渋谷区立松濤美術館で開催中の《須田悦弘》展。
朴の木から実物と見紛うほど精巧に彫り出された草花や雑草の木彫作品で知られる須田悦弘(すだ・よしひろ)の、東京都内の美術館では25年ぶりとなる展覧会です。
須田悦弘は本物そっくりの木彫作品を思いがけない場所に設置し、作品自体はとても小さいけれどその空間全体が作品と化すインスタレーションを得意としています。それが哲学の建築家と称される白井晟一が設計した松濤美術館で展覧会を開催するのですからまさに建築とアート。
2024年の春に「現存する最も美しいアールデコ建築」と称される東京都庭園美術館でも作品を展示していたことも記憶に新しいと思います。
前回は庭園美術館、今回は松濤美術館。東京でも稀有な建築自体が作品でもある美術館でどのようなインスタレーションを見せてくれるのでしょうか。
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須田悦弘
1969年生まれで多摩美術大学を卒業した須田悦弘ですが、意外なことに彫刻専攻ではなくグラフィックデザイン科出身です。
大学1年生のときの授業で「干物を彫って色を付ける」という課題が出され、そこで彫った「スルメ」という作品が最初の木彫作品です。
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▲その「スルメ」の実物です。これが人生最初の木彫作品というのがすごいです。。
本展ではアーティストとしての最初の作品から出世作となった作品、近年力を入れて取り組んでいる「補作」作品、そしてドローイング、さらにあまり知られていないグラフィックデザイナーとしての仕事など包括的に展示されています。
なお会場となる白井晟一設計の松濤美術館についてはこちらを。
展覧会について
写真撮影について
本展は一部を除いて写真撮影可能です。
ただし動画撮影は全館撮影禁止、フラッシュの使用も禁止です。詳細と最新のルールについては受付で渡される案内状を参照してください。
また須田悦弘の展覧会あるあるですが、床に這いつくばったりすることもあるので身軽な服装での訪問をおすすめします。荷物やコートなどはロッカーに入れて鑑賞するのが良いです。
展覧会の構成
さて、肝心の展覧会ですが構成は地下1階の第1展示室から始まり、2階のサロンミューゼと特別陳列室に主な作品が展示されています。
が、それだけで終わらず、1階のロビー周辺、さらには館外にも作品が展示されていますから、見落とさないよう注意しましょう。
空間の片隅に隠れるようにひっそり配置された作品を探すのも須田作品を鑑賞する楽しみの一つですが、本展は詳細な展示マップが用意されていますから安心です。
最初が地下1階、続いて2階という順路です。
PR地下1階の第1展示室
地下1階の展示室では1990年代の作品と最新作が展示されています。
出発点と現時点での到達点が見られるわけです。
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▲初期の代表作の一つ「東京インスタレイシヨン」。
靴を脱いで中に入って鑑賞します。
右の壁の上の方に見えるのは「ミケリテ」という作品。下からだとよく見えないかもしれませんが、1階の回廊部分からは間近でみることができます。
また「東京インスタレイシヨン」と向き合うように「朴の木」という作品が展示されてて、さらにその作品の上に「雑草(プラチナ)」という作品が展示というか置かれています。
この作品は、地下1階の展示室からは見えない場所なのでここで探しても絶対見つけられません。
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▲展示室のほぼ中央にさりげなく、でも目を惹くように置かれた「チューリップ」。最新作です。
床にぽんと置かれているだけなので踏みつけたりしないよう足元に気をつけなければなりません。こうした別の意味での緊張感も須田作品の特徴です。
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▲壁際に置かれた「雑草」。
知らなければ建物の手入れが悪いんじゃないかと勘違いしそうなリアルな雑草。これら雑草は須田作品の真骨頂!
直島のベネッセでは本物の雑草と間違われて、フロントに「草が生えていますよ」という助言をされたとか、されてないとか。
これまでに美術館の雑草作品で一番発見難易度が高かったのは、かつて品川にあった原美術館のカフェの冷蔵庫裏の作品でしょう。キャプションもないし、全く気づかずに閉館を迎えた方も多いはずです。
▼その難易度高い雑草作品は過去の私のインスタグラムのカルーセル投稿の2枚目と3枚目にあります。
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▲この写真の中に作品が3点写り込んでいます。
床に這いつくばって鑑賞というのはこの辺りです。
2024年の春に庭園美術館で須田作品が展示されていた様子はこちらの記事で。
PR2階のサロンミューゼと特別陳列室
続いて2階へ。
ドローイングと木彫作品、それと「補作」などを中心に展示されています。
なお2階展示室入口の、以前はカフェの窓口だった場所に展示されている「サザンカ」は写真撮影禁止です。
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▲サロンミューゼの内部。
何も展示されていないようで、実はちゃんと須田作品が展示されています。
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▲写真左が「ベルリン」という水彩画、右上が「ベルリン」という木彫作品。
まず木彫作品があって、それを描いたのが水彩画だそうです。こうしたコラボも新鮮ですね。
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▲特別展示室内には「補作」がいくつか展示されています。
「補作」というのは古美術品の欠損部分を須田悦弘が木彫で補うもので、現代美術家で古美術商の杉本博司からのお題に須田悦弘が応えるという形式で制作されています。
写真の坐像は「随身坐像」という平安時代の作品で、須田悦弘が手と弓を補作しています。
また陳列室内や展示ケースの片隅にも最近の木彫作品がさりげなく配置されています。
補作についてはこちらの記事で詳しく紹介しています。
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▲こちらは須田悦弘のグラフィックデザイナーとしての仕事の一つ。実はサラリーマン経験もあるアーティストなのです。
サントリーの「十六茶」のパッケージに描かれている草花も須田悦弘ですから、飲む機会があったらそういう目でも見てみてください。
本人からその話を聞いたときは驚きましたが、それ以来お茶は十六茶を買うようにしています?!
進化するインスタレーション作品
12月15日に須田悦弘による公開制作が行われ、その際に作品が追加展示され、インスタレーションが進化しています。。
12月17日以降はその追加された作品も見ることができます。
▲少し離れた場所に雑草が増えているのがわかりますか。
▲ポツンと置かれていたバラですが、散りゆく花びらが増えています!花びらが追加されたことで動的な表現に変化しました。
12月15日以前に鑑賞した人はもう一度展覧会を見にいかないとなりませんね。
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展示室外の作品
展示室外の作品や見落としがちな作品を最後に紹介します。
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▲壁に描かれたイラストに注目。地面に生える雑草を抜こうとしているのか、完成した作品を地面に置いてみたのか。
この体型や頭の形からして須田悦弘その人に違いありません。
ただイラストを描いたのは本人ではなく、実際に本人が展示している写真のシルエットなのだそう。
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▲1階ロビーの丸窓の外には「雑草(金)」という作品が展示されています。
これと対になる「雑草(プラチナ)」よいう作品は地下1階に展示されている「朴の木」の上部に置かれているので、1階の回廊スペースに入って上から覗き込んで鑑賞します。また同じように地下1階の「ミケリテ」も回廊からなら間近に見ることができます。ただし回廊での撮影は禁止されています。
さらに1階のロッカーにも作品が配置されていますから、これも見落とさないようにしましょう。
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▲作品は美術館の建物の外にも置かれています。
これは「雑草」。
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▲そしてこちらは「クロユリ」。花粉の一つ一つまで判別できそうな超絶技法な木彫作品です。
でもこの2点は入館料不要で入れる場所に置かれていますし「雑草」に至っては敷地の外からも見れてしまいます。
白井晟一設計による自己主張が強い建築でもある松濤美術館を舞台に、須田悦弘がどのようなインスタレーションを行うのか。建築に埋没してしまうのか、それともその空間に打ち克つような作品を投入してくるのか、興味を惹かれませんか?
Post by @_saaaaaoo_View on Threads
基本情報
須田悦弘展
会期:2024年11月30日(土) ~ 2025年2月2日(日) 開館時間:10:00 – 18:00 (金曜日は20:00まで) 休館日:月曜日、12月29日〜1月3日、1月14 入館料:一般1,000円、大学生800円、高校生・60歳以上500円、小中学生100円 会場:渋谷区立松濤美術館 住所:渋谷区松濤2丁目14−14 MAP アクセス:京王井の頭線 神泉駅下車徒歩5分、JR・東急電鉄・東京メトロ 渋谷駅下車徒歩15分 |