旧朝香宮邸を読み解く A to Z
旧朝香宮邸の邸宅をそのまま美術館にした白金台・目黒の東京都庭園美術館は2023年で美術館として開館して40周年。それを記念した展覧会の第二弾は《旧朝香宮邸を読み解く A to Z》展です。
これはアルファベットのAからZまで26個のキーワードから館の魅力や秘密を読み解こうという斬新な企画で2024年春の見逃せない展覧会のひとつ。
さらにこのA to Z展は単に旧朝香宮邸(庭園美術館本館)を見せるだけでなく現代アート作家のインスタレーションを展開し、アートを通じて建物に対する新しい視点や見え方を提案するところも見どころです。つまり建築とアートなわけで、記事としては建築編とアート編の2本で紹介します。本記事はそのアート編になります。
東京都庭園美術館について
東京都庭園美術館。その魅力はその美しいアール・デコの美術館建築を筆頭に、広々とした庭園、日本庭園の美しい池に面した茶室、テラス席が気持ちいいミュージアムカフェCAFE TEIEN、杉本博司設計監修の新館など枚挙にいとまがありません。とにかく何度訪れても毎回満足度の高い美術館です。
竣工したのは1933年(昭和8年)、東京白金の御料地の一部に朝香宮邸として竣工しました。今から90年以上前のことです。
▲アール・デコ建築様式の邸内の壁には各居室ごとに自然の風景が描かれ、室内にいながら自然の中にいる雰囲気が演出されています。その完成度の高さと当時の状態が残されていることから「現存する世界一美しいアールデコ建築」とも称されています。
PRA to Z展覧会概要
《旧朝香宮邸を読み解く A to Z》は2024年2月17日から5月12日まで。春休み、桜の季節、ゴールデンウィークをまたぐ長期の展覧会になります。
桜が満開であろう3月末には夜間開館も実施され、桜と夜のアールデコ建築を楽しめると思います。
また庭園美術館は東京都の「Welcome Youth(ウェルカムユース) 2024」の対象施設になっていて、3月1日(金)から4月7日(日)までの期間、18歳以下の方は庭園も展覧会も無料になります(年齢を証明するものの提示が必要です)。
▲展覧会と旧朝香宮邸(庭園美術館)の建物については「建築編」でたっぷり紹介しているので、本記事ではゲストアーティスト2人の作品と庭園美術館で見逃せないスポットを併せて紹介します。
須田悦弘
本物と見紛うほど精緻な花や草を木彫でつくり、それらを思いがけない場所にひっそりと展示する須田悦弘(すだ・よしひろ)の作品が大きくフィーチャーされています。
いや決して大きく展示されているわけはなく、いつものように隠れてひっそりとなのですが、いつもの須田作品と違って作品数が多いのと写真撮影が可能なところがポイントです。
▲香水塔の足元に見える《雑草》。
▲小さくて見逃しそうなのはいつもの通り。
香水等の窓側と大広間側に1つづつ置かれています。
邸宅の広間にこのように雑草みたいに置かれているといろいろな想像をしたくなるようなインスタレーションです。
▲これは《椿》。
見ての通りの椿の花ですね。
▲場所は入口受付を出て正面、階段下の洗面所です。
階段のガラスと呼応するかのようなインスタレーションでもあり、洗面所ということで水と椿の関係を連想させたり。
▲暖炉とマントルピースと《ユリ》。
このためにわざわざ暖炉カバーを外しているのでしょう。
また建築編で言及した寄木床との対比も面白いかも。
▲場所は姫宮居間。
暖炉があってマントルピースがあって須田作品があって寄木床は見えているしで見どころ満載の部屋です。
▲第一浴室の浴槽の蛇口にあるのは《コヒルガオ》。
ただ第一浴室の入口からだとよく見えません。
▲ここはベランダの窓から見るのが正解。
そのためベランダと浴室の間を仕切る窓が開いています。
▲気づいて貰えない度でいえばこの《葉》。床に落ちているように見える葉っぱが作品です。
探せばすぐ分かるけど、知らない人は絶対気づかないと思います。
▲場所は金庫室。この金庫室の中はもしかしたら初公開かもしれません。
金庫室のドアが空いているので中を覗いてみたけど、何もなくてなーんだと思っても、金庫室の床に置かれた葉が作品ですから。
かつての原美術館に展示されていた須田悦弘作品を思い出します。
▲丸窓の中に見える《野菊》。これも作品です。
この作品は美術館の中から見ることはできません。建物の外側からしか見られません。展覧会のチケットがなくてもこの作品だけは誰でも見られます(庭園入園料は必要ですが)。
▲外に向いた丸窓を見れば庭園美術館を知る人なら、あぁあそこかとすぐ分かると思います
写真でいうと右側の丸窓です。
順番でいうと最初に見てもらいたい作品のようですから、展覧館を訪問したらまずここの須田悦弘作品から見始めてみましょう。
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伊藤公象
世代的には中堅アーティストの須田悦弘に対して、もう一人のゲストアーティスト伊藤公象(いとう・こうしょう)は齢90を超える大御所アーティスト。
▲土を素材にした作品で知られますが ”陶芸” の枠を超えた現代アートで語られるアーティストです。
展示作品の一つ《「土の襞」− 白い光景 − 》。
庭園美術館の北の間でのインスタレーション。
床のタイルとの対比が面白いです。
▲新館の前庭には《「ブルーパール」− 蒼いそらへ空から − 》。
伊藤公象の代名詞ともいえば襞(ひだ)。この作品もひだひだで陶土による作品です。
▲本館と新館をつなぐ通路のところの前庭に展示されています。
▲3つ目の作品は《シリーズ「多軟面体」− 庭園の森の風景 − 》。
庭園美術館の日本庭園の中のせせらぎに展開されています。10個以上の作品からなるシリーズ物です。
日本庭園に注ぐせせらぎの最上部には金色の作品。
▲下流に近づくにつれ色や造形が変化していきます(たぶん)。
茶室 光華
日本庭園には1936年(昭和11年)に上棟した「光華」という茶室があります。
畳に上がれるのは限らた機会しかありませんが外からの見学は自由です。
▲ツバキやサザンカ、そして3月になれば桜と窓の外に見える花々が変化していきます。
いつ行っても都心とは思えない光景が広がる茶室ですから忘れずに訪問しておきましょう!
建築の神様からの贈り物
庭園美術館の本館と新館を結ぶガラス張りの通路。
ここには設計者も誰も意図していなかった、まさに建築の神様がくれた贈り物としか思えない現象を見ることができます。
▲床にできるハート型の影!
冬の太陽が低い時期の午前中にだけ見ることができる不思議な現象です。
▲太陽の位置によって微妙に形を変え続けるハート型の影。
お気に入りのハート型を見つけてみてください。
▲床一面のハートは壮観ですね。
▲ガラス面にアクセントとして窪みを付けたら、それが実はある条件の下でハート型の影を作り出していたのです。
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写真撮影について
今回の展覧会は写真撮影が可能です。また須田悦弘、伊藤公象の作品も撮影可能です。
ただし動画の撮影、フラッシュ、レフ板、三脚、自撮り棒、望遠レンズはNGです。
また作品の上とか階段などから身を乗り出しての撮影もNGです。マナーと現地係員の指示に従って撮影するようにしてください。
《旧朝香宮邸を読み解く A to Z》展の展覧会と建築についてはこちらの記事をどうぞ。
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基本情報
旧朝香宮邸を読み解く A to Z
10:00 – 18:00 3/22(金)、3/23(土)、3/29(金)、3/30(土) は20:00まで夜間開館 月休(4/29と5/6は開館)、4/30と5/7 は休館 入館料:一般 1,400円、大学生(専修・各種専門学校含む) 1,120円、中高生・65歳以上700円 第3水曜日(シルバーデー)は65歳以上無料 東京都庭園美術館 港区白金台5-21-9 MAP アクセス:都営三田線・東京メトロ南北線「白金台駅」1番出口より徒歩6分、JR山手線「目黒駅」東口/東急目黒線「目黒駅」正面口より徒歩7分 |