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夢の島の清掃工場でごみの本質を考える。わくわくおさんぽアートフェス2024


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江東区の新木場と夢の島を会場に《わくわくおさんぽアートフェス2024》が開催されています。

会期は2024年9月18日(水)から10月14日(月)まで。夢の島エリアでは熱帯植物館、夢の島公園、新江東清掃工場。新木場エリアでは木材・合板博物館や三井リンクラボなどが会場になっています。

開幕に先駆け新江東清掃工場での林田真季(はやしだ・まき)の展示内覧イベントに参加させていただいたので、展示の様子や清掃工場についてレポートします

新江東清掃工場, 2024, 撮影:建築とアートを巡る
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新江東清掃工場

今回訪問したのは「新江東清掃工場」。1998年(平成10年)に竣工した工場ですから、稼働し始めてから四半世紀以上経過していることになります。

本来の設計寿命も迎えていることから2024年の秋からいったん稼働を停止し、数年かけて延命工事を行って40年以上使い続けようということになりました。

その工事に入る直前の時期を《わくわくおさんぽアートフェス2024》の展示会場として利用しています。

新江東清掃工場は東京23区内にある20の清掃工場の中でも最大規模、つまり日本でも最大規模の清掃工場です。しかも場所はごみの処分場でもあり、1970年代に江東区と杉並区との間に勃発した「東京ごみ戦争」の舞台になった場所。

そんな土地、工場を舞台にごみとは何かを考えるインスタレーションが、杉並区の《高井戸芸術祭2024》との共同企画として展開されています。

工場の建物

建築とアートを巡るでは初めてとなる巨大プラント建築の訪問です。

インプットは家庭から排出される生ごみ。アウトプットはごみを燃やす時に出る熱と焼却灰と排ガス。

熱は発電に利用したり近隣施設に熱供給するのであればあるだけ嬉しい、焼却灰は建築土木資材に流用したり埋め立てに活用できる。でも排ガスは有害成分を取り除いた上でさらに少なければ少ないほど嬉しい。そんな複雑な要求を実現するために最新技術の粋を集めた施設です。

1日に焼却される生ごみは平均1,800トン。ごみの収集車が1〜1.5トンの積載量なので毎日延べ1,500台あまりの収集車を受け入れていることになります。

しかも365日24時間稼働で焼却し続けているので、プラント自体も巨大なものになります。

新江東清掃工場, 2024, 撮影:建築とアートを巡る

▲新江東清掃工場のメイン建屋。建築面積約28,000㎡、地上9階一部地下1階。

どのくらい巨大かというと端から端まで200mくらいありますし奥行きも100mくらいあります。巨大タンカーが2隻並んでいるくらいというイメージでしょうか。

そして遠くからも目立つ煙突の高さは150m。この上空は南風の時の羽田空港への着陸空路になっているのでパイロットは神経を使うでしょう。窓際の座席からは直下にこの煙突が見えますから南風の日のフライトに乗る機会があったら煙突が見えないか探してみてください。

新江東清掃工場, 2024, 撮影:建築とアートを巡る

▲夢の島にはマリーナがありますし、そもそも埋め立て地で周囲は海ですから、建物も海っぽいものを。

ということで、海原に浮かぶヨットをイメージさせるデザインが施されています。もっとも建物自体も巨大な船を思わせるものなのですが。

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ごみの処理プロセス見学

今回は展覧会の内覧と併せて建物やごみ処理の現場を見学させてもらいました。

新江東清掃工場で処理されるのは家庭から出る可燃ごみと事業系の一般廃棄物なので、処理するということはつまり焼却処理です。

ごみを集めて燃やして排ガスを処理するだけでしょう? と軽く考えていたら想像を遥かに超えるスケールのプラントでした。

なお、一般家庭からの不燃ごみは専用の「不燃ごみ処理センター」に、粗大ごみは「粗大ごみ粉砕処理施設」に持ち込まれ一次処理されてから焼却されたりリサイクルされたりする流れになっています。

新江東清掃工場, 2024, 撮影:建築とアートを巡る

▲5レーンある「搬入口」。

事業系のごみを搬入する場合はここで積載しているごみの重量を計測します。

新江東清掃工場, 2024, 撮影:建築とアートを巡る

▲幅が100mもある「プラットフォーム」。写真で奥の方から収集車が入ってきます。

ここに21門の投入ゲートが並んでいて、指定された投入ゲートからごみを投入します。

午前中のごみ収集車のラッシュ時には21個ある投入ゲートがフル回転だそうです。

新江東清掃工場, 2024, 撮影:建築とアートを巡る

▲投入ゲートから投入されたごみはこの「ごみバンカ」に貯められます。

バンカの深さは20mほどあるのですが、底の方5mくらいはこの四半世紀の間に溜まったごみが固化していて取り出せないのだそうです。

クレーンゲームのクレーンのようなのは文字通りの「ごみクレーン」。これでバンカからごみを取り出し、「ごみホッパ」という投入口から「焼却炉」へ投入します。

新江東清掃工場, 2024, 撮影:建築とアートを巡る

▲ごみクレーンを眼の前まで移動してもらいました。

ごみクレーン自体の重量は約20トン。そしてこのクレーンが1回でつかめるごみの量は約10トン。約1万軒分の家庭ごみに相当するそうです。

ときどき「間違ってへそくりを捨ててしまったので取り返したい!」とか「捨てたごみから携帯を取り出したい!」という要望もあるそうですが、このごみクレーン1回分のごみから目的のものを探すのには3日くらいかかるそうです。それが1日180杯分あるのですから、目的のものを探すのは実質不可能です。

大事なものはごみの近くに置かないとか気をつけたいですね。

新江東清掃工場, 2024, 撮影:建築とアートを巡る

▲新江東清掃工場の模型がありました。

ここまで見てきたプラットフォーム〜ごみバンカは全体のほんの一部。そのあとの焼却炉を含めても建物全体の1/3くらいです。

残りは排ガスから塩化水素や窒素酸化物などの有害部質を除去したりする、ほとんど化学プラントみたいな施設です。

新江東清掃工場, 2024, 撮影:建築とアートを巡る

▲施設のエントランスの天窓。

すごい高く見えますが、でも施設建屋からすればこれでも低層部分。

とにかく施設の巨大さに圧倒されるとともに、ごみ処理の説明を伺ってごみ出しはしっかり分別しようと改めて思わずにはいられない施設見学でした。

なお現在、施設見学は休止しています。延命工事が完了する令和10年以降には再開すると思います。

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林田真季のインスタレーション

林田真季, 新江東清掃工場, 2024, 撮影:建築とアートを巡る

この日本最大規模の清掃工場でインスタレーションを展開しているのが、イギリスの沿岸部にある過去のごみ埋立地と日本の不法投棄をリサーチ対象にした《Water Wonderland》や《「Beyond the Mountain》といったプロジェクトで知られる林田真季です。

「ごみの種類」を示すインスタレーション

展示されているインスタレーションは2つあって、そのうちの一つが「ごみの種類」を示すためのインスタレーション。

香川県豊島不法投棄事案現場(2018年現在), 2021, 新江東清掃工場, 2024, 撮影:建築とアートを巡る

▲日本の不法投棄についてまとめた《Beyond the Mountain》シリーズの1点「香川県豊島不法投棄事案現場(2018年現在)」です。

香川県の豊島(てしま)に1975年から16年間にわたり不法投棄され続けた産業廃棄物。「豊島事件」として大きな問題となり世間の環境問題に対する関心を集めた事件を題材にしています。

「ベネッセアートサイト直島」の一部で内藤礼と西沢立衛の「豊島美術館」などがあるアートの島、瀬戸内国際芸術祭の会場でもある美しい島の西端にこのような負の歴史があるのです。

直島と豊島の家浦港を結ぶフェリーに乗ると、回復が進む山肌の様子がチラッと見えます。

Re-collection Ⅴ #1-4, 2023, 新江東清掃工場, 2024, 撮影:建築とアートを巡る

▲ギリス沿岸部にある過去のごみ埋立地で集めたガラスびんとその破片を描写した作品《Re-collection》。

19世紀のごみは今と違ってガラスなどの自然素材が多かったことが分かります。

現代になり科学が進歩し大量消費社会になることで、ごみの素材や性質、そしてごみになる理由が大きく変化してきていることが分かります。

Re-collection Ⅴ #1-4, 2023, 新江東清掃工場, 2024, 撮影:建築とアートを巡る

▲薄っすら透けて見えているのは23区清掃組合のキャラクターです。
(新江東清掃工場のマスコットキャラクターはイルカのルイくん、ルーカちゃんという名前で、館内のあちこで姿を見かけることができます)

Re-collection Ⅰ, 2023, 新江東清掃工場, 2024, 撮影:建築とアートを巡る

▲こちらは「Re-collection Ⅰ」。

ガラスの破片のクローズアップです。今ならリサイクルとして再利用されるのでしょう。

また、この写真作品が設置されているライトボックス自体が粗大ごみでもあるという自己批評性もポイントです

新江東清掃工場, 2024, 撮影:建築とアートを巡る

▲豊島の産業廃棄物、現代であればごみにはならないであろう19世紀のイギリスのごみ、そして展覧会を開催したことで発生する粗大ごみなどが並ぶ展示です。

そしてこの新江東清掃工場は家庭からの生ごみと事業系の一般廃棄物が集められる処理される場所。

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《Before Thrown Away》

エントランスで展開されているのは《Before Thrown Away》という2022年の作品。

「捨てる服」を着た記念写真シリーズです。

Before Thrown Away, 2022, 新江東清掃工場, 2024, 撮影:建築とアートを巡る

▲幸せそうな家族の記念写真ですが、登場人物が着ているのは「捨てる服」。ごみとして出したりリサイクルに回したり、とにかくこのあと手放そうとしている服です。

日本の和服なんかは古くなっても仕立て直したりしますが、大量消費社会での洋服は流行遅れ、古くなった、汚れたなどの理由で簡単に捨てて、新しい服を買ったりします。ファストファッションが登場したことでその傾向にさらに輪をかけるようになっています。

Before Thrown Away, 2022, 新江東清掃工場, 2024, 撮影:建築とアートを巡る

▲記念写真が撮影されたのは東京で最初の埋立地である深川永代浦と想定される場所。そこで撮られた写真の中の衣服がもし可燃ごみと捨てられたら焼却されるかもしれない場所がここ。そうした構造の作品です。

またここに展示されていない作品が「東京ごみ戦争」の当事者でもある杉並区の「高井戸芸術祭」で9月29日から10月12日の会期で展示されるそうです。

新江東清掃工場, 2024, 撮影:建築とアートを巡る

▲このエントランスに展示されているのは林田真季の作品だけでなく、地元江東区の亀高小学校の児童たちの作品も。

これは主に木材で制作されたアート作品で、展示し終えたら焼却処理しても大丈夫なもの。

釘など不燃物を材料に使うと焼却炉などの施設を痛めますからね。

展示のポイント

このようにごみの処理場である新江東清掃工場という場所で、様々なごみをテーマにしたアート作品が展示されるというまさにサイトスペシフィックな展覧会で、ごみを中心に消費社会のあり方やSDGsな未来への取り組みなど考えさせられます。

今回は新江東清掃工場だけでしたが夢の島内の他会場や新木場駅にも近いエリアの展示にも足を運んでみたいですね。

2024年に銀座資生堂ギャラリーで開催されたshiseido art eggの展覧会、林田真季の《Water & Moutains》の模様はこちらの記事で。

新江東清掃工場への行き方

電車・バス

JR京葉線、東京メトロ有楽町線、りんかい線などが乗り入れる交通の要衝、新木場駅から徒歩15分ちょっとです。

新木場駅から高速の下をくぐって国道357号(湾岸道路)を下り(千葉)方面に歩きます。

撮影:建築とアートを巡る

新江東清掃工場提供の案内(PDF)が分かりやすいです。

基本情報

わくわくおさんぽアートフェス2024 林田真季

会場:新江東清掃工場

住所:江東区夢の島3-1-1 MAP

会期:2024年9月18日(水) 〜 10月14日(月)

開場時間:9:00 – 16:00

休日:日曜日

料金:無料

アクセス:新木場駅から徒歩約20分

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