北青山、キラー通り近くにある駐日ブラジル大使館で、ブラジルの近代建築を代表する建築家でデザイナーのリナ・ボ・バルディ(Lina Bo Bardi)を、彼女がデザインした椅子を中心にその業績を紹介する展覧会「リナ・ボ・バルディ 1914-1992」が開催されています。
イタリア出身ながら第二次世界大戦後にブラジルに移住し、あの「サンパウロ美術館」などを設計したことで知られている建築家ということで気になって訪問してみました。
▲展覧会自体も興味深いものでしたが、日系ブラジル人が設計した建物、日系のアーティストを記念した展示室という環境も見どころという一粒で二度美味しい展覧会でした。
リナ・ボ・バルディ
リナ・ボ・バルディはブラジルの近代建築を代表する建築家。ブラジルではあのオスカー・ニーマイヤーと並び称され評価が高い建築家、デザイナーです。特にオスカー・ニーマイヤーが軍政下で実質的な亡命生活を送っている間は、戦後のブラジル建築をリードしていたとも言える建築家です。
ブラジルで大きな業績を残した彼女ですが、実は1914年にイタリア ローマで生まれたイタリア人。何度か訪れたブラジルが気に入って移住したのだそうです。
▲日本ではあまり情報のない建築家なのでこうした解説があるだけでも嬉しいです。
写真は屋台でおでんを食べるリナ・ボ・バルディ。
日本文化への関心も高く何度か来日もしていますし、その作品にも日本的な引き算の美学を感じたりします。
ブラジルには日系人も多いですからそうした影響もあるのかもしれません。
▲あまりに有名な「サンパウロ美術館」。
なんとなくオスカー・ニーマイヤー設計だと思っていたのですが、これこそがリナ・ボ・バルディの代表作です。
これともう一つの代表作である「SESC ポンペイア文化スポーツセンター」が紹介されています。
とにかく精力的で多作なアーティストだったようです。
展覧会風景
資料や文献も豊富に用意されていますが、展覧会の中心はやはり彼女がデザインした椅子。
建築の一部として椅子や家具など様々な付属物までデザインしてしまったそうです。
▲展覧会場の最初の展示室は「マナブ・マベ 文化の広場」。
リナがデザインした椅子のオリジナル版が展示されています。
最初に並んでいる4脚はSESC ポンペイア文化スポーツセンターのためにデザインした「SESCポンペイア・チェア」。合板を4枚組み合わせたシンプルな椅子です。
▲前列左が「ジラフ・バー・スツール」。レストランを設計したときにデザインした椅子です。
右のデッキチェアは同じものが丹下健三邸にもあったそうです、もしかしたら丹下健三、さらにもしかして猪熊弦一郎デザインかもしれないという謎の椅子。
▲これは代表作の「ジラフ・チェア」。
左2脚はオリジナルのビンテージ物で、右端はバラウナ工房による復刻版。日本向けなので本国版より脚が3cm短いのだそうです。
▲サンパウロ美術館の設計図です。
バラウナ工房
最初の展示室のさらに奥には「オオタケ・トミエ スペース」があって、そこではリナも設立に関与した制作工房、バラウナ工房による復刻版が展示されています。
▲ジラフ・チェアやジラフ・バー・スツール、SESC ポンペイアのためにデザインした子ども用の学習デスクなどの復刻版が展示されています。オリジナルより細かいところがアップデートされ機能性や耐久性が向上しているのだそうです。
リナのデザインしたものだけでなくオリジナルな家具もあって材料はもちろんブラジル国産。あまり知られていないブラジル家具の世界を見られることも収穫です。
ブラジル大使館
リナ・ボ・バルディの展覧会の会場となっている駐日ブラジル大使館自体も見どころです。
▲大きく円弧を描くモダンな建物はブラジルの建築家ルイ・オオタケの手によるもの。この円弧が彼の建築のトレードマークにもなっているみたいです。
オレンジの壁とブルーのエントランスがサッカーブラジル代表のユニフォームみたいで良いアクセントになっています。
設計のルイ・オオタケの母親はトミエ・オオタケ。ブラジルに移住して活躍した女性アーティストです。
▲通常はオレンジで塗られている半円形の壁には、今はブラジルの女性壁画家でビジュアルアーティストであるハンナ・ルカテッリ(Hanna Licatelli)の作品が描かれています。
このブラジル大使館の壁画とマークシティーの「シブヤ・アロープロジェクト」のために来日して制作したのだそうで、この絵の下の方に彼女のサインも残されています。
この壁は定期的に新しい作品に描き直されるので、彼女の作品を見たいなら今のうちにどうぞ。
リオ五輪のときにはストリート・アーティストであるエドゥアルド・コブラが来日し、サンバの創始者アントニオ・カルロス・ジョビンとヴィニシウスの壁画を描いていますし、青山の代表的なパブリックアートのスポットです。
▲これは大使館館内の階段。もちろんルイ・オオタケによるものですね。
「マナブ・マベ 文化の広場」、「トミエ・オオタケ スペース」という案内は展覧会場である地下の2つのスペースの名称です。
マナブ・マベは日本名はマナブ間部。ブラジルのピカソとも呼ばれた抽象画家で、その作品は文化の広場にも展示されています。
トミエ・オオタケは大竹富江。若いときにブラジルに移住して活動したアーティストです。仙石山の森タワー前に無限記号(Infinity)を象った巨大な作品が展示されているので見かけた人も多いでしょう。そしてブラジル大使館を設計したルイ・オオタケの母親です。
▲微妙なカーブを描く階段の手すり。
▲館内ホールのガラス窓に描かれているのは日系アーティスト、大岩オスカールの作品です。
このように日本的な繊細さと南米のマジックリアリズム的な感覚が融合した建築や絵画がブラジル大使館には詰まっていて、まさに建築とアートな大使館です。
リナ・ボ・バルディがデザインした椅子はもちろん、彼女の建築家としての業績の一端も見られる興味深い展覧会ですし、その開催場所も建築好き、アート好きとしては見逃したくない場所です。
開館日や開館時間がフルタイム勤務の人には訪問難易度高めですが、時間のある方は是非足を運んでみてください。
またブラジル大使館周辺の外苑前、キラー通りには見ておきたい建築も多くあります。建築巡りの一つとしてもどうぞ。
基本情報
LINA BO BARDI 1914 – 1992展
月〜金 11:00 – 17:00 土日休 入場無料、予約不要 駐日ブラジル大使館 港区北青山 2−11−12 MAP |