静岡県のリゾート地、熱海(あたみ)の全域を使って展開されるアートイベント「ATAMI ART GRANT」。前編ではHOTEL ACAO会場に展示されている作品を紹介しました。
後編では今回参加した「アタミデスバスアートツアー」という新宿から出るツアーバスで巡った熱海市内の会場の様子を紹介します。
來宮神社(きのみやじんじゃ)や起雲閣(きうんかく)といった熱海の定番スポットから、イメージチェンジしている熱海を体現するようなおシャレなカフェまで。アート作品と一緒に秋の熱海も楽しめる仕掛けが楽しいツアーです。
▲アートイベント「ATAMI ART GRANT 2022」は、熱海の魅力をアートにより再発見し、目に見える形にするプロジェクト「PROJECT ATAMI」によるもので、「ACAO ART RESIDENCE」と「ATAMI ART GRANT」の大きく2つの柱で構成されています。
滞在制作型の「ACAO ART RESIDENCE」は20組のアーティストがACAOに滞在する活動、「ATAMI ART GRANT」は ”GRANT(助成)” という名の通り、「渦 − Spiral ATAMI」をテーマに公募したアーティスト30組にGrantを授与する活動です。
このアートイベントを日帰りで巡るのが「アタミデスバスアートツアー(ATAMI des BUS ART TOURS)」。今回はこのバスツアーにご招待いただき参加させてもらいました。
この後編では、前編で紹介した「HOTEL ACAO(ホテル アカオ)」会場以外の行程を紹介します。
薬膳喫茶gekiyaku
ツアーで熱海に入って最初の会場は「薬膳喫茶gekiyaku」。ここでは竹久直樹の作品とGROUPの作品のテーマになった温泉浴場跡を観ることができます。
またツアーバスの中で薬膳ランチの事前オーダーを取っていて、オーダーした人はここで受け取りです。
時間的に海老名でお昼を食べる時間がないので、昼食はお弁当を持参するかここの薬膳ランチにしないと食べるチャンスがありません。
▲熱海はほとんどが丘陵地帯で、この薬膳喫茶も高台の中腹に建っています。
▲窓からは熱海の市街地とその先の相模湾が一望できるかもというロケーション。
いずれゆっくり訪問したいところです。
▲これが竹久直樹の写真作品。
熱海の夜景をマリーナの辺りから撮った作品のようです。
▲これが温泉浴場跡ですが、これ自体は作品ではありません。
ここからインスパイアされて、アートユニット「GROUP」が「浴室の手入れ(Repair of bathroom)」という作品にしています。
その作品の方は熱海へ向かうバスの車内で上映されましたし、HOTEL ACAO会場でも展示、上映されています。
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來宮神社
薬膳喫茶gekiyakuから坂道を歩いて下ると來宮神社(きのみや じんじゃ)です。
熱海の名所の一つなので参拝に訪れたことがある方も多いでしょう。
▲ATAMI ART GRANTとは無関係にSNS映えするスポットもあるし、カフェもあったりで人気の神社ですね。
▲このようにお稲荷さんの鳥居があったりします。
11月は七五三もあったりで観光客に地元の人も加わって混雑しています。
▲そんな來宮神社の境内に展示されているのも竹久直樹の作品。
熱海の昔と今を行ったり来たりするような作品たちです。
▲來宮神社のシンボルでもある大楠は本殿の裏手。
樹齢は約2,100年。つまり紀元前からここに立っているそうです。周囲は約24mで本州1位の巨樹です。
ここにも竹久直樹の作品が展示されています。
▲本殿と裏手の大楠を結ぶ通路は小川をイメージしたかのような不思議な造形。
▲これは中島崇の作品「recess 3」。
梱包用に使われる赤い結束テープを使ったインスタレーションです。
小川の上を横切るように張られた緊張感のある作品です。
すぐにそれと分かる竹久直樹の作品、裏手に回らないと観られない中島崇の作品。それに加えて來宮神社自体にも興味深いスポットがあって、ここだけで1時間くらい観て回れると思います。
熱海魚市場
続いて海に近いエリアに移動してまずは「熱海魚市場」。
▲魚市場がアートイベントの会場になっています。
そもそも一般人は入れない魚市場ですが、ATAMI ART GRANTの会期中は中に入って展示作品を鑑賞できます。
ただ ”せり” などは見学できないみたいです。
でも、せりに参加するための鑑札とかお仕事用のトラックとか、ここもアート作品以外の興味深いものが満載でした。
▲ここで展示されているのは大野光一の「遠くにみえる、何もみえない」。
すべてペインティング作品です。
スーパーハウスにしれっとぶら下がっていたり、壁の上に巨大な作品が展示されていたり、ディスプレイもまた面白い作品です。
▲屋内駐車場の壁にもこんな巨大な作品。
▲仕事用に現役使われている螺旋階段。
”トイレは2階のオクです” と手書きの案内があったりして現場感がありますね。2階にはトイレや会議室に応接室など ”会社” で必要な機能を持った部屋があって、そこにも作品が展示されています。
それにしても螺旋階段に隠れるように展示されているこの作品。熱海魚市場の空間と大野光一の作品とがおりなすもう一つのインスタレーションですね。
起雲閣
熱海魚市場から歩いて数分で「起雲閣(きうんかく)」。
1919年(大正8年)建築という築100年を超える近代建築。熱海でもMust Visitな場所です。
なお起雲閣は大人610円の入館料が必要です。ただしオフィシャルバスツアーには起雲閣の入館料が含まれているのでバスツアー参加者は入館料が不要です。
▲起雲閣に展示されているのは高木彩圭の作品群。
絵画的な映像作品や小さな立体作品など、人の視覚を刺激するような作品です。
この写真の作品は外の日本庭園と起雲閣の建物を写し取った写真作品ですが、実際に見える風景と重ね合うような展示がされています。
▲これもそうですね。この場所でしか実現できない作品。
映像作品と併せ、じっくり時間をかけて鑑賞したい作品です。
起雲閣の建築
この起雲閣は成金としても有名な実業家の内田信也が熱海の別邸として建てたもの。
その後やはり実業家の根津嘉一郎(初代)の手に渡ります。
根津嘉一郎は南青山に本邸(今の根津美術館)を持つ趣味人でここを別邸として利用していました。つまり南青山の根津美術館と起雲閣は兄弟みたいなものです。
▲戦後は根津の手を離れ旅館として運営されていたので、起雲閣には根津時代以前の部屋とその後増改築された部分が混在しています。
大正期の近代建築として、その成金趣味な部分や趣味人根津のセンスが溢れる部分を観ることできる、建築好きなら外せないスポットです。
ATAMI ART GRANTの作品を観た後は、起雲閣の建築とその日本庭園をじっくり見て回りたいですね。
今回は時間がなくてゆっくり建築を観ることができなかったので、以前訪問した際の写真を使って起雲閣の建築を紹介します。
兄弟建築である南青山の根津美術館についてはこちらの記事をどうぞ。
▲根津時代の「玉姫の間」に通じるアールデコ調のサンルーム。
ステンドガラスの天井、タイル敷きの床に大きな窓ガラス。
もう再現することも叶わない貴重な空間です。
▲これも根津時代のローマ風浴室。
当時のものはステンドガラスの窓など少ししか残っていませんが、基本的な造形は当時のままです。
▲これは「玉渓の間(ぎょくけい)」。
英国チューダー様式を元にしたヨーロッパの山荘風な設えになっています。
でも暖炉の上にはインド風なレリーフがあったりで、ちょっと不思議な空間。東洋古美術に造詣が深い根津のことですから、何か意図があってのことでしょう。
▲大広間から日本庭園を望むところ。
根津美術館の起伏のある庭園と異なり、こちらはむしろ平坦な庭園が広がり、邸宅からほぼ一望できるんですね。
このように建築だけでもじっくり観るとあっという間に時間が過ぎてしまいますし、さらに熱海や起雲閣にちなむ様々な資料の展示もあります。
じっくり時間をかけて建築とアートを楽しむか、ATAMI ART GRANTの期間だけは高木彩圭の作品鑑賞だけにしておくか、悩ましいところです。
アタミデスバスアートツアーの行程としては起雲閣で熱海市街エリアは終わり、次はHOTEL ACAOで移動です。HOTEL ACAOの作品については前編をどうぞ。
NFTスタンプラリー
ATAMI ART GRANT2022では「NFTスタンプラリー」が実施されています。
会期中に全20ヶ所のNFT設置箇所でQRコードを読み込むと簡単にNFTを受け取ることができます。
▲受け取ることができる作品は、アーティストの岸裕真と米澤柊によるコラボレーション作品で、20ヶ所全て異なる作品です。
見るとエディションは1000個しかないので、それぞれ先着1000名までということになります。
会期が終わった時点でtoken IDが発行され自分のものにすることできます。
アート業界でも話題のNFT、興味のある方は会場でQRコードを探してみてください。
薬膳喫茶のランチ
バスツアー参加者向けですが、薬膳喫茶gekiyakuのランチを紹介します。
▲アタミデスバスアートツアーのバス車内でのお品書き。
これはツアー初回の際のものなので、今後はもしかしたら印刷された注文票になるかもしれません。
▲薬膳喫茶gekiyakuに到着するとすでに用意は出来ていて決済して受け取ります。
現金以外に電子マネー、QRコード決済も可能でした。
▲今回はお粥。これで500円。
▲身体に優しそうな薬膳粥。
▲豚肉か鶏肉、それとゆで卵と野菜。
女性でもちょっと物足りないかもしれないので、海老名SAでオヤツを買っておくのが良いでしょう。
アタミデスバスアートツアー
熱海は新幹線・電車、自動車でもアクセスできますが、今回は招待いただいた「アタミデスバスアートツアー」で参加です。
ATAMI ART GRANT 2022主催のオフィシャルバスツアーです。
今後のバスツアー開催日は2022年11月11日(金)、12日(土)、19日(土)、25日(金)それと26日(土)。料金は9,800円。
ただし26日の開催は「【七尾旅人】スペシャルLIVEバスツアー」として七尾旅人のプライベートLIVE付き!
熱海へ向かうバス車内でのアコースティックライブとHOTEL ACAOでライブパフォーマンスが行われます。
そのため料金も19,800円となります。
なおバスツアー料金には通常3,500円のATAMI ART GRANT2022のパスポート(入場券)、起雲閣の入館料、それとお土産が含まれています。
▲出発場所は新宿西口工学院大学前バス停。
渦 – Spiral ATAMIをイメージしたキービジュアルがバックプリントされたトレーナーを着て迎えているのは、主催ディレクターやコンシェルジュなどのスタッフさんたちです。
▲新宿から熱海まで、首都高〜東名高速〜小田原厚木道路〜真鶴道路〜熱海ビーチラインというルート。その間、東名高速の海老名SAで休憩のために停車します。
自家用車で早朝に発てば2時間ちょっとで熱海ですが、週末の東名高速や小田原厚木道路、真鶴道路は渋滞必至なので、実際にはもうちょっと時間がかかります。
そのバスで移動する間は車内のモニターでATAMI ART GRANTの映像作品やサウンドインスタレーションが流されます。もうバスに乗ったところからアートイベントが始まっているのです。
▲例えばこれはGROUPの「浴室の手入れ(Repair of bathroom)」。
浴場跡はこのあと薬膳喫茶gekiyakuで目にすることになりますし、作品そのものはHOTEL ACAO会場でじっくり鑑賞することができます。
(車内での作品は日によって異なる可能性もあります)
▲ATAMI ART GRANTとHOTEL ACAOの紹介ビデオ(?)。
とってもポップで不真面目な演出と映像が展開されていて見ていてまったく飽きない作品(?)でした。これは必見。
ツアーバスの行程
最後にアートツアーバスの行程とお土産などを。
▲参加アーティスト vug による旅のしおり。
トイレ行く、昼ゴハンポイント、おみやげ といった注意事項が書かれています。
行程の時間も書かれていますがあくまで目安ですね。
またこのバスツアーは新宿⇒ 熱海の片道ツアーです。HOTEL ACAOで解散した後はそのまま熱海に泊まっても、駅まで送ってもらって帰宅しても自由にできます。
▲これはパスポート。
期間中はいつでも何度でも有効です。2回、3回に分けて熱海に通って作品を鑑賞するのもOK、気に入った同じ会場を何度訪れてもOKです。
▲バスツアーに付くお土産はビールか温泉まんじゅう。
ビールは「熱海ビール」と参加アーティストのコラボ。vug、河野未彩、ニミュのいずれかが選べます。
▲こちらは延命堂の温泉まんじゅう。
熱海の温泉の蒸気で蒸した正真正銘の温泉まんじゅうです。知らないうちにおシャレなパッケージになっていました。
ATAMI ART GRANTのメイン会場と名所会場をいくつか回るアートツアーバス、まだ後半の回は残席があるようですし、七尾旅人のファンにとってはアートとライブの両方が楽しめる回もあります。自分で車を運転していくより全然楽チンなので、熱海へのアクセスに検討してみてください。
前編でも触れましたが、このATAMI ART GRANTは新進若手の新作を中心に多くのアーティストと作品に触れられる良い機会です。11月27日までと残り会期も短いですが、秋のアートシーズンのちょっとした小旅行も兼ねたアート巡りとして最適だと思います。
イベント基本情報
ATAMI ART GRANT 2022 〜〜 渦 – Spiral ATAMI 〜〜
11:00 〜 18:00 (11月から3月は16:00まで) 鑑賞パスポート 大人 3,500円、学割 3,000円 (一部、無料で鑑賞できる場所もあり) アクセス:JR東海 東海道新幹線熱海駅、東海道本線/伊東線 熱海駅
ATAMI des BUS ART Tours (アテミデスバスアートツアー) 2022年11月5日(土)、11日(金)、12日(土)、19日(土) 11:00新宿駅西口工学院前集合、熱海市内でアート鑑賞後HOTEL ACAOで17時解散 料金は中学生以上 9,800円 (七尾旅人スペシャルツアーは19,800円) 食事は付きません。また東京新宿から熱海への片道です。帰路は各自手配が必要です。 予約は東海バスのホームページから |
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