宮崎浩+プランツアソシエイツの設計で2003年に竣工した長野県の安曇野高橋節郎記念美術館へ。ちょうど同じく宮崎浩設計の長野県立美術館訪問後に安曇野まで足を伸ばして見学してきました。
高橋節郎
長野県安曇野市出身の漆芸家で文化勲章受章・文化功労者でもあります。高校時代まで安曇野市で過ごし、東京藝術大学進学を機に上京しました。
工芸の世界でも漆芸はとりわけ馴染みが薄く、高橋節郎と聞いてもわからない人も多いでしょう。漆芸と一言で言ってもそこには螺鈿や蒔絵など様々な技法があります。残念ながら原料が天然で一つ一つ手作りのためにとても高価なことと、安価なプラスチック製品にとって変わられてしまったため、現在では日常的に漆芸に触れる機会は極端に減少しているのが実情です。そんな漆芸を身近に感じることのできる貴重な美術館です。
また、都内でも高橋節郎作品を見られる場所があります。都営大江戸線汐留駅にある陶板レリーフ「日月星花」は高橋節郎作品です。残念ながら技法は漆ではなく陶ですが、間近で高橋節郎作品を鑑賞することができます。この作品は高橋節郎記念美術館開館と同じ2003年に設置されました。
建築
美術館は当時穂高町(現在は市町村合併により安曇野市立になっています)がこの町出身の高橋節郎の文化勲章受賞を記念して建設しました。設計者は宮崎浩+プランツアソシエイツで2003年に開館しました。開館後数々の建築の賞を受賞しています。▼
宮崎浩氏は、個人的に思い入れの強い代官山ヒルサイドテラスの設計など数々の名建築を生んでいる槇文彦主宰の槇総合計画事務所出身です。
槇文彦に関する槇文彦設計 旧安田庭園に隣接する刀剣博物館へ、島根の旅その2島根県立古代出雲歴史博物館、も参照ください。
美術館に沿って正面と裏の両方に水盤が設けられています。表側は水庭と呼んでいます。▼
この美術館の存在は少なからず長野県立美術館のプロポーザルの選定に影響していると思います。長野県立美術館についてはこちらを参照ください。
美術館内から見渡せる安曇野(旧穂高町)の長閑な田園風景と山々▼
裏側から美術館越しに田園風景をみるの図▼
裏側の水盤の様子。表側の開かれた水庭に対して、裏側の水盤は石で囲まれた石庭にあります。
美しいですね。この写真の右側に貴重な高橋節郎の生家があります。この先にある茅葺き屋根の古民家や蔵を意識して美術館はあえて直線的でシンプルな建築にしているのがわかります。▼
高橋節郎生家
美術館の敷地には元々高橋節郎の生家があり、その生家は主屋・南の蔵・西の蔵・北の蔵から構成されており国の有形文化財に登録されています。庭には樹齢100年を超す多行松をはじめ多くの樹木がそのまま残されています。
旧高橋家住宅(高橋節郎生家)は、美術館を抜けて見学をします。生家の見学は無料なので入館料を払わなくても見学可能です。▼
立派な茅葺き屋根の主屋は江戸中期創建です。▼
主屋では高橋節郎についての映像が流れています▼
展示されている立体作品は高橋節郎によるものです。▼
これらは、穂高町の昔の農家の暮らしを垣間見ることができる貴重な建築です。
宮崎浩+プランツアソシエイツの美術館建築が目的で訪問しましたが、有形文化財に登録されている立派な茅葺き屋根の旧高橋邸も一緒に見学できて、新旧の建築が同時に楽しめる普通の美術館の2倍楽しめる場所でした。周辺の長閑な田園風景にも癒されました。
せっかく安曇野に来たら、リニューアルオープンしたばかりの草間彌生が常設で観られる松本市美術館、「用の美」を提唱し、民藝運動の旗手であった柳宗悦感銘を受けた丸山氏が創立した松本民芸館、古いものと新しいものが自遊人によって美しく共存している松本十帖の松本本箱や、素敵なブックカフェ「哲学と甘いもの」、珍しい蒸したおやきが食べられる「おやきとコーヒー」にも足を伸ばしたいですね。
安曇野高橋節郎記念美術館
9:00-17:00 月休
長野県安曇野市穂高北穂高408-1 MAP