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美術館の名作椅子の数々 その1 東京国立近代美術館 イタリア、デンマーク、日本の名作椅子


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美術館は、通常展覧会を鑑賞するために足を運ぶ場所ですが、実はそれ以外にも見どころはたくさんあるのです。

たいていの美術館は有名建築家がその建物を手がけていることが多く、建築や内装、そして家具にもこだわりを感じます。

今回注目したいのは美術館にある名作椅子の数々です。実は、美術館にはいわゆる名作と言われるイスが何気なく置かれていることが多いのです。

しかも、その名作椅子には普通に座ることができるのですから嬉しい限りです。

東京国立近代美術館
1969年竣工の現在の美術館の設計は谷口吉生

第1回目は、日本に7つしかない国立美術館のうちの一つ、竹橋の東京国立近代美術館です。(ちなみに残りの6つは、国立西洋美術館、国立工芸館、京都国立近代美術館、国立国際美術館、国立新美術館、国立映画アーカイブ)

東京国立近代美術館
ブリヂストン創業者石橋正二郎の寄附によって建設された

写真は2014年から2022年までの8年間に訪問した際のものなので、美術館内の椅子の位置は変更されている場合があります。

また、このブログでは購入できる名作椅子については価格も表記してみました。

表記した価格は2022年8月現在のもので、今後変更の可能性があります。

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CAB

この美術館で一番よく目にするのが、イタリア人デザイナーによるマリオ・ベリーニのCAB(キャブチェア)です。

東京国立近代美術館
2階展示室横の通路に並ぶCAB

CABにはアームレスとアームチェアと2種類ありますが、東京国立近代美術館に限らず美術館ではアームチェア413CABをよく見かけます。

東京国立近代美術館も例に漏れずアームチェアのダークブラウン(カッシーナ・イクスシーでは”タバコ”という名前の色)が展示室内だけでなく、エントランスやエレベーターホールなどに置かれています。

余談ですが、個人的には、近美のこの床がとても好きです。どんな椅子にも似合う上に、個性的なのに飽きのこないデザインです。

東京国立近代美術館
エレベーターホールに並ぶCAB、窓際にはアントニー・ゴームリーの作品

前にテーブルがある場合は、アームがついていると出入りする際に大変なので、アームレスチェアの方が重宝しますが、美術館空間に椅子だけがある場合は、アームチェアの方が座りやすく居心地がいいです。

CABは、鉄製のフレームを全て革で包み、馬具の縫製技術のサドルステッチで仕上げた美しいフォルムが特徴です。一つ一つ手作業で縫い合わされており、革とフレームはジッパーによって固定されています。

簡単にいうと鉄製のフレームが革製の服を着ているような感じです。

その仕組みがよくわかる写真が、販売元のイタリア家具ブランドカッシーナ・イクスシーのwebに出ていましたので、興味のある方はここをクリック

CABは、その優れたデザインが評価され、ニューヨーク近代美術館(MOMA)に所蔵されています。

東京国立近代美術館
常設展示室内で背中合わせに置かれる412CAB

CABは優美な曲線のデザインだけでなく、上質な革の触り心地も最高で見かけたら必ず座ってみたくなるはずです。

ちなみに412CABアームチェアは、色の仕上げによって価格が変わりますが、1脚363,000円〜です。

ちなみに日本に在庫がない場合は、手作りなので発注してから余裕で半年以上待つことになります。イタリア家具の常識といえば常識ですが。

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サイドチェア

イタリア生まれのアメリカ人ハリー・ベルトイアがデザインしたサイドチェアです。

ハリー・ベルトイアは、デザイナーであると共にサウンドアートなどを手掛けるアーティストでもありました。

東京国立近代美術館
皇居に向かって並ぶサイドチェア

東京国立近代美術館では、最上階(4階)にある展望休憩室「眺めのよい部屋」に置いてあります。▲

ここはどんな展覧会を観に行っても必ず立ち寄る場所です。

窓に向かってサイドチェアが並ぶ姿は圧巻ですね。そして、案外人がいないのも好きなポイントです。

東京国立近代美術館
眺めのよい部屋からの眺め

実はこのサイドチェア、西澤徹夫が担当した2012年の大改修の際に、空間との調和を図るためにシートパッドをグレーに変更し、表面塗装も新たにクロムメッキを施して生まれ変わりました。

現在、Knollで販売されているサイドチェアのシートパッドは布やレザーなどその素材と色の数は100種類以上あります。

ちなみにKnollで販売されているお値段はシートパッドなしで127,600円〜です。

企画展と常設展と丁寧に見るとかなり疲れるのでここでいつも一休みです。

名作椅子に座ってお堀の様子をのんびり眺める時間は、ここでしか味わえない特別な時間です。

Knoll Bertoia Collection Side Chair ストラクチャー:ポリッシュクローム

価格:162,800円
(2022/8/30 15:48時点)
感想(0件)

▲2023年1月2日に訪問したら、奥の椅子がヒモイスに変わっていました。

この変更が一時的なものなのか、そうでないのか今後も観察する予定です。

ラタンスツール

ラタンスツールのデザインは剣持勇です。

このラタンスツールは、私が見る限り、主に日本画を展示している、この常設展示室にいつも置いてあって移動されることはなさそうです。

今までにこの場所以外では見たことはありません。おそらくこの展示室専用です。

畳の方は、清家清デザインの「臨機応変型多目的移動畳」です。この畳も多分この展示室専用。

剣持勇はこのブログでも紹介した丹下健三の香川県庁舎大谷幸夫の国立京都国際会館のインテリアデザインを手がけたインテリアデザイナーです。

実は剣持勇のラタンの椅子というとスツールよりもラウンジチェアの方が有名です。

東京国立近代美術館
畳の方は建築家清家清デザインの臨機応変型多目的移動畳です。

▲手前の臨機応変型多目的移動畳のオリジナルは清家清が自宅で使っていたデザインです。

清家家では庭に出して屋外で使用したりしていたようです。

“Mobile Tatami Platform” by Kiyoshi Seike
Installation View of Seike Kiyoshi’s exhibition “Mobile Tatami Platform”, GALLERY- SIGN TOKYO, 2023

▲2023年9月にGALLERY-SIGN TOKYOで復刻された臨機応変型多目的移動畳を見ることができました。

これは清家家にあったものを忠実に再現しているそうで、畳の配置やヘリなどが美術館のものとは微妙に違います。

上の写真と比較してみてください。違いがよくわかります。(2023年9月追記)

東京国立近代美術館 工芸館
かつての工芸館の展示室内にあったラウンジチェアとローテーブル

今は金沢へ移転してしまいましたが、かつては近美のお隣にあった東京国立近代美術館工芸館には、ラタンのラウンジチェアとローテブルも置いてありました。

このラウンジチェアが、金沢に移動されたのかどうかは金沢の工芸館へ行っていないのでわかりません。

一度訪問して確かめてみないといけないですね。

このラウンジチェアは、もともと東京オリンピックを前に建設された赤坂見附のホテルニュージャパン(1982年大火災により焼失)の内装を剣持勇が手がけた時にデザインしたものです。

ホテルニュージャパンというと82年の大火災の様子が想起され、あまりいいイメージはありませんが、剣持勇のこのラウンジチェアは、その負のイメージを背負うことなく、今でも残っているいいデザインです。日本で初めてMOMAの永久収蔵品にも選定された名作です。

株式会社ワイ・エム・ケー長岡で販売されているラタンシリーズ。ラウンジチェアは正式にはアームレスチェアC-3160という名称で1脚264,000円〜です。

テーブルはT-2090で84,700円〜、スツールは座高の高さがS-3010~3040までの4種類あって44,000円〜。

籐家具 ラタン家具 MOMA ミッドセンチュリー インテリア モダン 伝統工芸品 C-3160 剣持勇 アームレスチェアー 株式会社ワイエムケー長岡

価格:264,000円
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バタフライスツール

ご存じ柳宗理デザインの名作スツールです。

柳総理が、アメリカでイームズと出会い、その合板の曲げ加工技術に刺激されて、天童木工と共に試行錯誤の末に出来上がったのがこのスツール。

そのシルエットは蝶のようであることからバタフライスツールです。

東京国立近代美術館
建物を思う部屋のバタフライスツール。ソル・ルウイット作品導入前の様子

近美でバタフライスーツルがあるのは、3階所蔵品ギャラリーの「建物を思う部屋」です。▲

以前は何もないこの部屋にバタフライスツールが置いてあるだけでした。

東京国立近代美術館
4階までの吹き抜け空間に常設された「ウォール・ドローイング」

2020年12月からは、ソル・ルウィットのウォール・ドローイング(Wall Drawing #769)が常設されました。▲

この作品はいつでも鑑賞可能です。

東京国立近代美術館
窓際のバタフライスツール

壁際から窓側へ移動されたバタフライスツール。▲

ちなみに天童木工で1脚55,000円です。

柳宗理 sori yanagi/天童木工|バタフライスツール butterfly stool/ローズウッド [ 柳宗理 sori yanagiのバタフライスツール butterfly stool ]

価格:55,000円
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ヒモイス

渡辺力デザインのヒモイスは、サイドチェアのある眺めのよい部屋へ向かうところにあります。

1951年の戦後間もないまだ物資の乏しい頃に、コストをかけずに快適な椅子を作ろうと考えられたのが、このヒモイスです。

東京国立近代美術館
手前にはCABがある

ヒモイスは、座面に座布団を敷いて使えるデザイン。▲でもこのままでも十分快適です。

東京国立近代美術館
もちろん座ってもいい

以前、一度復刻されたようですが、現在は簡単に購入することはできないようです

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スツール60

美術館に限らず、最も目にすることの多い名作椅子の一つ、アルヴァ・アアルトデザインのスツール60。

アルヴァ・アアルトはフィンランドの建築家でありデザイナーでその活動は多岐に渡り、建築から食器類までありとあらゆるものをデザインした北欧を代表するデザイナーです。

東京国立近代美術館
ゴードン・マッタ=クラーク展でのスツール60

アアルトが手がけた椅子の中で、一番親しみがあるのがこのスツール60です。

これは他の美術館でもよく目にします。美術館以外にもいろんなところにありますね。

東京国立近代美術館
映像作品観賞用のスツール60

近美に何脚あるのか知りませんが、必ずどこかで使われています。

スタッキングもできるし、軽くて丈夫でデザイン性にも優れている優秀なスツールです。

東京国立近代美術館
コロナ前のエントランスの様子。スツール60やCABが密に並んでいる

ちなみにartek(アルテック)でナチュラル・ラッカーが1脚28,600円です。

STOOL60 ナチュラルラッカーナチュラルラッカー /シート:バーチ色 (28000151)  アルヴァ・アアルトmmisオススメ

価格:28,600円
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感想(0件)

欅拭漆彫花文長椅子

かつての工芸館の2階には、アルヴァ・アアルトデザインの65チェアと共に、重厚ないかにも工芸品然とした長椅子が置いてありました。

ご記憶の方も多いでしょう。

東京国立近代美術館 工芸館
かつての東京国立近代美術館工芸館2階

かつての東京国立近代美術館工芸館は、陸軍技師田村鎮の設計により建てられた近衛師団司令部庁舎を美術館仕様に改修したものでした。

この長椅子はその建築にとてもよく似合っていました。

東京国立近代美術館
所蔵品展の様子

先日、ゲルハルト・リヒター展を鑑賞しに近美に足を運び、当然ながら所蔵品展を観ていたら、なんと!観たことのある椅子が作品として展示されているではないですか!あの工芸館にあった椅子です。

所蔵品に格上げされたってことでいいんですよね。

椅子を見るための椅子(CAB) が用意されています。ちょっとシュールな光景▲

東京国立近代美術館 工芸館
工芸館にあった頃は自由に座れました。

この椅子は漆芸家で木工家の黒田辰秋「欅拭漆彫花文長椅子」(1949年)です。

欅でできており、もともとは、料亭の待合にあったものだそうです。

しっかり座っておいてよかった!?

ちなみにこの長椅子はプライスレスです。(当たり前)

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アントチェア/アリンコチェア

アリンコチェアとも言われる、デンアークデザインの巨匠アルネ・ヤコブセンの名作です。

ヤコブセンデザインの椅子は名作揃い、ロングセラー揃いなのですが、その中でもアントチェア(アリンコチェア)はセブンチェアに次ぐ不動の人気を誇るイスではないでしょうか。

当初は3本足でしたが、ヤコブセンの死後、安定を図るために4本脚も販売されました。

現在フリッツ・ハンセンでは3本脚も4本脚も販売しています。

東京国立近代美術館
監視員さん用のアントチェア、ゲルハルト・リヒター展にて

このように単体でも美しいのですが、ヤコブセンの椅子はたくさん並んだ時も美しいですね。▲

ちなみにフリッツ・ハンセンで1脚46,200円〜

エアフレーム

建築家のデヴイット・チッパーフィールドがデザインしたエアフレームのベンチタイプです。

シリーズでソファやデスクなども展開しています。

一時期、社長室のデスクと言ったらエアフレームが定番!でした。今でもかな?

このベンチも色々な美術館でよく見かけます。

東京国立近代美術館
菅井汲作品とエアフレーム

シンプルでニュートラルでかっこいい。▲

近美ではローテーブルとの組み合わせで置かれています。

ちなみにカッシーナ・イクスシーで3人掛け237,600円〜です。

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ベンチ

近美には、他にいくつかベンチがあるので掲載します。

東京国立近代美術館
工芸品ぽいベンチ

一個だけぽつんと置かれたベンチ。デザイナーなど不明です。

不明でしたが、情報提供してくださった方のおかげで判明しました。

↑前述したヒモイスのデザイナー渡辺力デザインで当時は天童木工制作のリキベンチです。

おそらく美術館のリキベンチは天童木工のものでしょう。

現在は、カンディハウスで再販されておりサイズ177が330,000円、150が300,300円です。

東京国立近代美術館
リヒターの大ガラスとベンチ

おそらく2012年の西澤哲夫による改修の際に導入されたと思われるタモ材のベンチ▲

東京国立近代美術館
同じく所蔵品展でのタモ材のベンチ

作品としての椅子

近美の椅子特集の最後を飾るのは、この美術館で観た作品としての椅子です。

東京国立近代美術館
2014年に開催された「高松次郎ミステリーズ」展

2014年近美で開催された展覧会「高松次郎ミステリーズ」で高松次郎の「影」シリーズの制作原理を体験できるセクション「影ラボ」での風景▲

近美の所蔵作品の高松次郎「遠近法の椅子とテーブル」▲

この作品は、いつでも見られるわけではないけれど、この美術館で幾度となく見ている作品。

そして印象深く好きな作品の一つです。

美術館に行ったら作品を鑑賞しているんだから、椅子なんて気にしてないよ。という方もいらっしゃるでしょう。

だけど、ちょっと視点を変えると実はとても貴重なものがあったりするんです。

現に工芸館に普通に置いてあった黒田辰秋の長椅子は所蔵作品に昇格されているわけですから。

もしかしたら、今後はもう2度と座ることなんてできなくなる名作椅子が置いてるあるかもしれませんよ!

美術館の名作椅子の数々その2へ続く

*椅子の価格は全て2022年8月現在のものです。今後変動する可能性があります。

 

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美術館基本情報

東京国立近代美術館

10:00-17:00(金土10:00-20:00)月休

所蔵作品展 入館料:一般500円、大学生250円 中学生以下、65歳以上、11/3文化の日は無料

企画展チケット料金は展覧会により異なる

東京都千代田区北の丸公園3−1 MAP

美術館の名作椅子の数々その2 国立新美術館▼

美術館の名作椅子の数々その3 法隆寺宝物館▼

美術館の名作椅子の数々その4

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「美術館の名作椅子の数々 その1 東京国立近代美術館 イタリア、デンマーク、日本の名作椅子」への2件のフィードバック

  1. リキベンチではないでしょうか。
    もしリキベンチでしたら、過去に天童木工で生産され、現在では本人によってリデザインされたものがカンディハウスで製造販売されています。

  2. コメントありがとうございます。
    リキベンチで間違いないようです!
    ずっと疑問だったあのベンチの謎がとけてスッキリしました。
    情報ありがとうございました。

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