美術館は、通常展覧会を鑑賞するために足を運ぶ場所ですが、実はそれ以外にも見どころはたくさんあるのです。
たいていの美術館は有名建築家がその建物を手がけていることが多く、建築や内装、そして家具にもこだわりを感じます。
今回注目したいのは美術館にある名作椅子の数々その2です。

その1は東京国立近代美術館でしたが、その2は黒川紀章設計の建築でも有名な国立新美術館を特集します。
実は、国立新美術館にもいわゆる名作と言われるイスが何気なく置かれています。
しかも、その数と種類が豊富な上に、その名作椅子に普通に座ることができるのですから嬉しい限りです。
東京国立近代美術館では、椅子ごとに紹介しましたが、国立新美術館は、同じデザイナーで複数の椅子があるので、デザイナーごとに紹介します。
また、購入可能なものはその参考価格も表記しました。(オプションやバリエーションがあるのであくまで参考価格です)
価格は2022年現在のもので今後変動の可能性があります。

アルネ・ヤコブセン
国立新美術館で一番数量があるのは、フリッツ・ハンセンから出ているアルネ・ヤコブセンの名作椅子の数々でしょう。
アルネ・ヤコブセンは、デンマークデザインの巨匠で、建築家でありデザイナーです。
デンマークの老舗家具ブランドフリッツ・ハンセンから出ているアルネ・ヤコブセンデザインの椅子やテーブルはロングセラーばかりなので、誰もが目にしたことのあるものばかりです。

セブンチェア
アルネ・ヤコブセンがデザインした椅子の中で、最も売れているのがセブンチェアです。
世界中で500万本以上売れたと言われています。
そして、現在もその総数の記録を伸ばし続けている名作中の名作、ロングセラー中のロングセラーと言えるでしょう。
国立新美術館でもその総数は多いのは圧倒的にセブンチェアだと思われます。
というのも3階のブラッスリーポール・ボキューズ ミュゼで使われているのがセブンチェアのレザーだからです。
また、同じく3階にあるアートライブラリーの中の椅子も白いセブンチェアで、講堂や研修室で使われている椅子も同じく白いセブンチェアです。
アートライブラリーは中に入って確認しましたが、内部の写真撮影が禁止なので写真はありません。でも、確かにセブンチェアでした。
開館当時は、アートライブラリーではウェグナーのウェルボーチェアが置かれていた記憶ですが、現在はセブンチェアです。
というわけでブラッスリーポールボキューズミュゼだけでもすごい数のセブンチェアが見てとれますが、講堂や研修室の椅子もカウントすると相当数のセブンチェアがあるはずです。
数が多ければいいってわけではありませんが、そのぐらい使い勝手が良いという証拠でしょう。

セブンチェアはフリッツ・ハンセン(Fritz Hansen)で、67,100円〜
エッグチェアとスワンチェア
ヤコブセンデザインの椅子の販売数ではセブンチェアを越すものはありませんが、ヤコブセンのアイコン的な存在はエッグチェアではないでしょうか。
国立新美術館の地下には、エッグチェアとセットでスワンチェアも一緒に置かれた、SASロイヤルホテルコーナー(勝手に命名)があります。

いつもたいてい誰かが、身を委ねているエッグチェアとスワンチェア。▲
その優美で彫刻のようなフォルムの美しさだけでなく、一度包み込まれてしまったら、居心地の良さはクセになってしまう魅惑の椅子です。

ヤコブセンの不朽の名作エッグチェアとスワンチェアは、1958年、自身がデザインしたコペンハーゲンのSASロイヤルホテルのロビースペースのためにデザインされたました。
各々、単体でも十分美しいのですが、エッグチェアとスワンチェアが織りなす曲線の美は、両方混じり合って、更にその流麗な美が完成されるのです。
是非、真っ赤なエッグチェアとスワンチェアに身を委ねてみてください。
時間を忘れてしまう居心地の良さです。
フリッツ・ハンセンでエッグチェアが972,400円〜、スワンチェアが548,900円〜
アントチェア(アリンコチェア)
セブンチェアに続いて、目にすることが多いのがアントチェア(アリンコチェア)です。
この椅子もセブンチェア同様にたくさん並んでいる光景が美しいデザインの椅子です。
国立新美術館では、地下のカフェテリア・カレにアントチェアが並びます。
ここでは、オリジナルデザインの3本脚ではなく、ヤコブセンの死後販売された4本脚タイプが導入されています。
アントチェアはフリッツ・ハンセンで46,200円〜

オックスフォードチェア
英国オックスフォードのセント・キャサリンズ・カレッジの 教授用の椅子としてアルネ・ヤコブセンによってデザインされた椅子です。
人の背中にピッタリ沿うようにデザインされたシンプルで美しいオフィス仕様の椅子です。
背もたれの長さやキャスターの有無などのバリエーションが豊富です。

オックスフォード(OXFORD)は、フリッツ・ハンセンで306,900円〜
AJミニテーブル
椅子ではありませんが、国立新美術館にあるアルネ・ヤコブセンデザインのデスクライト照明です。
スッキリとしたフォルムで手元を明るくするための下向きのデザイン、より照度を上げるために照明の内側の色は白です。
外側のカラーは、11色から選べます。美術館のはブラック。
サイズも2種類あって、美術館のはミニの方だと思います。
AJミニテーブルは、ルイス・ポールセンで115,000円〜

ハンス・J・ウェグナー
元アルネ・ヤコブセン事務所のスタッフだったハンス・J・ウェグナーもまた、デンマーク家具デザインの巨匠の1人です。
手がけた家具は椅子だけで軽く500を超えると言われています。
ウェグナーを有名にした最初のきっかけは1943年のチャイニーズチェアですが、その後代表作であり、世界で最も売れたと言われるYチェアなどヒット作を次々発表しました。
国立新美術館では、4種類のウェグナーデザインの椅子に座ることができます。
ちなみにウェグナーの妻はヤコブセンの秘書でした。社内恋愛だったんですね。
シェルチェア
羽を広げたような、軽やかで浮遊感のあるデザインと元木工職人だったウェグナーの技術に裏打ちされた構造のバランスが素晴らしい逸品です。
美しいカーブを描いた成形合板製の座面と背もたれに目がいきがちですが、最も注力すべきは、一枚の合板から一体に成形された2本の前脚と別々に製作される後ろ脚だったりします。

フォルムの美しさもさることながら、その座り心地も最高です。
シェルチェアCH07は、カールハンセン&サン(Carl Hansen&Søn)で441,000円〜です。

ラウンジチェアCH25
ナチュラルペーパーコードでできた座面と背もたれが特徴のCH25ラウンジチェア。
戦時中の物資不足の中ウェグナーが取り上げた素材がペーパーコードです。
1脚づつ職人が手作業で2本のペーパーコード張っていきます。
なんと貼るのに要する時間は1脚あたり10時間。1脚に使用されるペーパーコードは長さは400メートル。
そうした熟練の技によって作り上げられたCH25は、優れた耐久性があるだけでなく、独自の張り方がとっても美しい模様を浮かび上がらせています。
デンマークの家具職人が膨大な時間をかけて貼る作業を背中に感じてみましょう。
国立新美術館では、3階のアートライブラリー横に並んでいます。

CH25ラウンジチェアはカールハンセン&サンで440,000円〜

美術館1階の階段下に詰め込まれたウェグナーのシェルチェアとCH25ラウンジチェア。
コロナ禍でソーシャルディスタンスを図るために間引かれた椅子だと思われますが、早くこの椅子たちにも出番が来ることを願ってやみません。
椅子は座るためにあるのですから。
Yチェア
2階のカフェサロン・ド・テ ロンドの椅子はウェグナーの代表作Yチェアです。
Yチェアもまた座面にペーパーコードが貼られていますが、ここではシートが敷かれています。保護のためかな?
Yチェアのデザインの特徴は、背もたれのYの字のデザインもさることながら、中国の椅子を起源とする、背もたれと肘掛けが一体化したデザインです。
当時はとても斬新なデザインでした。

小柄な日本人にとって、やや肘掛けが高めと感じる人が多いのは、平均身長の高い北欧の人との体格の差でしょう。
Yチェアはカールハンセン&サンで100,100円〜

フットスツール
ここのカフェには、Yチェアだけでなく、ペーパーコードを使用したウェグナーのフットスツールもあるので、お忘れなきよう。
フットスツールは店内では使用されておらず、この渡り廊下の待合スペースに並んでいます。

フットスツールはカールハンセン&サンで91,300円〜
ポール・ケアフォルム
ニューヨーク近代美術館(MOMA )でも使用されているPK80デイベッドがこの美術館にも複数並んでいます。
その広いベンチの座り心地は快適で、赤ちゃんが寝かされていたり、座り込んで話し込む人々をよく目にします。
快適さだけでなく、そのシンプルなデザインは、建築空間の中でも至ってニュートラルな存在で、まさに機能とデザインを兼ね備えた名作ベンチです。

しかし、先日少しおかしな光景を目の当たりにしました。ポール・ケアホルムは、スチールを使うことが特徴の一つです。

しかし、そのシャープなデザインのポイントである脚のスチールが白いのです。▲
え?塗装したの?と思って近づいてみると、なんと!シリコンカバーが装着されていました。
これ、前はなかったよなぁ。子供が怪我でもしたのかな。
それにしても専用シリコンカバーなので特注したのか、元々売っているのか。。。

まだ、カバーがされていなかった時の写真▲2021年1月です。
2022年3月の写真ではカバーが取り付けられているのが確認できたので、どうもここ1年の間に取り付けられたようです。
少なくとも開館してから14年は、そのまま置かれていたのに、なんか悲しい。
PK80デイベッドは、フリッツ・ハンセンで2,795,100円〜
紺野弘道 RINチェア
国立新美術館の椅子の中で唯一の日本人デザイナーの椅子です。
デンマークの椅子ブランドフリッツ・ハンセンで初めての日本人(東洋人)デザイナーを起用した椅子です。
RINは凛と輪の意味をもち、凛はまさに凛とした椅子であること。
また輪は、花束の中の1本ではなく、孤立して咲く一輪の花の事だそうです。

1階にはブラックのRINが。▲
鳥の巣からインスパイされてデザインされたというフォルム。
え?鳥の巣なの?花じゃないの?ってなってしまいます。
結局、花なのか、鳥の巣なのか、よく分かりませんね。

地下には色とりどりのRINチェアが並びます。
なんと、RINチェアは、フリッツ・ハンセンで既に廃盤です。残念!
ですから、ここのRINチェアの数々は貴重な存在です。
キャスパー・サルト
アイスチェア(ICE CHAIR)は、セブンチェアの次に国立新美術館で数量のある椅子かもしれません。屋内・屋外ともに使用可能な耐久性に優れた椅子です。
フレームはアルミで、背もたれと座面はASA樹脂でできています。
キャスパー・サルトはデンマーク出身のデザイナーです。手がけた椅子は、デンマーク国立美術館、ルイジアナ美術館などに所蔵されています。
しかし、残念ながらフリッツ・ハンセンで販売されていたアイスチェアはRIN同様に既に廃盤になっています。

ポール・ヘニングセン
椅子ではありませんが、デンマークデザインで統一された美術館で、ルイス・ポールセンの照明を一つ。
ポール・ヘニングセンデザインの照明PH 4½-3½ グラステーブルです。
デンマークデザインの代表的な照明と言えばPHシリーズです。
PHシリーズは、ペンダントやスタンドなどたくさんのバリエーションがあり、日本でも目にする機会の多い照明です。
この照明は、ヤコブセンのオックスフォードチェアを使っている1階カウンターに置いてあります。
PHグラステーブルは、ルイス・ポールセンで466,400円です。

展示室内のベンチ
美術館といえば、展示室内の椅子にも注目したいのですが、最近の国立新美術館ではこの木製のベンチしか見当たりませんでした。

デンマークデザイン
ここまでみてきてお分かりかと思いますが、国立新美術館の椅子は、すべてデンマークデザインで揃えられています。
家具ブランドはフリッツ・ハンセンとカールハンセン&サンです。
建築を設計した黒川紀章か日本設計がそこまで担当したのか、インテリア(家具)は別に担当がいたのか調べていませんが、意図的にデンマークデザインで統一されていることは確かです。
また、最後の展示室のベンチ以外は、すべて無料エリアにある椅子なので、廃盤で貴重な存在となったRINやアイスチェアをはじめ、デンマークデザインの名作椅子の数々に座るためだけに美術館へ出かけてもいいかもしれません。
イタリア、デンマーク、日本人デザイナーの名作椅子も多数見られる美術館の名作椅子の数々その1国立近代美術館もあわせてどうぞ。
黒川紀章設計の美しい美術館建築については動画を参照ください。
美術館基本情報
国立新美術館
10:00-18:00 会期中金・土〜20:00 火曜休館 入場料は展覧会により異なる 港区六本木7丁目22−2 MAP アクセス:東京メトロ千代田線乃木坂駅青山霊園方面改札6出口(美術館直結)、東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口から徒歩約5分、都営地下鉄大江戸線六本木駅7出口から徒歩約4分 |
美術館の名作椅子の数々その1 国立近代美術館▼
美術館の名作椅子の数々その3 法隆寺宝物館▼
美術館の名作椅子の数々その4
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