《田名網敬一 記憶の冒険》
千代田線乃木坂駅直結の国立新美術館で開催されている《田名網敬一 記憶の冒険》展を見てきました。
タイトルから分かるように現在進行で再評価が進むアーティスト、田名網敬一の初めてとなる大規模回顧展です。
絵画、コラージュ、立体作品、アニメーション、実験映像、インスタレーションなどジャンル横断でアンダーグラウンドな活動からアートディレクターとしての商業的表現まで幅広く、日本の現代アートの巨人の60年にわたる活動を膨大な数の作品で振り返る、文字通りの大規模回顧展です。
作品を見てもらえば分かると思いますが、アート好きだけでなく作品がSNS映えすることもあって混雑必至!
展覧会構成や見に行く前に知っておきたい情報をまとめてみました。
開幕直後の8月9日、田名網敬一さんが亡くなられました。謹んでご冥福をお祈りします。

田名網敬一
昭和11年(1936年)の東京生まれ、今年で88歳になる田名網敬一は今もバリバリ現役のアーティストです。
60年代はサイケ、ポップアートの流れでのデザインやイラストで高く評価され、70年代には月刊PLAYBOYのアートディレクターとして活躍するなど、当時の欧米の最先端の文化をきちんと受け止め同時代的に活躍していたことが今回の回顧展で再確認できます。
また久里洋二や和田誠などと影響しあいながら日本のアニメーション表現へ取り組んだり、メカスやケネス・アンガーなどからインスパイアされていわゆる実験映画を制作したりとアーティストとしても様々なジャンルへ表現の幅を広げたアーティストです。
現代のアーティストたちへ与えた影響も大きいですし、今もブランドとのコラボをしたり新作を発表したり精力的に活動を続けています。
展覧会の構成
今回の《田名網敬一 記憶の冒険》展は14のセクションで構成されています。
プロローグ、第1章〜第11章、エピローグそして屋外展示で、各セクションにはタイトルが付けられています。

国立新美術館の広い1E展示室をセクションごとに細かく区切り、その中に作品がこれでもかとばかりに展示されています。
プロローグは新作、第1章からはほぼ時系列的に並んでいるので田名網敬一の活動の歴史を振り返ることができる回顧展らしい構成です。
Advertisement金魚の大冒険
《田名網敬一 記憶の冒険》展は国立新美術館前庭の屋外展示作品から始まっています。
その名も「金魚の大冒険(Goldfish Great Adventure)」。

▲これは国立新美術館の六本木側出入り口の前にあるので、乃木坂駅から来て乃木坂駅から帰る人は見逃しがちです。
千代田線乃木坂駅を利用して国立新美術館を訪問する場合は忘れずに六本木側の「金魚の大冒険」を見ておきましょう。
▲ちなみにこに「金魚の大冒険」は夜になると光ります。
星条旗通りからも光っている「金魚の大冒険」は見えますが、国立新美術館が夜間開館する金曜日と土曜日は光っている様子を間近で見ることができます。
金曜、土曜日に訪問を予定しているなら日没後まで国立新美術館に滞在して光る「金魚の大冒険」も見てみてください。
俗と聖の境界にある橋
1E展示室に入って最初のセクションはプロローグとして「俗と聖の境界にある橋」。

▲「百橋図」という同じタイトルのプロジェクションマッピング作品と屏風作品が展示されていますが、これはどちらも2024年の新作です。
NO MORE WAR
第1章は「NO MORE WAR」。

▲アメリカの「AVANT GARDE」誌の反戦ポスター公募企画に入選した「NO MORE WAR」など、60年代のポップアート、サイケなどカウンターカルチャーの時代、潮流に呼応した表現をしていた時期です。

▲壁にはサイケデリックなペイントが施され、そこには作品が3段、4段重ねで展示されています。
膨大な作品が展示されていることが分かると思います。

▲左は「ダブル・ツィッギー」。
60年代の有名な英国人モデルですが、これは明らかにアンディ・ウォーホルのポップアート作品「ダブル・エルビス」のオマージュですよね。

▲田名網敬一の書籍「虚像未来図鑑」の販促用ポスター(?)。
本人はイメージディレクター(アートディレクター)、写真は写真家で現代アート作家でもある原榮三郎。
テキストは説明不要の植草甚一にアングラ映画の佐藤重臣といった具合に、60年代末の日本のサブカルチャー、アングラ文化な人が結集しています。田名網敬一が当時の日本でどのような位置にいたのかが良く分かります。
「虚像未来図鑑」は第2章のタイトルでもあって、第2章では月刊PLAYBOYを含む田名網敬一が絡んだ資料やコラージュ作品が並びます。
アニメーション
第3章のタイトルは「アニメーション」。
1960年代に日本のアニメーション作家の先駆者、久里洋二の工房で、横尾忠則や和田誠などと同時期にアニメーションを制作していたのだそうです。

▲アニメーションの映像素材も展示されていますがメインは7本のアニメーション。
全部見ると30分弱になりますが、第2章のアニメーションは全部見ておいた方が良いです。
大量消費社会を皮肉るようなエロティックなアニメーションを見ることができます。
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アルチンボルドの迷宮
第7章は「アルチンボルドの迷宮」。アルチンボルドとは16世紀イタリアの画家、ジュゼッペ・アルチンボルドのこと。
アリスの不思議の国、シュヴァルの理想宮など迷路、迷宮に分け入ることは田名網にとって自身の内部を除くことに他ならないのだそうです。

▲田名網のアトリエの一部を再現したインスタレーション。
この周囲を取り囲むように田名網敬一制作のポスターとそのドローイングが展示されています。
記憶の修築
第8章は「記憶の修築」。

▲中心に置かれた「記憶の修築」の周囲を「記憶は嘘をつく」シリーズの作品などが取り囲んでいます。
温室を模した「記憶の修築」の内部には田名網敬一が憧れ、影響を受けた大衆文化などが詰め込まれていて彼の頭の中を覗いているかのような気になります。

▲こちらは「記憶は嘘をつく」。
最近の田名網敬一らしい表現です。
ピカソの悦楽
第9章は「ピカソの悦楽」。
コロナ禍でやることがなくなった田名網敬一がふとしたきっかで始めたのがピカソの模写。夢中になって描いたのが700点以上。今もなお描き続けているのだそうです

▲キュビズムの作品である泣く女を立体化してみました。

▲ピカソを模写した「母子像の悦楽」が壁いっぱいにズラッと並んでいます。
でも作品リスト上はこれで「母子像の悦楽」1点ですが絵の数としては全部で100枚以上あると思います。1枚づつ見てピカソのどの作品の模写なのか考え始めると時間がいくらあっても足りません。
獏の札
第10章は「獏の札」。

▲最近の田名網敬一が取り組んでいる大画面の作品、大型の立体作品が並びます。
アーティストとして、そして一人の人間としてのまさに集大成的作品群だと思います。
またこのセクションにも映像作品が4本あり、全部見ると20分以上かかります。
田名網敬一 ✕ 赤塚不二夫
天才的なギャグ漫画家の赤塚不二夫と田名網敬一は年齢では1歳違い(赤塚不二夫が年上)。
生前の赤塚不二夫とは顔見知り程度だったようですが、赤塚不二夫の没後にコラボレーションが実現しました

▲国内でのグラビア印刷が終了することになり、集英社が企画した記念作品の制作を田名網敬一に依頼。それに対して赤塚不二夫の漫画をモチーフにした作品を制作したのです。
実はこのコラボ、これまでも何か所かで「TANAAMI!! AKATSUKA!! /xxxxxx」というタイトルの展覧会が開催されていますから、同内容の展示を目にされた方もいるかと思います。

▲これは2024年に麻布台ヒルズの集英社マンガアートヘリテージ トーキョーギャラリーで開催された「TANAAMI!! AKATSUKA!! /45rpm」展の様子。
その時のサウンドトラックは本展のミュージアムショップでも販売されています。
エピローグ
最後はエピローグとして「田名網キャビネット」。
田名網敬一と様々なアーティスト、ブランドとのコラボレーションが展示されています。

▲田名網敬一のもう一つの面を見られるわけですが、どんなに商売に振ってもやはり田名網敬一は田名網敬一だなぁと強く感じます。
頑固なようでどんなことにも貪欲という、ある意味で一貫したオープンさが田名網敬らしいなぁと感じます。
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ミュージアムショップ
展覧会場最後にミュージアムショップが特設されています。
様々なブランドとのコラボも多い田名網敬一なのでグッズも異常に充実しています。

▲展覧会公式図録「田名網敬一 記憶の冒険」は4,950円。
Amazonでの販売は9月4日からですがミュージアムショップでは展覧会初日から販売しています。

▲定番のトートバッグ。
デザイン、色、価格が豊富に用意されていて、880円から。

▲お約束のTシャツ。

▲シンプルなものから熱量の高いものまで各種。
今年の夏に流行りそうですねぇ。

▲ソックスです。
2,970円(税込)。

▲ソックスがあればバスケットシューズも?
アディダス・スーパースターからインスパイアされた「SUPERSTER TANAAMI」という非売品だそうです。

▲こちらは実際に買えるもの。
アディダスの定番サンダル「アディレッタ(Adilette)」の田名網敬一コラボバージョン「アディレッタ タナアミ(ADILETTE TANAAMI)」です。

▲少し前に麻布台ヒルズで開催されていた《TANAAMI!! AKATSUKA!! / 45 rpm》展のサウンドトラックLP。
オフセット印刷のミスプリントにユニークな価値を見出しアートとしたもの。
フリージャズのサクソフォーンプレイヤー坂田明の「Meehr!」が収録されています。
通常盤は8,800円、田名網敬一のサイン入り限定盤(100枚)は55,000円です。
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《記憶の冒険》展を見に行くなら
写真撮影について
《記憶の冒険》展は写真撮影が可能です。ただし動画撮影は禁止です。フラッシュ、一脚・三脚、自撮り棒も使用できません。
かなりの混雑が予想される展覧会です。私たちは展覧会初日の訪問でしたが会期が進み混雑するにつれ撮影ルールが変更される可能性が大いにあります。訪問時の最新のルールに従って写真撮影するようにしてください。

また立体作品も多いので大きな荷物や背負バッグなどはあらかじめロッカーに預けるなどマナーも守って鑑賞するようにしたいですね。
音声ガイドについて
音声ガイド(オーディオガイド)は無料のものが用意されています。
といっても専用デバイスが用意されているわけではなく、スマートフォンでQRコードを読み取るタイプのものです。利用を考えているならヘッドホンを持参しましょう。
ナビゲーターはJ-WAVEの「GRAND MARQUEE」のナビゲーターでもあるシンガーソングライターのセレイナ・アンさん。
ガイドの音声は日本語のみです。
混雑状況
60年代から70年代にかけての田名網敬一から影響を受けたオールドファンから、21世紀に入ってからの田名網敬一の世界に惹かれる新しいファンまで、田名網敬一の人気と影響力は今も絶大です。つまり初日から多くのお客さんが訪れています。
しかもSNS映えする作品ばかりですから今後展覧会の情報が広がればさらに混雑することは間違いありません。11月11日までと会期が長く、六本木アートナイトや秋のアートシーズンにも重なるので特に後半は大混雑が予想されます。できるだけ早めの訪問をおすすめします。
また国立新美術館の窓口で当日券を購入することもできますが、事前にオンラインでチケットを購入しておくと便利です。国立新美術館に入ったらそのまま1Eの展覧会入り口まで行ってQRコードを見せるだけで入場できます。
鑑賞時間
そして鑑賞時間ですが展示作品数は作品リストに掲載されているものだけで500点以上。ピカソの部屋の小作品はまとめて1点扱いですし、エピローグ「田名網キャビネット」にも100点近くが展示されていますから、合計すると実際には700点前後になると思います。
これだけの数ですから普通のペースで見て最低2時間はかかります。田名網敬一の作品の熱量を受け止めるべくしっかり鑑賞するならさらに1時間は必要でしょう。
そして映像は全部で28本、時間にして3時間弱になります。
つまり合計で6時間弱。
お昼ご飯を食べてから訪問したとすると閉館時間までに全部見終えることができない計算です。とにかく訪問する際は時間をタップリ取るとか、2回に分けるとか、映像作品は割り切って適当に切り上げるといった対策が必要です。
国立新美術館について▼
基本情報
田名網敬一 記憶の冒険
会期:2024年8月7日(水) ~ 11月11日(月) 休館日:火曜日 時間:10:00~18:00 (金土曜は20:00まで) チケット・料金:一般 2,200円、大学生 1,400円、高校生 1,000円 国立新美術館 企画展示室1E 港区六本木7-22-2 MAP |