今回の階段特集は ”大空間の大階段” です。全国にある階段が主役の大空間から、私が巡った著名建築家が手がけているものなどを集めてみました。
大きな空間の大部分を占める大階段は、昇降の機能は当然ながら、その美しい姿が空間の重要な装飾の一部となり、なだらかなスロープよりも、何もない平坦な空間よりも、存在感があります。
伊東豊雄や安藤忠雄、原広司といった著名建築家の大空間の大階段だけでなく、古くは原美術館など数々の名建築を世に送り出した渡辺仁の大階段(ここは有名テレビドラマのロケ地やCMなどでもお馴染みです。)、そして駅近ホテルの増築によって生まれた新しい大空間の大階段まで新旧取り混ぜてレポートします。

<まつもと市民芸術館>
設計 伊東豊雄
開館 2004年
民藝や芸術の街として名高い長野県松本市にある「まつもと市民芸術館」は、公立の文化ホールです。

多くの市民が集まる文化施設の入口を入ると目に飛び込んでくるのがこのとんでもなく広くて大きい大階段空間です。
壁にはランダムな大きさの水玉模様が散りばめられ、外の街路樹の緑がチラチラと見え隠れする憎い演出がなされています。

▲高円寺にある伊東豊雄が手がけた座・高円寺にも共通する正円ではないランダムな水玉模様は、気持ちを軽やかにしてくれます。
広くて大きな大階段は緩やかに上昇し、上階のホール入口へと誘います。

コロナ禍の訪問だったのでホールの人の出入りが極端に少なく、独り占めできたのはいいのですが、閑散とした文化ホールは寂しいなぁと実感しました。今では活気が戻り、様々な催しが連日行われていることと思います。
まつもと市民芸術館の詳細は▼
基本情報
まつもと市民芸術館
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<西田幾多郎記念哲学館>
設計 安藤忠雄
開館 2002年
石川県かほく市にあるご当地出身の哲学者、西田幾多郎の記念館です。

この記念館の大階段は屋外です。
安藤忠雄設計ですから、もちろん内部にも悲鳴を上げたくなるような美しい階段がありますが、今回は大階段なので、屋外のこの大空間の大階段をご紹介します。

多くの人が車で訪れる場所にあるので、駐車場からの導入がこの大きな大きな階段空間です。ただし、この階段を登らなくても上写真の左上に写っているエレベーターで上階へ行き、スロープで館に到着できるようになっています。
つまり、この階段はわざわざ作った装飾的な階段であり、公園や広場のような意味合いのある大空間なのです。

エレベーターで上階へ上がって見えてくる記念館とその前にある大きな屋外階段空間。圧倒的な強さのある階段です。
基本情報
西田幾多郎記念哲学館
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<京都駅>
設計 原広司
開業 1997年
次に紹介するのは、施設としても巨大な駅の空間です。
京都駅を利用したことのある人は多いでしょう。でも、目的地に向かってすぐに駅を出てしまっては勿体無いくらいすごい空間が広がる建築です。
設計は梅田のスカイビルや軽井沢の田崎美術館など数々の名建築を手がけた原広司です。

▲実はこんなに大きな大空間の大階段がある京都駅。
しかもこの階段かなり上の方に位置するので、一番上から見下ろすと高所恐怖症の人だったら足がすくむくらいの高さがあります。
新幹線を降りてすぐに駅を出てしまわずに、行きか帰りのどちらかで京都駅の建築見学の時間を設けていくのがおすすめです。

▲夜になるとこんな演出がなされる時も。人の大きさと比較するとこの階段空間がとても大きいことがわかるはずです。

階段空間から駅を眺めるとこんなすごい風景が広がっています。
動線は階段だけでなくエレベーターやエスカレーターもありますが、やっぱり階段で上まで登ってみたくなりますね。
原広司設計の軽井沢の田崎美術館の記事▼
基本情報
京都駅
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<THE THOUSAND KYOTO(ザ・サウザンド京都)>
設計 東畑建築事務所
竣工 2018年 開業2019年
これまで紹介した建築の中で一番新しい階段空間です。広くて新しくてかっこいい。
これ以上ないくらい痺れる大空間の大階段です。

THE THOUSAND KYOTOは、京都駅前に建つ築38年の京都センチュリーホテルに隣接した場所に新たに増築されたホテルです。

▲雑多な日常を忘れ、贅沢な気持ちに浸れるホテル空間にふさわしい大空間の大階段です。

▲エントランスからのアプローチは大空間とは真逆の閉じられた空間です。
その先に見えるのはwowによるインスタレーション作品です。
開業してすぐに訪問した際の写真なので、現在もこのwowの作品が人々を出迎えてくれているのかは次回京都訪問の際に確かめてみたいと思います。
基本情報
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<東京国立博物館 本館>
設計 渡辺仁
開館 1938年
大空間の大階段特集の最後を飾るのは、築85年になる国の重要文化財です。
帝冠様式の建築の代表格として度々取り上げられる渡辺仁設計の東京国立博物館ことトーハクの本館です。

▲この階段、どこかで目にしたことがあるなぁと感じる方も多いでしょう。
ここは、テレビドラマやCM、雑誌の撮影のロケ地としても有名な場所なのです。
一番有名なのは ”倍返し” のセリフで一世を風靡したドラマ「半沢直樹」です。堺雅人が勤務する東京中央銀行本店としてこの大階段が度々登場していました。

▲ドラマでは銀行の本店でしたが、実際は誰でも入れるトーハクの本館のエントランスです。
立派すぎて少し萎縮してしまいますが、入場料を支払えば誰でも、この大階段の真ん中を上り下りすることができるのです。

▲今ではなかなか出会えない、全部石造りの階段空間です。この階段を登ると「ああ、トーハクに来たなぁ」と実感します。
上野の象徴的存在と言ってもいいかもしれません。
基本情報
東京国立博物館
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