東京都写真美術館は3つの大展示室を持ちいつも複数の展覧会を開催しています。そこからこの夏に見ておきたい2つの展覧会《TOPコレクション 見ることの重奏》と《光と動きの100かいだてのいえ ―19世紀の映像装置とメディアアートをつなぐ》を紹介します。
前者は写真美術館収蔵作品から「見ることの重奏」をテーマとして写真作品を展示するもの、後者はメディアアーティストの岩井俊雄の作品とその原点となる19世紀の映像装置を体験できる展覧会。
金曜日に都立の文化施設を夜間開館する「サマーナイトミュージアム 2024」に合わせ、ほんの少しだけ過ごしやすくなった金曜日の夜に訪問してみました。
PR見ることの重奏
展示は20世紀初頭から現代にかけてのヨーロッパやアメリカそして日本の写真家14人、ベレニス ・ アボット、ウジェーヌ ・ アジェ、アンナ ・ アトキンス、チェン ・ ウェイ、スコット ・ ハイド、アンドレ ・ ケルテス、ウィリアム ・ クライン、奈良原 一高、マン ・ レイ、杉浦 邦恵、 モーリス ・ タバール、寺田 真由美、マイナー ・ ホワイト、山崎 博の作品を紹介しています。
それぞれのアーティストのアプローチへの違いとともに展示作品そのもの愉しめるものです。
ウジェーヌ・アジェ
19世紀初頭から約30年にわたりパリの街角や人々、建築とその室内を取り続けたアジェの作品はその没後にマン・レイの助手でもあったベレニス・アボットによって再発見されます。
(マン・レイもアボットも「見ることの重奏」展で作品が展示されています)
▲今はオリンピックで湧くパリの100年前の姿を捉えた、ストリートフォトグラファーのような存在だったアジェですが、その作品は第一次世界大戦前の失われて行きつつあるヨーロッパの最後を捉えたものでもであり、単なるスナップ写真、記録写真にとどまらないアーティスティックなもの。
アンドレ・ケルテス
ハンガリー生まれで後にアメリカで活動したアンドレ・ケルテス(ケルテース・アンドルとも)はフォトジャーナリストの先駆け。
▲ありのままの世界を世界を撮り、詩的な表現を追求した作家です。。
この写真のように端正な構図は今のインスタグラムなどの表現にも近いように感じます。
奈良原一高
展示室内を区切って設けられた一角では奈良原一高やマン・レイの写真が展示されています。
▲奈良原一高がお仕事として撮ったマルセル・デュシャンの《彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも(大ガラス)》。
奈良原一高の展示の向かいにはマン・レイの作品が展示されています。リー・ミラーをモデルにした「顔/ソラリゼーション」といった代表作。そして「埃の培養」というやはり「大ガラス」を撮った作品もあるので見逃せません。
マン・レイ、奈良原一高と並べることでデュシャンの存在を意識させる展示です。
寺田真由美
▲自らが制作したミニチュアの部屋や家具を自然光で撮影する寺田真由美の作品。
一見すると公園の中の部屋のように見えて、実は公園を背景にしたミニチュアという複雑なもの。
杉浦邦恵
フォトカンヴァスという手法でニューヨークの街を捉えた作品はアジェの作品群の再解釈とも言えるかもしれません。
さらに生き物や生花を印画紙に並べるフォトグラム手法による作品も展示されています。
▲日本人作家では山崎博もフィーチャーされています。
写真撮影と鑑賞時間について
写真撮影はマン・レイとウィリアム ・ クラインが撮影禁止。他は原則可能ですが動画の撮影は禁止です。
作品数はそれほど多くありませんし、ゆっくり見て1時間あれば十分だと思います。
基本情報
TOPコレクション 見ることの重奏
会期:2024年7月18日(木) – 10月6日(日) 開館時間:10:00 〜 18:00 (7月18日〜8月30日の木曜と金曜は21:00まで) 休館日:月曜日(月が祝の場合開館し翌平日休館) 料金:一般 700円、学生 560円、中高生・65歳以上 350円 会場:東京都写真美術館 目黒区三田1丁目13−3 恵比寿ガーデンプレイス内 MAP アクセス:JR恵比寿駅東口より徒歩約7分、東京メトロ日比谷線恵比寿駅より徒歩約10分 |
光と動きの100かいだてのいえ ―19世紀の映像装置とメディアアートをつなぐ
人気の絵本『100かいだてのいえ』の作者いわいとしおは、日本を代表するメディアアーティスト岩井俊雄でもあります。
その岩井俊雄の代表的メディアアートとその原点となる19世紀の映像装置を展示することで視覚体験の面白さを実感できるとともに、視覚芸術に対する科学者や芸術家の歩みを振り返ることの展覧会です。
メディアアート自体も楽しいですし、今のテレビやスマホで体験する映像とは異なるアナログ的な映像を実際に体験することでできて、大人から子供まで愉しめます。
展覧会の構成は「19世紀の映像装置」、「岩井俊雄のメディアアート」それと「イワイラボ – 19世紀を再発明する」の三部構成です。
1. 19世紀の映像装置
まずは19世紀からの覗き絵や幻灯機にパラパラ漫画など。
▲さすがに古い器具はケースの外から見るだけですが、一部は実際に動く様子やその映像を見ることができます。
▲左の壁にある鏡と風車のような器具は実際に手にとって体験することができます。
▲見えているものを2次元に定着させる試みや、それを動かくための仕組み。
人間の視覚表現に対する技術的な関心は写真が発明されたときから始まっていたのですね。
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2. 岩井俊雄のメディアアート
第二部は岩井俊雄の30年以上にわたるメディアアート作品。
▲少年時代から電子工作を趣味とし、早い時期からパソコンに慣れ親しんできた、デジタル世代の先駆者である岩井俊雄の少年時代の愛機。
電子工作キットや顕微鏡セット、MSXのパソコンにラジカセ。同じような少年時代を過ごしたお父さんお母さんも多いのではないでしょうか。
▲展示室内の一番目立つ場所に置かれた岩井俊雄の「カメラ・オブスクラ2023」。
「100かいだてのいえ」をモチーフに鏡を駆使した作品。写真だと何が何だか分からないかもしれません。どうなっているのか実際に展覧会で体験してみてください。
とても楽しい作品です。
▲代表作である《時間層》シリーズ。
毎時0分と30分から実際に動作させます。
一つ一つは4分から5分くらいですが、全部見るとおおよそ20分。
しかし、これはちゃんと作動しているところを見ておきたい作品です。
▲80年代の作品なのでブラウン管モニターと8ビットのMSXパソコンで制御していて、動きと光で表現する作品です。
写真のこれは《時間層II》。
▲プロジェクターを使った《時間層IV》。
▲どれもSONYのMSXパソコンャーで制御しています。
プログラムは3.5インチフロッピーディスクに保存されています。
MSXパソコンとかフロッピーディスクとか今では博物館レベルの機材が今も現役で動くのが凄いです。
またメディアアートがいずれ技術の進歩によって再生できなくなる日が来るのではないか、そんな不安もよぎります。
これは《映像装置としてのピアノ》。
自動演奏ピアノとコンピュータを組み合わせた作品ですが、実際に操作して好きな音を奏でることができます。いわゆる参加型の作品で、大人でも楽しい楽しい。
現代音楽を奏でるアーティストになった気分で演奏しましょう。やめられなくなってしまいますよ。
PR3. イワイラボ
最後は「イワイラボ」。第一部で見た19世紀の映像装置を岩井俊雄が再発明(再制作)したものが展示されています。
▲写真左はこの展覧会のために再制作された「カメラ・オブスクラ」。
実際に動かして映像がどう映るのか試してみることができます。
▲これが岩井俊雄が再制作した映像装置の数々。
実際に手にとって楽しむことができます。
やはり実際に動かしてみるのは楽しいです。夏休みに子どもたちを連れて来ると絶対楽しんでもらえると思います。
ちなみに大人でも十分楽しめます。
写真撮影と鑑賞時間について
写真撮影は原則可能ですが動画の撮影は禁止です。
《時間層》シリーズを全部見ればそれだけで20分。それ以外にも体験型の展示が多く、思わずハマってしまうものもありますから、最低でも1時間。できれば1時間半くらい時間を取ってゆっくりじっくり鑑賞するのが良いと思います。
サマーナイトミュージアム
この展覧会は「見ることの重奏」が10月6日まで、「光と動きの100かいだてのいえ」が11月3日まで。
そして8月30日までの毎週木曜日と金曜日は「サマーナイトミュージアム」として通常18時閉館のところを21時まで夜間開館しています。
▲写真美術館は恵比寿ガーデンプレイス内ですから夕食を食べてから展覧会を見たり、展覧会の後にガーデンプレイスや恵比寿の街を楽しむことができます。
仕事の後に子どもたちと一緒に行くのも良いでしょうし、週末の夜を美術館とガーデンプレイスで過ごしたり。多少であっても暑さが和らぐ8月の夜を楽しんでみてください。
他のサマーナイトミュージアム参加施設についてはこちらの記事に詳しいです。
基本情報
いわいとしお×東京都写真美術館 光と動きの100かいだてのいえ
会期:2024年7月30日(火) – 11月3日(日) 開館時間:10:00 〜 18:00 (7月18日〜8月30日の木曜と金曜は21:00まで) 休館日:月曜日(月が祝の場合開館し翌平日休館) 料金:一般 700円、学生 560円、中高生・65歳以上 350円 会場:東京都写真美術館 目黒区三田1丁目13−3 恵比寿ガーデンプレイス内 MAP アクセス:JR恵比寿駅東口より徒歩約7分、東京メトロ日比谷線恵比寿駅より徒歩約10分 |