白金台の東京都庭園美術館では毎年その華麗なるアール・デコ建築そのものを見るための展覧会「建物公開」が開催されており、今年も《建物公開2024 あかり、ともるとき》が始まりました。
建物そのものが巨大な美術品とも言える旧朝香宮邸を初めて訪れる方はもちろんのこと、何度も通っている私も毎年楽しみにしている「建物公開」。庭園美術館ならではの展覧会です。
2024年のテーマは「照明」。庭園美術館の見どころの一つでもある「照明」に焦点を当てた展覧会です。
東京都庭園美術館は、美術館建築や展覧会をはじめとしてとその広い庭園、茶室、日本庭園、そしてレストランや新館のミュージアムショップとミュージアムカフェCafe TEIENなど一日中楽しめるまさに建築とアートの融合した東京を代表する場所です。
PR年に一度の建物公開
東京都庭園美術館の建築(本館)は、1933年に朝香宮家の本邸として竣工した建物です。
この建物は、1920年代から30年代にかけて欧米を中心に世界中で流行したアール・デコ様式で建てられています。美術館本館は、約100年前のアール・デコ建築を現在に伝える最高の事例として重要文化財に指定されています。
旧朝香宮邸が美術館として再出発したのは1983年。すでに40年以上の歴史を持つ美術館となります。
▲エントランスには朝香宮邸の照明のマケットが。これを見てあそこの照明だ!とすぐにわかった方はなかなかの通です。
これまでも数々の朝香宮邸の邸宅空間を活かした展覧会を鑑賞してきました。特に年に一度の建物公開展は、その建築空間に特化した展覧会で、意匠や技法、マテリアルなど細部に至るまで具に鑑賞することができる内容となっています。
しかも、毎年異なったテーマが設けられているので、私のような超リピーターでも楽しめるように工夫されています。
今回は「照明」に焦点を当て、アール・デコ期の宮邸建築ならではのデザイン、多彩な照明器具を楽しめるようになっています。
またいつものように当時の家具や調度を用いて邸宅空間が再現され当時の雰囲気を味わえます。
庭園美術館の建物
庭園美術館の場所は港区白金台の一角。
目の前を目黒通り、裏には首都高速という大通りに面している敷地には旧朝香宮邸を改修した本館、現代美術作家の杉本博司を迎えて建設された新館、そして庭園美術館の名前の謂れでもある日本庭園と洋風庭園が配置されています。
▲正門から木立の中を抜けると広い前庭を持つ本館が見えてきます。
▲正面玄関のアーチをくぐり抜けながら振り返るとよく手入れされた前庭が見えます。
天井には「天井灯」が見えるのが分かると思います。もちろんこれも《あかり、ともるとき》展の主人公です!
写真撮影について
東京都庭園美術館は、展覧会ごとに撮影についてのルールが変わります。たいていの場合は、エリア限定で撮影禁止あるいは全面的に撮影禁止ということが多いです。
しかし、年に一度のこの「建物公開」については写真撮影が可能です。ただし動画撮影は禁止です。
美術館からの撮影についての主な注意事項は次のとおりです。
フラッシュ、レフ板、三脚、自撮り棒、望遠レンズは使用しない
動画の撮影は禁止
接写や作品の前からの撮影、身を乗り出しての撮影など作品や建物に危険が及ぶ行為は禁止
ただ混雑状況等により変更されることもありますから、美術館での最新の情報を確認して撮影するようにしてください。
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邸宅空間の再現展示
「あかり、ともるとき」展のために再現された邸宅空間に足を踏み入れてみましょう。
▲1階の「大広間」を抜けた先の「大客室」で当時を偲ばせる展示が行われています。
当時は「大広間」から「香水塔」の置かれた「次室(つぎのま)」を通って大客室へ入る動線だったそうです
いつもは香水塔が主役なのでしょうが、今回は天井のシャンデリアに注目。ルネ・ラリックの《ブカレスト》です。
▲大客室からさらに奥の「大食堂」。庭園美術館でも人気の部屋です。
普通の展覧会では作品保護のためカーテンが閉じられていることが多いのですが、今回はカーテンが開け放たれ、テーブルの上にはディナーの用意がされ、宮廷時代の様子が再現されています。
そして天井にはこれもルネ・ラリックの《パイナップルとざくろ》。
ルネ・ラリックの照明も凄いのです、日本の職人たちが技を尽くした天井も凄いです。
▲2階は旧朝香宮家のプライベート空間。
この部屋は朝香宮鳩彦王の「書斎」です。
いつもの庭園美術館では殿下居間から中を覗くようになっている書斎ですが、これは隣接する「書庫」から見た書斎という珍しいアングル。
▲書斎に併設された「書庫」。シンプルな照明のようで天井が凝っています。
ユダヤの六芒星と誤解されそうですが、これは日本の伝統的な文様である「籠目」でしょう。
書庫という性格上いつもはカーテンが下ろされ薄暗い部屋なのですが、今回の展覧会ではカーテンが開けられ、さらに照明も灯っています。また、すぐに登れるようにラダーが設置されているのも珍しい光景です。
この部屋に限らず美術作品が展示されている時はカーテンなどで塞がれている窓や閉じている扉が、開いている様子が見られるのも建物公開ならではです。
例えば1階の一番奥にある朝香宮家の人々が日常使用していた「小食堂」もカーテンが開け放たれ、窓から新館が見えるようになっていてそれもかかなり珍しいです。
▲南側を向いた日当たりの良いベランダ。床は国産の大理石を使い市松模様を描いています。
でも今回は天井から垂れ下がる四角錐の照明が主役です。この照明はエントランスにマケットが置いてありましたね!
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邸宅内の照明
「あかり、ともるとき」展の主役は「照明」。
館内の主な照明を見てみましょう。
▲庭園美術館のアイコニック的存在でもある「チェーンペンダント照明」。
姫宮寝室前の天井にあります。
こちらもエントランスのマケットの一つです。
▲「姫宮居間」のパイプペンダント照明。個人的にはバドミントンのシャトルみたいでお気に入りの照明です。
姿見の前にテーブル・ライトが置かれています。これは今回の《あかり、ともるとき》展のためにディスプレイされているもの。
他の部屋も天井照明以外にあちらこちらにスタンドライトなどの照明器具が展示されています。
▲ステンドグラス入りのこの照明は「若宮居間」のもの。
天井には照明を吊り下げるチェーンの影ができていますが、そうなるよう意図して計算し尽くされたものでしょう。
▲若宮の居間と寝室の間にある「合の間」。要するにウォークインクローゼットなのですが、この照明はペンダントをイメージにしたもの。
部屋ごとにこれでもかとばかりに凝りに凝ったアールデコ照明。
なおミュージアムカフェであるCafe TEIENではこのペンダント照明をモチーフにした特別メニュー「マロンキャラメルサレ」を提供しています。
▲いつもは目立つ脇役である2階広間の「フロア・ランプ」も今回は主役。
ちゃんとキャプションも用意されています。
ミュージアムショップにはこの模様をあしらったグッズが販売されいてるので気になった方はチェックしてみてください。
カフェTEIENではこの模様がお皿になっていますよ!
PR邸宅の天井や調度品
ずっと天井の照明を見ていると、天井や壁の造作も相当に凝っていることに気がつくと思います。
▲天井の排気口もこの通り。周囲のモールディングの装飾も素敵です。
▲これぞアールデコというシャープなデザイン。
ただ見上げるだけでなく隅々まで観察していください。とにかくこの邸宅は気を許してはいけないのです。ありとあらゆる場所に意匠が施されているのですから。
▲こんなところにも!
木だけで終わらずわざわざアイアンワークを施しているんですね。
壁に貼られたテキスタイルにも周囲にはマクラメのような織りものが回っています。凝りすぎー。
▲天井の排気口一つとっても同じデザインのものはありません。
そして、そのデザインと呼応するようなモールディングがセットです。
▲殿下の「書斎」のドアノブですが、なんともカワイイですね。
姫宮の居間のドアではなくて、殿下が仕事をする書斎のドアというところがポイントでしょう。
新館ギャラリー
新館ではアール・デコ期のデザインなどが展示されています。
▲ギャラリー1の入口に置かれているのはアンリ・ラパンの「ペンダント・ライト」。
内部では工芸品、デザインなどが展示されています。
▲本館2階の妃殿下居間にさりげなく置かれている、複葉機の模型のようなもの。
これは若宮である朝香宮孚彦王の成年式を記念するボンボニエール(お菓子入れ)です。
新館ギャラリー1では現代アート作家さわひらきの映像作品「Pilgrim」が上映されていて、そこに登場するのがこの複葉機形のボンボニエールなのです。なお、この映像作品だけは写真撮影禁止です。
▲あと忘れてはいけないのが本館と新館を結ぶ通路に浮かぶハート型の模様。
日が高い会期前半(夏場)はきれいなハートになりませんが、10月も後半になれば写真のようなきれいなハート型が見られるようになるはずです。
この美しい現象についての記事は▼
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ウィンターガーデンと屋上庭園
今回の「あかり、ともるとき」展の目玉の一つはウィンターガーデン(温室)の特別公開でしょう。
通常の展覧会のときは非公開で、毎年建物公開の時だけ特別に見学できるのです。
久しぶりの市松模様と赤い椅子のモダンな空間に身を置くことができます。そして、ウインターガーデンだけあって、天気のいい日は汗ばむくらい暑いです。
▲ベランダと同様の市松模様ですが、ウィンターガーデンでは人造大理石が使われています。
椅子とテーブルは朝香宮自身が購入したマルセル・ブロイヤーです。
▲ここでも今回の主役は照明です。室内の天井灯の他にベランダにも天井灯があります。
このウィンターガーデンの見学は申し込み制になっています。現地で口頭で見学を申し込み、注意書きを読んで了承したらウィンターガーデンに入ることを許可されるシステムです。
ウィンターガーデンの定員は9名。混雑時の見学は10分以内という制限が付いています。
▲あと忘れていけなのは、新館の屋上庭園。
ウィンターガーデンからのみ、この屋上庭園を目にすることができます。
▲新館の前庭からは屋上に草が生えているのが見えると思います。
気になったらウィンターガーデンから屋上庭園の様子を見てみてください。
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あかり、ともるとき展のポイント
建築と照明の両方が楽しめて2倍うれしいのが《建物建築2024 あかり、ともるとき》です。
庭園美術館に何十回も通っている私が建築の一部をスルーしながら鑑賞しても1時間半では足りないくらいでした。
庭園美術館が初めてという方でしたら最低でも2時間、できれば3時間くらい余裕を持っての訪問をおすすめします。
また10月に入ると日没が早まるので館内の照明が映えるようになります。昼間の庭園美術館で照明を見るのも良いのですが、夜になって明かりが灯った庭園美術館も見応えがあると思います。余裕があれば明るい陽の光の下で楽しめる会期前半、夜の照明が楽しめる会期後半の2回訪問するとより庭園美術館の魅力に触れられると思います。
事前予約のチケット
この展覧会は事前予約制です。
当日券の販売もありますが、予約をしていけばスムーズに入れます。建物公開はいつも人気で週末は開館時からチケット売り場に行列ができますから事前予約するのがおすすめです。
庭園美術館の過去記事
庭園美術館をもっと知りたい方は過去の記事を読んでみてください。
▼アンリラパンによるアール・デコ建築
▼運が良ければ出会える庭園美術館の素敵なシーン
▼ミュージアムカフェCafe TEIEN
▼庭園美術館の茶室
基本情報
建物公開2024 あかり、ともるとき
会期:2024年9月14日(土) – 11月10日(日) 時間:10:00 – 18:00 休館日:月曜日(ただし9月16日・23日、10月14日、11月4日は開館、翌火曜日休館) 予約:オンラインによる日時予約制(当日券販売もあり) 料金:一般 1,000円、大学生 800円、中高生・65歳以上 500円 会場:東京都庭園美術館(本館+新館) 住所:東京都港区白金台5-21-9 MAP |