長野県小海町にある小海町高原美術館は、1997年7月29日にオープンした公立美術館だ。
八ヶ岳の麓、長野県小海町の松原湖高原に位置し、建築家安藤忠雄氏が設計を手がけた。 安藤建築らしいシンプルかつスタイリッシュな美術館空間は、周囲の大自然と調和し、自然と芸術に親しむための素晴らしい環境の中にある。そのシチュエーションは、何度も訪れたくなる美術館だ。
美術館は、この町出身の、かつて国画会の会員であった画家、故栗林今朝男氏の作品や、人間国宝であった陶芸家の故島岡達三氏の作品などを中心としたコレクションを所蔵する。
郷土の作家、現代美術、建築、デザインなどをテーマにしたオリジナリティあふれる企画展も注目の美術館だ。
これまでに2回ほど訪問したことのある美術館だが、2回とも館内はほぼ貸切状態だった。お隣に大型温泉施設があり美術館と温泉施設は駐車場を共有している。初訪問の時、その駐車場に停まっている車の台数に圧倒されたのだが、訪問者の9割以上は温泉施設が目当てであることが館内に入ってすぐにわかる。
なんせ、最寄駅であるJR小海線の小海駅からタクシーで15分くらい、料金にするとおよそ3000円かかる。まぁまぁの距離だ。その名が表す通り山の中の高原に建つ美術館だからだ。というのも軽井沢の美術館がそうであるように、ここも冬季は長期に渡り休館する。そんな立地だ。
そこでゴリゴリの現代美術の展覧会を開催しているので、建築とアート、特に現代建築及び現代美術好きにはたまらない場所なのである。展覧会の内容についてはその時々で違うので、触れないでおくが、どんな展覧会を開催していようが、訪れる価値のある場所だ。
そんなことを書くと学芸員さんに叱られそうだが、秋田県立美術館や六本木の21_21 DESIGN SIGHTなどなど安藤忠雄が手がけた多くの美術館がそうであるように空間だけでも十分に満足できるのが安藤建築の美術館の最大の武器だ。
美術館のエントランスはコンクリートの壁に阻まれ、全体が全く見渡せない。訪問者は否が応でもこの先にどんな空間が待ち受けるのか想像力をフル回転で働かせる。この仕掛けは直島の李禹煥美術館を彷彿とさせる。行く手を阻むコンクリートの壁に沿って入り口まで向かう時の視界にはコンクリートと広い空しか見えない。この一旦視界をギュッと狭める手法は安藤忠雄建築でよく見られる。京都のアサヒビール大崎山山荘美術館の階段を降りる感覚にも近いものがある。
何があるんだろうというただでさえ高揚している気持ちを鷲掴みにするアプローチだ。安藤忠雄建築の美術館でこの感覚を何度してやられたことだろう。何度目だってうれしい悲鳴であることは間違いない。
美術館に入るとそこはガラス張りで、開放感のある空間が広がっている。その視界の先に見えるのはその名の通り高原だ。美術館内部の詳しい情報は、このブログの「美術館建築を眺めるための展望台とガラスのスロープがポイント!安藤忠雄設計 小海町高原美術館」を読んでほしい。
この美術館で特筆すべきは、今まで例に挙げてきたいくつかの安藤忠雄設計のどの美術館にもない、ここだけの特別な階段があることだ。階段というか、正しくは美術館全体を眺めるためだけの展望台だ。展望台は3階が最上階となっていて、そこからは小海町高原美術館を俯瞰で眺めることができるのだ。なんて贅沢で潔い建築なんだろう。エレベーターなんて無粋なものはないので、しっかりと一段一段足で感じて上り下りしてほしい。ちなみにこの階段は基本的に美術館内にからしかアプローチできない。