東京藝術大学大学美術館
京都の禅宗の古刹「相国寺(しょうこくじ)」を大本山とする相国寺派の名品多数を紹介する《相国寺展──金閣・銀閣 鳳凰がみつめた美の歴史》が上野の「東京藝術大学大学美術館」で開催されています。
会期は2025年3月29日(土)から5月25日(日)まで。GW頃を境に前期と後期に分かれ、展示作品の入れ替わりも多いので2回訪問することを覚悟しておきたいです。
室町時代から現代に至るまでの作品を総覧することで、相国寺が日本文化の中でパトロンとも言える特異な位置を占めていたことが窺える展覧会です。

相国寺
相国寺は室町幕府の三代将軍、足利義満により創建された禅寺。京都御所の北側にあって周囲には同志社大学などもあり、京都観光で一度は訪問したことがある方も多いと思います。
やはり足利義満によって創建された金閣寺(鹿苑寺)、八代将軍である足利義政により創建された銀閣寺(慈照寺)は京都いや日本を代表する名所ですが、実はどちらも相国寺の塔頭(たっちゅう)です。
金閣寺、銀閣寺はもちろん、相国寺にもその本堂や開山堂、方丈、庫裏(くり)など多くの貴重な建物が多くあります。
また創建当時から絶海中津や横川景三といった五山文学を代表する禅僧、如拙、周文そして雪舟といった日本水墨画を代表する画僧を輩出するなど京都の文化的な中心であり続けています。
その相国寺の境内には相国寺派の名品を所蔵する「承天閣美術館」が開館したのが1984年。開館40年を記念して承天閣美術館が所蔵する美術品を巡回展示するのが《相国寺展》で、東京藝術大学大学美術館での展覧会は2024年の愛知県での開催に続くものです。
展覧会は5章構成
展覧会は5章構成。
第1章は創建当時の相国寺ゆかりの作品、第2章は雪舟を中心にみた作品、第3章は江戸時代の初期の復興の時代、第4章は江戸時代中期の若冲が生きた自体、そして第5章は更に未来へ続く相国寺の文化。
そんな構成で地下2階と3階の展示室を使って作品が紹介されています。

国宝の出品は前期が無学祖元と天目茶碗の2点、後期は無学祖元の1点。ただし前期の無学祖元とは入れ替わっています。
雪舟作品は前期が個人蔵のため今回が初公開となる渡唐天神(菅原道真)を描いた若き日の作品が1点。後期はそれに晩年の傑作、山水図と毘沙門天像を加えた3点になります。
伊藤若冲
展覧会のサブタイトルは ”雪舟から応挙、若冲へ” 。
この中で展示されている作品数が一番多いのが伊藤若冲です。
相国寺との縁も深く金閣寺の障壁画も描いていた若冲ですからある意味当然かもしれません。

▲展覧会のキービジュアルとしても使われている《竹虎図 (たけとらず)》。
鹿苑寺(金閣寺)所蔵のものです。

▲有名な金閣寺大書院の障壁画。
全9面中3面が展示(通期)されています。

▲この《乗興舟》は若冲と相国寺の大典和尚(梅荘顕常)と淀川下りをして遊んだ体験をもとにした作品。
若冲がスケッチをし大典和尚が所々の風景を読んだ漢詩とまとめた画巻です。
若冲が生み出した拓版画と呼ばれる手法で制作されています。
《相国寺展》とほぼ同時期に5月6日までの会期で「皇居三の丸尚蔵館」で開催されている《百花ひらく 花々をめぐり美》では伊藤若冲の国宝《動植綵絵》が展示されています。
これはもともとは相国寺が所蔵していたもので明治天皇に献納された後、今は三の丸尚蔵館蔵となっているものです。本展と併せて訪問してはどうでしょうか。
国宝などのみどころ
現代での伊藤若冲の人気の高さは言うまでもありませんが、本展には若冲以外の重要な美術家の作品や国宝なども展示されています。

▲国宝の《与長楽寺一翁偈語》。全4幅で前期・後期で2幅づつの展示になります。
無学祖元は中国南宋出身で鎌倉時代に来日し終生を日本で過ごした禅僧です。
鎌倉時代の禅林墨跡(禅僧の真跡)を相国寺が購入したそうなので当時からこうした芸術品を意図を持って収集していたのですね。

▲ガラスケースの中は国宝の《玳玻盞散花文天目茶碗 (たいひさんさんげもんてんもくちゃわん)》。
かつて松江藩主で茶人の松平不昧(まつだいら・ふまい)が所有していたもの。
ただし展示は前期だけです。
また背景に見えるのは長谷川等伯の《萩芒図屏風》です。
なお丸の内の静嘉堂文庫美術館では4月6日(土)からの会期で《黒の奇跡・曜変天目の秘密》展が開催され、そちらでは静嘉堂文庫が所蔵する国宝の曜変天目などの天目茶碗が展示されます。天目茶碗に興味あればそちらもどうぞ。

▲こちらは丸山応挙の《七難七福図巻》。全3巻です。

▲相国寺と《相国寺展》のユニークなところと思えるのが第5章「未来へと育む相国寺の文化 ”永存せよ”」です。
室町時代創建の寺院ながら、それ以前の時代の美術品も所蔵し、近世や近代になってコレクションしたり寄進された美術品などが加わって常にアップデートされ続ける ”相国寺文化” の総本山。
今回加わったのは《令和の詩画軸》。
相国寺管長の有馬頼底による賛(画賛)、そして画の方は日比野克彦。あの段ボールでおなじみの現代美術家の日比野克彦ですが今は東京藝術大学の学長という重責も担っているのです。
相国寺という中世以来の文化の一つの中心と東京藝大という近代美術教育の中心が合作し、その成果が相国寺のコレクションに加わったといことです。

▲江戸時代の狩野派の絵師、狩野探幽とその弟尚信、安信の合作《観音猿猴図》。
中央の観音像が探幽、右の猿は弟の尚信、左の猿はその下の弟安信が描いています。
狩野三兄弟の個性の違いなどを楽しめる作品です。
前期だけの展示ですがこの猿たちはミュージアムグッズとして大きくフィーチャーされていて、そんな意味でも注目です。
ミュージアムショップ
ここは大学の美術館とはいえ立派なミュージアムショップが2Fにあり、相国寺展のグッズも販売しています。
▲Tシャツにプリントされているのは狩野尚信が描いた猿ですね。
税込で4,400円。
▲トートバッグは専門ブランドROOTOTE(ルートート)とのコラボで2種類あって、それぞれ税込で3,080円と3,520円。
やっぱり狩野兄弟の合作デザインが人気になりそう。
▲図録も購入できます。
税込で2,900円。
価格から想像する以上に立派な図録で重さも1kg以上あります。オンラインでも購入できますが全国一律で800円の送料がかかりますから、ショップで購入して頑張って持ち帰りたいですね。
撮影について
今回の展覧会は写真撮影、動画撮影とも一切撮影禁止です。
※本記事では特別に許可を得て撮影しています。
関連番組と関連イベント
《相国寺展》はNHKが主催に名を連ねているので展覧会を併せて楽しめる番組も放映予定です。
日曜美術館『雪舟から若冲へ 相国寺文化圏の真実(仮)』
NHK Eテレ(教育)
4月27日(日) 午前9時〜
4月27日(日) 午後8時〜 (再放送)
ザ・バックヤード 知の迷宮の裏側探訪「東京藝術大学大学美術館」
NHK Eテレ(教育)
4月23日(水) 午後10時〜
4月29日(火) 午後2時35分〜 (再放送)
日曜美術館で紹介されるとその後の混雑は必至ですので、まずはその前に《相国寺展》を訪問しておきたいです。
またこの時期、京都の相国寺でも行事が行われています。
相国寺「春の特別拝観」
拝観場所は法堂(本堂)、方丈、開山堂。このうち法堂はそれ自体が重要文化財で、今回の特別拝観では天井の「花天井」が初公開となるようです。
拝観料は19歳以上の大人が1,000円、小中高生が500円です。
この時期に京都へ行かれる方は相国寺も参拝されてはどうでしょうか。ただ相国寺境内の「承天閣美術館」は多くの作品が東京出張中かもしれません。
開催情報
相国寺展―金閣・銀閣 鳳凰がみつめた美の歴史
会期:2025年3月29日(土) ~ 5月25日(日) 休館日:月曜日 (5月5日は開館し5月7日休館) 開館時間:10:00~17:00 観覧料:一般 2,000円、高校・大学生 1,200円、中学生以下無料 会場:東京藝術大学大学美術館 本館 展示室1, 2, 3, 4 住所:台東区上野公園12-8 MAP |