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「さばかれえぬ私へ 」志賀理江子、竹内公太 東京都現代美術館 東日本大震災と第二次世界大戦を題材としたインスタレーション


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2018年より始まった中堅アーティストを対象とした現代美術の賞「Tokyo Contemporary Art Award(TCAA)」は、東京都とトーキョーアーツアンドスペース(TOKAS)が、主催しているアワードです。毎回の受賞者は2組で、数年にわたる支援の最後の年に、東京都現代美術館で受賞記念展を開催することになっています。

Tokyo Contemporary Art Award 2021-2023 受賞記念展は、志賀理江子と竹内公太の2名です。

東日本大震災の爪痕が大きく残された宮城、福島を拠点として活動する志賀理江子と竹内公太が、授賞式で対話する中でこの展覧会タイトルとなる「さばかれえぬ私へ/Waiting for the Wind」が生まれました。

共に東北に活動拠点を置く2人ですが、その作品の表現方法は全く異なります。しかし、その根底では、何か通じるものを感じる2人の展覧会でした。

「さばかれえぬ私へ 」志賀理江子、竹内公太 東京都現代美術館
「さばかれえぬ私へ 」志賀理江子、竹内公太 東京都現代美術館
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竹内公太

2023年3月まで開催していた森美術館の展覧会「六本木クロッシング2022展:往来オーライ!」にも出品していたアーティストです。

森美術館の展覧会のアーティストトークで、今回の展覧会に出品する「風船爆弾」についてのレクチャーを聞いていたので、会場に行って「ああ!これか!」と歓喜の声をあげそうになりました。

「さばかれえぬ私へ 」志賀理江子、竹内公太 東京都現代美術館
「さばかれえぬ私へ 」竹内公太 東京都現代美術館

地面のためいき

展示室にドーン!と置かれているのは、風船爆弾を模したインスタレーション「地面のためいき」2022年です。この風船をよく見ると地面の写真が繋ぎ合わせてあるのがわかります。その数は300枚に及びます。

この風船を構成する地面の写真の意味するところは、風船爆弾が落下したであろう地点の地面の写真なのです。

風船爆弾は実際に第二次世界大戦時、日本で製作されアメリカへ向けて飛ばされました。しかし、日本にはそのことに関する資料が極端に少ないのだそうです。

竹内公太はグーグルマップと米軍の文書記録から風船爆弾の着地点を特定し、実際に訪れてその地面の写真を撮ったのです。

「さばかれえぬ私へ 」志賀理江子、竹内公太 東京都現代美術館
「さばかれえぬ私へ 」竹内公太 東京都現代美術館

風船は、展示室内で呼吸をするかのように空気が入れられ大きく膨らみ、そしてゆっくりと萎む、を繰り返しています。

まるで生き物のようなそのリズムは、第二次大戦時、実際に人命を奪った兵器を模している事を忘れそうになってしまいます。

しかし、その周囲に展示されたリサーチ時における数々の資料や映像、写真を見ていると、紛れもない事実であることを突きつけられるのです。

三函座

竹内公太のもう一つの作品は福島県いわき市にあった古い劇場三函座が解体された時の映像を使ったインスタレーションです。

「さばかれえぬ私へ 」志賀理江子、竹内公太 東京都現代美術館
「さばかれえぬ私へ 」竹内公太 東京都現代美術館

作品に使われているスクリーンと椅子は実際に劇場で使われていたものです。

作品を鑑賞しようとその椅子に座ると、なんと自分自身が解体している三函座の中にいるではありませんか!

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志賀理恵江子

展覧会の冒頭の展示空間を丸ごと使った映像によるインスタレーションと後半の展示室の空間全体で展開する作品、二つの大型インスタレーション作品が見られます。

「さばかれえぬ私へ 」志賀理江子、竹内公太 東京都現代美術館
「さばかれえぬ私へ 」志賀理江子 東京都現代美術館

風の吹くとき

この作品は写真撮影が禁止のため写真はありません。会場に入ってすぐの展示室全体3面に映像が流れています。この映像はエンドレスにループしており、キャプションには映像の所要時間は明記されていません。

映像では、東日本大震災について登場人物が語っています。その内容は当然ながら決して耳障りのいいものではなく、身につまされる内容です。

大震災から12年が経ち、世の中は復興が進んで元通りになったかのように過ごしていますが、果たしてそうなのでしょうか。

震災前から宮城県に移り住み、自ら大震災を経験し、この12年間の「復興」を体験した作家でなければ制作しえない作品です。

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あの夜のつながるところ

空間全体が一つの作品です。中央にある土嚢袋に寝転がったり座ったりして作品を鑑賞することができます。

「さばかれえぬ私へ 」志賀理江子、竹内公太 東京都現代美術館
「さばかれえぬ私へ 」志賀理江子 東京都現代美術館

▲東日本大震災からこれまでの12年間をテーマとした作品です。

壁面の大きな赤いバツ印にも意味があります。

「さばかれえぬ私へ 」志賀理江子、竹内公太 東京都現代美術館
「さばかれえぬ私へ 」志賀理江子 東京都現代美術館

これまでも写真を使ったインスタレーションを数多く発表してきた志賀理江子ですが、一見写真によるインスタレーションに見えますが、そこには血管のように赤い絵の具で地図が描かれています。

これは東北の地図です。

震災後の「復興」とは一体なんだったのであろうか、そしてこれからも続くであろうその「復興」について作家が表現したインスタレーションです。

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厳選なる審査によって選ばれたアーティストだけあってTTCAの受賞記念展は毎回見応えがあります。

時間をかけて入念にリサーチし、深く掘り下げた題材だけに、帰路に着く頃には胃の中がズーンとなってしまうくらい重いテーマの作品なのですが、今年もまた印象深い展覧会でした。

東京都現代美術館で同時開催している「クリスチャン・ディオール 夢のクチュリエ」展との落差もまたすごい。

昨年のTokyo Contemporary Art Award  受賞記念展▼

基本情報

さばかれえぬ私へTokyo Contemporary Art Award 2021-2023 受賞記念展 


2023年3月18日(土)-6月18日(日)

10:00-18:00

※5/13(土), 14(日), 20(土) , 21(日) , 27(土) , 28(日)は20:00まで臨時夜間開館

月休 この展覧会は入場無料

東京都現代美術館

江東区三好4丁目1−1 MAP

アクセス:東京メトロ半蔵門線清澄白河駅B2番出口徒歩9分

都営地下鉄大江戸線清澄白河駅A3番出口徒歩13分

東京メトロ東西線木場駅3番出口より徒歩15分、または都営バスで東京都現代美術館前下車

都営地下鉄新宿線菊川駅A4番出口より徒歩15分、または都営バスで東京都現代美術館前下車

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