本物と見紛う小さな雑草や可憐な花を木彫で制作する現代美術の作家須田悦弘の個展が始まりました。今回は銀座のギャラリー小柳と白金のロンドンギャラリーの2カ所で同時開催です。
どちらのギャラリースペースも現代美術家の杉本博司氏と新素材研究所が設計した空間です。
本物そっくりの雑草や花などの植物の木彫作品を思いがけない場所に置くことで、作品自体はとても小さいけれど、その空間全体を作品と化すインスタレーションが須田作品の特徴なので、今回は2カ所とも杉本博司との共演と言えるかもしれません。
また、この須田悦弘の個展のタイトル「補作と模作の模索」も杉本博司命名よるものです。
さらに、今回の展覧会は、杉本博司氏が花器を選び、そのお題に須田悦弘が答える形で作品を制作したものが発表されています。
ハイセンスで目利きの杉本博司が選んだものに、須田作品の組み合わせだなんて聞いただけでなんだかワクワクする展覧会です。
杉本博司のお題に須田悦弘がどう模索して、どんな花を模作し、どこを補作したのか、気にならないわけがない。
PRギャラリー小柳
銀座と白金の2つのギャラリーで同時開催している今回の展覧会。ますは銀座のギャラリー小柳からご紹介です。
ギャラリー小柳のオーナー小柳さんは、杉本博司氏のパートナーです。小柳さんは自分のギャラリーを始められる前は、小池一子氏が運営していた伝説のアートスペース佐賀町エギジビットスペースに勤務されていました。
そこで、当時NY在住の新進気鋭のアーティスト杉本博司氏と出会っています。
ですから、ギャラリー空間はもちろん杉本博司氏と新素材研究所が手掛けています。ギャラリー小柳のエレベーターホールの床は、江之浦測候所でもお馴染みの敷瓦が使われていますので、お見逃しなく。
さて、今回須田悦弘が所属するギャラリー小柳での個展は、2010年以来13年ぶりです。DMやプレスリリースに掲載されている作品写真は、杉本博司氏の撮り下ろしです。
今回ギャラリー内には、美術館のような展示台が設置され、そのトップの部分は、畳敷になっています。しかし、美術館と違うのは、ガラスケースの中ではないので、直に超絶技巧で制作された木彫作品を鑑賞することができます。
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模作
それでは、まず模作と称されている、まるで本物のような雑草と花の作品を見ていきましょう。
▲切り子の丸いガラスに配されているのは、ガラス器と同じ紫色の朝顔です。蔓がヒョロリと飛び出しているのがリアルです。
下の台は杉本博司所蔵の塗り物です。
▲可憐なきじむしろの花が飛び出しています。こちらの作品は台も須田作品です。
▲仏像の足元に落ちた紅葉の葉が、木彫の須田作品です。さらに、この仏像の足は、須田氏が補作したものです。
▲この花器は、みる人が見ればすぐにわかる黒田泰造作品です。すっきりとしたフォルムと真っ赤な花がとてもマッチしています。
▲ギャラリースペースの隅っこにひっそりと咲くオオイヌノフグリ。可愛すぎて、もう釘付けです。
これぞ、まさに須田作品の真骨頂!思わず拍手したくなる作品です。
▲畳のヘリにも小さな小さな雑草が。お茶目すぎて頬緩まずにはいられません。どこにあるかは探してみてください。
尚、会期中にも作品が増えるかもしれないとのことでした。もう1回いかないと。
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補作
茶目っけたっぷりの杉本氏からのお題に須田氏が答えるという意味では、かなり難題だったのではなかろうかと推測する補作シリーズです。
▲神奈川県立金沢文庫の「春日神霊の旅 ー 杉本博司 常陸から大和へ 」に出品されていた作品です。
春日神鹿像 室町時代 海景五輪塔:杉本博司
鞍、蓮台 補作:須田悦弘
▲春日若宮神鹿像 鎌倉時代 角、鞍、榊、雲 補作:須田悦弘
金沢文庫の展覧会では、ポスターになっていた作品です。その時はなかった雲に乗っています。これが完成形です。
基本情報
須田悦弘 補作と模作の模索
2023年4月8日(土)- 6月24日(土) 11:00–19:00 日 月 祝休 ギャラリー小柳 中央区銀座1丁目1−7−5 銀座小柳ビル 9F MAP アクセス:東京メトロ 銀座線・日比谷線・丸ノ内線銀座駅A9番出口徒歩5分 東京メトロ有楽町線銀座1丁目駅7番出口1分 東京メトロ銀座線京橋駅徒歩2分 |
ロンドンギャラリー白金
白金にあるロンドンギャラリーは、上階に新素材研究所や皆川明のミナペルホネンなどが入るビルの4階にあります。主に骨董を扱うギャラリーで、六本木にもスペースを持っています。
どちらも内装は杉本博司氏が手掛けています。しかもここ白金は、杉本博司建築の第一号でもあるのです。
模作
こちらの模作はなんと縄文時代の埴輪との共演です。
▲埴輪の馬の足元に雑草が生えています。実は雑草はこれだけではありません。
▲この埴輪周りにはもう一つ小さな小さな雑草が生えているんです。
偶然だけれどロンドンギャラリーが馬で、ギャラリー小柳が鹿だから馬鹿になってしまったなんてギャラリーの方が冗談を言われていました。
▲なんとも品の良い素敵なガラスです。そこに可憐なすみれの花が生けられていました。もちろん本物の花ではなくて須田作品です。
杉本建築の洗練された空間に、凜としたガラスと須田作品が実に美しい。
▲杉本セレクトの青磁の花器に梅の花です。掛け軸との調和も見事です。
▲桔梗の花がアンティークの籠の中ではなく、横に添えられています。
須田氏の作る花は、儚げではあるものの花壇に植えられた花ではなく、自生している野生の花だと感じさせる強さがあります。
▲こちらも杉本建築ではお馴染みの敷瓦、そして須田作品にしては大ぶりな花、クレマチスです。
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補作
補作という行為自体は、もともと仏師がしてきた仕事で、長い年月で劣化したり欠損した仏像の部分を作り直して差し替えてきたそうです。
ですから、古い仏像は、何百年かに一度、その時代の仏師が、オリジナルと全く同じものを補作しているのだそうです。
そう考えるとメタボリズムであり、時を超えた作家たちのコラボレーション作品でもあるわけです。
▲この仏像は、足と手が須田氏による補作です。新しく作り替えられたとは全くわからないところが本当にすごいです。
▲唐時代の婦人立像は、 髻の補作を手掛けています。
▲随身坐像 平安時代 手、弓 補作:須田悦弘
この作品は、弓を持つ手を補作しているのですが、もともとついていた手は、ここ100年くらいで補作したものだったそうです。
その補作された手に弓はなく、不自然な置き方をしていたんだとか。それを自然な手の向きに作り替え、更に調査をすると弓を持っていたのではないかと推測されることから、このような補作になったそうです。この作品の背景を聞くとおもしろさ倍増です。
そして、ここまでくると、補作というより共作に近い気がします。
▲この作品は、どこを補作??と思ったのですが、この台座が須田作品だそうです。ここまで来ると間違い探しのゲームのようです。
須田悦弘「個展」ということになっていますが、杉本氏とのコラボはもちろんですが、何世代も前の彫刻家や仏師との時空を超えた見事なコラボレーションが見られるので、満足度の高く見応えのある展覧会でした。
可能ならば2ヶ所同時に鑑賞した方が、須田氏が杉本氏の問いかけた難題にどう答えを模索したのか、その流れが見られて面白いです。私は馬の後に鹿を見ましたが、馬鹿の順番で鑑賞するのもありです。
基本情報
須田悦弘 補作と模作の模索
11:00–17:00 日月 祝休 港区白金3-1-15 白金アートコンプレックス4F MAP アクセス:東京メトロ南北線・都営三田線「白金高輪」駅、4番出口より徒歩約8分、東京メトロ日比谷線「広尾」駅、1番出口より徒歩約13分 |