JR駒込駅と地下鉄南北線の西ケ原駅の間に位置し、東京都立旧古河庭園の中にある瀟洒な洋館をご存知でしょうか。この洋館は建築家ジョサイア・コンドルが設計し、古河財閥の古河虎之助の自邸として1917年(大正6年)に竣工しました。
築100年を優に超える洋館旧古河邸(大谷美術館)は、現在一般開放されていて誰でも見学することができます。また、優雅なひと時を過ごせる喫茶室だけでなく、結婚式も行えるというから素敵ですね。
そんな旧古河邸のガイドツアーに参加してきました。ガイドツアーに参加して初めて目にした旧古河邸のスペシャルな空間についてレポートします。
尚、旧古河邸の内部は写真撮影禁止です。このブログでは特別な許可を得て撮影・掲載しています。

古河邸とは?
古河邸のある西ヶ原の敷地は、かつて明治の元勲陸奥宗光の邸宅があり、宗光の次男潤吉が古河家に養子入りし、古河家の所有となりました。1914年(大正3年)頃、古河家3代目当主の古河虎之助が本邸建設のために隣接土地を買収し、約1万坪の敷地となりました。
古河虎之助が自邸をこの地に建設し、暮らしたのは竣工した1917年(大正6年)から1926年(大正15年)までの約10年間だけだったというから驚きです。

古河虎之助夫婦に子供はなく、養子を迎えたものの、幼くして亡くなってしまいその後、夫婦は新宿区若松町へ引っ越しをします。
戦後、庭園と建物は古河家から離れ、国有となり、進駐軍に一時接収された後、無人の状態が約30年間も続きました。
その間に、古河邸は荒廃が進み近隣からはお化け屋敷と称されていたのです。
1983年(昭和58年)から1988年(昭和63年)にかけて、現在古河邸を管理運営する財団法人大谷美術館が、なるべく竣工時の状態を再現するように修復を行い、1989年(平成元年)から一般公開を開始し現在に至ります。

尚、古河邸は大谷美術館が管理運営していますが、旧古河庭園は東京都立公園です。
建築家ジョサイア・コンドル
本館建物と西洋庭園はジョサイア・コンドルが設計し、大正6年5月に竣工しました。
ニコライ堂や三菱一号館美術館(復元)、旧岩崎邸など重要文化財に指定されている数々の名建築を手がけたジョサイア・コンドルは日本政府の招きで来日したイギリス出身の建築家です。
その教え子には、東京駅の設計で有名な辰野金吾や赤坂離宮迎賓館や東京国立博物館の表慶館などを手がけた片山東熊がいます。
ここ古河邸は、ジョサイア・コンドル最晩年の建築です。
本館の広さは延べ414坪、地上2階、地下1階の大邸宅です。その構造は煉瓦造で、小屋組と床梁は木造、そして一部には鉄骨梁も使われています。
特徴的な外観は、真鶴の新小松石(安山岩)が使われており、切妻屋根は天然のスレートが美しく葺かれ、出窓や玄関ポーチの屋根には銅板瓦棒が使われています。
30年間放置されてお化け屋敷呼ばわりされていたのは、石造りの外観と天然スレートの屋根が全体的に黒っぽく見えるのも一因でしょう。
美しく保存・管理されている現在は、その石造りと天然スレートの屋根が、この邸宅の威厳と品格を象徴しています。
また、まるでイギリスの別荘建築を思わせる異国情緒に溢れています。当時この邸宅がどれだけモダンな建築だったかは想像に難くありません。

旧古河邸の1階
1階は全て洋室でおもてなしのための空間で占められています。
玄関から入ると中央に大きな大ホールがあり、そのホールを中心に撞球室(ビリヤード室)、応接室、テラス、大食堂が囲んでいます。

1階は、どっからどう見ても外観からのイメージを覆されることなく瀟洒な洋風建築空間です。
大谷美術館が6年間の歳月をかけて、竣工時の状態に修復したというだけあって、30年間無人で荒れ果てていたというのが嘘のように美しい邸宅が蘇っています。

▲応接室は大きな窓から陽光が降り注ぎ、とっても気持ちの良い空間です。
この邸宅で一番明るくて一番居心地のいい場所です。

▲応接のシャンデリアも当然修復の手は入っているものの当時のものです。
100年以上前にこの煌びやかなデザインですよ!庶民の多くはこんなシャンデリアを目にすることすらなかったのではないでしょうか。
シャンデリアも美しいけれど、天井やマントルピースにある趣向を凝らしたモールディングも一見の価値ありです。
応接室はバラ園にちなみバラの花が散りばめられています。

▲まるで映画に出てきそうな空間は大食堂の窓際の席です。
日本にいながらにしてイギリスへ旅した気分に浸れる空間です。
この空間だったらイギリスを意識して紅茶をいただきたくなりますね。

▲大食堂の照明はランプシェードがファブリック製のエレガンスなデザインです。
中央の取手を引っ張ると上下するシステムです。
天井のモールディングは食堂にちなんで、フルーツや木の実などがデザインされています。
見惚れてしまって気づいたらポカーンと口を開けていた、、なんてことにならないように凝視してください。

▲洋風でおもてなしに徹した空間から大階段を登って2階へ

大きな窓の前にホールと同様のデザインの照明があります。この照明のデザインは洋風でありながら、どこか仏具のような和も感じるデザインです。
旧古河邸の2階
旧古河邸の見所は実は2階なんです。初回の訪問時には見ていない2階の空間がすごかった!
遠い異国イギリスから来日し、日本で建築に携わる傍ら日本舞踊や茶道華道など日本の伝統文化を嗜んだジョサイア・コンドルにしか作りえない空間です。
旧古河邸の2階各室の見学はガイドツアー参加者のみです。ガイドツアーの詳細は下部に↓

▲バルコニーのような空間から階下を眺めることができる場所

▲2階のホールにはトップライトが設けられています。
しかし、このトップライトの向こうは屋根(屋外)ではないんです。トップライトの周囲は屋根裏空間になっており、その屋根裏の天井にも同じくトップライトがあって屋根裏空間を通して光を取り入れている言わば二重構造のトップライトです。
また、ホールには重厚な木製の扉が並んでいます。この先には一体何があるのでしょうか。

▲なんと!木製の扉を開けると、その先には襖があるんです。
天井のトップライトも二重だったけれど、この扉も二重だったとは!

▲2階にある客間です。古河邸のイギリスコテージ風の外観からは全く想像のつかない畳敷きの和室です。
欄間や床の間などもとても凝った作りになっています。しかし、こんな和の空間があるなんて驚きました。

▲さらにびっくり空間はこの仏間です。仏間というからには当然仏壇のある部屋です。
部屋の中央に花頭窓があり、そのさきに仏壇が置かれた空間が続きます。
よく目にする花頭窓は本当に窓で、このように人が通れるほど大きい花頭窓ってあんまり見たことがない気がします。
想像ですが、ジョサイア・コンドルが長い日本滞在で咀嚼した日本の仏間のデザインとなっているように感じました。

▲ここもまた、珍しい空間です。夫妻の主寝室の奥にあるご夫人の支度部屋(クローゼット)です。主寝室は洋室なので、隣の支度部屋も壁や天井は洋室の設えです。しかし、なんと!床は畳敷きという和洋折衷です。
ここは着物を着る場合には、畳の方が便利であることからこのような部屋になったようです。
現在は撤去されていますが、洗面の設備などもあったそうです。

お風呂は大理石でできた円形の浴槽です。浴槽も床のモザイクも当時のもの。
こんなおしゃれな浴室、今でもホテルのスイートルームとして十分通用するゴージャスなデザインです。
今回初めてガイドツアーに参加して2階を見学しましたが、外観からは想像もつかない和の空間にとても驚きました。
イギリスから日本へやってきて、日本で西洋建築を教えつつ自らは日本文化を学び、日本人と結婚し、日本で亡くなったジョサイア・コンドルは、イギリス人の容姿でありながらもその心は日本人以上に日本人だったのかもしれません。
イギリスコテージ風の外観でありながら、日本の畳空間を持つ旧古河邸は、ジョサイア・コンドル最晩年の建築だけに、コンドル自身のアイデンティティそのものとも言えるのではないでしょうか。
見学について
旧古河邸の見学方法は2種類のコースがあります。
①一般見学:本棟一階と2階の展示室をご自由に見学(
②ガイドツアー:1,2階の各部屋を職員による解説と共に見学(
旧古河邸のポイントは洋館でありながら和の空間を持っているところです。
ガイドツアーに参加すれば、旧古河邸の真髄とも言える2階を解説付きで見学できます。
せっかく旧古河邸を見学するのであれば2階も見学できるガイドツアーがおすすめです。
*春と秋の繁忙期は、館内が混雑するため、

旧古河邸の喫茶室
旧古河邸内には喫茶室があります。
こんなすごい邸宅に住むことはできないけれど、しばし邸宅の主になった気分でティータイムを過ごしましょう。

▲ジョサイア・コンドルにちなんで紅茶をと思いましたが、まだ少し暑さを感じる日だったのでアイスティーとオレンジパウンドケーキです。

こちらは紅茶のパウンドケーキとコーヒーです。紅茶もコーヒーも味わいたい方はこの組み合わせで!
食器はジョサイア・コンドルにちなんでイギリスのウェッジウッドで統一されています。
日常を忘れて優雅な時間を満喫しました。
「建築とアートを巡る」としては、旧古河邸ではガイドツアーの参加と喫茶室の利用がおすすめです!
クラウドファンディングについて
現在、旧古河邸と重要文化財「旧磯野家住宅」(通称 銅御殿あかがねごてん)を維持管理する大谷美術館では、これらの貴重な文化財を守り活かすため、2024年もクラウドファンディングを立ち上げています。
寄付募集期間は2024年10月21日(月)から12月20日(金)までの60日間で第一目標金額は300万円。
集まった寄付金は2025年度の大谷美術館文化財の保存・管理・運営に当てられます。
寄付はREADYFORというWEBサイトから行い、寄付金額に応じたギフトが受け取れます。またインターネットでの申込みが難しい方は大谷美術館に郵送またはメールで寄付を申し込む「代理支援」という手続き代行のサービスもあります。
旧古河邸や銅御殿などの文化財を次の世代に伝える活動を応援したい、支援したい方、ぜひこのクラウドファンディングに協力してください。
READYFORのプロジェクトページはこちらです。
また銅御殿についてはこちらの記事で紹介しています。
写真撮影について
旧古河邸は内部は撮影禁止です。このブログでは特別に許可を得て撮影・掲載をしています。
庭園や外観の写真撮影は可能です。
注意点
現在、旧古河邸は外壁修理工事に伴い洋館外観の一部が見られなくなっていますが、通常どおり公開しています。
足場等設置期間:2023年(令和5年)9月中旬~2024年(令和6年)3月中旬(
外観としてメインとも言えるバラ園側には足場はないので、個人的にはあまり気になりませんでした。
基本情報
旧古河邸は一般公開日に見学することができます。
一般公開日については、時期によって曜日等が異なるため、訪問の際はこちらから一般公開日を必ずご確認ください。
*春と秋の繁忙期は、館内が混雑するため、
旧古河邸 大谷美術館
古河庭園開館時間: 9:00 – 17:00 旧古河邸開館時間: 10:30 – 16:30 古河庭園入園料: 一般150円、65歳以上70円 旧古河邸見学料金: 400円(館内見学には古河庭園の入園料が必要です) 東京都北区西ヶ原1-27-39 旧古河庭園内 MAP アクセス:JR山手線 駒込駅 下車徒歩12分、JR京浜東北線 上中里駅 下車徒歩7分、東京メトロ 南北線 西ヶ原駅下車徒歩7分 |