赤瀬川原平写真展「日常に散らばった芸術の微粒子」
六本木のピラミデの3階に位置するSCAI PIRAMIDE で現在開催中の赤瀬川原平写真展「日常に散らばった芸術の微粒子」は、資生堂ギャラリーのディレクター豊田桂子氏をゲストキュレーターに迎え、赤瀬川原平が撮影した膨大な写真群の中から6名の現代美術のアーティストがセレクトした写真展です。
赤瀬川原平が遺した写真群は4万枚に及び、その膨大な写真の中から厳選した120枚の写真を見ることができます。
6名は皆当然ながら学生時代などの多感な時期に赤瀬川原平の「超芸術トマソン」、「路上観察学入門」を通ってきており、展覧会場にはその多大なる影響とリスペクトと愛が溢れています。
もちろん、6名のアーティストがそうであったように凡人の私も美大生時代に「超芸術トマソン」や「路上観察学入門」、「東京ミキサー計画」を貪るように読みました。
もしも、あなたが赤瀬川原平の書籍を読んだことがないのであれば、この展覧会を鑑賞前に少なくとも「超芸術トマソン」だけは読んでから訪問することを強くお勧めします。
訪問してから読んでもいいですが、「超芸術トマソン」を知っていると知らないとでは、街歩き、ひいては人生そのものの楽しみ方が全く違ってきます。
この展覧会と共に赤瀬川原平の「超芸術トマソン」を強く強くお勧めします。
この書籍を読んでつまらないとかくだらないと感じたら、私が返金してあげたいくらいです。(できないけれど)
PR6名のアーティスト
この展覧会で赤瀬川原平の写真をセレクトするために選ばれた6人のアーティストは、伊藤存、風間サチコ、鈴木康広、中村裕太、蓮沼執太、毛利悠子です。いずれも70年代、80年代生まれで赤瀬川原平に影響を受け、啓示を受けたいわば赤瀬川チルドレンたちです。
展覧会場には、各々がセレクトした写真と共に、パネルの上段に「赤瀬川さんから受けた影響・赤瀬川さんに対する想い」下段に「写真を選んだ理由(セレクションのテーマ)」が書かれています。
この愛とリスペクトに溢れる文章を読んだ上で、写真を見ていくと本当に面白いです。時間を忘れて入り込んでしまいました。
鈴木康広
どんな写真が見られるのかほんの一部だけご紹介します。
鈴木康広の「まばたきの葉」や「ファスナーの船」などの作品群は、赤瀬川原平と通底するものを感じます。
ですから、そのセレクトのセンスが最高です。写真についてるキャプションも赤瀬川原平がつけたものではなく、鈴木康広の命名です。
鈴木康広選の写真は30枚ありました。
▲タイトルが秀逸すぎて像そのものよりも「ハグする雪女」しか目に入りません。
▲どうしてこうなったのか不思議な状況なんですが、こういう目線が赤瀬川原平ですね。
▲これもタイトルの通り、コスモスがゆっくりと列を成して横断しているところを切り取ったようにしか見えません。
▲確かにその通りなんですが、とんでもなく可笑しい。
写真のセレクトと共にキャプションの文章が秀逸で、もっともっと続きが見てみたいと思わせるものばかりでした。
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風間サチコ
巨大な木版画作品を制作する風間サチコのセレクトした写真もまた、独特のキャプションがついていて思わず声を出して笑ってしまいました。
ほんの一部ですが、紹介します。
▲可愛らしく並んだ石とその先をきちんと歩く人、そして、このキャプション!
▲赤瀬川原平の視点と風間サチコのキャプション!時空を超えたコラボ作品と言ってもいいでしょう。
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伊藤存・毛利悠子・蓮沼執太・中村裕太
選者のキャプションがついいてるのは先に紹介した鈴木康広と風間サチコの写真だけです。
ここからは、特にキャプションはありませんが、赤瀬川原平がなぜ、この様子に光景に現象に目をむけ、カメラを向けたのかを考えながら、そして自分だったらどんなキャプションをつけるかなぁと妄想しながら鑑賞しました。
▲抽象画のような石垣の様子が、伊藤存の作品世界を感じます。赤瀬川原平は、この光景に出会って思わず足を止めてしまったんだろうなと想像します。
▲昨年銀座のakio nagasawa galleryで開催した毛利悠子の個展「モレモレ東京」を想起させる写真です。
▲この展覧会のアイキャッチ画像になっている額装された「超芸術トマソン」の写真。蓮沼執太選の写真は少し切なくてクールな視点の写真が多かった気がします。
▲中村裕太のセレクトした写真には赤瀬川原平本人と思われる人の姿が写っています。
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激しくお勧めな理由
赤瀬川原平ファン、あるいは赤瀬川チルドレンならその理由は説明するまでもありませんが、そうでない方に向けて勧めるとしたら、人生が豊かになるので是非見て欲しいと思います。
何にも起こらない平和な日常や光景がひどく尊く感じる事。そして、人の気配とか、時間とか歴史とか、街の中のあらゆる場所がナラティブであることを実感します。
この展覧会は、まるで赤瀬川原平没後に発行された新刊を読むようで、ページを捲る度に新しい発見や笑いが込み上げてくるのです。
そして、かなり久しぶりに超芸術トマソンを読み返したくなりました。
これらを読まずに生きていくのは勿体無い。
私が強くお勧めする赤瀬川原平の代表作3冊です。読んでから行くか、行ってから読むかはあなた次第▼
週に3日しか開廊していないSCAI PIRAMIDEなので訪問難易度はやや高めですが、是非足を運んでみてください。
お隣のギャラリーWAKO WORKS OF ARTのフィオナ・タンも必見の展覧会です。
基本情報
赤瀬川原平写真展「日常に散らばった芸術の微粒子」 |