした記憶があります。
とても可愛いだけでなく、ユーモアが効いた作品ばかりです。ちょっぴり毒もあるかも。
モチーフはコロナ禍らしいマスクだったり、ビニール手袋だったり、または時計だったり、ワイシャツだったり、ワッペンだったり、思わず覗き込んでニヤついてしまうようなものばかりです。

浮かび上がるメッセージ
一番広い展示室Aは、他の展示室とはちょっと違います。それは何かというと展示室の照明が変化します。暗くなったり、明るくなったりするのですが、ただ照度が変化するだけではありません。展示室が暗くなるのにはちゃんと意味があるんです。
広い展示室の全エリアの照度が変化するのではありません。暗くなると一部の作品にだけブラックライトがあたるようになっています。そうです!ブラックライトがあたっている時にだけ見えてくるものがあるのです。その一部をご紹介します。

▲2022年神奈川県民ギャラリーで開催されたグループ展「ドリーム/ランド」で観た作品です。ただしその時はブラックライトで浮かび上がるメッセージを見ることはありませんでした。
今回、目黒区美術館で初めて一万円札の中央に書かれたメッセージを見ることができました。
他にもいくつかブラックライトによって浮かび上がってくるものがあります。どのような作品に何が浮かび上がってくるのかは是非美術館に行って確かめてみてください。
これも刺繍!?
照度の変化する展示室Aだけに限らないのですが、これ本当に刺繍なの!?という作品がたくさんあります。

▲本物と見紛うこの吸い殻も刺繍です。近年消えつつある小さな町工場を表現した作品です。そこには近代化と労働の問題が隠されています。

▲道端を切り取ったかのような低い展示台の上には、風に飛ばされた枯葉や、誰かが踏みつけた吸い殻と共にこの展覧会のフライヤーも混ざっています。
これら作品には個々にタイトルもあるのですが、この道端のようなシチュエーションがひとまとまりで展覧会の副題にもなっている「永遠なんてあるのでしょうか」というタイトルが付けられていました。
いわばこの展覧会を象徴する作品だということがわかります。
そこには、手仕事である手芸や工芸が美術よりも地位や評価が低いこと、刺繍などの手芸工芸が女性の仕事だと決め付けられていること、手仕事が近年工業化されたことで生まれた労働や資本主義の問題、工業ミシンで作られた大量生産品と美術作品との差異は何なのか、など青山悟が作品を通じて訴えかけてくるものが集約されているかのようです。

誰も想像していなかった世界的なパンデミックでは、当たり前の日常にあんなにありがたみを感じていたのに、今はその気持ちも薄れつつあります。
今、手にしている大事なこの展覧会のチケットも、いつか吸い殻や枯葉と一緒に道端に落ちているところを目にすることになるのかもしれない。
「永遠なんてあるのでしょうか?」
その問いの答えを探しに目黒区美術館へ行ってみませんか。
映像と鑑賞時間について
映像作品、あるいは関連映像などが5本あります。一番長いものは21分。こちらは1階のラウンジスペースで椅子に座っての鑑賞も可能です。(同じ映像が展示室とラウンジの2箇所で上映されています)
一番短いものが4分です。全部で合計約58分です。
ですから、映像をコンプリートすると約1時間ということになります。
映像1時間、作品鑑賞に1時間で合計2時間を目安にするとよいでしょう。

写真撮影について
目黒区美術館にしては珍しく、全作品写真撮影が可能です。
エリア限定、あるいは全面的に写真撮影禁止も珍しくない目黒区美術館での全作品写真撮影可能は嬉しいですね。
動画の撮影は禁止です。
基本情報
| 青山悟 刺繍少年フォーエバー
10:00〜18:00 月休(祝日は開館し翌平日休館) チケット:一般 900円、大高生・65歳以上 700円、中学生以下無料 目黒区目黒2丁目4−36 MAP アクセス:JR山手線、東京メトロ南北線、都営三田線、東急目黒線 「目黒駅」徒歩約10分 |








