資生堂ギャラリーが2006年より始めた新進若手アーティストの公募展のshiseido art egg の17回目がスタートしました。shiseido art eggではこれまでに宮永愛子、久門剛史、冨安由真など現在大活躍するアーティストを数多く発掘してきた現代美術の登竜門の一つです。
毎回3人が選出され、各々約1ヶ月間の展覧会会期が設定されています。
17回目は、応募総数351件の中から林田 真季(はやしだ まき)、野村 在(のむら ざい)、岩崎 宏俊(いわさき ひろとし)の3人が選出されました。
審査員は3名で毎回メンバーが変わります。第17回は鬼頭 健吾(美術家)、蓮沼 執太(音楽家、アーティスト)、平藤 喜久子(神話学者、國學院大學教授)の方々です。
最初に展覧会を開催するのは林田 真季です。

▲リカルド・ボフィル設計の真紅のビル。資生堂パーラーが入るビルの地下に資生堂ギャラリーはあります。
PRエコロジーと社会をめぐるワンダーランド
林田真季の展覧会は「Water & Moutains/ エコロジーと社会をめぐるワンダーランド」です。
林田真季は、人間による利己的な行動が予期せぬ結果をもたらすという「意図せざる結果」の法則に着目し、その制作は、リサーチに膨大な時間を費やすプロジェクト型の手法をとっています。
近年、自身が留学していたイギリスの沿岸部にある過去のゴミ埋立地と日本の不法投棄をリサーチ対象に選び各々「Water Wonderland」と「Beyond the Mountain」と題したプロジェクトを発展させています。
今回の展覧会「Water & Moutain」は、これらプロジェクトの一部という位置付けで、作品の技法は主に写真メディアによるインスタレーションです。

展覧会
地下の会場に向かう階段とその踊り場に、白鳥の写真が展示されています。この白鳥の写真、実は現実には存在しない白鳥です。専門家が見ればすぐにその違和感に気が付くはずなのですが、素人の私には全くわかりませんでした。
架空の白鳥の理由は展覧会場のキャプションに書いてあるので是非読んでみてください。

▲鑑賞者を最初に出迎えてくれる階段上に展示されている白鳥の写真
天井の高い地下のギャラリースペースで最初に目に入るのは、巨大な写真作品です。

▲写真だと思っていたら、なんと映像が重ねられており、水面のゆらぎが出現したり植物が風にそよいだりするのです。
そこで初めて動画であることに気づきます。また、なんとも不自然な色彩は、ゼラチンシルバープリントに手彩色で施されたものです。
現実の光景なのか、つくられたものなのか、新しいのか、古いのか、いろんな感覚が曖昧になっていくのを感じます。
キャプションにはこの作品に施された様々な細工の意図が書かれています。
しかし、まずはキャプションの解説を読まずに巨大な作品の前に立って、不思議な景色を感じ取ってみてください。
じっくり向き合った後に解説を読むと自分が感じた違和感の答えがわかって、なるほど!と手を叩きたくなるはずです。

▲ベッヒャーの写真のような、青いプレートが並びます。
青いプレートに描かれているのは23区にある全21の清掃工場の煙突なんです。
都内の清掃工場煙突と言ってもこんなに様々なデザインなのですね。まずそれに驚きました。
東京23区の清掃工場となると、これまでの人生でずっとお世話になっている施設です。
イギリスの埋立地の写真映像と違い、振り返って目にするこの作品は、とても身近な建造物がモチーフとなった作品でした。
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▲奥のスペースは空間全体が一つのインスタレーション作品となっています。
この空間にインスタレーションとして展示されているものも全てゴミや不法投棄と関連したものです。
しかし、ゴミや不法投棄という言葉からは想起できない美しさを放っています。このギャップに戸惑いを隠せません。

▲イギリスと日本におけるガラスに対する価値観、捉え方の違いなどが表現されています。
近年増えつつある入念なリサーチに基づく作品制作の手法をとった林田真季のプロジェクトのインスタレーションは、誰にとっても身近な問題であるゴミや不法投棄を主題として、消費社会に警鐘を鳴らし、写真というメディアを使ってちょっとした違和感や矛盾などの気づきを与えてくれるものでした。
撮影について
今回の展覧会は通常の展覧会同様に、写真撮影が可能です。
資生堂ギャラリーの公募プログラム資生堂アートエッグの第17回の展覧会は、野村 在(3月12日-4月14日)、岩崎 宏俊(4月23日-5月26日)と続きます。
今後の展覧会も楽しみです。

▲3アーティストの展覧会を全て鑑賞してスタンプを集めると特製グッズがもらえます!
16回 shiseido art egg ▼
基本情報
第17回 shiseido art egg 林田 真季展
会期:2024年1月30日(火) ~ 3月3日(日) 時間:火~土 11:00~19:00、 日祝11:00~18:00 休廊日:月曜日 料金:入場無料 会場:資生堂ギャラリー 住所:中央区銀座8丁目8−3 資生堂銀座ビル B1F MAP |