長野県安曇野市穂高にある碌山美術館は、東洋のロダンと称されながら1910年(明治43年)に30歳の若さで夭折した安曇野穂高出身の彫刻家荻原碌山(おぎはら・ろくざん)こと本名、萩原守衛(おぎはら・もりえ)の彫刻作品及び絵画作品を所蔵・展示する個人美術館です。
碌山美術館では、荻原碌山の代表作「女」をはじめ、彫刻や絵画の数々を鑑賞することができます。また碌山美術館の見どころは碌山の彫刻作品、絵画作品は当然として、地元安曇野穂高の人々の寄付と協力によってつくられた今井兼次設計の碌山館をはじめとする貴重な建築の数々です。
碌山美術館の見どころ、撮影について、ミュージアムショップやミュージアムカフェの有無などなど、碌山美術館の鑑賞時間の目安にしていただければ嬉しいです。
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碌山美術館
南安曇郡東穂高村、現在の安曇野市穂高に生まれた荻原守衛は、新宿中村屋を創業した相馬黒光(そうま・こっこう)が嫁入りの際に持参した油彩画を見て美術に目覚め、キリスト教の洗礼を受けたのち22歳でニューヨークへ旅立ちます。
29歳で帰国するまで7年間ニューヨーク、パリに居を構え、ヨーロッパ各地を歴訪しました。
帰国後は、中村屋のある新宿にアトリエを構え、中村屋サロンと称される場所で多くの芸術家達と交流を深めます。
しかし帰国してからわずか2年、1910年に30歳の若さで急逝します。
荻原碌山が逝去したのち、碌山の作品は相馬黒光によって新宿中村屋の二階に保管されました。
その場所は「 碌山館 」 と名づけられ、時に希望者には見学をしてもらうこともあったそうです。
その後1916年(大正05)、碌山の兄が郷里の生家に作品を移送し、そこに別棟をつくり「 碌山館 」 として守られてきました。
そして、1958年に南安曇教育会が中心となって、現在の 「 碌山美術館 」 が開館し、「碌山館」で保管されていた作品を永久に収蔵・保管する場所となりました。
碌山館
碌山美術館の最初の建築である碌山館は、自身も碌山と同様にキリスト教の洗礼を受け、1920年代にヨーロッパ外遊をした今井兼次の設計によって建てられました。碌山との共通点も多い今井が設計した碌山館は、まるでキリスト教の教会のようなデザインです。
この教会のようなデザインには、碌山も今井も敬虔なキリスト教徒であったことや、ヨーロッパでは教会が人々が集う地域に開放された場所であったことが影響しています。
ですから、この碌山館も人々にとってヨーロッパの教会のような場所になってほしいという今井の願いが込められているのです。
今井兼次は、今は隈研吾設計の建築に変わってしまいましたが、初代の根津美術館(内藤多仲と共同設計)や長崎の日本二十六聖人記念館などの設計を手掛けています。
また、今井兼次は日本にガウディを紹介したことでも有名です。
ちなみに東京国立近代美術館で2023年9月10日までガウディ展が開催中です。
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手作りの碌山館
碌山館は、長野県下の全小中学生の生徒をはじめとする29万9100余人の寄付と力によって完成しました。
▲ひとつひとつ微妙に色や形が違う焼き過ぎレンガは、地元の穂高中学校の生徒達によって運ばれたもの。
女子生徒はレンガを、男子生徒は瓦や石を運んだそうです。
前館長も穂高中学校時代、実際に施工を手伝ったひとり。
▲入り口の取手の彫刻は、彫刻家の笹村草家人です。
ノックをするのはキツツキのようですね。
▲尖塔の不死鳥は彫刻家の基俊太郎作。
▲ステンドグラスは予算がないので、建築家の今井自身が油彩で描いたもの。
▲碌山の代表作「女」は、相馬黒光への愛染を表現しています。
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杜江館
2008年に竣工した展示棟で、設計は尖塔の不死鳥の作者で彫刻家の基俊太郎です。
1階は碌山の絵画を展示しています。
2階は講演会などの会場として使用されるスペースです。
第1展示棟、第2展示棟
1982年に竣工した第一展示棟と1996年に竣工した第二展示棟があります。
二つの展示棟も杜江館同様に彫刻家の基俊太郎が設計しました。
▲第一展示棟は、高村光太郎、戸張孤雁、中原悌二郎等の荻原守衛の友人やつながりのあった彫刻家たちの作品の展示です。
天井が高く、上部に開口部を設け、自然光で作品を鑑賞するようになっています。
▲第二展示棟は、常設展示の他に荻原守衛に関係する作家の特別展や企画展が開かれるスペースです。
杜江館、第一、第二展示棟を設計した基俊太郎は、彫刻、建築、造園、家具など幅広い活動をしていました。
第一展示棟にある椅子も基俊太郎デザインです。
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グズべリーハウス
1968年に地域の教員・高校生・中学生等の奉仕作業により建築されたグズベリーハウスは、碌山の資料館であり、休憩スペースを兼ねています。
碌山美術館には、ミュージアムカフェなど飲食の施設はありません。ゆっくりするなら屋外のベンチかこのグズベリーハウスということになります。
▲手作りならではの凝りに凝った意匠は細部まで観察したくなります。
▲碌山館の取手も可愛いけれど、こちらも負けていません。何か爬虫類のように見えますね。
碌山美術館の撮影について
碌山館は撮影可能ですが、杜江館、第一展示棟、第二展示棟の展示室内は写真撮影禁止です。
ですから内部の写真がありません。
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碌山美術館の鑑賞時間の目安
コンパクトながらも碌山館、杜江館、第一展示棟、第二展示棟と4つのスペースを鑑賞することになります。
また、グズベリーハウスでは碌山についての資料やブロンズ彫刻についての解説など資料が豊富です。
しっかり鑑賞するなら2時間は見ておきたいところです。
これまで、穂高は涼しい場所だったので、基本的に杜江館以外は空調がありませんでした。
ですから、今夏の気候だと暑くて長らく鑑賞するのがちょっと大変です。
美術館とはいえ、夏場は暑さ対策をして訪問した方がいいかもしれません。
基本情報
碌山美術館
休館日12月21日~31日、月曜日と祝祭日の翌日 4月25日~11月5日まで無休 入館料:一般900円、高校生300円、小中生150円 長野県安曇野市穂高5095-1 MAP アクセス:JR大糸線《穂高駅》より徒歩7分 車の場合:長野道〈安曇野I.C〉より約15分、無料駐車場あり |
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