東京都美術館で開催されいてる「フィン・ユールとデンマークの椅子/Finn Juhl and Danish Chairs」展を観に行く前に知っていると得するかもしれない情報です。(会期終了しました)
この展覧会に協力している織田コレクションの椅子研究家織田憲嗣氏とフィン・ユールとの秘話や展覧会場内だけじゃない都美館のフィン・ユールの家具や写真撮影についてなど、展覧会を観に行く前に知っていると展覧会がより楽しめる情報を紹介します。

織田コレクション
この展覧会の実現にあたっては、特別協力と学術協力にクレジットされている織田コレクションの織田憲嗣氏の存在なしにはありえません。
出品されている貴重な椅子の数々の大部分が織田コレクションです。
椅子研究家の織田氏は1972年にコルビジェのLC4を購入したのを皮切りに、約半世紀以上にわたって1350脚の椅子や2万点におよぶ関連資料を収集しているというから只者ではありません。
織田氏は、フィン・ユールと親交があっただけでなく、購入したフィン・ユール作の椅子の修理について本人に相談するほど親しくしていたそうです。
2012年には、日本人として初めて、デンマーク フィン・ユール協会名誉理事称号を授与されています。
現在北海道東神楽町の森の中の自邸で数々の名作椅子に囲まれて暮らしていらっしゃいます。
この北海道の森の家がまたすごいんです!展覧会会場内で織田氏の森の家を映像で見ることができますよ。

織田憲嗣氏とフィン・ユール
フィン・ユールと直接親交の会った織田氏は、亡くなる直前にも本人に会いにコペンハーゲンへ渡っています。
急いで渡航し、コペンハーゲンの空港へ着いて、日本時間の時計をコペンハーゲンの時間になおしたのがちょうど12:30でした。なんとそれはフィン・ユールがまさに息を引き取った時間だったそうです。
フィン・ユールと織田氏、2人の固い絆を感じるエピソードです。
最も入手困難だった椅子
織田コレクションのフィン・ユールの家具の中で最も入手が困難だったものは、チーフテンチェアだそうです。

デンマークのオークションに貴重なフィン・ユールのチーフテンチェアが出るということで、織田氏は代理人を立てて参加しました。
あらかじめ代理人に予算はエスティメイト(落札予想価格)の10倍までと伝えてあったのですが、オークションが始まると強敵との一騎討ちとなり、ヒートアップした代理人は予算を忘れて競合ってしまいました。見事落札したのですが、それは予算をはるかに上回る価格になっていたのです。
その後、フィン・ユールと会った時に、フィン・ユールが「この前のオークションで激しい競合いの末にチーフテンチェアが落札された」という話をするので「それを落札したのは私です」と伝えたところ、競り合った相手はなんとあのヴィトラデザインミュージアムだったということが明かされたんだとか。
ちなみにヴィトラデザインミュージアムとはスイスの家具会社ヴィトラ社のドイツ工場内にある世界で最も重要なデザイン博物館と言われ、家具や照明の屈指のコレクションを所蔵するミュージアムです。
会社組織と個人がオークションで競り合った上で個人が落札するって、そりゃすごい金額でしょうね。入手困難というのは金額的な意味合いも多分にあるようです。

チーフテンチェアに使われている木材はブラジリアンローズウッドで、現在希少種としてワシントン条約に登録されています。
フィン・ユールのリビングのソファ
グレーのソファはフィン・ユールのリビングで使っていたソファを奥様から譲ってもらったものだそうです。

よーくみてください。ビスの頭を隠すために牛骨を嵌め込んでいたり、脚の部分に2種類の木材を組み合わせていたり、とんでもなく凝ったデザインになっています。あまりにも凝りすぎているために商品化はされなかったソファです。
ですから、これはオンリーワンのソファです。会場に行ったらその辺りもじっくり観察してみてください。
織田氏が書いたフィン・ユールの書籍は装丁も美しい▼
フィン・ユール
フィン・ユールはデンマーク王立アカデミー建築学科に進学し、ヴィルヘルム・ラウリッツエンの建築事務所に11年間勤務した後に独立しています。
1940年代に代表作の「イージーチェア No.45」、「チーフテンチェア」などをデザインしています。また、1942年にコペンハーゲン北部のオードロップゴーに自邸を建設し、自らデザインした家具や日用品に囲まれて暮らしました。
1950年代はアメリカでの仕事が増え、国連本部ビルの信託統治理事会議場のインテリアと家具デザインを手掛けるなど、国際的に活躍します。
スカンジナヴィア航空のオフィスや旅客機のインテリアデザイン、世界各地でデンマークデザインを紹介する展覧会の会場構成を手がけるなど、建築家、インテリアデザイナーとしての仕事も多数あります。

展覧会構成
展覧会は3章で構成されています。展覧会タイトルにある通り、フィン・ユールとデンマークの椅子の数々を見ることができます。
展覧会の様子は動画を参照ください。▼
第1章 デンマーク家具の歴史と変遷
デンマークで豊かなデザインが誕生した歴史とその背景を辿る展示です。
デニッシュモダンの父と称されるコーア・クリントの代表作ルドルフ・ラスムッセンのフォーボーチェア(1914年)や家具職人組合についてなど資料や映像も展示されています。
余談ですが、代官山にあるルーフミュージアムには、コーア・クリントのフォーボーチェアなど貴重なデンマークのヴィンテージ家具のカフェがあります。
もちろん、座ってお茶を飲んだりケーキを食べたりできます。

アルネ・ヤコブセン、フリッツ・ヘニングセン、モーエンス・コッホ、ハンス・J・ウェグナー、ボーエ・モーエンセン、ポール・ケアホルムなどなどお馴染みの、あるいは貴重なデンマークデザインの椅子達がズラリと並びます。

同じく頭上にズラリと並ぶ照明はポールヘニングセンのPH5/5です。▲
第2章 フィン・ユールの作品
デンマークで家具をデザインにするには、家具職人のマイスターの資格を取得する必要があります。ですから、家具デザイナーはデザイナーであると同時に家具職人でもあります。

建築事務所に勤務していたフィン・ユールはマイスターの資格は持っていませんでした。職人ではなかったが故にハンス・アルプやヘンリー・ムーアといった彫刻からの影響を強く受け、自由でとても美しい家具を生み出していったのです。

建築事務所に勤務していたものの、独立してからもフィン・ユールは、5件の住宅しか設計していません。そのうち現存するのは自邸のみです。
そんなフィン・ユールが暮らした自邸の様子を垣間見ることができる展示もあります。
第3章 椅子に座る体験コーナー
展覧会で貴重なたくさんの椅子を鑑賞するのは全て立ったまま。あるいは歩きながらの鑑賞です。
第3章では、フィン・ユールやデンマークの椅子に実際に座ることができる体験コーナーです。
「そこに座る人がいなければ、椅子はただの物にすぎない。人が座ってはじめて、心地よい日用品となる」というフィン・ユールの言葉通りのオチのある展覧会です。

写真撮影について
写真撮影は可能なエリアと撮影不可のエリアがあります。
第1章と第2章は、撮影可能エリアと撮影不可エリアがありますが、第3章は全て撮影可能です。
動画はNGです。
展示替え情報
残念ながら出品されていないものと、会期前半と後半で展示替えされるものについての掲示があったのでアップしておきます。

東京都美術館のフィン・ユール
展覧会場の椅子体験コーナーもいいけれど、実際に東京都美術館で使用しているフィン・ユールの椅子にも座りましょう。
フィン・ユールの家具が使われているのは1階佐藤慶太郎記念アートラウンジです。
東京都美術館2012年のリニューアルで改修を担当した前川建築設計事務所から新しい空間に提案されたのがこれらデンマークの家具で、まさにこのフィン・ユール展覧会のきっかけにもなっているのです。

フィン・ユールのカクテルテーブルとイージーチェア▲体験コーナーのカクテルテーブルはお触り禁止でしたが、ここは全然OKです。

手前のテーブルは前川國男建築設計事務所にて設計し天童木工で制作したおむすびテーブルとイブ・コフォード・ラーセンのデザインのイージーチェア「IL-10」です。
せっかく都美館まで来たら前川國男建築を見学しながら帰路につきましょう。
都美館の外構の照明もデンマークデザインですよ。
無料の日
10月1日(土)は、都民の日なので無料です。なんと、都民じゃなくても無料。誰でも無料なのです。
近隣カフェ情報
前川國男建築で展覧会を観たら前川建築のレストランへ
安藤忠雄建築のカフェもはずせない。
復活した古民家カフェも行ってみたい
ただの純喫茶じゃない。高級純喫茶です。
ゴージャスな店内は昭和にタイムスリップ
基本情報
Finn Juhl and Danish Chairs 2022年7月23日(土)~10月9日(日) 会期終了 9:30~17:30 金~20:00 月休、9/20休 一般 1,100円 / 大学生・専門学校生 700円 / 65歳以上 800円 事前予約不要 東京都美術館ギャラリーA・B・C 台東区上野公園8-36 MAP アクセス:JR上野駅「公園口」より徒歩7分、東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅「7番出口」より徒歩10分、京成電鉄京成上野駅より徒歩10分 |
あわせて鑑賞したいフランス人デザイナーのジャン・プルーヴェ展▼
コーア・クリントなどデンマークの貴重なヴィンテージ家具に座ってコーヒーが飲めるカフェ▼
もう一つのフィン・ユールとデンマーク展
南麻布のdesignshopで開催されいてるもう一つのフィン・ユール展にも行ってきました。

こちらはフィン・ユールとデンマークの日用品で、実際にフィンユールの椅子に座ったり、ボウルに触ったりすることができます。
そして、さらに購入することができるのです。

家具はちょっと手が出なくても、小物類ならなんとかなるかも。金属のボウル、木製のボウル、食器やトレイ、時計、やクッションなどのテキスタイルもありました。

フィン・ユールの美しい図面のポスターやフィン・ユールが自宅に飾っていたカイボスキンのモンキーも購入することができます。
美術館でフィン・ユールの仕事をみたら、何か欲しくなってしまいますね。
基本情報
-ARCHITECTMADEのプロダクトから- Finn Juhl and Danish Design –Classics from ARCHITECTMADE- 2022年7月23日(土)~10月9日(日) 11:00 – 19:00 土日祝休、8/11(木祝)~8/15(月)休 特別開業日 8/20(土)、8/27(土)、9/3(土)、9/10(土)、9/17(土)、18(日)、19(月祝)、23(金祝)、24(土)、25(日)、10/8(土)、9(日) designshop azabu 港区南麻布2丁目1−17 白ビル MAP |