六本木ヒルズ森タワーの最上階に位置し東京で最も高所にある現代美術の企画展を開催する「森美術館」。
ここでAI、仮想現実(XR)、生成AIなどの先端デジタルテクノロジーを利用した現代アートを紹介する展覧会《マシン・ラブ:ビデオゲーム、AIと現代アート》が開催されています。。
スマホ、ゲーム、パソコン、最近では生成AIと日常生活で使われるデジタルテクノロジーの進歩は留まるところを知りませんが、当然そうしたテクノロジーの進歩は人の暮らしや生き方にも大きな影響を与えています。
もちろんそれはアーティストたちも例外ではなく、創作活動にデジタルテクノロジーの恩恵を受けたり、逆にデジタルワールドの中で創作を行うアーティストも今では珍しくありません。
そしてこのテクノロジーの進歩が行き着く先がどうなるのか、それを想像して創作にフィードバックするアーティストもまた多いのです。

▲マシン・ラブ展では12組のアーティストたちが約50点の作品を出品しています。
会期は2025年2月13日(木)から6月8日(日)までの約4ヶ月。最新の現代アートの状況を知るだけでなく、デジタルテクノロジーが人間や社会をどう変えていくのか、それをアーティストたちはどう捉えているのかを考える切っ掛けにもなるおすすめの展覧会です。
《マシン・ラブ》展の写真撮影と鑑賞時間
最近は写真撮影は原則OK、動画も条件付きでOKという展覧会が増えていますが、マシン・ラブ展も原則として写真撮影も動画撮影もOK。
ただし動画撮影は1分以内という条件付きです。
フラッシュ使用禁止、三脚や自撮り棒の使用禁止といった点はいつも通りです。
マシン・ラブ展は映像作品が多く、特に暗い部屋での映像作品は意図せずフラッシュが炊かれてしまうことがあるので、事前にフラッシュがオフになっていることを確認しておきましょう。
そして問題の鑑賞時間ですが、ぜんぶ見るなら7時間以上は必要です。
というのも、映像作品の総上映時間は6時間弱。さらにエンドレスで流れる映像もありますし、平面作品や立体作品もありますし、ビデオゲームのコーナーもあります。それらも足せば最低でも7時間という計算です。
しっかり鑑賞時間を取って訪問するか、場合によっては複数回に分けて訪問した方が良いかもしれません。
作品と上映時間は次の通りです。
ビープルズ:ヒューマン・ワン − エンドレス
佐藤瞭太郎:アウトレット − 11分26秒
ディムート:
独り言1(日本語) − 11分
独り言2(日本語) − 11分
独り言2(英語) − 17分
エリスの林檎(日本語) − 18分
エリスの林檎(英語) − 19分
エル・トゥルコ − 30分
キム・ヨアン:
デリバリー・ダンサーズ・スフィア – 25分
デリバリー・ダンサーズ・シミュレーション − 12分
ルー・ヤン:
独生独死−流動 − 50分15秒
独生独死−自我 − 36分
独生独死−創造者(予告編) − 2分41秒
ジャコルビー・サッターホワイト:
メッター・プレイヤー − 21分28秒
新しい世界秩序(モニター) − 26分26秒
新しい世界秩序(ホログラムファン1) − 18分48秒
新しい世界秩序(ホログラムファン2) − 11分11秒
シュウ・ジャウェイ:シリコン・セレナーデ − 5分
藤倉麻子:
インパクト・トラッカー − 13分38秒
インプレッションズ − 13分38秒
労働のリズム − エンドレス
ヤコブ・クスク・ステンセン:エフェメラル・レイク(一時湖) − エンドレス
《マシン・ラブ》展前半の主な作品
それでは、マシン・ラブ展の最初から主な作品のいくつかをピックアップしてご紹介します。
映像作品には上映時間も記載しておきますので鑑賞時の参考にしてください。

▲正式な作品ではないですけど、会場に入って最初に目にするのがこの「マシン・ラブ展をもっと楽しむための用語集」というパネル。
生成AIに出力させたテキストに手を入れてまとめたもので、展覧会で頻出するテクノロジー用語を解説したものです。生成AIは”ハルシネーション(幻覚)” といって事実に基づかない情報も出力することがあるので、最終的には人間が確認しないといけないのが実情です。
”ハルシネーション” なんてもっともらしい用語が使われていますが、端的に言うと ”生成AIは平気でウソをつく” ということですね。

▲マシン・ラブ展、最初の作品はビープル(Beeple)の《ヒューマン・ワン(Human One)》。
ビープルはその作品がNFTで6,940万ドル(当時のレートで約75億円)という値段が付いたことで話題になったアーティストです。
この作品はメタバース空間に生まれた最初の人間が重荷を背負いながら永遠に歩き続けるというもの。映像は永遠に続くので上映時間もエンドレスです。Carry that weight a long timeですね。

▲インクジェットプリンタで出力した平面作品と「アウトレット」という映像作品を出品している佐藤瞭太郎。
この「アウトレット」はネット上のデータを ”アセット(資産)” と捉えマッシュアップして制作したもので上映時間は約11分。
舞台は世界のどこかの街のサバービアなアウトレットです。実際に映像を見れば瞭然ですが、これは消費社会を揶揄した映画「ドーン・オブ・ザ・デッド(ゾンビ)」のオマージュです。

▲AIや物理学などの科学者との協働プロジェクトを進めるディムート(Diemut Strebe)の《総合的実体への3つのアプローチ》という作品。
映像は3パターンあって、さらに日本語バージョンと英語バージョンもあるので全部見れば約1時間15分です。日本語と英語では会話内容が異なるので可能なら両バージョンを見たいですね。ただ毎回学習して会話内容をアップデートするのではなく何度見ても内容は同じだったので、どのバージョンも1回見れば十分です。
▲それと毎日11:30と15:00からは30分の《エル・トゥルコ》というインタラクティブな作品です。1日2回しか上演されません。
これはAIと観客のアバターが対話するという観客参加型のもので、マイクに喋ると音声認識してAIと対話できます。もしこの時間に会場いたらぜひ参加してみてください。日本語で操作するので日本語が苦手なインバウンド客は参加できませんから日本語話者なら競争率低めで参加できます。

▲目立つアニメ風パネルの周囲に展示・上映されているのはキム・アヨンの作品。
窓際の部屋では上映時間25分の「デリバリー・ダンサーズ・スフィア」が上映されています。
またパネル前で取っ組み合う二人の人物やディスプレイ3面を使った約12分間の映像「デリバリー・ダンサー・シミュレーション」もキム・ヨアンです。

▲タブレットを使ったヴィデオゲームもあります。
ゲームなので上映時間は決まっていません。順番待ちの圧に耐えられる限り遊べます。
《マシン・ラブ》展後半の主な作品

▲台湾のアーティスト、シュウ・ジャウェイ(許家維)の「シリコン・セレナーデ」
デジタルテクノロジーの基盤となるシリコンチップの素材がケイ素(元素記号Si)であることから、砂浜〜海辺〜水中といった映像と生成AIによる音楽を組み合わせた作品。上映時間は5分。

▲藤倉麻子は映像をメインにしたインスタレーションが3点。
この写真の「インパクト・トラッカー」の上映時間は13分58秒。もう1本の映像作品「インプレッションズ」もやはり13分58秒。
さらにもう1本「労働のリズム」というインスタレーションあって、そちらはエンドレスです。

▲没入型インスタレーションを制作するヤコブ・クスク・ステンセンの《エフェメラル・レイク(一時湖)》。
仮想シミュレーションでリアルタイムに映像が生成されていくので、上映時間としてはエンドレスです。

▲すでに一部SNSでは話題になっているアニカ・イの「ラディアル・センセーション」。
機械と単細胞生物のあり方を通じて生命とは何かを問いかける作品で、実物はモゾモゾと動いています。
同じ展示室内の他のアニカ・イ作品と同じく特に上映時間などはありません。
マシン・ラブ展のみどころ
これだけは見ておいた方が良いと思われるアーティストと作品。

▲上海出身で今は東京にも活動拠点を置くアーティスト、ルー・ヤン(陸揚)。彼女の作品は本展でも一番大きな映像作品かもしれません。
三途の川と賽の河原の向こう側、つまり彼岸(あの世)に巨大なモニターが設置され、そこに細密な画像が上映されています。
転生を繰り返しながら生きる主人公が、時間や空間、宇宙、生命、意識に思いを巡らせ世界の究極の秘密に迫ろうという作品でタイトルは「独生独死−流動」(どくしょうどくし)。原題は「DOKU The Flow」。
上映時間は50分15秒!
もう一本「独生独死−自我」という作品も上映されていて、そちらは36分。
要するにルー・ヤンだけで1時間半かかるわけですが、でもこれは全編鑑賞する価値のある作品です。

▲映像が訴えてくるメッセージを考え咀嚼しながら見ても良いですし、モーションキャプチャーとCGを組み合わせた情報量の多い映像を純粋に楽しむのも良いです。
また「独生独死」シリーズ最新作の予告編も上映されていて、そちらは2分41秒です。

▲少し前に森美術館でブラックアートの旗手シアスター・ゲイツの「アフロ民藝」が開催されて話題になりましたが、同じようにブラックカルチャーに根ざした作品を発表しているアフロ・アメリカンのアーティスト、ジャコルビー・サッターホワイト。彼の作品も見逃せません。
展示室の壁いっぱいを使いディプレイ4面で上映されているのは《メッター・プレイヤー(慈悲の瞑想)》という作品。
上映時間は21分28秒。

▲展示室内の壁紙も含めた全体が「新しい世界秩序(New World Order)」という作品です。
壁紙に描かれた世界に浸るのも良いですし、さらに壁のモニターとホログラムファンの映像を見るとよりわかりやすいかもしれません。
メッター・プレイヤーと反対側の壁のモニターの上映時間は26分26秒、ホログラムファンの映像は11分11秒と18分48秒です。
《帝国の計算:テクノロジーと権力の系譜 1500年以降》
展覧会の最後はAIとその影響をテーマに活動する研究者ケイト・クロフォード、ヴラダン・ヨレルによる《帝国の計算:テクノロジーと権力の系譜 1500年以降》という作品です。

▲グーテンベルクにより活版印刷が発明され ”人間の知” の爆発が起こった1500年以降、テクノロジーと権力が絡み合ってきた様子が描かれた全長24mにも及ぶ ”地図” です。
すべて英語ですが、テクノロジーの進歩とそれに伴う社会の変化などが可視化されたもの。じっくり読み込むといくら時間があっても足りません。

▲特に注目したいのはこの部分。
世界最初のコンピュータ・プログラマであるエイダ・ラブレス(Ada Lovelace)です。
ロマン派詩人のバイロン卿の娘である彼女はチャールズ・バベッジによる最初期のコンピューター「解析機関」のために実際のプログラムを作成しています。バベッジの「解析機関」も「差分機関」も作品中にあるので探してみてください。
さらに彼女はその解析機関(=コンピュータ)について「将来コンピューター(機械)が音楽を奏でることができるようになる、でも機械が思考することはできないだろう(大意)」という予言を遺したことでも知られています。
180年前にエイダが見通したように、コンピュータが音楽を奏でたり芸術を生み出すことができるようになったのか、そしていくらAIが進歩したとはいえまだ人間のようには思考することはできないのか。
「マシン・ラブ」展の大団円に相応しい作品です。
この作品に描かれた地図を参考に展覧会の作品と突き合わせ、エイダの予言の答え合わせを考えてみるのもよいでしょう。
ミュージアムグッズ
美術館の楽しみの一つは最後のミュージアムショップ。
「マシン・ラブ」展のミュージアムグッズを見てみましょう。
▲展覧会の会場出口では展覧会図録の予約を受付中(2025年2月時点)。
図録の発売は2025年4月上旬を予定していて、価格は 3,850円(税込み)。国内に限り送料無料です。
周囲に置かれているのはポストカードでルー・ヤンやビープルのものが税込み770円で販売されています。
そして気になるのがパーカー。
これはルー・ヤンの「独生独死−流動」の主人公が着用していたものです。CGの世界で描かれたいたものを現実世界で再現しています。
フロントに書かれている文字は ”to live fully is to be always in no-man’s land”。
バックには ”to be willing to die over and over again” と書かれています。
どちらもルー・ヤンの世界観にも通じる含蓄のある言葉です。
基本情報
マシン・ラブ:ビデオゲーム、AIと現代アート 会期:2025年2月13日(木) ~ 6月8(日) 会期中無休開館時間:10:00~22:00 ※火曜日は17:00までチケット料金:オンラインで購入すると()の料金 [平日] 一般 2,000円 (1,800円) 学生(高校・大学生) 1,400円(1,300円) 子供(中学生以下) 無料 シニア(65歳以上) 1,700円(1,500円) [土・日・休日] 予約:事前予約制(日時指定券)オンライン購入 会場:森美術館(六本木ヒルズ森タワー53階) 住所: 東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー アクセス: |