フィオナ・タン(FionaTan)の個展「スリ Suri」
六本木にある森ビルのビル、PIRAMIDEには多くの現代美術ギャラリーが集まっています。その中の一つかつて初台にあったWAKO WOKS OF ARTは、あのドイツの巨匠ゲルハルト・リヒターを扱うギャラリーです。
そこで、現在オランダの映像作家フィオナ・タン(FionaTan)の9度目の個展「スリ Suri」を開催しているので早速足を運んでみました。
PRフィオナ・タン
フィオナ・タンの作品は、映像と写真、ドキュメンタリーとフィクションが絶妙に交じり合い、記録と記憶、見ることと見られることの関係を鑑賞者に問いかけてきます。
詩人のような豊かな創造と表現、学者のような深い研究と探究が共存する作品は、映像と写真との境界を軽々と往来しフィオナ・タンでしか創り得ない世界観を構築しています。
2014年に東京都写真美術館で開催された大規模個展「フィオナ・タン まなざしの詩学」展(大阪の国立国際美術館にも巡回)ですっかり魅了された人も多いでしょう。かくいう私もその1人です。
今回の個展で展示されているのは、4つのシリーズです。
「スリ Suri」
コロナ禍で延期されたこの個展「スリ Suri」では、日本初公開となる2つの映像作品と、世界初公開となる2022年制作の最新写真作品「Technicolor Dreaming」を観ることが出来ます。
Pickpockets
2020年制作の「Pickpockets」は、1889年のパリ万博で逮捕されたスリの記録写真をもとに制作された、マルチチャンネルのビデオ・インスタレーションです。
展覧会タイトルにもなっている通り、メインの作品という位置付けでしょう。
▲マリー・ティリオ 17歳 懲役4ヶ月
実在したスリ犯のポートレートの静止画像が、架空の独白をしています。この作品は、タン自身が”スリ犯たちの声を盗んだ”と言及しています。
実在したスリ犯の架空の独白は、英語とフランス語ですが、ギャラリーに日本語訳が置いてあるので、内容は把握できます。
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Archive
今回の展覧会タイトルは「スリ」ですが、個人的に一番の目玉作品は「Archive」だと思います。
これ、本当によかった。会期中何度か見にいくつもりです。
情報学の父ポール・オトレが取り組んでいた壮大なアーカイブ空間の計画で”知識の都市”と呼ばれる「ムンダネウム」をモチーフにした4Kデジタル映像作品です。
▲オトレが残した資料を元にその壮大な未完の構想「ムンダネウム」を、タンがリサーチし再解釈して、架空のアーカイブ建築を考案しました。
タンが図面を起こして制作された架空の建築の内部を追った映像作品です。
▲架空の建築のはずなのに、妙にリアルなのは、空間を埋めるキャビネットが実在するものだからです。
キャビネットには1500万枚以上のインデックスカードが収められていたと言われています。
この実在するキャビネットがどこにあるのかというと、ムンダネウムの資料を保管するベルギーの資料館に所蔵されています。
▲映像は10分に満たないもの(確か6分だったはずです)がループで流れています。
現在、紙のgoogleと称されるムンダネウムは、インターネット空間の先駆けと言われる存在です。その知識のネットワークは文書に集約されており、言葉は違えどハイパーリンク、検索エンジン、リモートアクセス、ソーシャルネットワークなどの考えを含んでいるのです。
20世紀初頭にこのような考えを持っていた人物が、実際にその構想を実現しようとしていたという事が驚きです。また、逆に考えればオトレが亡くなってからまだ100年も経っていませんが、インターネットは世の中を席巻し、当たり前となった時代が来ていることも見逃してはいけない事実です。
再訪したところ、映像は6分のバージョンと3分の短いバージョンの2種類になっていました。
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Shadow Archive
架空の建築ムンダネウムを3Dモデリングで映像化した「Archive」をあえて19世紀の技法であるフォトグラビュールで現像したシリーズです。
▲新しい技法と古い技法が混在し、複雑な景色を見せてくれます。
新しいものと古いもの、フィクションとノンフィクションそれらがボーダレスに交じり合うタンの作品は、儚い美しさも兼ね備えています。
Technicolor Dreaming
白黒のフォトグラビュールの上から銅版画でほのかな着彩を施した写真で、これらが世界初公開作品です。
▲アムステルダムのEYE映画博物館が所蔵する映像に、タンが父親からもらった手紙をボイスオーバーで重ねた作品「Footsteps」に紐づいて制作されたシリーズです。
初期の映画製作者達の色へのこだわりをヒントに制作されたこのシリーズは、技術的な完成度ではなく、アーティストタンの直感的な操作で作品に着色がなされています。
恵比寿映像祭でもフィオナ・タンが観られます。(2023年2月19日まで)▼
この展覧会は、私が太鼓判を押すオススメの展覧会です。見逃し厳禁、必見です。
お隣のSCAI PIRAMIDEの赤瀬川原平写真展「日常に散らばった芸術の微粒子」と併せての鑑賞すると満足度、幸福度が高まります。
SCAI PIRAMIDEの展覧会の詳細はこちらから▼
基本情報
Fiona Tan/フィオナ・タン「 スリ Suri」
2023年2月10日(金)ー4月1日(土) 11:00 – 18:00 日月祝休 予約不要 港区六本木6丁目6−9 ピラミデビル3F MAP |