四谷、麹町、赤坂見附、永田町。これら4つの駅のちょうど中心で、どの駅からも徒歩圏内。そんな超絶便利な紀尾井町に建つ、一際目立つ建築が紀尾井清堂だ。目立つ理由はその外観だ。
透明で繊細なガラスに覆われた、無骨で堅牢なコンクリートの箱がまるで地面から浮いているように建っているのだ。そのガラスとコンクリートの間の屋外と屋内の中間領域には見目麗しい階段が設置されている。この階段の存在が、この建築の目を惹く所以でもある。
2021年に完成した紀尾井清堂は、地上5階建ての建物だ。鉄筋コンクリート造(一部プレストレストRC造、鉄骨造)であり、建築家の内藤廣による設計である。
興味深いのは、この建物の用途が未定であるということだ。奇異な発注をした施主は、企業研修などを行う一般社団法人「倫理研究所」である。内藤廣は以前にも「倫理研究所 富士高原研修所」を手がけたことがあるのでタッグを組むのは2回目ということだ。
2021年2月に紀尾井町までこの建築を見に行った。その時はまさか中に入ることができる日が来るとは思っていなかったので、あの階段に登ってみたいなぁと指を咥える感覚でじっと見上げてみたり、ひたすらに周囲をぐるぐる回るだけだった。
しかし、チャンスは早々にやってきた。その年の12月に内藤廣建築設計事務所主催の建築見学会が開催されるというのだ。コロナ禍ではあったが早速予約をして、その日が来るのを待った。
▲その時の様子は動画でもブログでも書いているので詳細を見てほしい。▼
建築見学会だったので、内藤廣建築設計事務所のスタッフが説明をしてくれた。その際にガラスのプリズムが虹色の光を床に落とす様子を「建築の神様からの贈り物」と表現するのを聞いてとても感動した。私にとってはこの建築の中に入れたその事実が「建築の神様からの贈り物」だったからだ。
建築見学会では、ファサードの階段の上り下りに加えて、トップライトの開閉なども行われた。
どれもこれも神々しく見えたのは、機能のない建築=神殿のような存在だったからに違いない。まさにそれは内藤廣が設計のコンセプトとしたパンテオンそのものだ。
それから程なくして、今度は一般社団法人「倫理研究所」主催の「奇跡の一本松展」が開催された。こちらもコロナ禍だったので事前予約制ではあったが、入場無料の太っ腹企画だった。
かなり長期に渡って開催していたので、こちらに訪問した方も多い思う。しかし、この展示はあくまで主役は一本松であるため、ファサードの階段は出入り禁止だったし、トップライトの開閉も行われなかった。
それでも、再び内部に入ることができたので、とても興奮したのを覚えている。
この展覧会の詳細は是非動画▲とブログ▼を読んでほしい。
この「奇跡の一本松の根」展は、2022年3月から2023年3月までの約1年という長期に渡って開催された。今思えばもう一回くらい訪問すればよかった。
2024年2月現在、紀尾井清堂の一般公開は行われていない。今後も行われることがあるのかどうかもわからない。
竣工して3年が経ったので、当初未定だった役目が決まり、何某かの機能をしはじめているのかもしれない。