都心への移転とダウンサイジングを模索していた千葉のDIC川村記念美術館と六本木の「国際文化会館」から驚きの発表がありました。両者はアート・建築分野での協業を開始し2030年をめどにコレクションの中核を国際文化会館へ移転する、前川國男設計の西館をSANAAが新西館として建て替え常設の「ロスコ・ルーム」を開設するというのです。
DIC川村記念美術館のコレクションの行き先が決まったことは喜ばしい限りなのですが、その移転先がご近所でもあり馴染み深い国際文化会館とは!
千葉の自然の中にあってこそのDIC川村記念美術館だったと思うのですが、それが都心へ移転。しかも歓楽街というイメージも強い六本木。
いろいろ心配されている方が多いのも分かりますが、でも大丈夫。移転先の国際文化会館は日本の建築界の巨匠たちが共同で手掛けたモダニズム建築の傑作、そして施設内には名勝にも指定されている緑豊かな日本庭園があって、環境的には今のDIC川村記念美術館にも決して引けを取ることはないと思っています。
そんな一般的な知名度があまり高くない国際文化会館の内部を紹介します。
ただ国際文化会館は会員制施設なので非会員である私たちでも見られる場所だけの紹介です。また今は以前と比べ立ち入り可能なエリアが少なくなっているので、本記事で紹介している場所でも現在は立ち入りできない可能性があります。
国際文化会館とは
「国際文化会館」には公益財団法人「国際文化会館」と、その財団が運営する同名の施設「国際文化会館」の2つの意味があります。
まずは財団としての国際文化会館を紹介し、それ以降では施設・建物としての国際文化会館を紹介します。

財団法人としての国際文化会館は主に日米間の国際理解とそのための知的・文化的交流を目指す団体で、1952年(昭和27)に当時の日本の学産政各界、それとアメリのロックフェラー財団などから支援を受けて創立されています。
そして1955年(昭和30年)に建物としての国際文化会館が開館しています。この建物は原則として会員とそのゲストが利用できるもので、宿泊施設の他に会議室、レストラン、宴会場、図書室などがあります。ただし、非会員であってもティーラウンジは利用できますし、結婚式場として利用することもできます。
今回DIC川村記念美術館のコレクションを受け入れることになったのは、創立70周年である2022年から始まった ”次の100年を見据えた基盤づくり” プロジェクトの一環である周辺地域の再開発(六本木五丁目再開発計画)に合わせて国際文化会館に新西館を建設し本館の内装改修を行う事業とDIC側の都心移転とダウンサイジングとがマッチしたのだと思われます。
国際文化会館の建築
将来に向けて再編される施設としての国際文化会館の建築を紹介します。
一部は取り壊されますが、核心部分は将来も残されるようです。

▲1955年に開館した「本館(旧館)」。建築系のTV番組でも紹介されるなど国際文化会館のシンボルとも言える建物です。
設計は前川國男と坂倉準三と吉村順三という日本の建築界の巨匠3人による共同設計です。
日本の戦後モダニズム建築の頂点と言っても過言でないですから、2008年には文化庁の「登録有形文化財」として認定されれています。
写真で奥に見える部分の2階と3階が客室です。庭園レベルは地下1階となりホールや会議場/宴会場として使われています。その上のフロアはロビーやティーラウンジです
ずいぶん前に取り壊しも検討されたこともあるこの本館(旧館)ですが、結局そのまま利用されることになり20年前に保存再生工事が施されています。そのため今回の再編事業では内装の改修に留まる予定です。
一部SNSでこの本館(旧館)が取り壊されるのはけしからんと流れていますが明確に間違いです。

▲写真左側の煉瓦の外壁の建物が前川國男設計で1975年に増築された「西館」。
客室として使われているこの西館が今回取り壊される対象になっています。
ただ50年前の前川國男建築ですから、本館(旧館)のようにやはり保存するとか他に移設するとか、何らかの予定変更はあるかもしれないですね。

▲国際文化会館の駐車場です。
駐車場の突き当りにある建物が「別館」。講堂やセミナールームとして使われていますが、これも取り壊し対象です。
この別館と西館の跡地にSANAA設計の新西館が建築される予定で、その新西館内にマーク・ロスコの作品を展示する「ロスコ・ルーム」が開設されるそうです。
国際文化会館の建物についてはこちらのドキュメンタリーで詳しく紹介されています。↓
国際文化会館 本館(旧館)
私たちは非会員で客室には入れませんから、外観とロビーだけ。

▲駐車場から見た本館(旧館)の客室部分です。
巨匠3人による共同設計とはいえ、誰がどこを担当したのか一目瞭然なのがお可笑しいです。

▲ちなみに駐車場からは東京タワーや麻布台ヒルズが近くに見え、都心らしさを感じます。
日本庭園からも東京タワーがよく見えるのですが、今の日本庭園は会員以外立入禁止になっています。

▲本館入口を入ったロビー(写真はミナペルホネンのファブリックを使った椅子の展示時。現在は別の椅子が使用されています)。
眼の前には屋上庭園が広がり、その向こうには国際文化会館のもう一つの名所である日本庭園も見えています
本館も日本庭園もほぼそのまま残るはず、というかそれが次の100年を見据えた基盤でもあるので、2030年以降もこの景色を見続けることができるはずです。
▲本館地下1階の「レストランSAKURA」を見下ろしたところ。
日本庭園の池辺に釣殿風の建物が張り出し、さらに屋上は庭園になっていて暑さを防いでいます。
この部分は西館とは別の建物なので、おそらく今後もこのまま残るのだと思います。
日本庭園
本館(旧館)と並ぶ見どころの一つが日本庭園。
六本木ヒルズもすぐ近く、ちょっと坂を下れば麻布十番の商店街という誰がどう見ても都心の一等地という場所の日本庭園。

▲1930年に三菱財閥当主岩崎小彌太が京都の名造園家「植治(うえじ)」こと7代目小川治兵衛に依頼し作庭したものです、現在は「旧岩崎邸庭園」として港区の名勝にも指定されています。
ただし現在は会員のみが立ち入り可能です。

▲以前に撮影したものです(現在は会員以外立入禁止)。
日本庭園と本館とレストランSAKURAと満開の桜、
この景色も残るはずです。

▲庭園からもこのように東京タワーが見えるんですよね。
この日本庭園についてはこちらのドキュメンタリーで詳しく解説されています。
ティーラウンジ 「ザ・ガーデン」
会員制の国際文化会館の中で非会員でも気兼ねく利用できるのが本館(旧館)1階のティーラウンジ「ザ・ガーデン」です。

▲今までは週末などを除けば比較的空いていて、六本木の穴場、麻布十番の隠れ家的なティーラウンジでした。今後は知名度や人気も上がってそうは言ってられなくなるかもしれません。
ここは宿泊施設併設のカフェという性格もあるので朝は7時から営業しています。ちょっとお高いですが朝食セットもありますし、ケーキセットのように比較的リーズナブルな価格のメニューもあります。

▲国際文化会館の建築見学をして、ザ・ガーデンでケーキでもいただきながら噂の日本庭園を上から眺めるなんていう優雅な時間の過ごし方もできます。
2030年には新西館が完成しマーク・ロスコの作品を始めとしたDIC川村記念美術館の中核でもあるコレクションが移転してきます。
あのロスコ・ルームが近所で見られるようになるのは喜ばしいことなので、期待を持って2030年を待ちたいと思います。
また、移転後は今より多くの人が訪れるようになるでしょうから、今のうちに静かで落ち着いたザ・ガーデンでのカフェタイムを堪能しておきたいです。
国際文化会館の場所
六本木の鳥居坂の麻布十番寄り。周辺には東洋英和やシンガポール大使館などがあり、多くの人がイメージする六本木とはちょっと違った雰囲気のエリアです。
公共交通機関だと最寄り駅は麻布十番駅。大江戸線側の出口からなら徒歩3分! 六本木の駅からだと徒歩10分弱です。
駐車場はあるけど1時間2,000円ですし、施設からも公共交通機関の利用が推奨されています。
DIC川村記念美術館はこちら▼
▼前川國男建築
▼坂倉準三建築
▼吉村順三建築
基本情報
国際文化会館
住所:港区六本木 5-11-16 MAP アクセス:地下鉄 麻布十番駅7番出口 徒歩3分、地下鉄 六本木駅 3番出口 徒歩10分弱 |