お大師さま、弘法大師と庶民から親しまれている平安時代の僧「空海」の生誕から1,250年。また空海が活動の拠点としていた京都の密教寺院「神護寺(じんごじ)」の創建から1,200年。
そんな記念の年である2024年夏、上野の東京国立博物館で空海ゆかりの宝物や京都・神護寺に受け継がれてきた文化財を一堂に集め展示する《神護寺 空海と真言密教のはじまり》(以下 神護寺展)が開幕しました。
遣唐使の長期留学僧として当時の唐(今の中国)で密教を学んだ空海は帰国後に「真言密教」を確立するのですが、密教ではその教義の世界観を示す曼荼羅や儀式で使う宝具などの美術工芸品が生み出されていきます。
この神護寺展では空海の生きた平安時代の傑作をはじめ、国宝17件、重要文化財44件を含む約100件の絵画、彫刻、工芸品、書物が展示されています。
PR空海と神護寺
2024年が生誕1,250年となる空海は774年(宝亀5年)に生まれた日本の僧侶です。
真言密教の開祖でもありますが「弘法も筆の誤り」という慣用句ができるほどの筆の名人。また全国各地を周り多くの温泉を発見するなど真偽はともかく多くの伝説を残しています。
逆に言えば、古くからそれだけ庶民に親しまれてきた人物です。
京都・神護寺(じんごじ)は奈良〜平安時代の貴族、和気清麻呂(わけのきよまろ)が開いた「真願寺」と「高雄山寺」の2つの寺院が824年に合併してできた寺院。ですから2024年が創建1,200年となります。
▲京都市右京区に位置する京都・神護寺は高雄山の中腹に位置し、標高が高いこともあり秋は紅葉の名所だそうです。
本当はそんな時期に神護寺を訪れるのが良いのでしょうが、この神護寺展では神護寺に伝わる宝物や門外不出だった国宝の薬師如来立像などを鑑賞することができます。
神護寺展の構成
神護寺展の会場は上野の東京国立博物館の平成館。
その2階の展示室を2つ使い、全5章で構成されています。
▲フロアマップです。
右側が第1会場で序章と第1章、左側が第2会場で第2章〜第5章が展示されるという構成です。
絵画や仏像などの彫刻、工芸品に経典などの書物など幅広いジャンルの名品が、ゆったりスペースを取って展示されています。
なお、神護寺展は写真撮影禁止です。
ただし第2会場内に撮影コーナーがあり実際の仏像を撮影することができます。
なお、本ブログでは報道内覧会にご招待いただき、特別に許可を得て写真を撮影しここに掲載しています。
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神護寺展 第1会場
▲まずは第1会場から主な見どころを紹介します。
序章 紅葉の名勝 高雄
神護寺は紅葉の名所として古くから知られており、江戸時代の旅行ガイドブックにも高雄山は紅葉の名所だと記述されているそうです。
そこで神護寺展のオープニングは狩野秀頼筆になる国宝「観楓図屏風」。
作品は会場に入ってすぐ右手にありますが、いきなり国宝が出てくる展覧会なんて滅多にありません。
第1章 神護寺と高雄曼荼羅
続く第1章は空海と最澄の筆になる巻物や神護寺展の目玉の一つ「両界曼荼羅」が展示されています。
ここだけで国宝が8件(会期通算で)も展示されています。
でもまずは弘法大師(空海)像に挨拶してから会場を巡りたいです。
▲第1会場、第1章の前半部分。
広々とした展示スペース、意外と明るい照明といったことが分かると思います。
中央に置かれているのは密教で使われる宝具で、国宝「金銅密教法具(金剛盤・五鈷鈴・五鈷杵)」です。こうした法具を持ち修行のために各地を回っていたのでしょうか。
▲さらに奥に進むとこの辺りは空海の直筆。
書の名人として知られる空海(弘法大師)の実際の筆使いをじっくり見ることができます。
▲さらに奥には国宝の三連発。
鎌倉時代に描かれた源頼朝(鎌倉幕府の開祖)などの肖像ですが、教科書に載っている作品ですよね。
空海が拠点としていた寺院というだけでなく、時の権力者たちからも大事に扱われていた寺院だということが良く分かります。
▲京都・神護寺に伝わる「両界曼荼羅」。これは江戸時代のものです。
密教では金剛界と胎蔵界という2つの世界があることになっていて、これはその両方(両界)の世界(曼荼羅)を描いたものになります。
この作品は江戸時代という比較的新しい時代のもので保存状態も良いので、描かれている曼荼羅の細かい部分まで良く分かります。
この両界曼荼羅で金剛界(左)、胎蔵界(右)の曼荼羅をよく見たら、同じ部屋にあるもう一つの曼荼羅を見てみましょう。
▲国宝「両界曼荼羅(高雄曼荼羅)」。
4メートル四方の巨大なもので高雄山神護寺に伝わったため「高雄曼荼羅」とも呼ばれる作品です。
空海が存命だった時代に制作された現存する最古の両界曼荼羅。そして江戸時代以来230年ぶりに修理された姿を見ることができます。神護寺展の開幕から8月12日までの前期は胎蔵曼荼羅(写真)、8月14日からの後期は金剛界曼荼羅が展示されます。
曼荼羅というとチベット仏教における曼荼羅も有名です。というか、詳しい方は同じインド密教をルーツとするチベット仏教と真言密教の曼荼羅の違いなども楽しめるのではないでしょうか。
またこの両界曼荼羅と伝源頼朝像が向き合って展示されているなど、会場の構成はすごく計算されています。
第2会場には「映像で解説する高雄曼荼羅」というコーナーがあり、NHKが8K映像で制作した映像作品が上映されています。
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神護寺展 第2会場
国宝だらけの第1会場には圧倒されますが第2会場も国宝だらけです。
第2章 神護寺経と釈迦如来像
まずは国宝「釈迦如来像」なのですが、これは展覧会後半、8月14日からの展示になります。
それまでの第2章は経本と経箱だけの展示です。
▲メインは「大般若経」なのですが写真で紹介できないので、大般若経をイメージしたハンカチ、その名も「巻物風刺繍ハンカチ」で。
会場の特設ショップにて1,200円で販売しています。
第3章 神護寺の隆盛
▲続く第3章は京都・神護寺に伝わる中世の文書と絵図の展示です。
第4章 古典としての神護寺宝物
第4章は主に江戸時代に制作され神護寺に奉納されたりした作品です。
新しいものでは昭和になって制作された作品もあります。
第5章 神護寺の彫刻
最終、第5章は神護寺展のもう一つのクライマックスです。
▲国宝の「五大虚空蔵菩薩坐像」。金剛、業用、法界、蓮華、宝光の五体の虚空蔵(こくぞう)の坐像で、五体揃ったものとしては現存する最古のもの。もちろん五体すべてが国宝です。
また神護寺外で五体揃って公開されるのは初めてという貴重な展示です。
撮影コーナー
▲「五大虚空蔵菩薩坐像」の先の小部屋。
ここは撮影コーナーになっていて、会場で唯一の写真撮影できる場所です。
「二天王立像」と扁額(へんがく)が撮影可能です。ただしフラッシュの使用、三脚や自撮り棒の使用、長時間の撮影など他の観覧者の邪魔になる行為は禁止。動画の撮影も禁止です。
実際には会場に掲示されている注意書きを確認してください。
▲二天王立像の左が「増長天(ぞうちょうてん)」、右が「持国天(じこくてん)」。
扁額は普段は京都・神護寺の書院に掛けられているもので、神護寺の山号「高雄山」と書かれています。
薬師如来立像と十二神将立像
▲第2会場の最後は圧巻の彫刻作品群。
これは室町時代から江戸時代初期にかけて制作された「十二神将立像」。12体ならぶ仏像もですが、劇的なライトアップが印象的です。これに限らず会場の構成は単に広いだけでなくさまざまな効果を考えて設計されていますから、そうした効果も楽しみながら鑑賞してみましょう。
▲中央が京都・神護寺の本尊で国宝「薬師如来立像」、向かって右が重要文化財の「日光菩薩像」、左がやはり重要文化財の「月光菩薩像」です。
平安彫刻の最高傑作とも言われ、神護寺の外で公開されるのは今回が初めてです。
このように京都・神護寺のご本尊自らが東京に出てこられ、神護寺に伝わる国宝や重文も惜しみもなく展示されています。
真言密教や曼荼羅というワードが気になる方、仏教芸術が好きな方など多くの人に見て足を運んでもらいたい展覧会です。
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神護寺展の鑑賞時間目安は?
展示作品数は100点余り。しかも国宝、重文多数です。
また空海や最澄の直筆文書などもありますから見て読んでと時間はいくらあっても足りないかもしれません。
映像の上映時間が数分レベルなのでそれを含めて最低で1時間半、じっくり見るなら2時間はみておくのが良いと思います。
その日であれば再入場可能ですから、疲れてしまったら上野公園に戻って栄養補給してから再チャレンジするような鑑賞方法もできます。
神護寺展の写真撮影は?
神護寺展の会場内は写真撮影禁止です。
第2会場の撮影コーナーだけは撮影可能ですが、それでも動画撮影、自撮り棒、フラッシュ、三脚使用などはもちろんNGです。
状況によっては条件が変更される場合があるので、現地での最新の指示に従うようにしてください。
神護寺展のチケットは? 予約制?
この展覧会は事前予約は不要です。いきなり東京国立博物館へ行って当日券で鑑賞することができます。
しかし、スムーズに入場したいならオンラインチケットを事前に購入しておいた方が良いでしょう。
チケット料金は、一般 2,100 円 / 大学生 1,300円 /高校生 900円 /中学生以下無料
このチケットで本館の総合文化展も入場可能です。
オンラインチケットの購入は公式サイトからどうぞ。
神護寺展の混雑状況
とにかく国宝多数という稀少性、京都・神護寺の門外不出だった作品の登場といった点でジャンル、年齢層を問わず人気になりそうです。
またNHKと読売新聞という大メディアが主催することもありメディアへの露出が増え、会期後半になればなるほど混雑しそうです。
ただお盆時期の前後で展示替えがあるのが悩みのタネですね。
とはいえ9月8日まで2ヶ月弱という比較的短い会期ですからまずは夏休みの早めの時期に訪問した方がよいでしょう。
神護寺展の関連番組
この神護寺展の主催者の一つがNHKです。そのため神護寺展を紹介する番組や関連番組の放送が予定されています。
空海ナイト 7月19日〜21日
美の壺スペシャル「国宝」 : Eテレ 7月19日(金) 午前0:30〜1:59(木曜深夜)
NHKスペシャル「空海の風景」 前編: 総合 7月20日(土) 午前1:45〜2:34(金曜深夜)
NHKスペシャル「空海の風景」 後編: 総合 7月20日(土) 午前2:34〜3:33(金曜深夜)
国宝へようこそ「高雄曼荼羅」: 総合 7月20日(土) 午前3:23〜3:28(金曜深夜)
ザ・プロファイラー「伝説とともに生き続ける巨人〜空海〜」: 総合 7月21日(日) 午前1:25〜2:24(土曜深夜)
国宝へようこそ「神護寺」: 総合 7月21日(日) 午前2:25〜3:09(土曜深夜)
日曜美術館
「京都・神護寺の旅 空海と9つの国宝」: Eテレ 8月4日(日) 午前9:00〜9:45
歴史探偵
「平安のスーパースター 空海」: 総合 8月27日(火) 午後11:50〜翌午前0:35
こころの時代~宗教・人生~
シリーズ「空海の風景」前編: Eテレ 7月28日(日) 午前5:00〜6:00、再放送 8月3日(土) 午後1:00〜2:00
シリーズ「空海の風景」後編: Eテレ 8月4日(日) 午前5:00〜6:00
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神護寺展のミュージアムグッズ
東京国立博物館 平成館2階には特設ミュージアムショップが設けられ様々なグッズがたくさん販売されています。
▲展覧会の公式図録は2,800円。
全272ページでこの価格です。
▲もちろんTシャツやトートなど定番のアパレルもあります。
フロントに漢字で ”神護寺”、バックプリントは如来像。インバウンドのお客さんに大ウケしそうです。
これ以外に手塚治虫キャラクターとのコラボグッズ、トートバック専門ブランド「ROOTOTE」とのコラボ、「一澤信三郎帆布」とのコラボなどの販売も行われます。
▲そして京都のお土産。
八つ橋まで売ってます。これなら京都まで行かなくても神護寺の本尊を見て、京都のお土産を買って帰れますね。
神護寺展のスペシャル情報
またこの神護寺に合わせたオトクなイベントがいくつか企画されています。
割引クーポン付きコースター
神護寺展の割引クーポンが付いたコースターを上野近隣の商業施設4か所、それと都内各所で配布しています。
▲アーティストの豊田弘治さんの描き下ろしたイラストのコースターで、アトレ上野、エキュート上野、上野マルイ、松坂屋上野などで飲食ショップを利用した人に配布しています。(なくなり次第終了)
手塚眞の ”もんちゃん”
偉大な漫画家、手塚治虫の長男でビジュアリスト/映画監督の手塚眞(てづか・まこと)が神護寺のために描き下ろしたマスコット・キャラクター「もんちゃん」。
▲この ”もんちゃん” のオリジナルグッズやノベルティも準備中です。決定次第、特設ミュージアムショップで販売されると思います。
なお写真の団扇は非売品です。
神護寺展のポイント
建築とアートからのおすすめはまずは曼荼羅。密教の根本的な世界を知るうえで欠かせないものですし、真言密教の出発点でもある空海の時代に制作された曼荼羅ですから全てはここから始まったと言っても過言ではありません。
あと薬師如来立像を始めとする国宝の数々。1000年以上前の職人たちが魂を込めて作り上げた作品。それを今日まで伝えて来てくれた神護寺に感謝です。
2024年の夏休み、上野でアート巡りをするなら絶対外せない展覧会です。
基本情報
《神護寺―空海と真言密教のはじまり》展
会期:2024年7月17日(水) ~ 9月8日(日) 開館時間:9:30~17:00(毎週金・土は19:00まで。8/30, 31を除く) 休館日:月曜日、8月13日(火) 予約:事前予約不要 料金:一般 2,100円、大学生 1,300円、高校生 900円、中学生以下無料 会場:東京国立博物館 平成館 住所:東京都台東区上野公園13−9 MAP アクセス:JR上野駅公園口・鶯谷駅南口より徒歩10分、東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、千代田線根津駅、京成電鉄京成上野駅より徒歩15分 |